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第八章 学園懇親会
088 悪役令息リンゼイ
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俺に商人風情と挑発してきたのはリンゼイ・ラーキス・フィングルドン子爵令息。乙女ゲーム「エレノオーレ!」の攻略対象者。先日の『実技対抗戦』でもクラスの決勝リーグを勝ち上がっていた。そのリンゼイが俺とコルレッツの間を割って入ってくる。どうして首を突っ込んでくるのだ?
「悪役令息リンゼイ、か」
俺は敢えてリンゼイを一瞥した。絡んでくる意図を探るためである。が、俺の言葉に反応したのはコルレッツの方だった。俺が悪役令息と言い放った瞬間に唇を噛んだのだ。コイツは全部知っている。乙女ゲーム『エレノオーレ!』のことを。
「なんなんだ、それは!」
「お前の愛称だ。いいじゃないか二つ名があって」
「お前だってあるじゃないか。『ビートのグレン』って!」
リンゼイは俺を挑発しているつもりなのだろう。だったら、俺も挑発してやる事にした。
「だったら根性出して「サルンアフィア学園の規則に則り、我がリンゼイ・ラーキス・フィングルドンはフィングルドン子爵家の名を賭けて、貴様グレン・アルフォードに決闘を申し込む!」と言ってみろよ!」
俺はドーベルウィン風味を全開にして、ボリュームマックスでリンゼイに向かって言い放った。周囲の視線は全てこちらを向いた。そしてアーサーは全力で大爆笑している。
「グレン最高だよ、そのドーベルウィンのモノマネ!」
腹を抱えて笑うアーサーの言葉にリンゼイは顔を引きつらせている。お前はドーベルウィンだと言っているのに等しいからな。一方コルレッツの方は単にキョドっていた。平民と貴族のコントラストが笑わせる。コイツらは俺のことは分からんだろうが、こっちはある程度の事を知っている。この差は大きい。俺はその分、余裕を持って対処ができる。
「とっとと「たかが商人の倅風情の貴様如きが、このサルンアフィア学園に入学していることそのものが間違っておるのだ!」と言えよ、悪役令息リンゼイ!」
俺はリンゼイに照準を合わせ、ドーベルウィン風味を更に加速させる。こういうとき、ドーベルウィンとトーリスは本当に使える。あんなテンプレなかなかない。こうしてアーサーだけが大爆笑する異様な光景が現出した。
「い、行きましょ、リンゼイ」
コルレッツは旗色が悪いと判断したのか、リンゼイに声をかけて退散体制に入った。リンゼイは俺を睨みつけて背を向ける。二人と俺の間に距離ができたとき、俺は全力低音の腹式呼吸で言葉を全面展開させた。
「おいジャック! 来るなら来い!」
コルレッツとリンゼイはそのまま俺の視界から消えていった。
「いやぁ、いいものを見させてもらったよ」
アーサーは寸劇に満足した客のような感想を伝えてきた。そのとき、ガタイのいい生徒が俺たちに近づいてきた。剣豪騎士カインだ。
「おい、大変だったな。大丈夫か」
少し心配そうに俺たちを見るカイン。遠巻きから見ていたら激しく言い争っているから何かと思って近くに来たら、コルレッツと俺たちだったからビックリしたのだという。
「いやぁ、中々激しかったぞ、カイン」
アーサーはカインに事情を説明してくれた。正嫡殿下一行の後を付けていたコルレッツを阻んだこと、俺がコルレッツを激しく詰問したこと、フィングルドン子爵令息が絡んできたこと、である。
「凄いなグレン。約束を守ってくれてありがとう」
カインは俺に頭を下げてきた。
「いやいや。アイツのことを考えていたらムカついて仕方がなかったんだよ、だから」
「激しかったもんな、グレン。何を言っているかサッパリだったが・・・・・」
アーサーの言葉が止まった。
「『ジャック・コルレッツ』という言葉には、異様に反応していたな、アイツ」
そうなのだ。コルレッツは『ジャック・コルレッツ』という言葉に対し、怯えるぐらいの反応を示していた。あれは一体何なのか。
「来週早々にもフリックを交えて詳しい話が聞きたいのだが・・・・・」
カインがこちらに気を使いながら聞いてきたので、俺は答えた。
「いいよ。だが次のときにはワインをひっかけながらがいいな」
「ああ、そうしよう。こっちが準備をする」
カインは俺たちと後日打ち合わせをする約束をすると、ゲームに参加するんだと言って闘技場に向かっていった。俺とアーサーはそのまま予定通り中庭に行った。そこの屋台でソーセージをアテにしてワインを酌み交わし、コルレッツを肴として語らった。
翌日、俺は商人服を身に纏い、ホテル『グラバーラス・ノルデン』の内にあるレストラン「レスティア・ザドレ」の個室で元殺し屋のダグラス・グレックナーと妻室ハンナ・マリエル・グレックナーと会食する場を持った。
「この度はお誘いいただきありがとうございます」
「付け届けまでいただきなんと申し上げればよろしいのか」
妻室ハンナは俺に頭を下げてきた。ダークブラウンのロングヘアーに孔雀色のドレスを着たその姿はまさに貴族女性。グレックナーの妻は優雅で落ち着いた雰囲気の人物だった。
「先日のお手紙、詳しい情報ありがとうございます。おかげで疑問が氷解しました」
俺はハンナに学園近くにあるレグニアーレ候の屋敷を購入した経緯について話した。するとハンナの方は合点がいったという顔をした。
「それでお金の回りが良くなったのですね。しかし宰相閣下のお名前が出たら半値だなんて」
「お心当たりは?」
「アウストラリス公は反宰相の急先鋒でしてよ。ですのでレグニアーレ候は歩調を合わせなければなりませんもの」
涼やかに事情を話す妻室ハンナ。俺が興味を持っているのを察したのか、更に話を進める。
「貴族派と一口に申しましても、実態は幾つもの集まりに別れていますのよ。もちろんアウストラリス公のお周りは一番大きいですけれども」
「つまりアウストラリス派以外にも幾つもの派閥があると」
「派閥! よい響きですわね。そうでしてよ」
ハンナは派閥という言葉が気に入ったのか、説明で使ってくれた。ハンナによると貴族派はアウストラリス派以外に、エルベール公のエルベール派、バーデット侯を担ぐバーデット派、ドナート侯を中心としたドナート派。ランドレス伯リーダーとしたランドレス派。
「そんなに多いのか?」
「ええ。千家以上ありますので」
他には国王派にも王妃弟ウェストウィック公のウェストウィック派と内大臣トーレンス侯のトーレンス派、そして国王の大叔父ステュアート公のステュアート派という三派があると教えてくれた。
「それに中間派と宰相派か・・・・・」
派閥が多くて頭がおかしくなりそうだ。よくこんなの頭に入れてるよな、貴族は。みんな暇なのか?
「いっぱいありますの。しかもみんな固定ではありませんから動く方もおられますわ。だから今日は貴族派、明日は国王派などというお話もございまして」
俺が呆れていると、ハンナは溜息混じりに言った。
「それが貴族なのですよ。我が家門ブラント子爵家は今、ランドレス派に与していますの」
新興貴族だからですか、と問うとハンナは頭を振った。
「私の家のモノを引き取っていただけるからですわ」
ハンナによるとランドレス派の面々が鉱物資源を買ってくれるので、陪臣と共にエルベール派から移ったのだという。そんな理由で動くのか。
「産出量が減り、価格が下落したとの事で、年々収入が減っているそうですのよ」
ハンナの実家なのに、どこか他人事のように言っている気がするのだが・・・・・
「詳しいことは父上でなければ分かりませぬわ」
どう考えても三十代後半だろうに、まるで少女のような物言いだ。これがグレックナーの言っていた「生活力のなさ」というやつか。
「ところでアルフォードさんは何故我が夫をお雇いになられましたの?」
「腕も立つし、経験も豊富。過去に人を率いた点。何よりも正直な人物であることです」
「まぁ!」
ハンナは驚いて両手で口元を隠した。俺がそんな事を言うとは想定していなかったのだろう。しばらくしてハンナは自身の思いを語った。
「夫は私のために騎士団を辞めてまで尽くしてくれていますの。ですが、私は夫の為に何も・・・・・」
「ハンナ。言うな」
泣きそうになっているハンナをグレックナーが制した。もし俺がグレックナーの立場であっても同じ事をするだろう。グレックナー夫妻の関係はウチと同じで非常に良好なのだ。
「お恥ずかしい話ですが、家事もできない私ができるのは、家の者の代わりにパーティーに出席し、体面を取り繕うことぐらい・・・・・」
「今日は貴方のその能力を買いに来たのです」
「えっ!」
「私は貴族の内情に疎い。ですが今後商売上、貴族間の関係性を知らなければ商いが難しくなって来ているのです。レグニアーレ候の件一つ見ても」
ハンナの顔がハッとなっている。思いもよらなかったのだろう。
「ですのでウチでアドバイザーとして働きませんか。報酬は出しますから」
「ええ! いいのか」
グレックナーが驚いた顔で問うてきた。
「グレックナー。この話は貴方の話とは別。妻室には報酬と相応の経費をお支払いし、働いていただこうと」
「是非。是非にもお願いします。喜んで協力いたしますわ」
ハンナはよほど嬉しかったのか、立ち上がって俺に握手を求めてきた。グレックナーも立ち上がって礼を言ってきた。こうして俺はグレックナーの妻室ハンナを貴族アドバイザーとして雇用することになった。
「悪役令息リンゼイ、か」
俺は敢えてリンゼイを一瞥した。絡んでくる意図を探るためである。が、俺の言葉に反応したのはコルレッツの方だった。俺が悪役令息と言い放った瞬間に唇を噛んだのだ。コイツは全部知っている。乙女ゲーム『エレノオーレ!』のことを。
「なんなんだ、それは!」
「お前の愛称だ。いいじゃないか二つ名があって」
「お前だってあるじゃないか。『ビートのグレン』って!」
リンゼイは俺を挑発しているつもりなのだろう。だったら、俺も挑発してやる事にした。
「だったら根性出して「サルンアフィア学園の規則に則り、我がリンゼイ・ラーキス・フィングルドンはフィングルドン子爵家の名を賭けて、貴様グレン・アルフォードに決闘を申し込む!」と言ってみろよ!」
俺はドーベルウィン風味を全開にして、ボリュームマックスでリンゼイに向かって言い放った。周囲の視線は全てこちらを向いた。そしてアーサーは全力で大爆笑している。
「グレン最高だよ、そのドーベルウィンのモノマネ!」
腹を抱えて笑うアーサーの言葉にリンゼイは顔を引きつらせている。お前はドーベルウィンだと言っているのに等しいからな。一方コルレッツの方は単にキョドっていた。平民と貴族のコントラストが笑わせる。コイツらは俺のことは分からんだろうが、こっちはある程度の事を知っている。この差は大きい。俺はその分、余裕を持って対処ができる。
「とっとと「たかが商人の倅風情の貴様如きが、このサルンアフィア学園に入学していることそのものが間違っておるのだ!」と言えよ、悪役令息リンゼイ!」
俺はリンゼイに照準を合わせ、ドーベルウィン風味を更に加速させる。こういうとき、ドーベルウィンとトーリスは本当に使える。あんなテンプレなかなかない。こうしてアーサーだけが大爆笑する異様な光景が現出した。
「い、行きましょ、リンゼイ」
コルレッツは旗色が悪いと判断したのか、リンゼイに声をかけて退散体制に入った。リンゼイは俺を睨みつけて背を向ける。二人と俺の間に距離ができたとき、俺は全力低音の腹式呼吸で言葉を全面展開させた。
「おいジャック! 来るなら来い!」
コルレッツとリンゼイはそのまま俺の視界から消えていった。
「いやぁ、いいものを見させてもらったよ」
アーサーは寸劇に満足した客のような感想を伝えてきた。そのとき、ガタイのいい生徒が俺たちに近づいてきた。剣豪騎士カインだ。
「おい、大変だったな。大丈夫か」
少し心配そうに俺たちを見るカイン。遠巻きから見ていたら激しく言い争っているから何かと思って近くに来たら、コルレッツと俺たちだったからビックリしたのだという。
「いやぁ、中々激しかったぞ、カイン」
アーサーはカインに事情を説明してくれた。正嫡殿下一行の後を付けていたコルレッツを阻んだこと、俺がコルレッツを激しく詰問したこと、フィングルドン子爵令息が絡んできたこと、である。
「凄いなグレン。約束を守ってくれてありがとう」
カインは俺に頭を下げてきた。
「いやいや。アイツのことを考えていたらムカついて仕方がなかったんだよ、だから」
「激しかったもんな、グレン。何を言っているかサッパリだったが・・・・・」
アーサーの言葉が止まった。
「『ジャック・コルレッツ』という言葉には、異様に反応していたな、アイツ」
そうなのだ。コルレッツは『ジャック・コルレッツ』という言葉に対し、怯えるぐらいの反応を示していた。あれは一体何なのか。
「来週早々にもフリックを交えて詳しい話が聞きたいのだが・・・・・」
カインがこちらに気を使いながら聞いてきたので、俺は答えた。
「いいよ。だが次のときにはワインをひっかけながらがいいな」
「ああ、そうしよう。こっちが準備をする」
カインは俺たちと後日打ち合わせをする約束をすると、ゲームに参加するんだと言って闘技場に向かっていった。俺とアーサーはそのまま予定通り中庭に行った。そこの屋台でソーセージをアテにしてワインを酌み交わし、コルレッツを肴として語らった。
翌日、俺は商人服を身に纏い、ホテル『グラバーラス・ノルデン』の内にあるレストラン「レスティア・ザドレ」の個室で元殺し屋のダグラス・グレックナーと妻室ハンナ・マリエル・グレックナーと会食する場を持った。
「この度はお誘いいただきありがとうございます」
「付け届けまでいただきなんと申し上げればよろしいのか」
妻室ハンナは俺に頭を下げてきた。ダークブラウンのロングヘアーに孔雀色のドレスを着たその姿はまさに貴族女性。グレックナーの妻は優雅で落ち着いた雰囲気の人物だった。
「先日のお手紙、詳しい情報ありがとうございます。おかげで疑問が氷解しました」
俺はハンナに学園近くにあるレグニアーレ候の屋敷を購入した経緯について話した。するとハンナの方は合点がいったという顔をした。
「それでお金の回りが良くなったのですね。しかし宰相閣下のお名前が出たら半値だなんて」
「お心当たりは?」
「アウストラリス公は反宰相の急先鋒でしてよ。ですのでレグニアーレ候は歩調を合わせなければなりませんもの」
涼やかに事情を話す妻室ハンナ。俺が興味を持っているのを察したのか、更に話を進める。
「貴族派と一口に申しましても、実態は幾つもの集まりに別れていますのよ。もちろんアウストラリス公のお周りは一番大きいですけれども」
「つまりアウストラリス派以外にも幾つもの派閥があると」
「派閥! よい響きですわね。そうでしてよ」
ハンナは派閥という言葉が気に入ったのか、説明で使ってくれた。ハンナによると貴族派はアウストラリス派以外に、エルベール公のエルベール派、バーデット侯を担ぐバーデット派、ドナート侯を中心としたドナート派。ランドレス伯リーダーとしたランドレス派。
「そんなに多いのか?」
「ええ。千家以上ありますので」
他には国王派にも王妃弟ウェストウィック公のウェストウィック派と内大臣トーレンス侯のトーレンス派、そして国王の大叔父ステュアート公のステュアート派という三派があると教えてくれた。
「それに中間派と宰相派か・・・・・」
派閥が多くて頭がおかしくなりそうだ。よくこんなの頭に入れてるよな、貴族は。みんな暇なのか?
「いっぱいありますの。しかもみんな固定ではありませんから動く方もおられますわ。だから今日は貴族派、明日は国王派などというお話もございまして」
俺が呆れていると、ハンナは溜息混じりに言った。
「それが貴族なのですよ。我が家門ブラント子爵家は今、ランドレス派に与していますの」
新興貴族だからですか、と問うとハンナは頭を振った。
「私の家のモノを引き取っていただけるからですわ」
ハンナによるとランドレス派の面々が鉱物資源を買ってくれるので、陪臣と共にエルベール派から移ったのだという。そんな理由で動くのか。
「産出量が減り、価格が下落したとの事で、年々収入が減っているそうですのよ」
ハンナの実家なのに、どこか他人事のように言っている気がするのだが・・・・・
「詳しいことは父上でなければ分かりませぬわ」
どう考えても三十代後半だろうに、まるで少女のような物言いだ。これがグレックナーの言っていた「生活力のなさ」というやつか。
「ところでアルフォードさんは何故我が夫をお雇いになられましたの?」
「腕も立つし、経験も豊富。過去に人を率いた点。何よりも正直な人物であることです」
「まぁ!」
ハンナは驚いて両手で口元を隠した。俺がそんな事を言うとは想定していなかったのだろう。しばらくしてハンナは自身の思いを語った。
「夫は私のために騎士団を辞めてまで尽くしてくれていますの。ですが、私は夫の為に何も・・・・・」
「ハンナ。言うな」
泣きそうになっているハンナをグレックナーが制した。もし俺がグレックナーの立場であっても同じ事をするだろう。グレックナー夫妻の関係はウチと同じで非常に良好なのだ。
「お恥ずかしい話ですが、家事もできない私ができるのは、家の者の代わりにパーティーに出席し、体面を取り繕うことぐらい・・・・・」
「今日は貴方のその能力を買いに来たのです」
「えっ!」
「私は貴族の内情に疎い。ですが今後商売上、貴族間の関係性を知らなければ商いが難しくなって来ているのです。レグニアーレ候の件一つ見ても」
ハンナの顔がハッとなっている。思いもよらなかったのだろう。
「ですのでウチでアドバイザーとして働きませんか。報酬は出しますから」
「ええ! いいのか」
グレックナーが驚いた顔で問うてきた。
「グレックナー。この話は貴方の話とは別。妻室には報酬と相応の経費をお支払いし、働いていただこうと」
「是非。是非にもお願いします。喜んで協力いたしますわ」
ハンナはよほど嬉しかったのか、立ち上がって俺に握手を求めてきた。グレックナーも立ち上がって礼を言ってきた。こうして俺はグレックナーの妻室ハンナを貴族アドバイザーとして雇用することになった。
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