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Ep.23:暴走する黄金
しおりを挟むスマートフォンの画面が、これまでにないほど激しく揺れていた。
映し出されているのは、かつての煌びやかなスタジオではない。壁は叩き壊され、高価な調度品が無残に散らばる廃墟のような部屋だ。その中心で、ゴールド・レオは獣のような形相でカメラを睨みつけていた。
「DIYおじさん……見てるんだろ、なあ!」
裏返った声がスピーカーを割る。彼の自慢だった金色の髪は振り乱れ、目は血走っていた。
視聴者数はレオのこれまでの最高記録を塗り替え、数十万人に達している。だが、コメント欄に並ぶのは賞賛ではなく、困惑と恐怖、そして嘲笑の嵐だ。
「お前が細工したせいで、俺のプライドが折れた。今まで数億円かけたブランティングを……お前がぶち壊したんだ!」
レオが足元に転がっていた金色のプレートを拾い上げ、カメラに叩きつける。鈍い衝撃音とともに画面にヒビが入った。
「謝れば済むなんて思うなよ。法律? ギルドの規約? そんなもん知るか! 俺は『勇者』だ。俺をバカにした奴を処刑する権利がある。……DIYおじさん、今すぐ出てこい。出てこないなら、お前を探し出して、お前の人生を、粉々に叩き潰してやる!」
それは、公衆の面前で放たれた明確な殺害予告だった。
現代の探索者社会において、ダンジョン外でのスキル行使や私闘は「ダンジョン法」により厳罰に処される。レオの宣言は、探索者としてのライセンス剥奪どころか、実刑を免れない重大な犯罪行為に他ならない。
ガレージの片隅で、賢志郎はこの配信を静かに見つめていた。
隣でタナカが、ガタガタと歯を鳴らしながらスマートフォンを握りしめている。
「け、賢志郎さん……これ、完全にアウトですよ。警察も動くはずです。でも、レオは本気っす。あの目は、もうまともな人間の目じゃない……」
タナカの言葉を裏付けるように、配信画面の向こうで騒音が響いた。
レオが潜伏していた高級マンションのドアが外側から爆破され、フル装備のギルド治安維持部隊と警察の特殊部隊がなだれ込む。
「ゴールド・レオ! 銃を捨て……いや、武器を捨てろ! 拘束する!」
隊員たちの警告。だが、レオはそれを見て不敵に笑った。
「ハハッ! 雑魚どもが……俺に触れるなと言っただろ!」
レオが虚空を掴むと、新たな黄金の装備が次々と実体化した。
彼がこれまでに注ぎ込んできた莫大な「課金」——レア素材と高ランクスキルの結晶が、その身を包む。
「『黄金の衝撃波(ゴールデン・バースト)』ッ!」
レオが地面を蹴った瞬間、爆発的な光が画面を真っ白に染め上げた。
突入した隊員たちが、紙屑のように吹き飛ばされる。防弾盾は飴細工のようにひしゃげ、強化ガラスを突き破って数人が外へと放り出された。
レオの暴力は、文字通り「桁違い」だった。
技術はない。知略もない。だが、圧倒的な資金力で手に入れた高ステータスと最高級の装備が、それを補って余りある破壊力を生み出していた。
「邪魔だ。……まずは、東京第3ダンジョンで『掃除』をしてやる。DIYおじさん、そこで待ってるぞ。逃げるなら、お前の街ごと焼き払ってやるからな!」
レオはそのままマンションの壁を突き破り、夜の街へと跳躍した。
彼が向かった先は、かつて彼が「勇者」としての虚飾を演じていた場所——東京第3ダンジョン。
数分後、配信は途絶えた。
入れ替わるように、ニュース速報がテレビの画面を占拠する。
『緊急速報です。探索者ゴールド・レオが警察の包囲網を突破し、東京第3ダンジョン内へ逃走しました。レオは現在、深刻な錯乱状態にあると見られ、遭遇した探索者を無差別に攻撃している模様です。ギルドは当該ダンジョンの立ち入りを禁止、周辺住民に避難勧告を発令しました……』
「……行っちゃったっす。あいつ、本当にダンジョンに籠城しやがった」
タナカの声が震える。
警察もギルドも、ダンジョンの深部に逃げ込んだ高ランク探索者を捕らえる術を即座には持たない。ダンジョン内は治外法権に近い環境であり、狂った「勇者」はそこで無敵の王になろうとしていた。
賢志郎は無言で立ち上がり、作業台の上に置いてあった黒いフルフェイスヘルメットに手を伸ばした。
「……賢志郎さん?」
「奴を放っておけば大変なことになるな……」
その声は、驚くほど冷静だった。
レオの暴力は確かに脅威だ。まともにぶつかれば、肉体ごと粉砕されるだろう。
「……漆黒マンに連絡して助けてもらったらどうっすか……?」
タナカの問いに、賢志郎は沈黙する。
ただ、自らのもみあげをポリポリと一回掻くと、静かに言った。
「……そうだな」
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