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第2章 宿敵の家の当主を妻に貰ってから
第40話 王都の研究所へ
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俺の屋敷では、意外な人物と食事をとることが多い。夕餉の時はシアがいるけど、そこに加えてターニャや他のメイドや執事も同じ部屋で食事をとる。
だから昼食のときも俺が一人で食べるわけじゃなくて、ジルさんやターニャ、他の使用人たちも同席する。もちろん仕事の関係で先に食べたり、後に食べる使用人たちは除外されるけど。
「相変わらず料理が美味しいですね。午後の読書の時に眠くならないかが心配ですが」
そう苦笑いするのは、俺の代理で仕事をほとんど請け負ってくれているジルさんだ。仕事を代行してくれているとはいえ元々の仕事量が少ないからか、彼もまた午後からは暇なようだけど。
「そう言って頂けると街で凄腕のシェフを捕まえてきた甲斐がありますね」
得意げな表情をしているターニャを見ていると、ポケットの中で何かが震えるのを感じた。取り出してテーブルの上に出せば、黒い縁の便箋と真っ白な便箋の間に挟まった桃色の便箋に文字が書き込まれている最中だった。
「……オーロラちゃん?」
彼女の便箋をよく見えるように他の二枚の便箋をポケットに仕舞う。すでにオーロラちゃんの便箋には2行ほど書き込まれていた。
「彼女はなんと?」
「……王都の研究所をシアが案内したいみたいだ。オーロラちゃんも一緒にだってさ」
「ほう、王都の研究所ですか」
意外なことに、反応したのはジルさんだった。彼はコーヒーを一口飲むと息を吐く。
「色々な機器や武器を開発している機関ですな。暮らしを豊かにするものから、秘密裏に進められていたと言われている戦争で使うものまで、幅広い技術を研究する場所だったはずです」
「詳しいですね、ジルさん」
「そりゃあターニャ嬢の数倍は生きていますからな」
大きな口を開けて豪快に笑うジルさん。彼の説明を聞いて、そんな大きな機関ならアークゲート家と関りがあるのも、そりゃそうかと感じた。
そんな場所を紹介するなんて、なにか俺に見て欲しいものでもあるのだろうか?
「……ひょっとしたら旦那様専用の剣とか、紹介してくれるのかもしれませんね」
「え? いや、まさか……」
考えていることを少しだけ当てられたけど、まさか俺一人のために大きな機関を動かすなんてことはしないだろう……と、思うのだが。
「分かりませんよ? ひょっとしたら時間や空間を切り裂く剣とか出てくるかも」
「もうおとぎ話じゃないか、それ」
苦笑いしながらターニャの言葉に返答しつつ、俺は彼女からペンを受け取って返信用の便箋に書き込み始める。午後に予定はないので、当然了承だ。
簡単に返事を書いてアークゲート家の家紋を3回押せば、いつも通り便箋は消えていった。最近は見ていなかった光景だけど、いつ見ても凄いと思う。
「どんなモノを見たのか、帰ってきたら教えてくださいね!」
「私も気になりますな。最先端の技術……男のロマン……」
「ははっ……あんまり上手くは説明できないと思うけど、任せてよ」
共に食事をとっていたメイドや執事達も頷くのを見て微笑む。以前はたった一人だった俺の話を聞いてくれる人。それがこんなに多くなったのが嬉しかった。家に帰ってきた後も楽しみがあるっていうのは、良いことだ。そしてそんな環境を作ってくれたターニャには感謝しかない。
×××
昼食も済ませて外出用の服に着替えて屋敷の門の前に。いつもの待ち合わせ場所で待っていれば、見慣れた金の光が視界に入ってくる。そっちを見れば、楕円形のゲートからシアが出てくるところだった。
夜のような長い黒髪を風に揺らしながらふわりとシアは地面に足を着ける。ただゲートを潜っただけなのに、動作一つ一つに優雅さがあるように思えた。彼女は俺をみつけるとニッコリと微笑む。
「ただいま戻りました、ノヴァさん」
「ああ、おかえりシア」
ただいまと、おかえり。そんな風に言い合える些細なことが無性に嬉しい。自然と笑顔になっていると、シアの後ろから続けて現れたのは金髪を横に纏めた小さな少女、オーロラちゃんだ。手を繋がずにゲートから出てくるのを見て、二人でゲートを使う場合にシアと手を繋ぐ必要はやっぱりないんだなぁ、と改めて思う。
ゲートを潜り終えたオーロラちゃんも俺の姿を見つけ、花のような笑顔を見せてくれた。
「ノヴァお兄様! 久しぶりね!」
「うん、久しぶりだね」
手紙のやり取りはしていたけど、実際に会うのはシアと正式に籍を入れたことを報告したときだったかな。そんなオーロラちゃんは、ほんの少しだけ背が伸びたような気がしなくもない。
「今日は王都の研究所? に行くみたいだけど……」
「ええ、お兄様に見せたいものがあるのよ」
「え? そうなの?」
まさかターニャの言うおとぎ話の剣の話が本当になるのか? と思って目を丸くしてしまう。言葉を続けたのは、ゲートを閉じて新たに開く準備をしているシアだった。
「あとはちょっと協力して頂ければ嬉しい事がありまして……よしっ……詳細はゲートの先にいる人が説明してくれるので、そこで」
「うん、何でも言ってよ」
シアの力になれるならそれほど嬉しいことはないから、どんなことでも協力するつもりだった。そう言うとシアは微笑んで俺の右に立ち、手を絡ませてくる。細長くした優しそうな目に、少しだけドキリとした。
「あ、ねえノヴァお兄様、私も手を繋いでいい?」
「え? ああ、いいよ」
左からオーロラちゃんに言われたのでそう返すと、小さな手の感触が左手に広がった。これが両手に花というやつなのだろうか。右側は妻で、左側は妻の妹なわけだけど。
「じゃあ、行きますね」
「うん」
シアの言葉に頷いて、俺達は三人で揃ってゲートを潜った。視界いっぱいに金の光が広がり、もう一歩踏み出すだけで景色ががらりと変わる。下を見ていれば、足が着いたのが床だったので室内なのだろう。そう思うと同時に視線を感じた。
顔を上げてみるとそこは小さな部屋で、目の前には椅子に座った一人の女性が目を見開いてこちらを見ていた。紫のふわふわした髪をポニーテールにした、どこかユティさんと同じような、しかし彼女よりは活発そうな女性。会うのは初めてなのに、どこか見覚えがある気がする。
そんな彼女はじっと俺達を見ている。いや、正確には俺とシアが繋いだ手を凝視しているようだった。名残惜しくもシアとオーロラちゃんの手が俺から離れると、初対面の女性の視線は上へと昇って俺と目が合ったけど。
「ノヴァさん、紹介します。こちらはナターシャ・ワイルダー。この研究機関に所属する天才でして、アークゲート家に技術協力をしてくれています。ナターシャ、こちらが以前話した夫のノヴァさんです」
「あ……」
ナターシャ・ワイルダー。その家名を聞いて、彼女が誰なのか分かった。どうして彼女に見覚えがあるのか。それは彼女の姉を知っているからだ。
名前はセシリア・ワイルダー。俺の兄であるゼロード・フォルスの婚約者の女性だ。
だから昼食のときも俺が一人で食べるわけじゃなくて、ジルさんやターニャ、他の使用人たちも同席する。もちろん仕事の関係で先に食べたり、後に食べる使用人たちは除外されるけど。
「相変わらず料理が美味しいですね。午後の読書の時に眠くならないかが心配ですが」
そう苦笑いするのは、俺の代理で仕事をほとんど請け負ってくれているジルさんだ。仕事を代行してくれているとはいえ元々の仕事量が少ないからか、彼もまた午後からは暇なようだけど。
「そう言って頂けると街で凄腕のシェフを捕まえてきた甲斐がありますね」
得意げな表情をしているターニャを見ていると、ポケットの中で何かが震えるのを感じた。取り出してテーブルの上に出せば、黒い縁の便箋と真っ白な便箋の間に挟まった桃色の便箋に文字が書き込まれている最中だった。
「……オーロラちゃん?」
彼女の便箋をよく見えるように他の二枚の便箋をポケットに仕舞う。すでにオーロラちゃんの便箋には2行ほど書き込まれていた。
「彼女はなんと?」
「……王都の研究所をシアが案内したいみたいだ。オーロラちゃんも一緒にだってさ」
「ほう、王都の研究所ですか」
意外なことに、反応したのはジルさんだった。彼はコーヒーを一口飲むと息を吐く。
「色々な機器や武器を開発している機関ですな。暮らしを豊かにするものから、秘密裏に進められていたと言われている戦争で使うものまで、幅広い技術を研究する場所だったはずです」
「詳しいですね、ジルさん」
「そりゃあターニャ嬢の数倍は生きていますからな」
大きな口を開けて豪快に笑うジルさん。彼の説明を聞いて、そんな大きな機関ならアークゲート家と関りがあるのも、そりゃそうかと感じた。
そんな場所を紹介するなんて、なにか俺に見て欲しいものでもあるのだろうか?
「……ひょっとしたら旦那様専用の剣とか、紹介してくれるのかもしれませんね」
「え? いや、まさか……」
考えていることを少しだけ当てられたけど、まさか俺一人のために大きな機関を動かすなんてことはしないだろう……と、思うのだが。
「分かりませんよ? ひょっとしたら時間や空間を切り裂く剣とか出てくるかも」
「もうおとぎ話じゃないか、それ」
苦笑いしながらターニャの言葉に返答しつつ、俺は彼女からペンを受け取って返信用の便箋に書き込み始める。午後に予定はないので、当然了承だ。
簡単に返事を書いてアークゲート家の家紋を3回押せば、いつも通り便箋は消えていった。最近は見ていなかった光景だけど、いつ見ても凄いと思う。
「どんなモノを見たのか、帰ってきたら教えてくださいね!」
「私も気になりますな。最先端の技術……男のロマン……」
「ははっ……あんまり上手くは説明できないと思うけど、任せてよ」
共に食事をとっていたメイドや執事達も頷くのを見て微笑む。以前はたった一人だった俺の話を聞いてくれる人。それがこんなに多くなったのが嬉しかった。家に帰ってきた後も楽しみがあるっていうのは、良いことだ。そしてそんな環境を作ってくれたターニャには感謝しかない。
×××
昼食も済ませて外出用の服に着替えて屋敷の門の前に。いつもの待ち合わせ場所で待っていれば、見慣れた金の光が視界に入ってくる。そっちを見れば、楕円形のゲートからシアが出てくるところだった。
夜のような長い黒髪を風に揺らしながらふわりとシアは地面に足を着ける。ただゲートを潜っただけなのに、動作一つ一つに優雅さがあるように思えた。彼女は俺をみつけるとニッコリと微笑む。
「ただいま戻りました、ノヴァさん」
「ああ、おかえりシア」
ただいまと、おかえり。そんな風に言い合える些細なことが無性に嬉しい。自然と笑顔になっていると、シアの後ろから続けて現れたのは金髪を横に纏めた小さな少女、オーロラちゃんだ。手を繋がずにゲートから出てくるのを見て、二人でゲートを使う場合にシアと手を繋ぐ必要はやっぱりないんだなぁ、と改めて思う。
ゲートを潜り終えたオーロラちゃんも俺の姿を見つけ、花のような笑顔を見せてくれた。
「ノヴァお兄様! 久しぶりね!」
「うん、久しぶりだね」
手紙のやり取りはしていたけど、実際に会うのはシアと正式に籍を入れたことを報告したときだったかな。そんなオーロラちゃんは、ほんの少しだけ背が伸びたような気がしなくもない。
「今日は王都の研究所? に行くみたいだけど……」
「ええ、お兄様に見せたいものがあるのよ」
「え? そうなの?」
まさかターニャの言うおとぎ話の剣の話が本当になるのか? と思って目を丸くしてしまう。言葉を続けたのは、ゲートを閉じて新たに開く準備をしているシアだった。
「あとはちょっと協力して頂ければ嬉しい事がありまして……よしっ……詳細はゲートの先にいる人が説明してくれるので、そこで」
「うん、何でも言ってよ」
シアの力になれるならそれほど嬉しいことはないから、どんなことでも協力するつもりだった。そう言うとシアは微笑んで俺の右に立ち、手を絡ませてくる。細長くした優しそうな目に、少しだけドキリとした。
「あ、ねえノヴァお兄様、私も手を繋いでいい?」
「え? ああ、いいよ」
左からオーロラちゃんに言われたのでそう返すと、小さな手の感触が左手に広がった。これが両手に花というやつなのだろうか。右側は妻で、左側は妻の妹なわけだけど。
「じゃあ、行きますね」
「うん」
シアの言葉に頷いて、俺達は三人で揃ってゲートを潜った。視界いっぱいに金の光が広がり、もう一歩踏み出すだけで景色ががらりと変わる。下を見ていれば、足が着いたのが床だったので室内なのだろう。そう思うと同時に視線を感じた。
顔を上げてみるとそこは小さな部屋で、目の前には椅子に座った一人の女性が目を見開いてこちらを見ていた。紫のふわふわした髪をポニーテールにした、どこかユティさんと同じような、しかし彼女よりは活発そうな女性。会うのは初めてなのに、どこか見覚えがある気がする。
そんな彼女はじっと俺達を見ている。いや、正確には俺とシアが繋いだ手を凝視しているようだった。名残惜しくもシアとオーロラちゃんの手が俺から離れると、初対面の女性の視線は上へと昇って俺と目が合ったけど。
「ノヴァさん、紹介します。こちらはナターシャ・ワイルダー。この研究機関に所属する天才でして、アークゲート家に技術協力をしてくれています。ナターシャ、こちらが以前話した夫のノヴァさんです」
「あ……」
ナターシャ・ワイルダー。その家名を聞いて、彼女が誰なのか分かった。どうして彼女に見覚えがあるのか。それは彼女の姉を知っているからだ。
名前はセシリア・ワイルダー。俺の兄であるゼロード・フォルスの婚約者の女性だ。
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