79 / 237
第2章 宿敵の家の当主を妻に貰ってから
第79話 大切なのは、昔ではなく今
しおりを挟む
使い慣れ始めた大きめのベッドの中で俺は苦笑いを浮かべる。その原因は腕の中にいる彼女だ。
シアと籍を入れてからそこまで時間は経っていない。だから毎夜一緒のベッドで眠っていても、そういったことはなかった。
しばらく二人きりというのを楽しみたかったのもあるし、シアを大切にしたかったからっていうのもある。だからお互いに口に出して同意しあったわけじゃないけど、寝るときは一定の距離があった。
そんな距離があっても毎晩が楽しみだったのは言うまでもないだろう。その日起こったこと、俺が感じたこと、シアが思ったこと。それらを交わすたびに心が跳ねた。
「えへへ……ノヴァくん……」
けどそんな距離を、今のシアは一気に詰めて来ていた。
まるで10年前のシアが急に成長して、そのまま俺の前に現れたみたいだった。俺の最愛の妻は実はお酒に弱くて、酔うと口調があの頃に戻るらしい。分かりやすくシアちゃんとでも呼ぶか。
そんなシアちゃんは今は満面の笑みで俺に抱き着いていて、頬を胸元に摺り寄せている。いつもの冷静で穏やかなシアからは想像もつかないような光景だ。
本当、シアの酒の回りが遅くて良かったと思う。もしも食堂でこの状況になっていたら、ターニャやジルさんに見られてかなり恥ずかしかっただろう。
「……これからは注意しないとな」
お酒を飲ませるのを控えさせようかなと思ったけど、思い出してみれば普段は酔わない体質だって言っていた。魔力によるものだったらしけど、それを切って急に飲んだからこんなことになっているのかもしれない。
とりあえず今後の心配はなくなったけど、問題は今か。
「んー? なんていったのぉ?」
「ううん、なんでもないよ」
「そう? むふふー」
シアちゃんが両手両足に力を入れて、さらに密着してくる。俺の妻は小柄だけど、こうして密着すると意外と……。髪もサラサラだし、容姿も優れているし、スタイルも良いって、最強かな? いや、考えるまでもなくシアは最強だったわ。
「んふふー……ノヴァくんだー」
そう言って俺の腕の中でもぞもぞと動いていたシアちゃんだけど、不意にその動きがピタリと止まった。
どうしたのかと思って顔を覗き込もうとしたとき。
「ねえノヴァくん……ノヴァくんは、いましあわせ?」
「…………」
シアでも、シアちゃんでも、考えてくれていることは同じなんだなって思った。
「あぁ、幸せだよ。シアは?」
「んー? わたしもー」
楽しそうな声を腕の中から聞いて、抱きしめる腕に少しだけ力を入れる。遠くの壁に視線を向けて小さく呟いた。
「幸せだよ……10年前に出会った初恋の子とこうして結ばれたんだから。
……まあ、魔法も凄いし頭もいいしとっても可愛いし、たまに釣り合ってるのかなぁって不安になるけどね」
それはずっと感じていたこと。シアの事を知れば知るほど彼女の凄さに、彼女との差に不安になる。俺は彼女に相応しいのだろうかって、ちょっとしたときにほんの少しだけど心配になることだってある。
だってシアはきっとこの国どころか世界で一番の。
「ノヴァくんのおかげだよー」
「え?」
思考を舌足らずな言葉で途切れさせられて、思わず腕の中を見た。シアちゃんは顔をこっちに向けることなく、でも笑っているのがよく分かる雰囲気で続けた。
「ぜんぶぜんぶ、ノヴァくんがしてくれたからだよー。
だからわたしは頑張れたんだー。えへんっ」
「そっか……そうだったね」
前にもシアに同じようなことを言われたような気がする。疑ってはいなかったけど、本心なんだって改めて知ることが出来たのは嬉しかった。
「だから心配しなくていーよ。ノヴァくんはノヴァくんのままで……ノヴァ……さんの……ままでいいんです……」
「シア?」
幼さを感じさせる言葉づかいではなくなって、いつものシアの口調に戻ったけど、声は弱々しくて、ぼやけていて……ひょっとして、寝そう?
そう思って体を少しだけみじろぎさせれば、小さくシアは唸った。
「なにが……あったとしても……今のノヴァさんには……ん……私がいます……よ……」
「…………」
その言葉を最後に少しの間、沈黙。しばらくした後に聞こえてきたのは、聞き取るのも大変なくらいとても小さな寝息だった。
どうやらシアは一歩先に、夢の世界へと落ちていってしまったらしい。
彼女を起こさないように、けれど自分を抑えられなくて力をほんの少しだけ入れる。
シアはきっと、寝る直前に自分が何を言ったのか分かっていないだろう。でも俺には確かにシアの気持ちは届いていた。そんな風に思ってくれていたのが嬉しくて、涙が出そうなほどにありがたくて。
「……ありがとう……おやすみ、シア」
多分一生で一番幸せだって感じながら、俺もまたシアを追うように夢の世界へと旅立っていった。
ちなみに翌日、俺達はほぼ同時に目を覚まして、ほぼ同時に目を合わせた。体をぴったりと密着させていることと昨日の事を思い出して、シアは真っ赤になってしばらくベッドに座ってこちらの方を見なかった。
そんなシアを見たから俺も意識してしまって、同じように赤くなってシアの方を見ないようにしていた。顔が熱かったから、ひょっとしたらシア以上に赤くなっていたかもしれない。
ちょっと様子をみてみようとシアの方を見ると、シアも同じように俺の方を見るところだったので、お互いに恥ずかしげに笑い合ったくらいだ。
あとは……そうだね。この日を境にして、俺とシアがベッドで寝るときの距離がかなり近くなったのは、嬉しい事だったかな。
シアと籍を入れてからそこまで時間は経っていない。だから毎夜一緒のベッドで眠っていても、そういったことはなかった。
しばらく二人きりというのを楽しみたかったのもあるし、シアを大切にしたかったからっていうのもある。だからお互いに口に出して同意しあったわけじゃないけど、寝るときは一定の距離があった。
そんな距離があっても毎晩が楽しみだったのは言うまでもないだろう。その日起こったこと、俺が感じたこと、シアが思ったこと。それらを交わすたびに心が跳ねた。
「えへへ……ノヴァくん……」
けどそんな距離を、今のシアは一気に詰めて来ていた。
まるで10年前のシアが急に成長して、そのまま俺の前に現れたみたいだった。俺の最愛の妻は実はお酒に弱くて、酔うと口調があの頃に戻るらしい。分かりやすくシアちゃんとでも呼ぶか。
そんなシアちゃんは今は満面の笑みで俺に抱き着いていて、頬を胸元に摺り寄せている。いつもの冷静で穏やかなシアからは想像もつかないような光景だ。
本当、シアの酒の回りが遅くて良かったと思う。もしも食堂でこの状況になっていたら、ターニャやジルさんに見られてかなり恥ずかしかっただろう。
「……これからは注意しないとな」
お酒を飲ませるのを控えさせようかなと思ったけど、思い出してみれば普段は酔わない体質だって言っていた。魔力によるものだったらしけど、それを切って急に飲んだからこんなことになっているのかもしれない。
とりあえず今後の心配はなくなったけど、問題は今か。
「んー? なんていったのぉ?」
「ううん、なんでもないよ」
「そう? むふふー」
シアちゃんが両手両足に力を入れて、さらに密着してくる。俺の妻は小柄だけど、こうして密着すると意外と……。髪もサラサラだし、容姿も優れているし、スタイルも良いって、最強かな? いや、考えるまでもなくシアは最強だったわ。
「んふふー……ノヴァくんだー」
そう言って俺の腕の中でもぞもぞと動いていたシアちゃんだけど、不意にその動きがピタリと止まった。
どうしたのかと思って顔を覗き込もうとしたとき。
「ねえノヴァくん……ノヴァくんは、いましあわせ?」
「…………」
シアでも、シアちゃんでも、考えてくれていることは同じなんだなって思った。
「あぁ、幸せだよ。シアは?」
「んー? わたしもー」
楽しそうな声を腕の中から聞いて、抱きしめる腕に少しだけ力を入れる。遠くの壁に視線を向けて小さく呟いた。
「幸せだよ……10年前に出会った初恋の子とこうして結ばれたんだから。
……まあ、魔法も凄いし頭もいいしとっても可愛いし、たまに釣り合ってるのかなぁって不安になるけどね」
それはずっと感じていたこと。シアの事を知れば知るほど彼女の凄さに、彼女との差に不安になる。俺は彼女に相応しいのだろうかって、ちょっとしたときにほんの少しだけど心配になることだってある。
だってシアはきっとこの国どころか世界で一番の。
「ノヴァくんのおかげだよー」
「え?」
思考を舌足らずな言葉で途切れさせられて、思わず腕の中を見た。シアちゃんは顔をこっちに向けることなく、でも笑っているのがよく分かる雰囲気で続けた。
「ぜんぶぜんぶ、ノヴァくんがしてくれたからだよー。
だからわたしは頑張れたんだー。えへんっ」
「そっか……そうだったね」
前にもシアに同じようなことを言われたような気がする。疑ってはいなかったけど、本心なんだって改めて知ることが出来たのは嬉しかった。
「だから心配しなくていーよ。ノヴァくんはノヴァくんのままで……ノヴァ……さんの……ままでいいんです……」
「シア?」
幼さを感じさせる言葉づかいではなくなって、いつものシアの口調に戻ったけど、声は弱々しくて、ぼやけていて……ひょっとして、寝そう?
そう思って体を少しだけみじろぎさせれば、小さくシアは唸った。
「なにが……あったとしても……今のノヴァさんには……ん……私がいます……よ……」
「…………」
その言葉を最後に少しの間、沈黙。しばらくした後に聞こえてきたのは、聞き取るのも大変なくらいとても小さな寝息だった。
どうやらシアは一歩先に、夢の世界へと落ちていってしまったらしい。
彼女を起こさないように、けれど自分を抑えられなくて力をほんの少しだけ入れる。
シアはきっと、寝る直前に自分が何を言ったのか分かっていないだろう。でも俺には確かにシアの気持ちは届いていた。そんな風に思ってくれていたのが嬉しくて、涙が出そうなほどにありがたくて。
「……ありがとう……おやすみ、シア」
多分一生で一番幸せだって感じながら、俺もまたシアを追うように夢の世界へと旅立っていった。
ちなみに翌日、俺達はほぼ同時に目を覚まして、ほぼ同時に目を合わせた。体をぴったりと密着させていることと昨日の事を思い出して、シアは真っ赤になってしばらくベッドに座ってこちらの方を見なかった。
そんなシアを見たから俺も意識してしまって、同じように赤くなってシアの方を見ないようにしていた。顔が熱かったから、ひょっとしたらシア以上に赤くなっていたかもしれない。
ちょっと様子をみてみようとシアの方を見ると、シアも同じように俺の方を見るところだったので、お互いに恥ずかしげに笑い合ったくらいだ。
あとは……そうだね。この日を境にして、俺とシアがベッドで寝るときの距離がかなり近くなったのは、嬉しい事だったかな。
111
あなたにおすすめの小説
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
親友に恋人を奪われた俺は、姉の様に思っていた親友の父親の後妻を貰う事にしました。傷ついた二人の恋愛物語
石のやっさん
恋愛
同世代の輪から浮いていた和也は、村の権力者の息子正一より、とうとう、その輪のなから外されてしまった。幼馴染もかっての婚約者芽瑠も全員正一の物ので、そこに居場所が無いと悟った和也はそれを受け入れる事にした。
本来なら絶望的な状況の筈だが……和也の顔は笑っていた。
『勇者からの追放物』を書く時にに集めた資料を基に異世界でなくどこかの日本にありそうな架空な場所での物語を書いてみました。
「25周年アニバーサリーカップ」出展にあたり 主人公の年齢を25歳 ヒロインの年齢を30歳にしました。
カクヨムでカクヨムコン10に応募して中間突破した作品を加筆修正した作品です。
大きく物語は変わりませんが、所々、加筆修正が入ります。
【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります
すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。
なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!
冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。
ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。
そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!
雨宮羽那
恋愛
いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。
◇◇◇◇
私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。
元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!
気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?
元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!
だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。
◇◇◇◇
※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。
※アルファポリス先行公開。
※表紙はAIにより作成したものです。
私の手からこぼれ落ちるもの
アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。
優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。
でもそれは偽りだった。
お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。
お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。
心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。
私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。
こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら…
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。
❈ ざまぁはありません。
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
俺を凡の生産職だからと追放したS級パーティ、魔王が滅んで需要激減したけど大丈夫そ?〜誰でもダンジョン時代にクラフトスキルがバカ売れしてます~
風見 源一郎
ファンタジー
勇者が魔王を倒したことにより、強力な魔物が消滅。ダンジョン踏破の難易度が下がり、強力な武具さえあれば、誰でも魔石集めをしながら最奥のアイテムを取りに行けるようになった。かつてのS級パーティたちも護衛としての需要はあるもの、単価が高すぎて雇ってもらえず、値下げ合戦をせざるを得ない。そんな中、特殊能力や強い魔力を帯びた武具を作り出せる主人公のクラフトスキルは、誰からも求められるようになった。その後勇者がどうなったのかって? さぁ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる