ペンギン仕掛けの目覚まし時計3

織風 羊

文字の大きさ
17 / 25

第十七章 Trigger Fish

しおりを挟む


 涼太は店から帰ると、いつもの様に目覚まし時計のお椀の上に氷を置いた。
そして鞄から出した食材をキッチンへと持って行く。
ぺペンギンは、いつものように目覚まし時計から出て来て、両目を3倍くらいに開いて、今か今かと晩御飯を待っている。
涼太は食材を捌き終わると、目覚まし時計のお椀へ乗せるために食材を持って行く。
ぺペンギンの目が更に大きくなる。
まるで、ガルルルー、と獲物を見つけた野犬のように唸り出しそうな勢いだ。
さっきまで潤んでいた目が別の輝きに変わっている。
涼太は、今度は自分のジャンクフードを鞄から出して食べ始める。
今夜は、賄い料理を開店前に食べれたので、ほんの夜食程度の量のジャンクフードだ。
と突然、

「何なんこれ、めっっちゃ美味いやん、なぁ、なぁ、この子、何んて言う名前なん?なぁ?」

 最近では、これも日課に近い。
ぺペンギンは、新しい食材を食べると、必ずしつこいくらいに名前を聞きたがる。

「トリガーフィッシュ、です。日本語でカワハギっていいます」

「そうかぁ、カワハギちゃんかぁ、君、カワハギっていうん? ええ名前やねぇ」

 などと矢鱈に魚を褒めるのも恒例である。
涼太は頃合いを見計らって、ぺペンギンに声を掛けた、
「先日は、ありがとうございました。おかげで俺が店で出してもいい料理が増えました」

「ええよ、ええよ、そうやって、ちゃんと挨拶できる子は成功するねん」

「・・・・・・・・。」

「どうしたん?」

「・・・・・・・・。」

「何なん?」

「・・・・・・・・。」

「焦ったい奴っちゃなー。早よ、言うてみいや」

「じゃ、いいですか?」

「何んか、鬱陶しなってきたわ、早よ言うてくれへん」

「今度、いつ、一緒に出勤してくれますか!」

「・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・。」

「お前アホやろ、て言うか。アホの中のアホ。ザ グレート ドアホ オブ ザ イアー! じゃ」

「えっ」

「ちょっと褒めたったら何調子乗っとおんねん! このボケが! お前の脳味噌の何処を通って、そんな言葉が出てくるんじゃい。一回教えたったら、もう終わりじゃ! 後は自分で考えんかい!」

「然し」

「然しも、お菓子も、ようお来し、もあるかい!」

「・・・・・・・・。」

「何やねん?」

「・・・・・・・・。」

「せやから、何やねん?」

「煮付けの」

「味付けか?」

「はい」

「あのなぁ、そこは自分で越えるべき壁やろぉ」

「でも、1年以上かかっても駄目なんです」

「あのなぁ、てか、お前、自分の料理に、自分自身に、自信持ち過ぎちゃう?」

「そんなこと、ありません」

「それは嘘やな、日本料理の原点は此処にあり!みたいな感じで本気で何かを変えよう、自分自身を変えよう、そんな気持ちが無いように、ワイには思えんねんけど」

「それは! いえ、はい、そうかもしれません。済みません」

「素直でよろしい。ほな、今回だけやで、今回だけ特別にやで、その素直さに免じて、少しだけヒントをやるわ。ただし、和食の味付けやないで。ワイは基本、鮮魚やさかいな」

「はい、お願いします」

「例えばや、関東風の蕎麦屋が、関西に来て、これこそ本物の蕎麦です!言うて売れると思う?関西には関西の出汁の旨さがあるやろ? 世界で言うたらピザかってそうやと思わへんか? 日本のピザは生地がフカフカでチーズたっぷりや。でも本場のピザは、生地がぺったんこで、チーズが乗ってないやつもある。そやろ? そんなピザを日本で売ってる奴が、ピッツァ、とか言うて自慢げな顔してると思わへんか? 今のお前にそっくりやないか? お前が求めてるもんと相手が求めてるもんが違うんや、っていうことに全然気付いてへんやん。これぞ日本料理だ!って言うても見向きもされへんかったら、それは単なる独りよがりやろ。ええか、ここはアメリカなんや。ブルックリンなんや。それを忘れるな。ええか、ここはアメリカや! 頭に叩き込んどけ」

「考え直してみます」

「分かったら、それでええよ」

「はい」

「よろしい。で、ワイ、ちゃんとヒントあげたよな?」

「はい、ありがとうございます」

「よし、そこで、相談や」

「何んですか?」

「あのね、ちょっとでええねんけどぉ、シングルモルトォ、のぉ、ウイスキィー、手に入らへん? ほんのちょーっと、でええねん。ポケットサイズのやつあるやろ? ちーっちゃいやつ、な?」

「ぺペンギンさんのポケットサイズですか?」

「わーい、ちっちゃいのねー、ってアホか! どんだけちっちゃいねん!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

下宿屋 東風荘 7

浅井 ことは
キャラ文芸
☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆*:..☆ 四つの巻物と本の解読で段々と力を身につけだした雪翔。 狐の国で保護されながら、五つ目の巻物を持つ九堂の居所をつかみ、自身を鍵とする場所に辿り着けるのか! 四社の狐に天狐が大集結。 第七弾始動! ☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆*:..☆ 表紙の無断使用は固くお断りさせて頂いております。

ヤクザに医官はおりません

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした 会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。 シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。 無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。 反社会組織の集まりか! ヤ◯ザに見初められたら逃げられない? 勘違いから始まる異文化交流のお話です。 ※もちろんフィクションです。 小説家になろう、カクヨムに投稿しています。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

✿ 私は夫のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい 

設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀ 結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。 結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。 それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて しなかった。 呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。 それなのに、私と別れたくないなんて信じられない 世迷言を言ってくる夫。 だめだめ、信用できないからね~。 さようなら。 *******.✿..✿.******* ◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才   会社員 ◇ 日比野ひまり 32才 ◇ 石田唯    29才          滉星の同僚 ◇新堂冬也    25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社) 2025.4.11 完結 25649字 

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...