生贄少女とヴァンパイア

秋ノ桜

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狼に花

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sideリラ

「あ、リラちゃんそれ可愛い!」


ダリアちゃんが私を褒めてくれる。


私は嬉しくなって笑った。


だからこれをあげよう。


上手にできたから、ダリアちゃんに。


私は自分で作った花冠をダリアちゃんの頭に乗せた。

ダリアちゃんもすごく嬉しそうにしてくれてる。


「ありがとう、リラちゃん。しかもこれダリアだね!私の名前と一緒!」


そうだよ、だからこの花にしたの。

喜んでくれて嬉しい。


「じゃあ私からはこれ。」


ダリアちゃんは紫色の花冠を私の頭の上に乗せてくれた。


「この花の名前はリラ。私たち考えることが一緒だね。」


一緒に決まってるよ。


私たちは………あれ?何だっけ?


なんて言うんだっけ?


大切な言葉だったはずなのに。


まぁいいか、忘れちゃった。


ふわりと風が頬を撫でた。


誰かの匂いがする。


この匂いを知ってる。

誰かに似ている気がするけど、誰の匂いだろう。


気になる……


だけど少し怖い。


私は不安になりながらも立ち上がった。


「リラちゃん?…あ。」


ダリアちゃんも立ち上がった。


「リラちゃん、これはルディの匂い。」


ルディ?


すごく久しぶりに聞いたような名前。


記憶が曖昧だ。


「大丈夫だよ、ルディは味方だから。」


ルディ…か。


何だかすごく暖かかったような気がする。


ガサッ!!ガサカサッ!!!


「リラ!!」



少し離れたところから声が聞こえた。


ルディは私を呼んでいる。


「ルディ、私が全部説明するから服は着て来て!」


ダリアちゃんが結構大きな声でルディに言い放った。


「ったく、こんな時に服なんて!」


ルディは文句を言いながら、森の中から出てくる。


ダリアちゃんに言われた通り、ルディは服を着ていた。


と言ってもズボンだけ。


「あぁ、もう!なんだよ、このトゲトゲ!なんかくっついて……」


ルディは服にくっついた植物を取りながらこっちへ来た。



私と目があった途端、ルディは言葉を失う。



「リラ……なのか?」


そうだよ、私はリラだよ。


「なぁ、リラ。どうしたんだよ、何があった?」


どうしたんだっけ?何があったんだっけ?


私はよく分からないからあまり聞かないで欲しいな。


「リラ、俺だよ、ルディ。何か言ってよ。」


何かを言う?


どうやって?


ふと、ルディの後ろでヒラヒラと何か飛んでいる。


小さくて可愛い。


「リラ、なぁ…どうしちゃったんだよ。」


あのヒラヒラ可愛いなぁ。

名前はなんだっけ?


「なんで?なぁ、どうしたんだよ、リラ…」


「ルディ…私が説明する。」



あれ可愛い……捕まえたいなぁ…。


「隠しててごめん。リラちゃんはヴァンパイアになった。」


********************

sideルディ

ダリアの言葉に頭が追いつかない。


「は?」


何になったって?


「リラちゃんは一度死んでしまった。だから…」

「いやいやいや…ちょっと待てよ…何?何言ってんの?死んだ?」


人間をヴァンパイアに変えるのは禁忌だと聞いたことがある。


俺のじいちゃんが言ってた。


人間をヴァンパイアに変えたらどうなるか。


じいちゃんは見た事があるからよく知ってた。


俺もその話を子供の頃よく聞かせられてたから知ってるんだよ。


その成れの果てを。


全てを理解したくない。


きっと何かの間違いだ。


「ルディ、落ち着いて聞いて。私がちゃんと全部話すから。」


ダリアも少し取り乱しているように見える。


「説明ってなんだよ…どう説明されたってリラはもう……」



言葉の続きが言えない。


代わりに涙が情けないほど溢れて来た。


「違う…違うよ、ルディ!リラちゃんはきっと元のリラちゃんに戻るよ!また前のリラちゃんに」「戻るわけないだろ!!!」



俺の大声にダリアがビクついた。



「戻らないんだよ!一度でも怪物にされた人間は二度とその人間性を取り戻せない!!」


「そ、そんな事ない!!リラちゃんは絶対に戻ってくるよ!!馬鹿なこと言わないでよ!!」


ダリアは泣きながら怒鳴り散らす。


それは俺も同じだった。


「馬鹿なのはどっちだよ!!本当はわかってんだろ!!」
「うるさい!!何も知らないくせに!!もう黙ってよ!!」
「リラはもう二度と戻らない、俺らの知ってるリラはもう死んだんだよ!!!」


俺の言葉にダリアが本気で怒った。


ダリアは一瞬で俺の目の前に現れて、俺に飛び乗り首を絞める。



「死んでないよ…ほら、よく見て。そこで蝶々を追いかけてるの……楽しそうにしてるじゃない。リラちゃんは怪物なんかじゃないよ、リラちゃんがそんなものになるわけないじゃん!!死んでないよ、今目の前でちゃんと生きてる。」



ダリアは自分に言い聞かせるように俺に言う。



「生きてるのは体だけだろ……」



精神はどうなんだよ。


「だったら何?私はそれでもいいよ、リラちゃが生きているなら。これからもリラちゃんが生きていけるなら私は何だってする。」


さっきまで蝶々を追いかけていたリラがいつのまにか俺たちの間にいる。


この速さが人間じゃなくなった証拠だ。


狂暴で手がつけられないわけじゃないらしい。


俺たちは情けないくらい泣いているのに、リラはその逆で嬉しそうに笑っている。


どんなに人間性をなくしても、その笑顔が変わらないのがつらい。


「リラ……何か言ってくれよ。」


俺の名前すら言えなくなっちゃったのか。


悲しむ俺を他所にリラはどこからか摘んできた花を俺の耳に飾る。


そして俺を抱きしめた。


その時にもリラが人間じゃなくなったことを痛感させられる。


もう、リラのあの体温じゃない。


前のような暖かさは無くなっていた。
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