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第1章 宿敵の家の当主を妻に貰うまで
第11話 ひったくり被害
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サリアの街の露店通りに向かう途中、俺達の間には一言も会話がなかった。こっそりと覗き見るようにシアの様子を伺ってみれば、彼女は緊張した面持ちできつく口を閉じていた。
あぁ、同じなんだ。きっと彼女も俺と同じように緊張しているんだ。初めて会ったときから、俺とシアが似ているのは変わらないんだな。そう思って笑ってしまった。
「え? な、なにかありましたか?」
驚き、戸惑うシア。その様子が10年前に見たシアと変わらない事を知って、俺は少しだけ安心した。
「いや、父上とかはシアの事を決して失礼のないように、とか、恐ろしい人のように言うんだ」
「……そうですか、フォルス家が」
やはり自分の事を悪く言われるのは心に来るものがあるのか、少しだけ俯くシア。少しでも彼女の悲しみを続かせないために、俺は間髪を入れずに口を開いた。
「でも、やっぱりこうして話してみるとシアはシアだ。あの路地裏で出会ったときのままだ」
「……ノヴァさん」
顔を上げて、驚いているシアに微笑みかける。
「今日は楽しもう!」
「はい!」
お互いに微笑みあって、俺達は緊張した気持ちを霧散させて露店通りに出た。
父上の屋敷があるサリアの街には露店が多く出ているので、そこをシアと一緒に回る。昔からの知り合いのおじさんからお菓子を貰うときに「別嬪さんの彼女連れてるじゃねえか」と揶揄われたり、ちょっとした遊戯の露店でシアが無双したり、アクセサリー屋で綺麗なモノを見つけて盛り上がったりした。
穏やかで優しい気質のシアはサリアの街の人ともすぐに仲良くなり、おばさんからはサービスをされたりしていた。そんな楽しい昼下がりをシアと一緒に過ごした。
ふと、買ったものを立ち止まって二人で食べているときに露店の樽の中に雑に入れられている剣に目がいった。視線が惹きつけられた理由は特にない。しいて言うなら、俺の人生に剣というものが密接な関係だったからか。けどシアにはすぐに気付かれてしまった。
「やっぱり、剣は気になりますか?」
「え? あぁ、フォルス家直伝の覇気は使えないけど、それでも剣は好きだからね」
「剣の腕だけなら、一族の中でも上の方だと聞いています」
「でも実際には剣の腕だけじゃないからなぁ。覇気を使われたら、手も足も出ないよ。 まあ、今となっては覇気が使えないからこうしてシアと一緒にいれるわけで、ちょっと感謝してるけど」
思っていることをそのまま口にすれば、シアは微笑んだ。ただそれは、ちょっと影のあるような微笑みだったけど。
彼女は視線を街の人々に移す。道行く人達や露店の人々を目にしながら、彼女は静かに口を開いた。
「そう言って頂けたら、私も嬉しいです」
その言葉を最後に、俺達の間に沈黙が落ちる。
何を話していいのか分からなくなったとき、通りの方から大きな声が聞こえた。怒号のような声と「誰か捕まえてー!」という叫び声。それを聞いて、考えるよりも先に俺は走り出していた。
すぐに通りに出れば、遠くからこちらに走ってくる男性の人影がある。その手には袋が抱えられていて、さらにその後ろでは、妙齢の女性が必死の形相で男性を追いかけていた。
ひったくりか。状況を判断した俺はすばやく目線を外し、剣の売られている露店へと走った。
「おっさん! これ借りるぞ!」
「お、おう!」
顔なじみのおっさんに声をかけて、樽から剣を拝借する。一般的な鞘付きの剣だが、特に問題は無さそうだった。
同じように通りに出てきたシアを横目に地面を蹴る。このとき、俺はシアが手を伸ばしていることが位置的に見えなかった。それを確認する前に意識を集中させて駆け抜けてしまった。
身を低くして、剣を下段に構えて男に正面から向き合う。男は俺の事に気づいたものの、速度を緩めるつもりはないらしい。けど、それでいい。俺はタイミングを見計らってさらに強く地面を蹴って、男の背後まで駆け抜ける。そして、振り向き際に鞘を男の首筋に力の限りに打ち付けた。
「ぐえ!?」
汚い悲鳴を上げて男が地面に倒れ込む。それを立ち止まって確認した瞬間に、パチンッという音が聞こえた。
一体何があったのか思うよりも早く、倒れた男の向こう、少し離れた場所に立つシアと目が合った。手のひらをこちらへと向けたシアは目を見開き、やってしまったという表情をしている。
「ノヴァさん! ノヴァさん、すみません! け、怪我は!?」
慌てて取り乱したように駆けつけてくる彼女を見て、俺の頭の中には疑問が湧き出るばかりだ。どうして彼女が謝るのか分からないし、このひったくり相手に怪我をしてもいない。というか、こう言ってはなんだが、怪我をするほどの相手とは思えなかったし。けどシアは俺に近づくなり、とても心配そうな顔で体のあちこちを確認してくれている。
「あ、あの、シア? 俺は大丈夫だから……」
どこも異常はないと体の動きで示そうとして腕をあげたときに、腕に電流が走るのを目にした。
「お? おぉ?」
体中に流れる電流。でも痛みも痺れも全く感じない。体はいつも通りだし、問題なく動かせそうだ。どうなっているのか分からないけど、害は無さそうだと判断。
「…………」
でもシアは目を見開いて俺の体をじっと見ている。安心しているようだが、訝しげな表情が少し気になった。
「……とりあえず、この男を引き渡そうか」
「……はい」
俺の方をじっと見るシアの視線に耐え切れずに、とりあえず倒れているひったくり犯をどうにかしようと思った。
あぁ、同じなんだ。きっと彼女も俺と同じように緊張しているんだ。初めて会ったときから、俺とシアが似ているのは変わらないんだな。そう思って笑ってしまった。
「え? な、なにかありましたか?」
驚き、戸惑うシア。その様子が10年前に見たシアと変わらない事を知って、俺は少しだけ安心した。
「いや、父上とかはシアの事を決して失礼のないように、とか、恐ろしい人のように言うんだ」
「……そうですか、フォルス家が」
やはり自分の事を悪く言われるのは心に来るものがあるのか、少しだけ俯くシア。少しでも彼女の悲しみを続かせないために、俺は間髪を入れずに口を開いた。
「でも、やっぱりこうして話してみるとシアはシアだ。あの路地裏で出会ったときのままだ」
「……ノヴァさん」
顔を上げて、驚いているシアに微笑みかける。
「今日は楽しもう!」
「はい!」
お互いに微笑みあって、俺達は緊張した気持ちを霧散させて露店通りに出た。
父上の屋敷があるサリアの街には露店が多く出ているので、そこをシアと一緒に回る。昔からの知り合いのおじさんからお菓子を貰うときに「別嬪さんの彼女連れてるじゃねえか」と揶揄われたり、ちょっとした遊戯の露店でシアが無双したり、アクセサリー屋で綺麗なモノを見つけて盛り上がったりした。
穏やかで優しい気質のシアはサリアの街の人ともすぐに仲良くなり、おばさんからはサービスをされたりしていた。そんな楽しい昼下がりをシアと一緒に過ごした。
ふと、買ったものを立ち止まって二人で食べているときに露店の樽の中に雑に入れられている剣に目がいった。視線が惹きつけられた理由は特にない。しいて言うなら、俺の人生に剣というものが密接な関係だったからか。けどシアにはすぐに気付かれてしまった。
「やっぱり、剣は気になりますか?」
「え? あぁ、フォルス家直伝の覇気は使えないけど、それでも剣は好きだからね」
「剣の腕だけなら、一族の中でも上の方だと聞いています」
「でも実際には剣の腕だけじゃないからなぁ。覇気を使われたら、手も足も出ないよ。 まあ、今となっては覇気が使えないからこうしてシアと一緒にいれるわけで、ちょっと感謝してるけど」
思っていることをそのまま口にすれば、シアは微笑んだ。ただそれは、ちょっと影のあるような微笑みだったけど。
彼女は視線を街の人々に移す。道行く人達や露店の人々を目にしながら、彼女は静かに口を開いた。
「そう言って頂けたら、私も嬉しいです」
その言葉を最後に、俺達の間に沈黙が落ちる。
何を話していいのか分からなくなったとき、通りの方から大きな声が聞こえた。怒号のような声と「誰か捕まえてー!」という叫び声。それを聞いて、考えるよりも先に俺は走り出していた。
すぐに通りに出れば、遠くからこちらに走ってくる男性の人影がある。その手には袋が抱えられていて、さらにその後ろでは、妙齢の女性が必死の形相で男性を追いかけていた。
ひったくりか。状況を判断した俺はすばやく目線を外し、剣の売られている露店へと走った。
「おっさん! これ借りるぞ!」
「お、おう!」
顔なじみのおっさんに声をかけて、樽から剣を拝借する。一般的な鞘付きの剣だが、特に問題は無さそうだった。
同じように通りに出てきたシアを横目に地面を蹴る。このとき、俺はシアが手を伸ばしていることが位置的に見えなかった。それを確認する前に意識を集中させて駆け抜けてしまった。
身を低くして、剣を下段に構えて男に正面から向き合う。男は俺の事に気づいたものの、速度を緩めるつもりはないらしい。けど、それでいい。俺はタイミングを見計らってさらに強く地面を蹴って、男の背後まで駆け抜ける。そして、振り向き際に鞘を男の首筋に力の限りに打ち付けた。
「ぐえ!?」
汚い悲鳴を上げて男が地面に倒れ込む。それを立ち止まって確認した瞬間に、パチンッという音が聞こえた。
一体何があったのか思うよりも早く、倒れた男の向こう、少し離れた場所に立つシアと目が合った。手のひらをこちらへと向けたシアは目を見開き、やってしまったという表情をしている。
「ノヴァさん! ノヴァさん、すみません! け、怪我は!?」
慌てて取り乱したように駆けつけてくる彼女を見て、俺の頭の中には疑問が湧き出るばかりだ。どうして彼女が謝るのか分からないし、このひったくり相手に怪我をしてもいない。というか、こう言ってはなんだが、怪我をするほどの相手とは思えなかったし。けどシアは俺に近づくなり、とても心配そうな顔で体のあちこちを確認してくれている。
「あ、あの、シア? 俺は大丈夫だから……」
どこも異常はないと体の動きで示そうとして腕をあげたときに、腕に電流が走るのを目にした。
「お? おぉ?」
体中に流れる電流。でも痛みも痺れも全く感じない。体はいつも通りだし、問題なく動かせそうだ。どうなっているのか分からないけど、害は無さそうだと判断。
「…………」
でもシアは目を見開いて俺の体をじっと見ている。安心しているようだが、訝しげな表情が少し気になった。
「……とりあえず、この男を引き渡そうか」
「……はい」
俺の方をじっと見るシアの視線に耐え切れずに、とりあえず倒れているひったくり犯をどうにかしようと思った。
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