宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙

文字の大きさ
42 / 237
第2章 宿敵の家の当主を妻に貰ってから

第42話 ナターシャから見たノヴァ

しおりを挟む
「オーロラちゃん! そんなに焦らなくても俺もお店もどこにも行かないから!」

 子供特有のスタミナで研究所はおろか王都も駆けていたオーロラちゃんの背中に声をかける。俺の言葉にピクリと反応した彼女は足を緩め、握っていた俺の手を離した。
 振り返ったオーロラちゃんは疾走したからか少し息が上がっていて、俺の言葉に自分が少し暴走していたことを知ったのか、恥ずかしげに頬を掻いた。

「ご、ごめんなさいノヴァお兄様……私、楽しみで……」

「全然大丈夫だよ。でも走るのは危ないからね。時間の余裕もあるし、ゆっくり向かっても間に合うよ」

 初めて会ったときもそうだけど、彼女は年相応にふるまうことがある。その一方で、さっきみたいに賢い一面も見せるんだから、驚くばかりだ。

「確かにそうね……でも、もう店は見えているわ。あそこがそのお店」

 オーロラちゃんが指さした方に目線を向けてみれば、コーヒーカップの絵が描かれた看板があった。彼女が案内したかったのはカフェだったみたいだ。確かに、落ち着いて話をするには良い場所だ。

「さあ、ノヴァお兄様、行きましょ!」

「ああ……分かったよ」

 走るのを咎められたものの、はやる気持ちはおさえられなかったらしい。早足でカフェへと向かうオーロラちゃんの背中を、小走りで苦笑いをしながら追いかけた。




 ×××




「ナターシャ、いますか?」

 部屋の扉を開けて入ってきたのは、研究所にあいさつ回りに行っていたレティシア様だった。彼女の家でもあるアークゲート家は研究所に多額の支援援助をしている。私もまた、その恩恵にあやかっている一人。

「研究所の挨拶回り、終わった?」

「はい、なので今から王城の方に行こうかと。それで、便箋とゲートの方はどれくらいで出来そうですか?」

 雇い主の質問に、私は考える。

「……便箋はちょっと改良するだけだからすぐできる。けど、ゲートの方はもうすこしかかる。ある程度形に出来た段階で、ノヴァさんに手伝ってもらう必要もある」

「なるほど、ではノヴァさんの協力が必要になった段階で私に連絡してください」

「了解」

 そう言ったけど、レティシア様はまだ何かあるのか部屋から出ようとしない。

「もう一つの、アークゲート家とフォルス家の反発の件はどうなっていますか?」

 そっちの件か、と納得すると同時に、やる気に満ちて研究所を後にするユースティティア嬢の後ろ姿を思い起こした。

「それならユースティティア嬢の方で、ある程度形には出来ているみたい。
 実現するのはもう少し先だけど……」

「……ユティも部屋に籠りっぱなしですからね。たまには外に出てもらわないと……」

 レティシア様の言いたいことも分かる。ユースティティア嬢は、集中すると私以上に周りが見えなくなる。きっと今も部屋に籠って、探っているんだろう。

 フォルス家とアークゲート家の間の反発を無くす方法を。

「……レティシア様」

「はい?」

 穏やかな笑みを浮かべるレティシア様に、私は思い切って前から気になっていたことを聞こうと思った。

「どうして、反発を無くすような開発を? やっぱり夫であるノヴァさん関連?」

 その質問をした瞬間に、レティシア様の笑みは深くなった。作られた、見ていて恐怖を感じるような笑みへと形を変えた。
 しかしその笑みは不意に引っ込んで、先ほどまでの穏やかな笑顔へと戻る。

「ごめんなさい……今はまだ話せないんです」

「そう。分かった」

 雇い主がそう言うなら、私が何かを言うつもりは毛頭ない。そもそもレティシア様から聞き出そうとするなんていう考えすら浮かばない。でも。

 きっと……ノヴァさん関連なんだろうなぁ、と思った。レティシア様との付き合いはそこまで長いものじゃない。けど、この人が動いているのは基本的にノヴァさんのためだけだ。
 市民はともかく、貴族たちからは恐れられているレティシア様をそんな風にするノヴァさんが気になってはいたけど、同時にお姉ちゃんのろくでなしな婚約者の弟ってことから警戒もしていた。

 まあ……さっき話したときの印象はそこまで悪くはなかったけど。感じが悪い、あのろくでなしとは違ってとても話しやすかったし。
 なにより、彼のお陰で失敗作にしてしまった子達が息を吹き返したわけだし。

「ああ、そうでした。もう一つ欲しい情報があるんですけど」

 部屋を出ようとしていたレティシア様は動きを止めて、もう一度私の方に振り返った。

「なに?」

 聞き返せば、レティシア様は欲しい情報を告げる。けど私は、どうしてレティシア様がそんな情報を欲しがるのかが分からなくて首を傾げた。

「今すぐ使うわけではないんですけど、念のために」

「……はぁ」

 こんな情報、一体何に使うのかさっぱり分からないけど、私は彼女に情報が記載された書類を渡した。

「こちら、頂いても?」

「構わない」

「そうですか、ありがとうございます。ではまた」

 そう言って部屋を出て行くレティシア様の横顔を、私は確かに見た。
 何か良からぬことを企んでいるような、張り付けた笑顔だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。 優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。 でもそれは偽りだった。 お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。 お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。 心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。 私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。 こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら… ❈ 作者独自の世界観です。 ❈ 作者独自の設定です。 ❈ ざまぁはありません。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

牢で死ぬはずだった公爵令嬢

鈴元 香奈
恋愛
婚約していた王子に裏切られ無実の罪で牢に入れられてしまった公爵令嬢リーゼは、牢番に助け出されて見知らぬ男に託された。 表紙女性イラストはしろ様(SKIMA)、背景はくらうど職人様(イラストAC)、馬上の人物はシルエットACさんよりお借りしています。 小説家になろうさんにも投稿しています。

処理中です...