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第3章 宿敵の家と宿敵でなくなってから
第192話 二家統一の案
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夕食の後、俺はシアと共同の寝室に彼女と居た。長椅子に二人で腰かけて本を読むのはいつもの日課だけど、俺は今回ほとんど本を読んでいない。それに気づいたのか、シアも首を傾げて俺を見ていた。
「ノヴァさん? どうかされましたか?」
「うん、ちょっと話したいことがあってね……」
そう告げると、シアは静かに本を閉じてテーブルの上に置いた。俺も同じように本を置いて、話し始める。
「少し前にレイチェルさんに会った話をしたでしょ? あのとき彼女に言われた『後悔の無いように生きてくださいね』って言葉をずっと考えていたんだ。今後の事を」
シアにはレイチェルさんに会ったことは事前に共有してある。あまり記憶のない祖母の話をされてシアは驚いていたものの、エリザベートの話を聞いたと言ったときには少し寂しげに、そうでしたか、と言っていた。
そんなシアは俺の話を聞いてくれる態勢に入っているのか、じっと俺の事を見てくる。視線を向けてみれば、瞳が続きを訴えていた。加えて何を言ったとしても受け入れてくれるような温かさも感じた。
その灰色の瞳に後押しされて、俺は自分の考えをゆっくりと口にし始める。
「俺は今までの事に後悔はないよ。今とても幸せだし、シア以上の人なんていないと思っているから。だから俺やシアに対しての後悔はないんだ」
「そう言って頂けると、とても嬉しいですね」
心底嬉しそうに微笑むシアを見て、再認識する。今この段階において、やっぱり後悔なんてものはないと。
「……けど、将来的に俺とシアの間には子供が出来る。それが男の子なのか女の子なのかは分からないけど、子供の事を考えたときに一つだけ事前に解決しておきたいことがあるんだ」
「子供のことを……ですか?」
しっくり来ていないようでシアは首を傾げる。俺は頷いて、将来起こるかもしれないことを口にした。
「俺はフォルス家当主で、シアはアークゲート家当主だ。だから将来、俺達の子供はどちらかの家の当主になる。男の子ならフォルス家、女の子ならアークゲート家を継ぐと思う。けどそれならもう片方の継がれなかった家はどうなるんだろうって。
二人以上に恵まれた場合だってそうだ。それがもし男の子と女の子なら、フォルス家とアークゲート家に別れることになる。……つまりなんて言うか、今は俺とシアだからフォルスとアークゲートの仲が良いでしょ? でも子供の代でそうじゃなくなるかもしれない」
いまいち言いたいことが上手く言葉に出来ないものの、なんとか口にする。するとシアは分かってくれたみたいで、頷いてくれた。
「子供たちの事を考えると、そもそも長年の宿敵の関係だったフォルス家とアークゲート家があること自体が……ということですね」
「国の二大貴族ともいえるフォルスとアークゲートで、子供からすればどっち? みたいな感じになると思うんだ。それなら事前に何とかしたい、って思ったんだ」
「それは……つまり……」
シアに促されて、俺は自分の考えを口にした。自分からしても中々に大きな事を言っていると思える意見を。
「両家を一つに出来ないかなと思っているんだ。フォルス家とアークゲート家を統合させて、一つの家にする。新しく名前を作る……みたいな感じになるとは思うけど」
「…………」
素直に意見を述べるものの、シアは考え込むそぶりを見せた。流石に途方もない話だったかもしれないと思い、取り繕う。
「ごめん、やっぱり無理な意見かな?」
「いえ……今まで考えたこともなかったので驚いているだけです。なるほど……フォルス家とアークゲート家を一つに……ですか」
うーん、と唸ったシアは俺の意見を真剣に考えてくれたようで、やがて口を開いた。
「確かに将来生まれる子供の事を考えると、ノヴァさんの提案は素晴らしいものだと思います。子供や孫の代になってまたフォルスとアークゲートで分裂する可能性だってありますからね。今、北と南は手を取り合う段階まで来ていて、それを主導しているのがフォルス家とアークゲート家です。そういった点から考えても二つの家を一つにするというのは理想の形と言えるでしょう」
「思っただけで、出来るかどうかはまだ分からないんだけど、シアはどう思う?」
「少なくとも私はノヴァさんの意見に賛成です。将来生まれてくる子供にフォルスやアークゲートという家に縛られて欲しくはありませんから。おそらくユティやオーラも話せば分かってくれるとは思います。それ以外の分家については……まあなんとかできるでしょう。フォルスの方は少し難しそうですね。ライラック様とカイラス様がどんな反応をするのかが読めませんから。……強行すればいいだけですが」
最後に聞こえないくらいの小声で呟いたシアはさらに考えてくれたのか、次々と意見を出してくれる。
「仮にフォルスとアークゲートを一つにして、新しい一族を作ったとします。この場合北と南で離れた位置を一つの一族が治める形になりますが、そちらは分割統治という形で問題ないでしょう。国王陛下にもお話をすれば受け入れてもらえるはずです。そう言った意味では、統治の体制は今とあまり変わりませんが、家名とそれに伴う一族の形が少し変わる、といった形ですね」
「うん……俺もそんな感じになるかなって思ってたよ」
仮にフォルスとアークゲートを一つにしたとしても、当分の間は、北側はシアに見てもらった方が良いし、南側は俺が担当した方が良い。
「……例えばだけど、将来的に俺達の子供がフォルス当主、アークゲート当主って分かれちゃうよりも、新しい名前の家の当主として南か北を、副当主?みたいな感じでもう片方をって引き継ぐ形になると思う。これだと昔みたいに宿敵のような関係に戻ることは起こりにくくなるよね?」
もちろん将来子供に引き継ぐ場合に北か南どちらを担当したいか、というのは子供次第だけど、フォルスとアークゲートの二つに分かれているよりは、新しく一つにまとまった家として引き継いだ方が以前みたいに分裂する可能性は低くなると考えている。
考えをそのまま述べると、シアは大きく頷いてくれた。
「そうだと思います。少なくともノヴァさんが恐れているような、子供同士でいがみ合うような関係にはなりにくいかと。……結局は子供たち次第ではありますが」
心の底にある心配事も汲んでくれたみたいで、シアはそう言う。すると不意に彼女は微笑んだ。
「えっと……なんか変なこと言ったかな?」
「いえ、ただまだ子供もできていないのに、将来の事を……それも子供『達』が出来た場合の事も考えてくれているから、嬉しくなりました。ノヴァさんにここまで思われるなんて、私達の子供は幸せ者ですね。少し妬けてしまいます」
「子供に妬かれてもなぁ……」
「ふふっ……すみません」
シアの言葉に苦笑いするものの、彼女の言葉は素直に嬉しいものだった。シアが子供の事を考えて薬の開発をしてくれたように、俺もまた子供の事を思うことが少しは出来たのかなと思う。
「明日にでもユティさんとオーロラちゃんには連絡を取ってみるよ。両家を一つにまとめるっていう案が二人から見てどうかを直接聞いてみる」
「そうですね。味方は多い方が良いでしょう。もし何か手伝えそうなことがあったら言ってくださいね」
「うん、頼りにしてる」
むしろシアの事を頼りに思わなかった時なんてない。今だって自分の意見を彼女に聞いてもらって、肯定してもらえて、少し不安がなくなったくらいだから。
「……忙しくなるかもね」
「そうですね。ですが将来生まれる子供のために……ですよね?」
「うん、そうだね」
そう答えると、シアは俺の右手に自分の左手を重ねてきた。
「それでは明日に備えて今日はもう寝ましょうか。……明日が休みなら沢山愛してもらえたんですけど、どこかの誰かさんは激しいので今日はお預けですね」
「う、うーん……えっと……」
俺は苦笑いするしかない。いたずらな笑みを浮かべる最愛の妻には、敵わないのである。
「ふふっ……数日後が楽しみです。その時はいっぱい愛し合いましょうね。あなた?」
「う……うん」
『あなた』というシアの言葉に胸がときめいて思わず顔を背けてしまう。けれどシアにはお見通しなようで、笑われてしまった。
ちょっとだけむっとして視線を向けたけど、彼女も彼女で恥ずかしかったらしく、少しだけ顔を赤くして、困ったような笑みを浮かべていた。
その日、俺は何とは言わないけど理性を総動員して耐えた。
「ノヴァさん? どうかされましたか?」
「うん、ちょっと話したいことがあってね……」
そう告げると、シアは静かに本を閉じてテーブルの上に置いた。俺も同じように本を置いて、話し始める。
「少し前にレイチェルさんに会った話をしたでしょ? あのとき彼女に言われた『後悔の無いように生きてくださいね』って言葉をずっと考えていたんだ。今後の事を」
シアにはレイチェルさんに会ったことは事前に共有してある。あまり記憶のない祖母の話をされてシアは驚いていたものの、エリザベートの話を聞いたと言ったときには少し寂しげに、そうでしたか、と言っていた。
そんなシアは俺の話を聞いてくれる態勢に入っているのか、じっと俺の事を見てくる。視線を向けてみれば、瞳が続きを訴えていた。加えて何を言ったとしても受け入れてくれるような温かさも感じた。
その灰色の瞳に後押しされて、俺は自分の考えをゆっくりと口にし始める。
「俺は今までの事に後悔はないよ。今とても幸せだし、シア以上の人なんていないと思っているから。だから俺やシアに対しての後悔はないんだ」
「そう言って頂けると、とても嬉しいですね」
心底嬉しそうに微笑むシアを見て、再認識する。今この段階において、やっぱり後悔なんてものはないと。
「……けど、将来的に俺とシアの間には子供が出来る。それが男の子なのか女の子なのかは分からないけど、子供の事を考えたときに一つだけ事前に解決しておきたいことがあるんだ」
「子供のことを……ですか?」
しっくり来ていないようでシアは首を傾げる。俺は頷いて、将来起こるかもしれないことを口にした。
「俺はフォルス家当主で、シアはアークゲート家当主だ。だから将来、俺達の子供はどちらかの家の当主になる。男の子ならフォルス家、女の子ならアークゲート家を継ぐと思う。けどそれならもう片方の継がれなかった家はどうなるんだろうって。
二人以上に恵まれた場合だってそうだ。それがもし男の子と女の子なら、フォルス家とアークゲート家に別れることになる。……つまりなんて言うか、今は俺とシアだからフォルスとアークゲートの仲が良いでしょ? でも子供の代でそうじゃなくなるかもしれない」
いまいち言いたいことが上手く言葉に出来ないものの、なんとか口にする。するとシアは分かってくれたみたいで、頷いてくれた。
「子供たちの事を考えると、そもそも長年の宿敵の関係だったフォルス家とアークゲート家があること自体が……ということですね」
「国の二大貴族ともいえるフォルスとアークゲートで、子供からすればどっち? みたいな感じになると思うんだ。それなら事前に何とかしたい、って思ったんだ」
「それは……つまり……」
シアに促されて、俺は自分の考えを口にした。自分からしても中々に大きな事を言っていると思える意見を。
「両家を一つに出来ないかなと思っているんだ。フォルス家とアークゲート家を統合させて、一つの家にする。新しく名前を作る……みたいな感じになるとは思うけど」
「…………」
素直に意見を述べるものの、シアは考え込むそぶりを見せた。流石に途方もない話だったかもしれないと思い、取り繕う。
「ごめん、やっぱり無理な意見かな?」
「いえ……今まで考えたこともなかったので驚いているだけです。なるほど……フォルス家とアークゲート家を一つに……ですか」
うーん、と唸ったシアは俺の意見を真剣に考えてくれたようで、やがて口を開いた。
「確かに将来生まれる子供の事を考えると、ノヴァさんの提案は素晴らしいものだと思います。子供や孫の代になってまたフォルスとアークゲートで分裂する可能性だってありますからね。今、北と南は手を取り合う段階まで来ていて、それを主導しているのがフォルス家とアークゲート家です。そういった点から考えても二つの家を一つにするというのは理想の形と言えるでしょう」
「思っただけで、出来るかどうかはまだ分からないんだけど、シアはどう思う?」
「少なくとも私はノヴァさんの意見に賛成です。将来生まれてくる子供にフォルスやアークゲートという家に縛られて欲しくはありませんから。おそらくユティやオーラも話せば分かってくれるとは思います。それ以外の分家については……まあなんとかできるでしょう。フォルスの方は少し難しそうですね。ライラック様とカイラス様がどんな反応をするのかが読めませんから。……強行すればいいだけですが」
最後に聞こえないくらいの小声で呟いたシアはさらに考えてくれたのか、次々と意見を出してくれる。
「仮にフォルスとアークゲートを一つにして、新しい一族を作ったとします。この場合北と南で離れた位置を一つの一族が治める形になりますが、そちらは分割統治という形で問題ないでしょう。国王陛下にもお話をすれば受け入れてもらえるはずです。そう言った意味では、統治の体制は今とあまり変わりませんが、家名とそれに伴う一族の形が少し変わる、といった形ですね」
「うん……俺もそんな感じになるかなって思ってたよ」
仮にフォルスとアークゲートを一つにしたとしても、当分の間は、北側はシアに見てもらった方が良いし、南側は俺が担当した方が良い。
「……例えばだけど、将来的に俺達の子供がフォルス当主、アークゲート当主って分かれちゃうよりも、新しい名前の家の当主として南か北を、副当主?みたいな感じでもう片方をって引き継ぐ形になると思う。これだと昔みたいに宿敵のような関係に戻ることは起こりにくくなるよね?」
もちろん将来子供に引き継ぐ場合に北か南どちらを担当したいか、というのは子供次第だけど、フォルスとアークゲートの二つに分かれているよりは、新しく一つにまとまった家として引き継いだ方が以前みたいに分裂する可能性は低くなると考えている。
考えをそのまま述べると、シアは大きく頷いてくれた。
「そうだと思います。少なくともノヴァさんが恐れているような、子供同士でいがみ合うような関係にはなりにくいかと。……結局は子供たち次第ではありますが」
心の底にある心配事も汲んでくれたみたいで、シアはそう言う。すると不意に彼女は微笑んだ。
「えっと……なんか変なこと言ったかな?」
「いえ、ただまだ子供もできていないのに、将来の事を……それも子供『達』が出来た場合の事も考えてくれているから、嬉しくなりました。ノヴァさんにここまで思われるなんて、私達の子供は幸せ者ですね。少し妬けてしまいます」
「子供に妬かれてもなぁ……」
「ふふっ……すみません」
シアの言葉に苦笑いするものの、彼女の言葉は素直に嬉しいものだった。シアが子供の事を考えて薬の開発をしてくれたように、俺もまた子供の事を思うことが少しは出来たのかなと思う。
「明日にでもユティさんとオーロラちゃんには連絡を取ってみるよ。両家を一つにまとめるっていう案が二人から見てどうかを直接聞いてみる」
「そうですね。味方は多い方が良いでしょう。もし何か手伝えそうなことがあったら言ってくださいね」
「うん、頼りにしてる」
むしろシアの事を頼りに思わなかった時なんてない。今だって自分の意見を彼女に聞いてもらって、肯定してもらえて、少し不安がなくなったくらいだから。
「……忙しくなるかもね」
「そうですね。ですが将来生まれる子供のために……ですよね?」
「うん、そうだね」
そう答えると、シアは俺の右手に自分の左手を重ねてきた。
「それでは明日に備えて今日はもう寝ましょうか。……明日が休みなら沢山愛してもらえたんですけど、どこかの誰かさんは激しいので今日はお預けですね」
「う、うーん……えっと……」
俺は苦笑いするしかない。いたずらな笑みを浮かべる最愛の妻には、敵わないのである。
「ふふっ……数日後が楽しみです。その時はいっぱい愛し合いましょうね。あなた?」
「う……うん」
『あなた』というシアの言葉に胸がときめいて思わず顔を背けてしまう。けれどシアにはお見通しなようで、笑われてしまった。
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