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第2章 宿敵の家の当主を妻に貰ってから
第104話 次期当主発表前の会話
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フォルス家別邸の控室。数日前に事件があった場所に短い期間で戻ってきたのは次期当主の発表式があるからだ。以前はゼロードが何かをしようと企んでいるってことをシアから聞いていたし、親睦会っていう名目だったから問題なかったけど、今回は少し緊張する。
親睦会の時と同じように普段は身に着けないような上質な服を纏っているのも、俺の緊張を促した。
「ノヴァ、入るぞ」
「はい」
返事をして振り返れば父上が扉を開けて部屋に入ってくる。最近は疲れた様子を見せて体調も悪そうだった父上。今は少し血色が良く、憑き物が落ちたような顔をしている。
「今後の流れだが、これからお前の次期当主発表を行った後は引継ぎ作業に入る。資料などが本邸の方にあるので来てもらうことになるが、構わないか?」
「はい、問題ありません」
ナタさんに作ってもらったゲートの機器もあるから、かかる時間も無いに等しい。頷いて承諾する俺の目を見て、父上も頷き返した。
「それと近いうちに王都の王城に赴いて国王陛下に謁見する。フォルス家の次期当主として失礼がないようにな。とはいえ現陛下は賢王と呼ばれ懐も広いお方。問題はないだろう」
「は、はい、畏まりました」
言われて気づいたけど、そりゃあフォルス家の当主になるってことなら国王陛下に報告は必要になるよな。当然俺は会ったことがないけど、どんな人なんだろうか。
少しだけ不安に思っていると、それが顔に出ていたのか父上は小さく笑った。
「不安に思うことはない。現陛下は数ある貴族の中でも特にある家を重宝している。どこかなど、言うまでもないだろう?」
「あっ……アークゲート家ですか?」
「そうだ。我らにとっては宿敵ではあるが、お前にとっては妻の実家。だからそこまで不安そうにするな。……それにしても、これに関してはレティシア様と結婚して良い点だったかもしれないな」
小さく呟いた言葉を聞いて、少しだけむっとする。むしろシアと結婚して悪かった点なんて一つもないんだけど。
でも今日は特別な式。ここで指摘するのもなんだかなぁ、と思ったから話題を変えることにする。
「……父上、ゼロードの件ですが」
ゼロードという言葉に、父上の目じりが少し下がった。
「あぁ、話はすべて聞いている。私の元にも王都から使いが来た。判決はまだだが、極刑は免れないだろう。肩を持つつもりも減刑を求めるつもりもない。あいつは一線を越えてしまったのだ」
「……父上」
はっきりとゼロードの事を拒絶する言葉とは裏腹に父上の表情は曇っていた。仕方ないと思っているけど、悲しみは隠しきれないほど大きいんだろう。
「処刑の際には見守るつもりだ……それが私に出来る最後のことだからな……お前は……」
「私は行きません。ゼロードを兄とは思っていませんので」
元々ゼロードの兄上と呼んでいたけど、そこに兄に対する尊敬なんてものは皆無だった。今も昔も彼を兄だと慕ったことは一度としてない。冷たいと周りからは思われるかもしれないけど、こればっかりは曲げるつもりがなかった。
父上はそんな俺の言葉に「そうか」と小さく呟いただけで、何も言わなかった。
「ワイルダー家にも連絡をした。セシリア嬢には、本当に悪い事をしてしまったからな」
「セシリアさん……」
ゼロードの婚約者でもあるセシリアさんはワイルダー家の出身で、ナタさんの姉でもある。ナタさんになるべく姉を巻き込まないでとお願いされていたけど、結局こんな形になってしまったなと申し訳なく感じた。
「言い方は悪いかもしれないが、妻ではなく婚約止まりだったのは幸いだった。とはいえ数年は結婚できないと考えて、向こうの当主とセシリア嬢には謝罪と多額の金銭を迷惑料として送った。貴族の噂と言うのは意外と長引くからな」
「セシリアさんは、なんて?」
「受け入れてくれた。元より合わないと思っていたから、気にしないでくれと私が助けられてしまった。二人が幼い頃に婚約を提案したのは私だというのにな。本当に、セシリア嬢には頭が上がらんよ」
「そうでしたか」
セシリアさんとしても思うところはあるんだろうけど、ゼロードと離れられたことは良かったことなんだろう。とはいえ婚約者が犯罪者になって刑を受けたっていうのはかなり外聞が悪い。
彼女の今後が少し心配ではある。
「もしも思うところがあれば、当主になった後も少し気にかけてやってくれ。お前とセシリア嬢との間には特に交流はないと思うから気は進まないかもしれないが……」
「いえ、セシリアさんの妹のナターシャさんとは知り合いですので、喜んでやらせてもらいます」
「……そうか……そうであったな」
アークゲート家とナタさんが繋がっていることは知っているようで、父上は少しだけ安堵したように笑みを見せて頷いた。
「ワイルダー家の当主は気の良い御仁だ。今日は無理だと思うが、当主になった後に話をしてみると良い……ただ、その……」
「?」
「いや、セシリア嬢に関して、お前がレティシア様と結婚していたことを少し悔いていたのでな」
「……? どういうことです?」
「カイラスはローズ嬢と結婚しているからな。長男がダメなら三男であるお前という事だろう。
一年前のレティシア様から縁談話が来ていない頃ならセシリア嬢をお前とくっつけられたかもしれないのにと言って、当のセシリア嬢に叩かれていたわ」
話を聞いている限りセシリアさんは強気な人のようだし、なんとなくその光景が思い浮かんだ。
「冗談だと言っていたが、目は本気だった。お前に対しても何か言うかもしれんが、娘を思っての言葉と思って、ある程度聞き流してやってくれ」
「何か言われたときは、セシリアさんに良縁が結ばれるように尽力すると、伝えておきます」
「それが良いだろう。まあ、流石に彼もレティシア様の機嫌を損ねるようなことはないとは思うがな」
というよりも、俺にその気がない。セシリアさんが、というわけじゃなくて、俺が心から愛しているのはその……一人だけだからだ。
そんなわけで苦笑いしていると、父上は少しだけ体を震わせた。
「それにしても会場からは離れているのに感じるとは、やはり当主様はすさまじい力の持ち主だな。今も少し気分が悪い」
「シアが言うには力を意図的に抑えてくれているみたいです」
「ああ、聞いている。感謝しかない」
「ただ自分としては少し心配です。会場に一人で置いてきてしまったので」
心の内を正直に述べると、父上は目を見開いた後に呆れたような顔をした。
「問題あるまい。当主様は親しくないにせよ南側の貴族当主達とは面識はあるだろうからな……そもそも……」
「そもそも?」
「いや、なんでもない。そろそろ時間だ。会場へと向かうぞ」
「はい」
踵を返した父上の背中を追う。なんとなくだけど、さっき父上が言いたかったことが分かった気がする。きっと「そもそも当主様に心配は無用だろう」とか、そんなことだろう。
確かに無用かもしれないけど、それでも心配はしてしまうわけで。
会場に行ったら真っ先にシアの姿を探そうと、そう心に決めた。
親睦会の時と同じように普段は身に着けないような上質な服を纏っているのも、俺の緊張を促した。
「ノヴァ、入るぞ」
「はい」
返事をして振り返れば父上が扉を開けて部屋に入ってくる。最近は疲れた様子を見せて体調も悪そうだった父上。今は少し血色が良く、憑き物が落ちたような顔をしている。
「今後の流れだが、これからお前の次期当主発表を行った後は引継ぎ作業に入る。資料などが本邸の方にあるので来てもらうことになるが、構わないか?」
「はい、問題ありません」
ナタさんに作ってもらったゲートの機器もあるから、かかる時間も無いに等しい。頷いて承諾する俺の目を見て、父上も頷き返した。
「それと近いうちに王都の王城に赴いて国王陛下に謁見する。フォルス家の次期当主として失礼がないようにな。とはいえ現陛下は賢王と呼ばれ懐も広いお方。問題はないだろう」
「は、はい、畏まりました」
言われて気づいたけど、そりゃあフォルス家の当主になるってことなら国王陛下に報告は必要になるよな。当然俺は会ったことがないけど、どんな人なんだろうか。
少しだけ不安に思っていると、それが顔に出ていたのか父上は小さく笑った。
「不安に思うことはない。現陛下は数ある貴族の中でも特にある家を重宝している。どこかなど、言うまでもないだろう?」
「あっ……アークゲート家ですか?」
「そうだ。我らにとっては宿敵ではあるが、お前にとっては妻の実家。だからそこまで不安そうにするな。……それにしても、これに関してはレティシア様と結婚して良い点だったかもしれないな」
小さく呟いた言葉を聞いて、少しだけむっとする。むしろシアと結婚して悪かった点なんて一つもないんだけど。
でも今日は特別な式。ここで指摘するのもなんだかなぁ、と思ったから話題を変えることにする。
「……父上、ゼロードの件ですが」
ゼロードという言葉に、父上の目じりが少し下がった。
「あぁ、話はすべて聞いている。私の元にも王都から使いが来た。判決はまだだが、極刑は免れないだろう。肩を持つつもりも減刑を求めるつもりもない。あいつは一線を越えてしまったのだ」
「……父上」
はっきりとゼロードの事を拒絶する言葉とは裏腹に父上の表情は曇っていた。仕方ないと思っているけど、悲しみは隠しきれないほど大きいんだろう。
「処刑の際には見守るつもりだ……それが私に出来る最後のことだからな……お前は……」
「私は行きません。ゼロードを兄とは思っていませんので」
元々ゼロードの兄上と呼んでいたけど、そこに兄に対する尊敬なんてものは皆無だった。今も昔も彼を兄だと慕ったことは一度としてない。冷たいと周りからは思われるかもしれないけど、こればっかりは曲げるつもりがなかった。
父上はそんな俺の言葉に「そうか」と小さく呟いただけで、何も言わなかった。
「ワイルダー家にも連絡をした。セシリア嬢には、本当に悪い事をしてしまったからな」
「セシリアさん……」
ゼロードの婚約者でもあるセシリアさんはワイルダー家の出身で、ナタさんの姉でもある。ナタさんになるべく姉を巻き込まないでとお願いされていたけど、結局こんな形になってしまったなと申し訳なく感じた。
「言い方は悪いかもしれないが、妻ではなく婚約止まりだったのは幸いだった。とはいえ数年は結婚できないと考えて、向こうの当主とセシリア嬢には謝罪と多額の金銭を迷惑料として送った。貴族の噂と言うのは意外と長引くからな」
「セシリアさんは、なんて?」
「受け入れてくれた。元より合わないと思っていたから、気にしないでくれと私が助けられてしまった。二人が幼い頃に婚約を提案したのは私だというのにな。本当に、セシリア嬢には頭が上がらんよ」
「そうでしたか」
セシリアさんとしても思うところはあるんだろうけど、ゼロードと離れられたことは良かったことなんだろう。とはいえ婚約者が犯罪者になって刑を受けたっていうのはかなり外聞が悪い。
彼女の今後が少し心配ではある。
「もしも思うところがあれば、当主になった後も少し気にかけてやってくれ。お前とセシリア嬢との間には特に交流はないと思うから気は進まないかもしれないが……」
「いえ、セシリアさんの妹のナターシャさんとは知り合いですので、喜んでやらせてもらいます」
「……そうか……そうであったな」
アークゲート家とナタさんが繋がっていることは知っているようで、父上は少しだけ安堵したように笑みを見せて頷いた。
「ワイルダー家の当主は気の良い御仁だ。今日は無理だと思うが、当主になった後に話をしてみると良い……ただ、その……」
「?」
「いや、セシリア嬢に関して、お前がレティシア様と結婚していたことを少し悔いていたのでな」
「……? どういうことです?」
「カイラスはローズ嬢と結婚しているからな。長男がダメなら三男であるお前という事だろう。
一年前のレティシア様から縁談話が来ていない頃ならセシリア嬢をお前とくっつけられたかもしれないのにと言って、当のセシリア嬢に叩かれていたわ」
話を聞いている限りセシリアさんは強気な人のようだし、なんとなくその光景が思い浮かんだ。
「冗談だと言っていたが、目は本気だった。お前に対しても何か言うかもしれんが、娘を思っての言葉と思って、ある程度聞き流してやってくれ」
「何か言われたときは、セシリアさんに良縁が結ばれるように尽力すると、伝えておきます」
「それが良いだろう。まあ、流石に彼もレティシア様の機嫌を損ねるようなことはないとは思うがな」
というよりも、俺にその気がない。セシリアさんが、というわけじゃなくて、俺が心から愛しているのはその……一人だけだからだ。
そんなわけで苦笑いしていると、父上は少しだけ体を震わせた。
「それにしても会場からは離れているのに感じるとは、やはり当主様はすさまじい力の持ち主だな。今も少し気分が悪い」
「シアが言うには力を意図的に抑えてくれているみたいです」
「ああ、聞いている。感謝しかない」
「ただ自分としては少し心配です。会場に一人で置いてきてしまったので」
心の内を正直に述べると、父上は目を見開いた後に呆れたような顔をした。
「問題あるまい。当主様は親しくないにせよ南側の貴族当主達とは面識はあるだろうからな……そもそも……」
「そもそも?」
「いや、なんでもない。そろそろ時間だ。会場へと向かうぞ」
「はい」
踵を返した父上の背中を追う。なんとなくだけど、さっき父上が言いたかったことが分かった気がする。きっと「そもそも当主様に心配は無用だろう」とか、そんなことだろう。
確かに無用かもしれないけど、それでも心配はしてしまうわけで。
会場に行ったら真っ先にシアの姿を探そうと、そう心に決めた。
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