生贄少女とヴァンパイア

秋ノ桜

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甘言と抱擁

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sideリラ


「どうしよう…どうしよう……」


ここがどこかもわからなかった。


たまたま見つけた小川で固まった血を必死に洗い流した。


そして、これが夢じゃない事が時間が経つに連れわかってきた。



頭の中では、恐怖と混乱が蠢き合う。


自分の中では処理できない感情が涙になって溢れてきた。




「リラ。」


そんな私を見つけたのは…


「ライアス…」


いつも私に愛を囁く人だった。


「ライアス…どうしよう…私、誰かを殺したかもしれない…どうしよう…」


混乱して泣く私を見てライアスが私の前に膝をついた。


「リラ…」


ライアスは優しく私を抱きしめてくれた。


「大丈夫だよ、泣かないで。」


「ライアス、私おかしいのかもしれない…私、自分が何をしたのかわからないの…!」



私が騒げば騒ぐほどライアスは私を抱きしめる力を強くした。



「僕が必ず助けるよ、約束する。」



私を何から助けるの?


私自身に今何が起きているの??


「ライアス……」



何か隠しているのなら教えて。


その言葉を言う前に、私は抗えない力で押さえ込まれてしまった。


*******************

sideライアス


リラが口をつぐんだ。


「ライアス…ありがとう、私を助けに来てくれたんだね…。本当に…ありがとう。」


そして、さっきまで泣いていたのに不自然なほど僕に感謝を述べてくる。


入れ替わったのがすぐにわかった。


リラじゃない。



「もちろん、リラのために飛んできたよ。」


僕がそう言うとリラの顔には笑みが浮かぶ。


その可愛い笑顔を操っている者がいると言う事実がまた僕を苦しめた。


「ライアスは本当に優しい。」


リラの華奢な体が僕を包んだ。



「私ね…優しい人は大好きよ。」



耳元で囁く愛しい声。


もちろん馬鹿な僕は抗えない。


この声が、腕が、全てが好きで好きで堪らないものだから。


跳ね除けたり、押し除けたり、そんな事は出来ない。


中に入っているのは誰であれ、正真正銘僕が抱きしめているこの体は僕が最も愛している子の体だ。


「だからね…ライアスのことが大好きよ。」


悪魔の囁きだ。


この甘言がどれほど僕の心を揺さぶるか。


で言われたらもう堪らなくなる。



本当のリラが言ってくれたらどれほどいいか。



いや…もういっそ溺れてしまおうか。


この歪で幸せな悪夢に。


***************

sideタランテラ


叶わぬ恋心に付け込むこと程簡単なものはない。


恋は人を変える。


優しくもなれれば残酷にもなれる。


他人を愛し執着するのは馬鹿のすること。


私が抱いているこの坊やもそう。



に溺れて抜け出せない哀れな男。


少しの甘言と抱擁で簡単に堕ちた。


「リラ……本当に残酷なことばかりするんだね。」



誰が一番残酷なのかこの男はわかっていない。


「そんなことない…私は本当のことを言っているだけだよ。」




無慈悲で冷酷で身勝手なのはこの果実じゃなく、牙を持った怪物のみ。



どのくらい突けば本性をむき出しにするのかしら。



早く試してみたいわ。
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