92 / 159
91.変わらない日々。 ◆
しおりを挟む◆◆◆
あの村を去った後も同じ様に回復魔法を使いながら
″———”探しをした。
″———”は見つからないものの、回復魔法で人を癒すと感謝した人から食べ物やお金をもらう事があり、飢えには困らないで済んだ。
欲しかったナイフに鍋、それと野営をする時に必要な物が購入する事ができたので外で寝る時にはそれらを使って1人で過ごした。
どうしても町から移動している最中は野営をしなければならないし、宿にいつでも泊まれるお金の余裕があるわけでもない。
出来る限りは森などに身を潜め密かに体を休めた。
だが、魔物に襲われる事もしばしあり、申し訳ないと思いながらも呪術で動きを止めては逃げたり倒したりして、食べられる魔物に関しては食べた。
初めは魔物を仕留めるのも怖くて呪術で苦しませず意識を飛ばしてから仕留めて、その身を削いだ。
何度もしてはいるが生暖かい身を斬るのは一瞬緊張する。
しかし、生きるためには致し方ない。
食べる時はその命に感謝した。
しらみ潰しに一つの村や町に寄っては時間を掛けて
″———”を探す。
1人1人、逃さない様根気よく人を見ていく。
回復魔法の使い手がいない村や町では私の事を捕まえようとする人もいた。
そんな時、呪術は便利で呪いを掛けようとするとすぐに無理矢理捕まえるのを辞めてくれた。
人には使いたくはないので全てかける振りをして最悪呪術の魔法陣を見せるに留まった。
″———”に関する収穫がないまま、時間が過ぎていく。
世界地図にも×が増える。だがまだまだ回っていないところの方が断然多いのだ。
諦めることはない。
寒い日でも暑い日でも止まろうとはしなかった。居なかった村や町から次の村、町を目指してひたすら歩く。
疲れれば自分に回復魔法をかけて道を進んだ。前世と同じで回復魔法ならいくらでも使えるのは有り難い。
来る日も来る日も。
土砂降りの中でも、風が吹き荒れる中でも。
1日足りとも休まずに歩いた。
1年経っても、2年経っても、変わらなかった。変わっていくのは私の身長や服装や鞄や靴。
お金を時々貰うたびその大半は貯めながらも服や鞄が壊れる寸前に新しいものへと変えた。
最初家から出た時の鞄は今じゃ5倍の大きさになった。色々入り重宝した。
ギルドという冒険者の集まりにたまに行き探し物の依頼をすることもあった。
まだ登録が出来ない年齢らしく、正式には受注出来ないがそう言う時には先にギルドに行き、依頼を見てから探しに行き、連れて行けるものや持っていけるものはそのままギルドに連れて行った。
中には無駄足に終わる事もあったが、大体は認めてくれて報酬を貰うことが出来た。
(お金はあっても困らない…。今″———”がどんな状況なのかもわからないし、あるに越したことはない…。)
そう思いながら地道に想いを募らせ必死に気を保った。
酷く孤独ではあった。
誰にも頼らず、なんの手掛かりもなくただ人を見ては違うと嘆く日々。
前世の思い出を思い出しては涙を堪え、前に進んだ。会えるまでは立ち止まれない。
涙は流さなかった。耐えて耐えて耐えて。
会えた時に溜めておく。
会ったら抱きしめて泣いてもきっと″———”は許してくれるだろうから。
◇◆◇
12歳になるとギルドに登録出来るらしい。
本当なら元家族に見つけられる可能性があるため登録は迷ったが、あの家族が探しに来るわけもないかと思い12歳の誕生日に登録した。
回復役で登録はしたものの、実際は治癒師並だろう。異常状態も病気も治せる私は重宝されるのは目に見える。
だけど私は一箇所に留まる気も、パーティを組む気もない。1人でついでに出来る事や、困っている人がいたら回復魔法を掛けるだけで今はいいのだ。
もし仮に″———”が冒険者で一緒に冒険をしたいとなれば話は別だ。
(私みたいに姿が変わってなかったり名前も一緒だったりしないかなぁ。)
そんな淡い期待を胸に抱く事もあった。
12歳にもなると男性から声を掛けられる事が増えた。
主に冒険者だが、町やギルドの中を歩いていても声を掛けられる。
「ねぇ、君。可愛いね、そこでお茶でもしようよ。」
「結構です!さようなら!」
「うお、美人さんだなあ。ギルドにいるなら冒険者か?
俺のパーティに入りなよ!」
「結構です!さようなら!」
私の答えは一択しかなくいつも同じだった。
あまりにも声を掛けられる事が多いため、私はフード付きのローブとスカーフを購入し、顔を隠す様になった。
そうした事でなんとも人に声を掛けられず快適に歩けた。少し暑いのは致し方ない。
13歳、14歳、15歳
どれも変わりがなく過ぎていく。
この靴で何足目かももうわからないほど歩いている。色々な地形の所を歩くためそんなに長くは持たないのだ。
時には平原、時には山、時には雪道、時には砂漠。
スタート地点が幸いな事に東寄りだったため、そこから周りを潰していくかのように人に会った。
そこから北へ行ったり南へ行ったり。
真ん中の方は大きな国であるため最後のほうにしようと残していた。
旅を始めて9年。
なんの進展もなかった。
進展はないものの、ついでだが私が通った町や村は病気や怪我の人がいれば回復をかけた。それはいつしか噂になっていて、私の耳にも入ってきたのだ。
【家族を探す聖女に祈りを。】
【心優しき聖女、巡礼中、邪魔するべからず。】
嘘八百もいいところ。
これは私の事じゃないなと耳に指を突っ込み聞かないふりをした。
本当の家族なんて探してないし、巡礼だってしてない。
一応私が回復魔法をかけた人には口止めをしたのだが、最初の頃とか忘れた時もあったからか変な噂が立っている様だ。
私だと特定されなければ問題はないだろうと、放置を決め込む事にした。
13歳、14歳、15歳、16歳、17歳、18歳。
一年があっという間に過ぎる。
×印もかなり多くなってきた。後は真ん中の付近の国だけだ。
どう足掻いても見つからない″———”。
まさかまだ転生していないのだろうか。
19歳でメルニア王国の端の村に着いた。
この王国以外にもまだ隣国が3つほどある。
だが、この王国はかなり大きい。その上人が多い事はギルドからの情報で知っていた。
多分この王国で数年かかるだろう。
成人もとうに過ぎた独りの女が歩いていても不思議がられないのは助かったが、村が少なく町が多い為かやはり時間がかかってしまう。
今じゃ視界に映れば″———”か、そうじゃないかわかるのはこの旅の成果ともいえよう。
会いたい気持ちは日々募る。
地図には×印だけが虚しく増えていった。
◆◆◆
0
あなたにおすすめの小説
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!
ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」
それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。
挙げ句の果てに、
「用が済んだなら早く帰れっ!」
と追い返されてしまいました。
そして夜、屋敷に戻って来た夫は───
✻ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない
ラム猫
恋愛
幼い頃に、セリフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セリフィアはそれを喜んで受け入れた。
その後、十年以上彼と再会することはなかった。
三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セリフィアはその場を離れた。
しかし治療師として働いているセリフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。
それどころか、シルヴァードはセリフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。
「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」
「お願い、セリフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」
※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。
※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が
和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」
エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。
けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。
「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」
「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」
──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。
公爵様のバッドエンドを回避したいだけだったのに、なぜか溺愛されています
六花心碧
恋愛
お気に入り小説の世界で名前すら出てこないモブキャラに転生してしまった!
『推しのバッドエンドを阻止したい』
そう思っただけなのに、悪女からは脅されるし、小説の展開はどんどん変わっていっちゃうし……。
推しキャラである公爵様の反逆を防いで、見事バッドエンドを回避できるのか……?!
ゆるくて、甘くて、ふわっとした溺愛ストーリーです➴⡱
◇2025.3 日間・週間1位いただきました!HOTランキングは最高3位いただきました!
皆様のおかげです、本当にありがとうございました(ˊᗜˋ*)
(外部URLで登録していたものを改めて登録しました! ◇他サイト様でも公開中です)
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
【完結】偽物聖女は冷血騎士団長様と白い結婚をしたはずでした。
雨宮羽那
恋愛
聖女補佐官であるレティノアは、補佐官であるにも関わらず、祈りをささげる日々を送っていた。
というのも、本来聖女であるはずの妹が、役目を放棄して遊び歩いていたからだ。
そんなある日、妹が「真実の愛に気づいたの」と言って恋人と駆け落ちしてしまう。
残されたのは、聖女の役目と――王命によって決められた聖騎士団長様との婚姻!?
レティノアは、妹の代わりとして聖女の立場と聖騎士団長との結婚を押し付けられることに。
相手のクラウスは、「血も涙もない冷血な悪魔」と噂される聖騎士団長。クラウスから「俺はあなたに触れるつもりはない」と言い放たれたレティノアは、「これは白い結婚なのだ」と理解する。
しかし、クラウスの態度は噂とは異なり、レティノアを愛しているようにしか思えなくて……?
これは、今まで妹の代わりの「偽物」として扱われてきた令嬢が「本物」として幸せをつかむ物語。
◇◇◇◇
お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます!
モチベになるので良ければ応援していただければ嬉しいです♪
※いつも通りざまぁ要素は中盤以降。
※完結まで執筆済み
※表紙はAIイラストです
※アルファポリス先行投稿(他投稿サイトにも掲載予定です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる