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僕の死に様
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めでたく、僕は国立生命研究所と契約を結んだ。説明では眠れるように死んでいけるらしい。それを聞いて少し安心できた。
そこから僕は、ずっと自分の人生をデータとして残す作業をした。
写真として残す資料は、家族から、同級生から、上級生から買ってきたそうだ。
もう外界に僕のプライバシーなんてものは残っていない事を痛感した。
生い立ちをデータとして残し、その時の感情も添付されていった。
かなりの日数を費やして、僕の仕事は終えた。そして、山下は言った。
「数日後にはアキラ君は死ねます。その時まではゆっくりと過ごして下さい」
僕はやる事もなく、テレビと向き合っていた。いくら時間があっても、飽きてくるものだ。
そして、考え事をする。
まさか死ぬ前に、あんなに深く人生を振り返る事になるなんてね。
気がつくと涙を流していた。
小さな頃は幸せだったな。父もいて、家族で幸せそうな写真も多くあった。
どうしてこんな事になったのだろうか。いつから不幸になったのだろうか。
まだ死へ近付いてる実感はない。まるで療養しているような環境で過ごしている。
今からでもやり直せたかな?また幸せな時間を取り戻す事はできたかな?
もう無理だろう。きっとそうだ。いや、本当にそうなのかな。
そういえば、母さんにも弟にも、最期の挨拶してなかったな。
まだ僕が命を絶つ日でもないのに、こんなにたくさんの後悔がくるなんて、思ってもいなかった。
僕は山下さんを呼んだ。
「家族に最期の挨拶をさせてくれないかな…」
「それは無理な相談ですね。もうご家族にも説明は致しましたのでご安心を」
「あの…母は何か言っていましたか?」
「謝礼として渡した金額に対して、ありがとうございます。と一言」
「そうですか…」
山下は複雑な表情をしながら部屋を後にする。
そっか。母さんは僕よりお金の方が嬉しかったのかな。
僕の心はどん底に落とされた。笑う事すらできない。テレビをつける事なく、真っ暗な部屋で数日を過ごした。そして、その日はやってきた。
「アキラ君、こちらへ」
山下は僕を地下の一室へ案内する。
僕の腕には一本の管が通される。
「このボタンを押せば、君は眠るように逝く事ができる。今から三時間の猶予があるから、好きなタイミングで押すんだ」
山下から最期の案内が行われた。
僕の心臓は破裂しそうだった。いよいよここまでやってきた。
友達もいない。家族にも捨てられた。失うもの、それは僕にはない。
後はボタンを押すだけで楽になれる。
しかし、僕の手は震えてボタンを押せない。
山下とその部下は静かにその時を待つ。
まだ、まだやり直せるんじゃないか。まだ間に合うのではないか…
それは、真っ暗な部屋でもずっと考えていた事だった。
部屋に設置された時計の秒針が進む音だけが響く。
一体、どれくらいの時間が経ったのだろうか。手の震えから全身の震えへ。心は恐怖でいっぱいになっていた。
「あの、まだ…もう少しでいいので…時間をくれませんか…」
涙を流しながら山下さんにお願いをするが、一言で済まされた。
「それはできない」
死ぬ事が怖い。後悔しかない。まだやれる事はたくさんあった。死ぬ気になればできる事はたくさん…
でも、もう遅い。手遅れ。あの時、小林さんに返事をした時が運命の分岐点だった。
「三時間だ。もう猶予はないぞ」
気が狂いそうだった。いや、狂っていたのだろう。ガチガチと全身を震わせながら叫んだ。助けて、助けて、と。
山下の部下は僕の体をベッドに押しつけて固定した。
「短い間だったがありがとう。さよならだ、アキラ君」
山下は躊躇もなく、僕の死を告げるボタンを押した。
それでも叫んだ。僕は諦めなかった。しかし、強い睡魔に襲われていった。
そこから僕は、ずっと自分の人生をデータとして残す作業をした。
写真として残す資料は、家族から、同級生から、上級生から買ってきたそうだ。
もう外界に僕のプライバシーなんてものは残っていない事を痛感した。
生い立ちをデータとして残し、その時の感情も添付されていった。
かなりの日数を費やして、僕の仕事は終えた。そして、山下は言った。
「数日後にはアキラ君は死ねます。その時まではゆっくりと過ごして下さい」
僕はやる事もなく、テレビと向き合っていた。いくら時間があっても、飽きてくるものだ。
そして、考え事をする。
まさか死ぬ前に、あんなに深く人生を振り返る事になるなんてね。
気がつくと涙を流していた。
小さな頃は幸せだったな。父もいて、家族で幸せそうな写真も多くあった。
どうしてこんな事になったのだろうか。いつから不幸になったのだろうか。
まだ死へ近付いてる実感はない。まるで療養しているような環境で過ごしている。
今からでもやり直せたかな?また幸せな時間を取り戻す事はできたかな?
もう無理だろう。きっとそうだ。いや、本当にそうなのかな。
そういえば、母さんにも弟にも、最期の挨拶してなかったな。
まだ僕が命を絶つ日でもないのに、こんなにたくさんの後悔がくるなんて、思ってもいなかった。
僕は山下さんを呼んだ。
「家族に最期の挨拶をさせてくれないかな…」
「それは無理な相談ですね。もうご家族にも説明は致しましたのでご安心を」
「あの…母は何か言っていましたか?」
「謝礼として渡した金額に対して、ありがとうございます。と一言」
「そうですか…」
山下は複雑な表情をしながら部屋を後にする。
そっか。母さんは僕よりお金の方が嬉しかったのかな。
僕の心はどん底に落とされた。笑う事すらできない。テレビをつける事なく、真っ暗な部屋で数日を過ごした。そして、その日はやってきた。
「アキラ君、こちらへ」
山下は僕を地下の一室へ案内する。
僕の腕には一本の管が通される。
「このボタンを押せば、君は眠るように逝く事ができる。今から三時間の猶予があるから、好きなタイミングで押すんだ」
山下から最期の案内が行われた。
僕の心臓は破裂しそうだった。いよいよここまでやってきた。
友達もいない。家族にも捨てられた。失うもの、それは僕にはない。
後はボタンを押すだけで楽になれる。
しかし、僕の手は震えてボタンを押せない。
山下とその部下は静かにその時を待つ。
まだ、まだやり直せるんじゃないか。まだ間に合うのではないか…
それは、真っ暗な部屋でもずっと考えていた事だった。
部屋に設置された時計の秒針が進む音だけが響く。
一体、どれくらいの時間が経ったのだろうか。手の震えから全身の震えへ。心は恐怖でいっぱいになっていた。
「あの、まだ…もう少しでいいので…時間をくれませんか…」
涙を流しながら山下さんにお願いをするが、一言で済まされた。
「それはできない」
死ぬ事が怖い。後悔しかない。まだやれる事はたくさんあった。死ぬ気になればできる事はたくさん…
でも、もう遅い。手遅れ。あの時、小林さんに返事をした時が運命の分岐点だった。
「三時間だ。もう猶予はないぞ」
気が狂いそうだった。いや、狂っていたのだろう。ガチガチと全身を震わせながら叫んだ。助けて、助けて、と。
山下の部下は僕の体をベッドに押しつけて固定した。
「短い間だったがありがとう。さよならだ、アキラ君」
山下は躊躇もなく、僕の死を告げるボタンを押した。
それでも叫んだ。僕は諦めなかった。しかし、強い睡魔に襲われていった。
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