生贄少女とヴァンパイア

秋ノ桜

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昔話

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sideリラ

地下牢は少しひんやりしている。


日が当たらないから当然のことだけど。


「あまり緊張してないみたいだね。」


ライアスがそう聞いてきた。


「うん、緊張してない。今の私には牢の中にいる人よりも怖い人がいるから。」


「その怖い人ってもしかして最近急所を蹴られてた人?」


ライアスはそう言ってクスクス笑った。



「そう、その人が後で怒るかもしれないと思うと怖くて。」


結構ひどいことをしたからそれなりのことはされる覚悟だ。


「大丈夫、僕が盾になるよ。」



ライアスはすごくにこやかに言っているけど、本気で盾になってとお願いしたら絶対になってくれる。


だから逆にお願いできないんだよね。


「私こそきっと大丈夫。ルシアスのことだからきっと私を殺したりはしないよ。………多分。」


絶対と言えないのがまた悲しい。


そんな話をしていると、すぐに目的の人物に会うことができた。


「ルシアスはどうした?殺したのか?」


親子で本当に物騒だ。


「まさか、ピンピンしてるよ。僕がルシアスを殺すわけない。」


これがさっきまで殺し合いをしていた人の言葉?


私は開いた口が塞がらないよ?


「そうとも限らない。お前たちの中には俺の血も流れている。兄弟殺しくらい平気でやるさ。」


この口ぶりから、この男は自分の兄弟を手にかけたことがありそう。


ありそう、じゃない。絶対やってるわ。



「さて、そんな血生臭い話はさておき、お目当ての女を連れてきたな。」


どうして私と話したいのかさっぱりだけど、ここは何としても情報を引き出さないと。


「この子に指一本でも触れたら殺すよ。」


ライアスの声が私以外に向けられると言い表しようのない冷たさを感じる。



「それはそれは気をつけないとな。」


この親子は本当に仲良くできないみたい。


「それより早く2人きりにしてもらえないか?長居されては、せっかく整理した話の内容をを忘れてしまう。」


「リラ、何かされそうになったり、嫌なことを言われたら殺していいよ。」


殺していいと言われても…


「多分無理かな。」


赤ちゃんが熊に勝てと言っているようなもの。


「じゃあ逃げてもいい、にしておこうか。」


その方がありがたい。


「うん、ちゃんと戻ってくるから安心して。」


私がそう言うとライアスは私の頭を優しく撫でた。


「後でね。」


それだけ言うとライアスはこの場を去った。


前に2人きりになった時は恐怖を感じたけど今は違う。


檻の中にいるから怖くない。


状況によってこんなに精神状態が安定するなんておかしな話よね。


「さて、何から聞きたいんだ?」


ライアスの気配が完全に消えた途端、カルロスが口を開いた。


「あなたの嫌いな女のことです。」


いい加減知りたい。


私を狙う女の正体を。


「それなら昔話からだ。あれは何百年前だったか。」


相当昔の話みたい。


「俺もまだ若くてな。あ、そうそう、禁断の果実を食う前だったか?」


何かにつけて嫌味な人ね。


「王位継承権を争っていた時代だ。俺には当時、3人の兄がいた。全員、狡賢く、傲慢で常に王の座を狙っていた。」


兄弟が上に3人もいたなんて。



「この時から王位を継承できる条件は変わっていない。禁断の果実を手にしたものが王になる。

俺たち兄弟は必死になった。

知っての通り、禁断の果実の効果を発揮するのは愛されることが条件。

俺たちはそれぞれを出し抜こうといろいろな女に手を出した。

花を送り、歌を作り、二番目の兄は長年連れ添った妻を捨てた程だ。」



二番目のお兄さんが最低だってことはよく分かった。



「だがなかなか禁断の果実は心を許してくれない。殺されると分かっているからだ。
そんな時に現れた馬鹿な女がかの有名なタランテラ・ガルシア。
俺に病的なまでの愛情を示し死んだ女。」



ここでようやく主役が登場した。



「城の専属魔法士として働いていたあの女はなぜか俺に惚れ込み俺が王になるのを手伝うと言い出した。

恋は盲目、女の献身は侮れない。

勉強熱心だったあの女は随分と俺のために働いてくれた。

一番の功績は催眠魔法を作ったことだ。

相手をまるで愛しているかのようにさせる強力な魔法。

呪いにも近い。」



その魔法ってまさか…


私は自分の頸に触れた。



「かけられたことがあるようだな。そう、そこにかける呪いだ。」



やっぱり、ライアスにかけられたあの呪いだ。

まさかタランテラ・ガルシアが作った魔法だなんて…。


「あの女は魔法を作る工程で両足と美しい顔をなくした。

そして俺に迫ってきた。

魔法を教える代わりに愛を証明しろと。

今でも身震いがする。


好きでもない、増してや怪物のような姿になった女を抱くのは相当気分が悪かった。

耳元で愛を囁き、何度も嘘を重ねた。」



上辺だけでも愛したふりをしたらしい。


「最低です。」


聞いているこっちも気分が悪い。


「そう責めるな、俺もあの時は必死だった。」


私は今すぐにでもここから出たい。


この人は心がなさすぎる。


絶対に分かり合えない。



本当に嫌な気分になるけどちゃんと聞かなくちゃ。



この最低男は私にしか話さないと言っているんだから。
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