宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙

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第3章 宿敵の家と宿敵でなくなってから

第141話 結婚式典の警備について

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 午前に剣の訓練をした後は、午後は執務が主だ。昔はすぐに仕事が終わって暇になっていたけど、フォルス家の当主になった後はそんなことはない。ターニャ、ジルさん、ローエンさん、ラプラスさんの支援を受けて、ようやく余裕をもって仕事を回していけている状態。

 最近はそこにオーロラちゃんというこれまた頼もしい味方が増えたわけで。彼女はターニャと同じように俺の執務室に専用の机を入れて、そこで作業してもらっている。一応名目上は領地経営の勉強ではあるけど。

「ノヴァお兄様、こっちの資料、まとめておいたわよ」

「あぁ、ありがとうオーロラちゃん」

 事前に頼んでいた仕事をオーロラちゃんから受け取る。軽く確認してみたけど、見やすくまとまっていて良い仕事ぶりだ。アークゲート家で色々なことを学ばされてきたオーロラちゃんの知識量はとても多く、あとは実際に慣れていくだけって感じだった。
 これ、下手したら今の段階で俺よりも仕事が出来るのかもしれないなぁ、なんてことを思ったりもしたくらいだ。

 勉強のためと来てもらっているけど楽をしているのは俺達の方で、むしろ感謝してしまうくらいだった。

「……あら旦那様、王城から手紙が来ていますよ」

「手紙?」

 声をかけるとターニャは自分の席から立ち上がって、封筒をもって俺の席へと来る。彼女から手紙を受け取れば、中々に豪華な金の装飾が施された封筒だった。
 開いて、中から手紙を取り出す。ターニャとオーロラちゃんが俺の後ろに回り込むのを感じた。

「……これは」

「へぇ……そうなんだ」

 同じように手紙を覗き込んでいたターニャとオーロラちゃんが呟く。手紙には『結婚式典について』と大きく書かれていた。

 読んでみると、近いうちにこの国の王子レイモンドとコールレイク帝国の皇女マリアベルの結婚式典を大々的に行う、というものだった。会場はこの国の王城を予定していて、フォルス家にはその警備を頼みたい、とも記載されていた。

 結婚式典は古来より、王族のみが行うことになっている。王子と他国の皇女の結婚なら籍を入れるだけということはなく、これまでのしきたりに従って盛大な結婚式典が開かれるのも納得だ。それに、両国の関係が良好であることを示す目的もあるんだろう。
 会場がこちらの国なのはシアが戦争を終わらせたから、なんて思ったけど流石に考えすぎかもしれない。

「……王族の結婚式にフォルス家が呼ばれるのは珍しいですね」

 ターニャの言葉に頷く。彼女の言う通り、これまでも王族が結婚式典を行うことはあったけど、その警備を主に行っていたのはアークゲート家だったと聞いたことがある。

「フォルスの覇気とアークゲートの魔力は反発するから、どっちか片方しか警備できないもの。両方揃った結果どっちも体調不良でろくに警備できないなら、最初から片方にするわよ」

 そしてフォルスとアークゲートを比べた際、今はともかく先代まではアークゲートの方が上だった。王族がどちらを呼ぶかなんて、迷うまでもなかったんだろう。
 でも今回は違う。それはフォルス家の方に送ってきた、とかではなく。

「これ、きっとシアの方にも届いているよね?」

 今回の結婚式典では、警備をフォルス家とアークゲート家の両方に依頼しているだろう、ということだ。俺の考えは正しかったようで、オーロラちゃんもはっきり頷いてくれた。

「でしょうね。この国……いえ世界で一番強いお姉様に声をかけないなんてありえないもの」

 オーロラちゃんの言葉に再び手紙に視線を落とすと、その後ろにもう一枚紙があることに気づいた。そちらを前面に移動させてみると、こっちは格式ばったものではなく、普通の手紙のようだ。この封筒にだけ入っているものだろうっていうのは、読んですぐに分かった。

 手紙の最後に書かれていた差出人は、レイさんだったからだ。

「……今回の結婚式典は警備の総指揮をフォルス家とアークゲート家に依頼することで合意した。これまでに例のないことだけど、ノヴァくん達夫妻なら問題ないと思う。ただ、反発の件もあると思うから人員はそっちで協議して慎重に選んでくれ……ってさ」

「まあそうよね。私達の魔力に全く影響を受けないノヴァお兄様はともかく、他はそうではないだろうし」

「旦那様、どのようにお考えなのですか?」

 ターニャの質問に俺は考える。けど答えはあっさりと出た。

「アークゲートの人達に多く出てもらって、カイラスの兄上やライラックの叔父上とかには参加を控えてもらうっていう形になると思う」

 俺からするとフォルス家の人よりもアークゲート家の人の方がやりやすいっていうのはあるけど、それ以上に全体的な警備の強さ? を考えての結論だ。
 カイラスの兄上やライラックの叔父上が参加するという事は、オーロラちゃんやユティさんが参加できないわけで、流石に彼女達が参加しないっていうのは当日の警備が弱くなってしまうだろうから。

「まあ、それが一番効果的ね。フォルス家からはノヴァお兄様と兵士の人達、そしてアークゲートからはお姉様たちやシスティ達を出す……これね」

「……理屈では分かりますが、こちら側の覇気持ちがなんて言うか……ライラック様は旦那様の事を嫌っているし、カイラス様は正直よく分からなくて、どちらもあまり好きではないんですよねぇ」

 得意気な顔をするオーロラちゃんと、対照的に深いため息を吐いたターニャ。ターニャはかつてのフォルス家が嫌いで、ライラックの叔父上の事も嫌っている。カイラスの兄上とは面識があまりない筈だが、良い感情は持っていないのだろう。

「とりあえず、シアが帰ってきたら相談してみるよ。結婚式典までまだ時間はあるみたいだし」

 そう言って、俺は王城からの手紙とレイさんからの手紙を封筒に再びしまった。



 ×××



「そうですね、私もそのように考えていました。こちらからは私、ユティ、オーラ、その他大勢を警備に当てるつもりです。まあ、私とノヴァさん、それにユティやオーラは貴族として参加、という事になるでしょうけど、どこにいても不測の事態には対応できると思いますし」

 夜、屋敷に帰ってきたシアと共に夕食を食べながらレイさんとベルさんの結婚式典について共有すると、やっぱり手紙がシアの元にも届いていたみたいで、俺達の考えていたのと同じような答えを言ってくれた。

「あー、ってことは礼服で行かないといけないのかぁ……緊張するなぁ……」

 微妙そうな顔をしたのは同じく夕食に参加していたオーロラちゃんだった。

「着たことないの?」

「ええ、塔で勉強の一環で着させられたことはあるけど、外ではさっぱりよ。
 王城に行くこともないし、これも初めてね」

「王城はともかく、礼服は俺もそうかな……でも皆の礼服姿、楽しみではあるよ」

「あら、嬉しいことを言ってくれるわね」

「ノヴァさん、オーラ、今回の結婚式典の主役はレイモンド王子とマリアベル皇女ですからね。
 そのことをお忘れないように」

 シアから釘を刺されて、俺とオーロラちゃんはほぼ同時に「はーい」と返事した。
 その返事の仕方に呆れたように息を吐くシア。俺と同じお酒を一口飲んで、彼女は再び口を開いた。

「あぁ、コールレイク帝国側からはダリアさんも出席するでしょうから、興味があれば話してみると良いかもしれませんね。
 彼女もまた剣の達人ですから、ノヴァさんにとって楽しい話が色々と出来ると思いますよ」

「ダリアさんも……そうだよね。それも少し楽しみかな」

 コールレイク帝国に名を轟かせていた無敗将軍、ダリア・マクナカン。相当な女傑だって聞いているけど、もし剣に関する話が出来るなら、そちらもまた楽しみだ。

「ところでオーラ、こちらに来てから数日経ちましたが、どうですか?」

 不意にシアがオーロラちゃんに声をかける。彼女に昼間のオーロラちゃんの様子は共有しているけど、本人にも聞くのはシアなりのオーロラちゃんへの心遣いだろうと思って、少しだけ心が温かくなった。

「はい、フォルス家の人達には良くしてもらっていますし、ノヴァお兄様と一緒に執務することで勉強になることも多いです」

「……そう? 知っていそうな事ばっかりで、たまに申し訳なく思うんだけど」

「知っていることが実際に使える、って分かるからありがたいのよ。知識は知識だけど、それが役に立つんだと分かる場面が多いから、とても楽しいわ」

「……そっか、それは良かったよ」

 満面の笑みを向けられて、俺は安堵して微笑み返した。少しだけ気にしていたけど、しっかりとオーロラちゃんの糧になれているんだったら、彼女を秘書兼補佐に受け入れて良かったと思う。
 シアもそう思ってくれているようで、満足そうに頷いた。

「楽しめてもいるようで何よりです。この調子でフォルス家の皆さんの迷惑にならないように」

「はい、肝に銘じます」

 まっすぐに視線を向け合うシアとオーロラちゃん。すごく真剣な雰囲気だけど、その一方でひそひそ話を耳にした。

「のうターニャ嬢……オーロラお嬢様は迷惑どころか、我らにとって恩恵ばかり与えてくれているように思うんだが……」

「ジルさんの言う通りかと……この私もすでに数回手伝ってもらっています故」

「オーロラお嬢様……本当にご立派になられて……」

「……少なくとも管轄しているメイドや兵士の方々からは、好意的な意見しか寄せられていませんね。隣で仕事を見ていても真面目ですし……まあたまにソニアちゃんが絡むとだらけてますが……」

 ジルさん、ローエンさん、ラプラスさんにターニャ、全員が全員、オーロラちゃんに対して高い評価をしていた。それは俺も同じで、オーロラちゃんに助けてもらったことだってある。

 ……この秘書兼補佐というのがいつかは終わってしまうと考えると、それはそれで惜しいなと思ってしまって、オーロラちゃんがソニアちゃんを欲しがる時の気持ちが少しだけ分かったような、そんな気がした。
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