宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙

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第2章 宿敵の家の当主を妻に貰ってから

第103話 レティシアは全てを許さない

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 今後の予定について、ある程度すり合わせをしておきたい。

 そういった用件で呼び出された当主執務室にはすでにオーラもいて、その奥には当然部屋の主である当主様が座っていました。

「ユティ、来ましたか。これで全員ですね」

「今後のすり合わせとのことでしたが」

「はい、ついさっきノヴァさんから連絡が来まして、ノヴァさんの次期当主発表の日付が決まりました」

 あぁ、だから珍しく雰囲気がピリピリしていないのかと納得しました。凛々しい表情をしていますが、口角は少し上がっていますし。
 当主様は机の上に便箋を置いて私達の方に差し出します。オーラと一緒に覗き込めば、確かに近いうちにフォルス家次期当主の発表式があるようでした。

「今回の式に関しては、特に危険性もないと判断してアークゲートからは私一人が参加するつもりです」

「えー、私もノヴァお兄様の晴れ姿、見たいです!」

 いつもなら絶対に黙っていますが、今の当主様なら大丈夫と思ったのか、オーラが手を上げます。それに対して当主様は困ったように笑みを浮かべました。今の当主様は少しオーラに甘いと思うので、私の方から彼女に釘を刺します。

「オーラ、当主様の言うことは絶対です。反論は許しませんよ」

 決定は絶対ということを念押しすると、オーラも本気ではなかったのか「うっ」と呻きます。まったく、最近は調子がいいですね。まあ、昔に比べれば今の方が活発で表情にも変化が多いので良いとは思いますが。

「……流石に今回は不参加という事にしてもらいましょう。その代わり、それが終わった後にサリアの街を四人で訪れる予定を立てようかなと思っています。私の仕事はようやく一段落しそうなので問題ありませんが、ユティとオーラもある程度調整できるようにしておいてください」

「本当ですか!? 楽しみです!」

「私も合わせられると思います」

 かなり前にノヴァさんと約束した「私達三人にサリアの街を案内する」という約束。これまではなかなか予定が合いませんでしたし、オーラと、私と、といった形で、個人でノヴァさんと話をする機会もあったのでなかなか実現していませんでした。
 それが今度実現するという事で、私も楽しみです。

 私達の様子を見て満足げに頷いた当主様は、パンッと手を叩きます。

「ではノヴァさんとそちらの日付は相談しておきますね。とりあえず話は以上ですので、オーラは退出して構いませんよ」

 話も一段落着いて、当主様はオーラを部屋に帰そうとします。私を残すのはこの後別件での話があるからでしょう。これはシスティにも連絡を取る必要がありそうですね。

 礼をしたオーラは素直に出口に向かい、扉を開いて体を横に向け、最後に言い放ちます。

「それでは失礼します。あとお姉様、もし何か手伝えることがあれば言ってくださいね」

「はい、そのうち声をかけるかもしれません、その時はお願いしますね」

「はい……あ、あと、出来ればノヴァお兄様とのお出かけはなるべく早いと嬉しいです!」

「はいはい、分かりましたよ。全くもう……」

「ふふっ、ありがとうございます、お姉様!」

 少しだけ寂しそうな表情をしていましたが、途中から無理やり元気なフリをしてオーラは部屋から出て行ってしまいました。あの様子では、この後何の話をするのかもなんとなく分かっているのでしょう。
 閉まった扉をじっと見ていると、小さくため息が聞こえてきました。

「流石にこれからの話はオーラには聞かせられませんし、彼女を参加させるわけにもいきませんからね」

「同感です」

 フォルス家の別邸ではオーラの力を借りましたが、それは本当にもしものための予防策。オーラは防御魔法に秀でているので、ノヴァさんを護るというのが主な役割でした。
 ですがこれから話す一件は防御など全くない攻撃のみ。それも人の命を奪う殺戮ですから。

 目を瞑った当主様は気持ちを切り替えたのか、冷たい雰囲気で私に語り掛けます。

「ゼロード・フォルスに魔力抑制装置を提供した組織を、潰します」

 体の芯を貫くような言葉に、背筋が伸びます。アークゲートは敵対するものを絶対に許さない、というのは昔からの決まりですが、当主様は少し違います。
 彼女は、ノヴァさんに敵対するものを絶対に許さない。名前しか知らない組織ですが、手を出す相手を間違えましたね。

「ゼロードの尋問記録から、『影』という名前の組織が関わっているのは分かっていますが、この組織について聞いたことはありますか?」

「いえ、ありません。おそらくは名前を複数持っていて、その度に使い分けているのかと」

 複数の名前をもって尻尾を掴ませないようにするのは裏組織にはよくある手口です。『影』というのも、数十、ひょっとしたら数百ある組織名の一部かもしれません。

「情報部隊を使って、組織について調べます。あくまでも噂ですが、コールレイクを拠点としているらしいので、まずはそこから探ってみます。おそらくですがそこまで時間はかからないかと」

「お願いします。ある程度情報が集まった段階で打って出ます。数人の執行者を派遣しますので、用意をしておいてください」

「部隊ではなく執行者で問題ありませんか? また北部の他貴族にも支援を要請できますが」

 執行者は私やシスティなど、実力はありますが数が少ないです。敵組織の規模によってはあまり良い策ではありませんし、当主様ならアークゲートの総力はおろか、それ以外の力すら使って潰すのかと思いましたが。

「構いません、私が出ます」

「…………」

 その絶対的な一言で、私は分かってしまった。

 あぁ、この子は本当に怒っている。ノヴァさんに直接危害を与えようとしたゼロードは私達に捕らえさせ、それを引き渡すことにまで手を回した。手を貸した魔法使いも、既にこの世にはいません。

 そして今、彼女はあの事件に関わり、ノヴァさんを傷つけるきっかけになった全てを消そうとしている。いや、消す。これは決定事項。

「最優先で構いませんか?」

 今、当主様からの依頼で調べていることはいくつかある。ただ念のために聞いたけど、答えはきっと。

「そうですね、最優先でお願いします。なるべく早く潰したいですから。
 流石に四人でのサリアの街デートには間に合わないと思いますが、その後に少ししてから決行できるくらいには」

「了解しました。では早速調べるので失礼します」

 頭を下げて、作られた笑みを浮かべる当主様から視線を外し、部屋の出口へ向かう。

 まずはシスティに連絡をして、情報部隊への連絡と、ある程度の人数の執行者に事前に声をかけるように伝えましょう。コールレイクにいる者にも連絡を取る必要がありますね。
 迅速に正確にというのは日ごろの常ではありますが、今回はやや速度を上げて精度も上げましょうか。

 愛する人を危険に晒されたことで怒り、そして晒してしまったことで八つ当たりをしたい、可愛い妹の頼みですからね。

 小さく笑みをこぼして、私は当主様の部屋を後にしました。
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