生贄少女とヴァンパイア

秋ノ桜

文字の大きさ
上 下
193 / 471

大嫌い

しおりを挟む
sideリラ


「ふざけたこと抜かしてたから来てみれば…」


ライアスと入れ替わるかのようにルシアス様が現れた。


「なんだ?今のは。」


ルシアス様は私の顎を片手で掴み上を向かせる。


「ルシアス様………」


まさか見られた?



「ルシアス様、違うんです!」


私は必死に弁明しようとするけど…


「いい、聞きたくねぇよ。」


聞く耳を持ってくれない。


「ルシアス様!」


そして抱き上げられた。


何も言わずにルシアス様は私をどこかへ連れて行く。


浮遊感に遊ばれて私は必死にルシアス様にしがみついた。


「え?」


しがみついたけど、ルシアス様は簡単に私を引き剥がして…



「きゃっ!!」



私を片手で放り投げた。


落ちた先は……


バシャッ!!!



水の中だった。


冷たくて刺さるような感覚。


そしてどこまでも深い。



「ぷはっ…!!!」


泳ぐことを忘れていた私はルシアス様に引き上げられた。


「ルシアス様…」


突然の行為と恐怖と寒さで震えが止まらない。


ルシアス様が私をこんな風に扱うのは初めてだった。


「俺以外の男にキスされて顔赤くしてんじゃねぇよ。頭は冷えたか?」


いくら頭を冷やすためとは言え…


「こ、こんなこと……しなくても、いいじゃないですか…」


寒いし怖いし訳わからないし…


「も…やだ…ルシアス様……嫌い…」


私が泣くとルシアス様は地面に私を押し倒した。


「嫌い?あぁそうか、勝手に嫌ってろ。俺だってお前が大嫌いだ。」


水に落とされたことより、少し乱暴にされたことよりもよっぽど傷ついた。


「じゃあ….別れたらいいじゃないですか…」


私は何言ってるの?


そんなこと、一つも望んでいないのに。


ルシアス様の妻になれて心の底から嬉しくて仕方ないのに。


「私のことがそんなに嫌いならもう関わらないでください、私も…あなたを忘れますから。」


忘れられる訳ない。


売り言葉に買い言葉はいい事なんて一つもないのに、どうして私の口は勝手に動くんだろう。


けど、ルシアス様の言葉は本心なんじゃないの?


他の人とキスした、そんなところを見て嫌いにならない人はいない。


むしろ私が悪いのに、私はどうしてルシアス様を嫌いだと言ったんだろう。


そんなことを言う資格なんてないのに。


*******************

sideルシアス


「別れる?無理に決まってるだろ、結婚してんだから。どう足掻いたって別れられねぇよ。どんなに別れたくてもな。」


これだとまるで、俺が別れたいって言っているみたいだ。


別れたくて仕方ない、こんな状況じゃそう聞こえる。


そしてリラが俺の言葉をそう取ったのが分かった。


傷ついた表情かおをしたからだ。


リラの目から涙が止まらない。


「リラ…」


リラは怯えたように俺を押す。


何かされると思ったのか?


「リラ」
「もう嫌です…もう嫌だ…」


リラは後退りした。


「何も聞きたくない、もう、ルシアス様とは何も話したくない。」


このまま追い詰めたらもう取り返しがつかなくなる。


怒りに塗れていた俺が冷静になるほどリラは静かに取り乱していた。


「…………わかった。」


********************

sideリラ

ルシアス様は、わかった。その一言だけ言うと私をいきなり抱き上げた。


悲鳴を上げる暇もなく移動させられて、着いたのはクロウ先生の家の前。


地面に降ろされて、背中を優しくポンと押すルシアス様。


帰れ、そう言うことだ。


最後にあなたの顔が見たかった。


だから振り返ったのに…


「ルシアス様…」


ルシアス様はそこにはいない。


理不尽に泣いて拒絶した私にきっと呆れたんだ。


全部私が悪いのに、私は謝らなかった。


呆れられて当然だ。


謝ればよかった、捨てないでと懇願すればよかった。


今更泣いたってどうしようもないのに。


ルシアス様は私を置き去りにすることだって出来たはずなのに、そうはしなかった。


水に落とされはしたけど、一瞬の出来事で溺れないようにちゃんと襟の部分を持っていてくれた。


私の命を脅かしたり傷つけたりすることはない人が出した本音はキツい。


大嫌いだ、そう言っていた。


その言葉を思い返すとまた涙が止まらなくなる。


こんな顔じゃ帰れない。


少し歩いて腫れた目を治してから帰らないと。



私は夜の散歩に出ることにした。




夜の森はいつもは怖いのに今日は全然怖くない。


恐怖よりも大きな感情に支配されてるからだ。


猛省と悲しみ。


重くて苦しい。



私はどうしたらいいんだろう。


「リラ?」


涙で前が霞んでよく見えないけど、どこからかルディが現れた。


「ルディ…」


どうしよう、まだうまく誤魔化せないのにこんな所でばったり会うなんて。


「リラ、どうした?どっか怪我した?どっか痛い?てかこんな時間に本当にどうした?て、なんでびしょ濡れ!?」


ルディは私が泣いているのを見て困っていた。


「あの…迷子になって池?みたいなとこに落ちて帰れなくなってね。」


我ながら酷い誤魔化し方。


この周辺に池なんてない。


あるのは湖だけど少し離れている。


「え?池??えっと……まぁ、いいや。とりあえず帰ろう?俺もちょうど帰るし。」


ルディは私の手を取り引っ張ってくれる。


「リラ、やっぱり散歩しよう。俺がいたらもう迷うこともないしね。」


ルディはそう言って私が泣くまで森の中を一緒に歩いてくれた。


ルディは私に起きたことを深く追及しないでいてくれる。


どうしたらいいかわからない私にとってはすごく助かる行為だった。


私が泣き止んで落ち着いたのは獣たちも眠るような時間。



ルディは最後の最後まで笑顔で接してくれた。


しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

前世の因縁は断ち切ります~二度目の人生は幸せに~

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:97,260pt お気に入り:2,217

自由に語ろう!「みりおた」集まれ!

エッセイ・ノンフィクション / 連載中 24h.ポイント:355pt お気に入り:22

あなたならどう生きますか?両想いを確認した直後の「余命半年」宣告

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:2,087pt お気に入り:37

処理中です...