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第2章 宿敵の家の当主を妻に貰ってから
第123話 ある日のフォルス家の日常
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フォルス家の当主になってからしばらく経ってようやく落ち着き始めた頃。俺は何をしていたかと言うと、いつも通りの日々を過ごしていた。
南側の貴族への挨拶は順調だ。もう半分ほど終わったし、大きな問題もなかった。
全員腹の内では何を考えているか分からないけど、好意的に接してくれる人が多かったのも大きい。
「旦那様、こちらの書類をお願いします」
「うん」
ターニャは相変わらず俺の補佐をしてくれている。ジルさんやローエンさん、ラプラスさんも同様だ。ターニャから書類を受け取ると、チラリと机の上にある便箋が目に入った。シア達とやり取りをするもの以外に、2つの便箋が増えている。ナタさんとのものと、アランさんとのものだ。
ナタさんは今まで通りだけど、アランさんとはあの後文章でのやり取りや、暇なときは一緒に南の街で会って話をしたりしていた。意気投合したようなもので、時には剣を交えることもある。
最初は普通に手紙でやり取りをしていたけど、その様子を見たシアが魔法の便箋を送ってはどうかということを言ってくれた。
シアからナタさんに言葉が伝わって、そしてナタさん経由でアランさんの元へ魔法の便箋が渡ったらしい。とはいえシアが魔力を注入しないと便箋は使えないから、使い放題っていうわけじゃないんだけど。
『私の便箋も受け取るべき。というか、なぜ開発者の私が最後なのか』
そして最後に声を上げたのはナタさんで、彼女はさも当然のように便箋を俺に渡してきた。ただその後すぐにナタさん自身が持っていた便箋に魔力を注入するよう、シアに依頼していたけど。
毎回毎回シアに依頼しないといけないから、これ以上広めるのはやめようと、そう心に誓ったタイミングでもある。
シア本人は気にしていないみたいだけど、多くの便箋に毎回魔力を注入していたら、それだけで大変だからね。
そんな事を思っていると、ノックの音が響き渡る。「どうぞ」と声をかけると扉が開いて、入ってきたのはソニアちゃんだった。
「し、失礼します旦那様……その、お土産を持参してくれた方がいらっしゃいまして――」
「来たわよ、ノヴァお兄様!」
「わっ……オーラちゃん……」
まだこの執務室が慣れないのかちょっとおどおどしているソニアちゃんの両肩に手を置いてぬっと後ろから姿を現したのはオーロラちゃんだった。いつもの元気いっぱいな彼女に、笑顔を送る。
「こんにちはオーロラちゃん、ゆっくりしていってね」
「ええ、ソニアを借りているわ」
いつものようにソニアちゃんを要求してくるオーロラちゃん。彼女はよくこの屋敷に足を運ぶようになったけど、年の近いソニアちゃんと比較的早い段階で打ち解けたらしく、仲良くしている。
それこそ専属侍女のリサさんが不安に思うくらいには。
『わ、私のお嬢様が小さな灰色の妖精メイドに取られてしまいました! でも幸せそうなのと絵柄的には素晴らしいので問題ありません!』
とか言ってたけど、オーロラちゃんにすっごく白い目を向けられていた。あの人、大丈夫だろうかとたまに思うことがある。
オーロラちゃんはソニアちゃんに対してもいつも通りの態度で、遠くから見ているとオーロラちゃんが姉、ソニアちゃんが妹のように見える。三女で末の妹であるオーロラちゃんがお姉ちゃん風を吹かせているのは微笑ましいものもある。
ただそんなオーロラちゃんに対して、ソニアちゃんは翻弄されている、と言った方が正しい。
「オーラちゃん……私まだ仕事が……」
「貴女は働き過ぎなのよ。こんなの過労だわ。もし仕事に戻るならお兄様を訴えるしかないわね」
「えぇ……? 私この屋敷に来てから全然仕事してないけど……お給料は高くなっちゃったし……」
「正当な対価よ」
いつものように慣れた動きで長椅子に座り、隣にソニアちゃんを座らせるオーロラちゃん。彼女がびっくりすることを言って、ソニアちゃんがおどおどするのがいつもの流れだ。
とはいえオーロラちゃんや、流石に過労で俺を訴えるのはやめて欲しい。君とソニアちゃんに訴えられたら誰も勝てないからね。
ちなみに最初の方はソニアちゃんはそれはもう恐縮してしまっていた。当たり前だ。ソニアちゃんは平民の出身で、かたやオーロラちゃんは北の大貴族アークゲート家の一員である。
こう言ってはなんだけど、身分の差はものすごく大きい。
ただオーロラちゃんはそんなことを気にしない性格なので、彼女からすればめちゃくちゃ小さくて可愛いメイドがいるから、仲良くなりたかっただけだという。ソニアちゃんもそれが分かっているからか、今では敬語も取れて、自然な感じで話が出来ていた。
ちなみにソニアちゃんが敬語を使うとオーロラちゃんがツンとする遊びを一時期やっていたので、その効果だろう。
「旦那様、私達も一休みしますか」
「そうだね……オーロラちゃんに過労で訴えられたらたまらないからね」
「え? いや、流石に冗談よ? 本気じゃないからね?」
目に見えて焦り始めるオーロラちゃんに、笑って「分かってるよ」と返す。ターニャは微笑んでソニアちゃんの名前を呼ぶと、二人は流れるような動きでお茶の準備をし始めた。
オーロラちゃんの前に座って、チラリと彼女を見る。視線を向けられたからか、彼女は首を傾げた。
「?」
「いや、大きくなったなぁ、と思って」
「そうかしら?」
現在、オーロラちゃんは15歳。ゼロードの事件の後すぐに誕生日を迎えていたらしい。もちろんめでたい事なので本人に要望を聞いて贈り物をしたりした。
で、彼女と会ったのが14歳の時だったので、時間的にはそこまで経ってはいない。けどこの時期の成長は早いもので、オーロラちゃんは身長も大きくなっていた。
「まあ、確かにそうね。色々なところが大きくなり始めているし」
「…………」
目の前でペタペタと胸を触り始めたオーロラちゃんから慌てて目を離す。そこが大きくなり始めている事には気づいていたし、当然の事だとも思った。俺の妻も凄く着やせするタイプだし、きっとユティさんもそうだろう。
アークゲートの遺伝子はなんというか……大きくなりがちなのだろう。
胸を触っていたオーロラちゃんは次に頭を触っていた。それを確認して逸らしていた目線を不自然にならないように戻す。アークゲート家では淑女教育はしていない……訳はない筈なんだけどなぁ。
そんな事を思っているとターニャとソニアちゃんが戻ってきた。部屋の中でお茶の準備が出来るのは早いし、便利だと思う。俺の前にはいつも通りコーヒーが置かれた。そしてオーロラちゃんの前にも。
「……それにしても、あのオーロラちゃんが、ねぇ」
「成長するから舌も変わるわよ。まあ……ミルク入れるけど……」
ココアを好んでいたオーロラちゃんは俺の屋敷に来ると俺と同じコーヒーを飲むようになった。ユティさんに聞いた感じだとココアもまだ好きなようではあるが、オーロラちゃんの言う通り趣味嗜好が少し変化したらしい。
ミルクを入れたコーヒーを飲み、頷いたオーロラちゃんはソニアちゃんに目を向けた。
「それにしても、ソニアはこの年で本当に良く出来た子ね。ターニャさんから仕事終わりにメイドの授業もしてもらっているんでしょう?」
「う、うん……ターニャさんにはすっごくお世話になってるよ」
「実際よく出来ているって他のメイドからも聞いているよ。俺としても優秀なメイドを家に置けて嬉しく思うね」
「だ、旦那様にそう言ってもらえるととても嬉しいです!」
ソニアちゃんは小さいながらも真面目な性格の持ち主だ。仕事はしっかりとこなすし、周りとの意思疎通も積極的に行っている。後者に関してはターニャ曰く、他のメイドが優しいからとの事らしいけど、それでも彼女のお陰で今のフォルス家が少し明るくなっているのは事実だ。
そんなソニアちゃんをじーっと見て、オーロラちゃんはその手を取った。
「お、オーラちゃん?」
「あなた、私の専属侍女になりなさい」
「……いや、リサさんがいるでしょ? それに私、旦那様と奥様には山よりも高くて海よりも深い恩があるから……」
オーロラちゃんの冗談の一言に、真面目に返すソニアちゃん。その言葉に、オーロラちゃんはがっくしとうな垂れた。
「振られたわ……」
「……この屋敷にいる間は、オーラちゃんと一緒にいるから……ね?」
立場が逆転して今はソニアちゃんが姉のような感じになっている。この二人は見ていて飽きないなぁ、と常々思う。
ふと、ある事が気になったから聞いてみることにした。
「そういえばオーロラちゃんは、今日はシアと一緒に来たの?」
まさか馬車で来ることはないだろうと思ったので聞いてみれば、オーロラちゃんは得意げな顔をした。
「私、ついに一人でもゲートの魔法が使えるようになったのよ」
「え? そうなの? 凄いじゃないか」
本当に凄いと思う。今までゲートを使えると言えばシア一人だった。彼女が言うにはゲートの魔法はかなりの魔力を消費するらしくて、それだけの魔力を持っているのがシア一人って話だったから。
まあ、その当の本人はケロッとした顔でバンバン使っているからたまに凄い魔法っていうのを忘れそうになるけど。
「……とはいえゲートをすっごく小さくして、持続時間を極限まで短くして、走ってそこに入る感じなんだけどね。本当にギリギリだし、移動した後魔力切れになるから、あの不味い薬飲まないとだし……」
遠くを光のない目で見るオーロラちゃんに苦笑いする。どうやらアークゲート家の天才の力をもってしても、ゲートを何とか使うだけで精いっぱいみたいだ。それでも凄いことだと個人的には思うけど。
「でもこれでこっそりノヴァお兄様に会いにこれるわ。これまではお姉様と一緒じゃないといけなかったけど、これで――」
その時だった。執務室中央に、亀裂が走った。それは段々と広がり、金色の楕円の門へと姿を変えていく。シアのゲートがこの執務室に繋がるのは良くあることではある。
でもこのタイミングで繋がったことに、驚いた。
光の中から出てきた俺の妻は細長い箱をその両手に持っていた。彼女はゲートを通り抜け終わると、俺の姿を確認してニッコリと微笑み、そして。
「オーラ? なぜここに?」
と、予想していなかった人物が居ることに首を傾げた。流石にオーロラちゃんが話をし始めたタイミングでわざと来たわけじゃなかったらしい。本当にたまたまだったようだ。
「お、お姉様!? お、お疲れ様です!」
「?? オーラもお疲れ様……です?」
うん、分かるよオーロラちゃん。別に悪いことをしてるわけじゃないけど、話に出てたタイミングで当の本人に来られるとちょっと驚くよね。
そんなことを、狼狽えているオーロラちゃんを見て思った。
南側の貴族への挨拶は順調だ。もう半分ほど終わったし、大きな問題もなかった。
全員腹の内では何を考えているか分からないけど、好意的に接してくれる人が多かったのも大きい。
「旦那様、こちらの書類をお願いします」
「うん」
ターニャは相変わらず俺の補佐をしてくれている。ジルさんやローエンさん、ラプラスさんも同様だ。ターニャから書類を受け取ると、チラリと机の上にある便箋が目に入った。シア達とやり取りをするもの以外に、2つの便箋が増えている。ナタさんとのものと、アランさんとのものだ。
ナタさんは今まで通りだけど、アランさんとはあの後文章でのやり取りや、暇なときは一緒に南の街で会って話をしたりしていた。意気投合したようなもので、時には剣を交えることもある。
最初は普通に手紙でやり取りをしていたけど、その様子を見たシアが魔法の便箋を送ってはどうかということを言ってくれた。
シアからナタさんに言葉が伝わって、そしてナタさん経由でアランさんの元へ魔法の便箋が渡ったらしい。とはいえシアが魔力を注入しないと便箋は使えないから、使い放題っていうわけじゃないんだけど。
『私の便箋も受け取るべき。というか、なぜ開発者の私が最後なのか』
そして最後に声を上げたのはナタさんで、彼女はさも当然のように便箋を俺に渡してきた。ただその後すぐにナタさん自身が持っていた便箋に魔力を注入するよう、シアに依頼していたけど。
毎回毎回シアに依頼しないといけないから、これ以上広めるのはやめようと、そう心に誓ったタイミングでもある。
シア本人は気にしていないみたいだけど、多くの便箋に毎回魔力を注入していたら、それだけで大変だからね。
そんな事を思っていると、ノックの音が響き渡る。「どうぞ」と声をかけると扉が開いて、入ってきたのはソニアちゃんだった。
「し、失礼します旦那様……その、お土産を持参してくれた方がいらっしゃいまして――」
「来たわよ、ノヴァお兄様!」
「わっ……オーラちゃん……」
まだこの執務室が慣れないのかちょっとおどおどしているソニアちゃんの両肩に手を置いてぬっと後ろから姿を現したのはオーロラちゃんだった。いつもの元気いっぱいな彼女に、笑顔を送る。
「こんにちはオーロラちゃん、ゆっくりしていってね」
「ええ、ソニアを借りているわ」
いつものようにソニアちゃんを要求してくるオーロラちゃん。彼女はよくこの屋敷に足を運ぶようになったけど、年の近いソニアちゃんと比較的早い段階で打ち解けたらしく、仲良くしている。
それこそ専属侍女のリサさんが不安に思うくらいには。
『わ、私のお嬢様が小さな灰色の妖精メイドに取られてしまいました! でも幸せそうなのと絵柄的には素晴らしいので問題ありません!』
とか言ってたけど、オーロラちゃんにすっごく白い目を向けられていた。あの人、大丈夫だろうかとたまに思うことがある。
オーロラちゃんはソニアちゃんに対してもいつも通りの態度で、遠くから見ているとオーロラちゃんが姉、ソニアちゃんが妹のように見える。三女で末の妹であるオーロラちゃんがお姉ちゃん風を吹かせているのは微笑ましいものもある。
ただそんなオーロラちゃんに対して、ソニアちゃんは翻弄されている、と言った方が正しい。
「オーラちゃん……私まだ仕事が……」
「貴女は働き過ぎなのよ。こんなの過労だわ。もし仕事に戻るならお兄様を訴えるしかないわね」
「えぇ……? 私この屋敷に来てから全然仕事してないけど……お給料は高くなっちゃったし……」
「正当な対価よ」
いつものように慣れた動きで長椅子に座り、隣にソニアちゃんを座らせるオーロラちゃん。彼女がびっくりすることを言って、ソニアちゃんがおどおどするのがいつもの流れだ。
とはいえオーロラちゃんや、流石に過労で俺を訴えるのはやめて欲しい。君とソニアちゃんに訴えられたら誰も勝てないからね。
ちなみに最初の方はソニアちゃんはそれはもう恐縮してしまっていた。当たり前だ。ソニアちゃんは平民の出身で、かたやオーロラちゃんは北の大貴族アークゲート家の一員である。
こう言ってはなんだけど、身分の差はものすごく大きい。
ただオーロラちゃんはそんなことを気にしない性格なので、彼女からすればめちゃくちゃ小さくて可愛いメイドがいるから、仲良くなりたかっただけだという。ソニアちゃんもそれが分かっているからか、今では敬語も取れて、自然な感じで話が出来ていた。
ちなみにソニアちゃんが敬語を使うとオーロラちゃんがツンとする遊びを一時期やっていたので、その効果だろう。
「旦那様、私達も一休みしますか」
「そうだね……オーロラちゃんに過労で訴えられたらたまらないからね」
「え? いや、流石に冗談よ? 本気じゃないからね?」
目に見えて焦り始めるオーロラちゃんに、笑って「分かってるよ」と返す。ターニャは微笑んでソニアちゃんの名前を呼ぶと、二人は流れるような動きでお茶の準備をし始めた。
オーロラちゃんの前に座って、チラリと彼女を見る。視線を向けられたからか、彼女は首を傾げた。
「?」
「いや、大きくなったなぁ、と思って」
「そうかしら?」
現在、オーロラちゃんは15歳。ゼロードの事件の後すぐに誕生日を迎えていたらしい。もちろんめでたい事なので本人に要望を聞いて贈り物をしたりした。
で、彼女と会ったのが14歳の時だったので、時間的にはそこまで経ってはいない。けどこの時期の成長は早いもので、オーロラちゃんは身長も大きくなっていた。
「まあ、確かにそうね。色々なところが大きくなり始めているし」
「…………」
目の前でペタペタと胸を触り始めたオーロラちゃんから慌てて目を離す。そこが大きくなり始めている事には気づいていたし、当然の事だとも思った。俺の妻も凄く着やせするタイプだし、きっとユティさんもそうだろう。
アークゲートの遺伝子はなんというか……大きくなりがちなのだろう。
胸を触っていたオーロラちゃんは次に頭を触っていた。それを確認して逸らしていた目線を不自然にならないように戻す。アークゲート家では淑女教育はしていない……訳はない筈なんだけどなぁ。
そんな事を思っているとターニャとソニアちゃんが戻ってきた。部屋の中でお茶の準備が出来るのは早いし、便利だと思う。俺の前にはいつも通りコーヒーが置かれた。そしてオーロラちゃんの前にも。
「……それにしても、あのオーロラちゃんが、ねぇ」
「成長するから舌も変わるわよ。まあ……ミルク入れるけど……」
ココアを好んでいたオーロラちゃんは俺の屋敷に来ると俺と同じコーヒーを飲むようになった。ユティさんに聞いた感じだとココアもまだ好きなようではあるが、オーロラちゃんの言う通り趣味嗜好が少し変化したらしい。
ミルクを入れたコーヒーを飲み、頷いたオーロラちゃんはソニアちゃんに目を向けた。
「それにしても、ソニアはこの年で本当に良く出来た子ね。ターニャさんから仕事終わりにメイドの授業もしてもらっているんでしょう?」
「う、うん……ターニャさんにはすっごくお世話になってるよ」
「実際よく出来ているって他のメイドからも聞いているよ。俺としても優秀なメイドを家に置けて嬉しく思うね」
「だ、旦那様にそう言ってもらえるととても嬉しいです!」
ソニアちゃんは小さいながらも真面目な性格の持ち主だ。仕事はしっかりとこなすし、周りとの意思疎通も積極的に行っている。後者に関してはターニャ曰く、他のメイドが優しいからとの事らしいけど、それでも彼女のお陰で今のフォルス家が少し明るくなっているのは事実だ。
そんなソニアちゃんをじーっと見て、オーロラちゃんはその手を取った。
「お、オーラちゃん?」
「あなた、私の専属侍女になりなさい」
「……いや、リサさんがいるでしょ? それに私、旦那様と奥様には山よりも高くて海よりも深い恩があるから……」
オーロラちゃんの冗談の一言に、真面目に返すソニアちゃん。その言葉に、オーロラちゃんはがっくしとうな垂れた。
「振られたわ……」
「……この屋敷にいる間は、オーラちゃんと一緒にいるから……ね?」
立場が逆転して今はソニアちゃんが姉のような感じになっている。この二人は見ていて飽きないなぁ、と常々思う。
ふと、ある事が気になったから聞いてみることにした。
「そういえばオーロラちゃんは、今日はシアと一緒に来たの?」
まさか馬車で来ることはないだろうと思ったので聞いてみれば、オーロラちゃんは得意げな顔をした。
「私、ついに一人でもゲートの魔法が使えるようになったのよ」
「え? そうなの? 凄いじゃないか」
本当に凄いと思う。今までゲートを使えると言えばシア一人だった。彼女が言うにはゲートの魔法はかなりの魔力を消費するらしくて、それだけの魔力を持っているのがシア一人って話だったから。
まあ、その当の本人はケロッとした顔でバンバン使っているからたまに凄い魔法っていうのを忘れそうになるけど。
「……とはいえゲートをすっごく小さくして、持続時間を極限まで短くして、走ってそこに入る感じなんだけどね。本当にギリギリだし、移動した後魔力切れになるから、あの不味い薬飲まないとだし……」
遠くを光のない目で見るオーロラちゃんに苦笑いする。どうやらアークゲート家の天才の力をもってしても、ゲートを何とか使うだけで精いっぱいみたいだ。それでも凄いことだと個人的には思うけど。
「でもこれでこっそりノヴァお兄様に会いにこれるわ。これまではお姉様と一緒じゃないといけなかったけど、これで――」
その時だった。執務室中央に、亀裂が走った。それは段々と広がり、金色の楕円の門へと姿を変えていく。シアのゲートがこの執務室に繋がるのは良くあることではある。
でもこのタイミングで繋がったことに、驚いた。
光の中から出てきた俺の妻は細長い箱をその両手に持っていた。彼女はゲートを通り抜け終わると、俺の姿を確認してニッコリと微笑み、そして。
「オーラ? なぜここに?」
と、予想していなかった人物が居ることに首を傾げた。流石にオーロラちゃんが話をし始めたタイミングでわざと来たわけじゃなかったらしい。本当にたまたまだったようだ。
「お、お姉様!? お、お疲れ様です!」
「?? オーラもお疲れ様……です?」
うん、分かるよオーロラちゃん。別に悪いことをしてるわけじゃないけど、話に出てたタイミングで当の本人に来られるとちょっと驚くよね。
そんなことを、狼狽えているオーロラちゃんを見て思った。
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