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期待
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sideルシアス
どこだ?
どこにいるんだ?
近くにいるんだろ?
俺のこの虚無感を追い出してくれる存在かもしれない。
死んだ、なんて本当は勘違いだったのかもしれない。
いや、きっとそうだ。
俺の魔力の宿った指輪は俺以外があげようがない。
生きていたんだ。
記憶なんてないし、顔すらわからない。
それなのに俺の心の中は会いたい気持ちで埋まっていく。
路地を抜けてまた先の路地に入る。
何人かヴァンパイアが俺に礼をするが今はそれどころじゃない。
路地の先の階段で走っている女を見つけた。
きっとあの女だ。
どうしてそう思ったのかは分からないけど、確かに直感が働いた。
名前は何だったか……
確か…
「リラ!!」
*******************
sideリラ
「リラ!!」
愛しい声に呼ばれて止まらない女はこの世にはいない。
ルシアス様にしては大きな声だった。
「リラ…」
今度は一瞬で私の背後を取り、私の名を耳元で囁く。
心臓はありえないくらい早く動いて息が苦しい。
「どうして逃げるんだ?」
ルシアス様は私の左手を後ろからそっと取った。
「顔を見せてくれ。」
見ようと思えば簡単に見れるくせに、私には絶対に乱暴な事はしないんだね。
ルシアス様は記憶をなくしても優しい。
「ルシアス様……」
会いたかった、本当に心の底から。
でも今はダメ。
私達には計画がある。
こんなところを誰かに見られて噂にでもなったら全て無駄になってしまう。
「人違いです、離してください。」
素直にルシアス様の胸に飛び込んでいきたい。
また前の生活に戻りたい。
「俺はまだ名乗ってない。」
しまった…!
「離して…お願いです。」
私は今ルシアス様の顔を見るわけにはいかない。
きっと泣いてしまう。
会いたくてたまらなかった。
ずっと一緒にいたいのに、今は絶対にそうする事はできない。
これ以上、つらい思いはしたくないの。
「私は…まだルシアス様の元へは行けないんです。待てないなら待たなくてもいいです…他の人と恋に落ちても構いません。」
心にもない事を言うのがこんなにもつらい事だとは知らなかった。
「この指輪も…あなたに返します。今の私は、ルシアス様とは生きられない。」
これは本音だった。
もしかしたら一生私は魔女を倒せないかもしれない。
そうなれば、記憶だって戻す事はできない。
変な期待を持たせてルシアス様を惑わすのは嫌だ。
「それは付けていてくれ。事情はさっぱり分からないが、訳があるんだろ?」
私はルシアス様の顔を見ずに頷いた。
「このことは誰にも言わないで…ライアスにも言わないでください。全てが終わったらルシアス様の記憶を戻します。」
その時に、まだ私を好きでいてくれるのならあなたと生きたい。
「わかった、約束する。だから俺とも一つ約束してくれ。」
ルシアス様が私を包むように抱きしめた。
「顔もわからないし、思い出も何一つ思い出せない。それでも何故か愛おしい、心配でたまらない。何かあればきっと耐えられない。だから無茶だけはしないでくれ。」
何て愛情深い人だろう。
私のことなんて何一つ覚えていないはずなのに。
こんなにも愛されていたなんて。
私も同じくらい愛していると伝えられたらいいのに。
「約束します。」
涙がこぼれてしまった。
私は誰よりもあなたが大好き。
「何かあればその指輪に語りかけてくれ。…必ず助けてやる。」
そんなにすごい指輪なんだ。
ルシアス様は本当に抜かりがない。
「はい。」
私が返事をするとルシアス様は大きな手で私の頭を撫でてくれた。
そして私の背から熱が消える。
ルシアス様は最後の最後まで私の話を聞いて一歩引いてくれた。
本当にルシアス様はいい人だよ。
私なんかと結婚しちゃってよかったのかな…。
今は罪悪感と寂しさで潰れてしまいそうだった。
・
・
・
私は少しだけ泣いて、ラルフに頼まれたお使いを終わらせた。
店に帰って客足が落ち着いた後、全員にこの事を話した。
怒られる覚悟で話したけど、みんなは怒らない。
むしろ褒めてくれた。
「リラちゃんすごい!私が同じ立場だったら今頃クロウさんに泣きついてるよ!記憶戻してー!って」
ダリアちゃんは特に私に寄り添ってくれた。
「顔も見せなかったのも褒めてやらないとな。いくら記憶を消したとしても印象深い物を見て記憶を取り戻す場合がある。本当に偉い。」
クロウ先生に褒められるとなんだかくすぐったいな……。
「それより…ルディは?」
さっきから姿が見えないけど。
「走りに行った。」
さっきまでここにいて話を聞いていたのに。
「なんで??」
運動不足なのかな?
「なんでってそりゃ……酷なこと聞くな。とりあえず無事だから大丈夫だ。」
酷なこと?
「ラルフ、多分リラちゃん気付いてないよ。ルディもそのうちケロッと帰ってくるよ。」
気づいてないって??
私はダリアちゃんに教えて欲しいと目で訴えた。
「リラちゃんはなーんにも気にしなくていいからね!それより、今日一緒に寝ようよ!たくさん話しよ!」
ルディのことは心配だけど、2人が大丈夫って言うなら大丈夫かな…。
「うん、たくさん聞いてね。」
私もたくさん、ダリアちゃんの話聞くから。
どこだ?
どこにいるんだ?
近くにいるんだろ?
俺のこの虚無感を追い出してくれる存在かもしれない。
死んだ、なんて本当は勘違いだったのかもしれない。
いや、きっとそうだ。
俺の魔力の宿った指輪は俺以外があげようがない。
生きていたんだ。
記憶なんてないし、顔すらわからない。
それなのに俺の心の中は会いたい気持ちで埋まっていく。
路地を抜けてまた先の路地に入る。
何人かヴァンパイアが俺に礼をするが今はそれどころじゃない。
路地の先の階段で走っている女を見つけた。
きっとあの女だ。
どうしてそう思ったのかは分からないけど、確かに直感が働いた。
名前は何だったか……
確か…
「リラ!!」
*******************
sideリラ
「リラ!!」
愛しい声に呼ばれて止まらない女はこの世にはいない。
ルシアス様にしては大きな声だった。
「リラ…」
今度は一瞬で私の背後を取り、私の名を耳元で囁く。
心臓はありえないくらい早く動いて息が苦しい。
「どうして逃げるんだ?」
ルシアス様は私の左手を後ろからそっと取った。
「顔を見せてくれ。」
見ようと思えば簡単に見れるくせに、私には絶対に乱暴な事はしないんだね。
ルシアス様は記憶をなくしても優しい。
「ルシアス様……」
会いたかった、本当に心の底から。
でも今はダメ。
私達には計画がある。
こんなところを誰かに見られて噂にでもなったら全て無駄になってしまう。
「人違いです、離してください。」
素直にルシアス様の胸に飛び込んでいきたい。
また前の生活に戻りたい。
「俺はまだ名乗ってない。」
しまった…!
「離して…お願いです。」
私は今ルシアス様の顔を見るわけにはいかない。
きっと泣いてしまう。
会いたくてたまらなかった。
ずっと一緒にいたいのに、今は絶対にそうする事はできない。
これ以上、つらい思いはしたくないの。
「私は…まだルシアス様の元へは行けないんです。待てないなら待たなくてもいいです…他の人と恋に落ちても構いません。」
心にもない事を言うのがこんなにもつらい事だとは知らなかった。
「この指輪も…あなたに返します。今の私は、ルシアス様とは生きられない。」
これは本音だった。
もしかしたら一生私は魔女を倒せないかもしれない。
そうなれば、記憶だって戻す事はできない。
変な期待を持たせてルシアス様を惑わすのは嫌だ。
「それは付けていてくれ。事情はさっぱり分からないが、訳があるんだろ?」
私はルシアス様の顔を見ずに頷いた。
「このことは誰にも言わないで…ライアスにも言わないでください。全てが終わったらルシアス様の記憶を戻します。」
その時に、まだ私を好きでいてくれるのならあなたと生きたい。
「わかった、約束する。だから俺とも一つ約束してくれ。」
ルシアス様が私を包むように抱きしめた。
「顔もわからないし、思い出も何一つ思い出せない。それでも何故か愛おしい、心配でたまらない。何かあればきっと耐えられない。だから無茶だけはしないでくれ。」
何て愛情深い人だろう。
私のことなんて何一つ覚えていないはずなのに。
こんなにも愛されていたなんて。
私も同じくらい愛していると伝えられたらいいのに。
「約束します。」
涙がこぼれてしまった。
私は誰よりもあなたが大好き。
「何かあればその指輪に語りかけてくれ。…必ず助けてやる。」
そんなにすごい指輪なんだ。
ルシアス様は本当に抜かりがない。
「はい。」
私が返事をするとルシアス様は大きな手で私の頭を撫でてくれた。
そして私の背から熱が消える。
ルシアス様は最後の最後まで私の話を聞いて一歩引いてくれた。
本当にルシアス様はいい人だよ。
私なんかと結婚しちゃってよかったのかな…。
今は罪悪感と寂しさで潰れてしまいそうだった。
・
・
・
私は少しだけ泣いて、ラルフに頼まれたお使いを終わらせた。
店に帰って客足が落ち着いた後、全員にこの事を話した。
怒られる覚悟で話したけど、みんなは怒らない。
むしろ褒めてくれた。
「リラちゃんすごい!私が同じ立場だったら今頃クロウさんに泣きついてるよ!記憶戻してー!って」
ダリアちゃんは特に私に寄り添ってくれた。
「顔も見せなかったのも褒めてやらないとな。いくら記憶を消したとしても印象深い物を見て記憶を取り戻す場合がある。本当に偉い。」
クロウ先生に褒められるとなんだかくすぐったいな……。
「それより…ルディは?」
さっきから姿が見えないけど。
「走りに行った。」
さっきまでここにいて話を聞いていたのに。
「なんで??」
運動不足なのかな?
「なんでってそりゃ……酷なこと聞くな。とりあえず無事だから大丈夫だ。」
酷なこと?
「ラルフ、多分リラちゃん気付いてないよ。ルディもそのうちケロッと帰ってくるよ。」
気づいてないって??
私はダリアちゃんに教えて欲しいと目で訴えた。
「リラちゃんはなーんにも気にしなくていいからね!それより、今日一緒に寝ようよ!たくさん話しよ!」
ルディのことは心配だけど、2人が大丈夫って言うなら大丈夫かな…。
「うん、たくさん聞いてね。」
私もたくさん、ダリアちゃんの話聞くから。
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