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第3章 宿敵の家と宿敵でなくなってから
第232話 闇を、金色で払う
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うるさいくらい聞こえていた大きな音が、次第に遠く、小さくなって消えていく。聞こえていた三人の声もいつの間にか消えた。
けれど、体を包む温かさはむしろ増していて。
「……馬鹿……な」
静かになったことで研ぎ澄まされた聴覚はエリザベートの声を確かに捉えた。それを聞いて俺はゆっくりと立ち上がろうとする。
さっきはどれだけ命令を下しても一向に動かなかった体が動く。体からの返答が不可能から可能へと切り替わったからだ。いやそれどころか体の感覚が訴えている。先ほどまで諦めていた筈なのに、一つの答えを出している。
負けるわけがないと。
「ふぅー」
立ち上がり、大きく息を吐き、体と同じ答えを俺自身も出す。負けるわけがない。
剣を振るい、巻き上がる土煙を風圧で吹き飛ばす。そしてゆっくりと目を開き、目の前に広がる光景を確認した。
「オーロラの……盾?」
エリザベートが俺の前方に展開した金色透明の盾を目視して呟く。そう、これはオーロラちゃんが使っていた防御魔法。それを、俺が再現したもの。何度も見せてくれたものだからこそ、再現が出来た。シアの魔力に願えば、実現してくれた。
ゆっくりと光となって消えていく金色の盾。それと全く同じ色の輝きを体に纏い、剣に帯びさせて俺は構える。エリザベートを、斬るために。
「っ……小僧っ!」
エリザベートもまた構えた。一から始まった数字は四……いや死まで到達した。ならばその先の五もあるということか、そう考え、俺は頭の中で思い出す。何度も見せてくれたユティさんの力を、彼女の補助魔法を思い出す。
金の光が、すっと自分の中へと入ってくる。これまでも計り知れないほどの力をくれていたのに、さらに多くの力をくれる。ユティさんが以前見せてくれた魔法、それを再現した魔法が、さらに魔力を効率的に体内に取り込むのを助けてくれている。
「斬るっ! 零っ!」
エリザベートの叫び声と共に、彼女を中心に黒い闇が噴き出し世界を黒一色に染める。太陽の光を妨げ、空を消し、光という光を遮断する。
世界からこの空間が隔絶され、果てしない暗闇へと落ちたような、そんな。
そしてその中で、さらに濃い黒を纏ったエリザベートが地面を蹴り、超速でこちらへと飛んでくる。彼女は零と言った。五ではなく零。これがつまり、エリザベートの最大の攻撃。切り札。
「はああああああ!」
「…………」
全身全霊の力を込めて俺を斬ろうとするエリザベート。その全てをしっかりと見て、脅威にならないと感じて。
彼女を越える速さで剣を振り払った。エリザベートが作り出した闇の中でも眩いほどの金色の光が斬撃となり、エリザベートに直撃。彼女に深い傷を負わせながら吹き飛ばす。
それと同時に世界が歪み、闇が溶けるように消えていく。その消えた闇の先で、エリザベートは地面に落ちた。転がり、大地を鮮血が染めていく。致命傷なのは間違いない。けれどそれ以上に、俺は自分の力に驚いていた。
「……すごい」
空いている左手を持ち上げて、金色に光るそれを見て呟く。さっきの一撃はエリザベートの渾身の一撃だった筈だ。それが目で追えた。それどころか、対応しようとしたら余裕がありすぎたくらいだった。どんな角度から打ち込んでこようとも、あと100回同じ技を出されても、今の俺ならば1回たりとも受けることはない、いや受けるわけがないと確信が持てるほどには。
以前はゼロードに対するあまりにも強い怒りに気付かなかったが、二回目だから分かる。ユティさんとオーロラちゃんが、シアのことを別格だという理由がよく分かる。いや格が違うとかじゃなくて、次元がそもそも違う。
「ノヴァ・フォルスっ!」
声を聞いて、視線を向けた。左肩から右脇腹までを深く斬り裂かれ、おびただしい血を流したエリザベートが血走った目で俺を睨みつけていた。殺気を感じるけれど、怖いという感情は少しも起こらなかった。
「殺す……絶対に殺すっ!」
剣を天に向け、そこに雲を割く闇の柱を瞬時に創造するエリザベート。その光景を見て俺が思ったことは、すごいなという事。あそこまで大きな柱を一瞬で作り出せるなんて、まだ魔力に余裕があるんだな、という事。
つまりは、まるで他人事だった。
「潰れろぉ!」
柱が傾き、俺に倒れ込もうとする。
「それは、こっちの言葉だ」
冷静に返して、左手を伸ばした。頭の中で魔力に命じれば、オーロラちゃんが見せてくれた光景を再現してくれる。黄金に輝く盾が展開し、そこに黒の柱が激突。轟音を立てるけれど、結局俺の生み出した盾を砕くことは叶わない。
全く脅威にならない黒い柱はその内消えるだろう。だからエリザベートをまっすぐに見つめて、小さく呟いた。
「これで終わらせるぞ、エリザベート」
「ノヴァぁぁぁあああああああ!!」
剣を片手に地面を蹴って、初めて前に出る。一瞬でエリザベートとの距離を詰めて、間合いに入る。エリザベートが黒い柱を消し、咄嗟に剣を振り上げるのが見えた。彼女の体内から濃い黒色の魔力が放出され、その体を包む。俺に対抗するために放出したであろうその魔力は、常人が相手ならば十分すぎる程の出力だっただろう。
けれど相手は、金色の魔力を纏った俺だ。俺の剣とエリザベートの剣が激突。剣から手のひらに伝わった力は全くなく、押されることも当然ありはしなかった。
「ぐぅっ!」
一方でエリザベートは苦悶の声を漏らす。咄嗟に剣を両手持ちに切り替え、渾身の力を入れてくる。それでも、全く脅威には感じなかった。
「まだだっ……まだっ!」
叫び、体内からさらに魔力を溢れさせるエリザベート。剣を必死で振るってくるものの、その全てを見切り、受けて、弾き、さらなる力でねじ伏せる。これまでのエリザベートの全てを否定するように、正面から勝る。
「ふざ……けっ」
どれだけ剣を振るわれようともその剣が俺に届くことはない。俺は片手で、対してエリザベートは両手。目で見て違いがはっきりと分かり、にも関わらずエリザベートは余裕がない。少しでも力を抜けば俺の剣に斬られることが明白だから。
「もっとだ……もっと!」
エリザベートの体内からさらに黒い魔力が放出される。
「もっと……もっと……」
それらがエリザベートの体を包み、彼女をさらに強くする。
「なぜ……なぜっ」
けれどそれでも届かない。この金色に、絶対に勝れない。
「っ あああああああぁぁぁぁ!!」
狂ったように剣を振るい続けるエリザベート。その体からは膨大な量の魔力が溢れ、今まで見たことがないほどの力が俺に襲い掛かっている。
「くそっ くそっ! まだ邪魔をするか、化け物ぉおおおおおおお!!」
でもやっぱり、全然脅威に感じない。どれだけエリザベートが力を求め、死力を尽くそうとも、俺の纏う金色の方が上だから。エリザベートでは到達できない次元に、この力は、彼女の力は位置するから。
「――」
何度も振り下ろされる剣に生じた隙を見抜き、俺は剣を力の限り振るう。片手で、今回は防ぐのではなく、エリザベートの体を傷つける目的でもなく、全力で振るった。狙いは両手で振り下ろされたエリザベートの剣。
それを、一閃。
これまでずっと感じている、いや力をくれている全ての力で。
ユティさんの真似をした身体強化魔法で金色を纏った身体、シア達3人の力で鍛えられて、今は金色の光を放つ剣、そしてそれらの全てに力を貸してくれているシアの力で、エリザベートの闇を斬り払う。
そして輝きを帯びた剣は一層甲高い金属音を立てて、エリザベートの剣を真ん中で斬り砕き、飛ばした。
「なっ……」
そしてそのまま、がら空きの胴体を深く、深く斬り裂いた。
人を斬る嫌な感覚を両腕が覚えると同時に確信する。エリザベートは、これでもう終わりだと。
彼女の体がゆっくりと傾く。もう終わったのだと、そう思って。
「ま……だっ……」
その脚が僅かに動き、エリザベート自身の体を支える。彼女の体から闇が噴き出し、折れた剣を修復するように黒が刃を形成する。
「かえ……せ……」
ゆっくりと彼女の体が動く。その目にはもはや光が無く、死の瀬戸際でもがいているようにしか見えなかった。
けれどそれにはまだ攻撃の意志がある。剣を持ち上げ、それを俺に叩きつけようとしている。それの体内から噴き出る闇が、腕を支えているようにすら思えた。
「か……え……せ」
うわごとのように呟きながらそれは剣を振るう。その剣を受ける必要などないし、受けるつもりもない。だから、金色の盾を展開して防ごうとした。もう力のないそれでは、黒い魔力に支えられていても金色の盾を崩せはしないという確信もあったから。
けれどそれの剣は、俺の盾に届くことはなかった。
届くよりも前に止まってしまったからだ。目の前のエリザベートは見開いた目に何も移さず、ただ時が止まったかのように動きを止めている。その身を包んでいた闇のごとき黒い魔力はゆっくりと薄く淡くなっていき、段々と消えていく。
そしてエリザベートの体も、まるで砂のようにゆっくりと崩れていく。
「…………」
それに対して何の感情も抱くことなく俺はエリザベートの……いや彼女だったモノの側をゆっくりと離れる。遠くで座り込むオーロラちゃんがまずは無事なことを確認してほっと一安心。彼女に笑いかけて、歩み寄ろうとした。
「…………」
なんとなく振り返り、エリザベートだったモノを確認する。それは変わらずそこにあって、けれどその体はまるで灰のように少しずつ風に流されて小さくなっていた。
もう完全に、エリザベートは終わった。
それに対して特に何の感情も抱くことなく、俺はそれから目線を外し、オーロラちゃんへと歩み寄る。
エリザベートに対して思うことはもうない。戦うときにあれだけ抱いていた怒りも、シアの金色の魔力が覚醒したときに無くなってしまった。彼女の魔力が温かかったからというのもあるけれど。
一方で戦いを終えて、純粋にシア達の母親としてではなく一人の戦士として彼女を考えるとして。
素晴らしい戦いだったとは思う。けれど彼女を称賛する気にはなれない。
素晴らしい剣士だったとも思う。それでもやはり、彼女を称賛する気にはなれない。
結局、ただ俺がやるべきことをやっただけ、そんな気持ちしか湧いてこなかった。
けれど、体を包む温かさはむしろ増していて。
「……馬鹿……な」
静かになったことで研ぎ澄まされた聴覚はエリザベートの声を確かに捉えた。それを聞いて俺はゆっくりと立ち上がろうとする。
さっきはどれだけ命令を下しても一向に動かなかった体が動く。体からの返答が不可能から可能へと切り替わったからだ。いやそれどころか体の感覚が訴えている。先ほどまで諦めていた筈なのに、一つの答えを出している。
負けるわけがないと。
「ふぅー」
立ち上がり、大きく息を吐き、体と同じ答えを俺自身も出す。負けるわけがない。
剣を振るい、巻き上がる土煙を風圧で吹き飛ばす。そしてゆっくりと目を開き、目の前に広がる光景を確認した。
「オーロラの……盾?」
エリザベートが俺の前方に展開した金色透明の盾を目視して呟く。そう、これはオーロラちゃんが使っていた防御魔法。それを、俺が再現したもの。何度も見せてくれたものだからこそ、再現が出来た。シアの魔力に願えば、実現してくれた。
ゆっくりと光となって消えていく金色の盾。それと全く同じ色の輝きを体に纏い、剣に帯びさせて俺は構える。エリザベートを、斬るために。
「っ……小僧っ!」
エリザベートもまた構えた。一から始まった数字は四……いや死まで到達した。ならばその先の五もあるということか、そう考え、俺は頭の中で思い出す。何度も見せてくれたユティさんの力を、彼女の補助魔法を思い出す。
金の光が、すっと自分の中へと入ってくる。これまでも計り知れないほどの力をくれていたのに、さらに多くの力をくれる。ユティさんが以前見せてくれた魔法、それを再現した魔法が、さらに魔力を効率的に体内に取り込むのを助けてくれている。
「斬るっ! 零っ!」
エリザベートの叫び声と共に、彼女を中心に黒い闇が噴き出し世界を黒一色に染める。太陽の光を妨げ、空を消し、光という光を遮断する。
世界からこの空間が隔絶され、果てしない暗闇へと落ちたような、そんな。
そしてその中で、さらに濃い黒を纏ったエリザベートが地面を蹴り、超速でこちらへと飛んでくる。彼女は零と言った。五ではなく零。これがつまり、エリザベートの最大の攻撃。切り札。
「はああああああ!」
「…………」
全身全霊の力を込めて俺を斬ろうとするエリザベート。その全てをしっかりと見て、脅威にならないと感じて。
彼女を越える速さで剣を振り払った。エリザベートが作り出した闇の中でも眩いほどの金色の光が斬撃となり、エリザベートに直撃。彼女に深い傷を負わせながら吹き飛ばす。
それと同時に世界が歪み、闇が溶けるように消えていく。その消えた闇の先で、エリザベートは地面に落ちた。転がり、大地を鮮血が染めていく。致命傷なのは間違いない。けれどそれ以上に、俺は自分の力に驚いていた。
「……すごい」
空いている左手を持ち上げて、金色に光るそれを見て呟く。さっきの一撃はエリザベートの渾身の一撃だった筈だ。それが目で追えた。それどころか、対応しようとしたら余裕がありすぎたくらいだった。どんな角度から打ち込んでこようとも、あと100回同じ技を出されても、今の俺ならば1回たりとも受けることはない、いや受けるわけがないと確信が持てるほどには。
以前はゼロードに対するあまりにも強い怒りに気付かなかったが、二回目だから分かる。ユティさんとオーロラちゃんが、シアのことを別格だという理由がよく分かる。いや格が違うとかじゃなくて、次元がそもそも違う。
「ノヴァ・フォルスっ!」
声を聞いて、視線を向けた。左肩から右脇腹までを深く斬り裂かれ、おびただしい血を流したエリザベートが血走った目で俺を睨みつけていた。殺気を感じるけれど、怖いという感情は少しも起こらなかった。
「殺す……絶対に殺すっ!」
剣を天に向け、そこに雲を割く闇の柱を瞬時に創造するエリザベート。その光景を見て俺が思ったことは、すごいなという事。あそこまで大きな柱を一瞬で作り出せるなんて、まだ魔力に余裕があるんだな、という事。
つまりは、まるで他人事だった。
「潰れろぉ!」
柱が傾き、俺に倒れ込もうとする。
「それは、こっちの言葉だ」
冷静に返して、左手を伸ばした。頭の中で魔力に命じれば、オーロラちゃんが見せてくれた光景を再現してくれる。黄金に輝く盾が展開し、そこに黒の柱が激突。轟音を立てるけれど、結局俺の生み出した盾を砕くことは叶わない。
全く脅威にならない黒い柱はその内消えるだろう。だからエリザベートをまっすぐに見つめて、小さく呟いた。
「これで終わらせるぞ、エリザベート」
「ノヴァぁぁぁあああああああ!!」
剣を片手に地面を蹴って、初めて前に出る。一瞬でエリザベートとの距離を詰めて、間合いに入る。エリザベートが黒い柱を消し、咄嗟に剣を振り上げるのが見えた。彼女の体内から濃い黒色の魔力が放出され、その体を包む。俺に対抗するために放出したであろうその魔力は、常人が相手ならば十分すぎる程の出力だっただろう。
けれど相手は、金色の魔力を纏った俺だ。俺の剣とエリザベートの剣が激突。剣から手のひらに伝わった力は全くなく、押されることも当然ありはしなかった。
「ぐぅっ!」
一方でエリザベートは苦悶の声を漏らす。咄嗟に剣を両手持ちに切り替え、渾身の力を入れてくる。それでも、全く脅威には感じなかった。
「まだだっ……まだっ!」
叫び、体内からさらに魔力を溢れさせるエリザベート。剣を必死で振るってくるものの、その全てを見切り、受けて、弾き、さらなる力でねじ伏せる。これまでのエリザベートの全てを否定するように、正面から勝る。
「ふざ……けっ」
どれだけ剣を振るわれようともその剣が俺に届くことはない。俺は片手で、対してエリザベートは両手。目で見て違いがはっきりと分かり、にも関わらずエリザベートは余裕がない。少しでも力を抜けば俺の剣に斬られることが明白だから。
「もっとだ……もっと!」
エリザベートの体内からさらに黒い魔力が放出される。
「もっと……もっと……」
それらがエリザベートの体を包み、彼女をさらに強くする。
「なぜ……なぜっ」
けれどそれでも届かない。この金色に、絶対に勝れない。
「っ あああああああぁぁぁぁ!!」
狂ったように剣を振るい続けるエリザベート。その体からは膨大な量の魔力が溢れ、今まで見たことがないほどの力が俺に襲い掛かっている。
「くそっ くそっ! まだ邪魔をするか、化け物ぉおおおおおおお!!」
でもやっぱり、全然脅威に感じない。どれだけエリザベートが力を求め、死力を尽くそうとも、俺の纏う金色の方が上だから。エリザベートでは到達できない次元に、この力は、彼女の力は位置するから。
「――」
何度も振り下ろされる剣に生じた隙を見抜き、俺は剣を力の限り振るう。片手で、今回は防ぐのではなく、エリザベートの体を傷つける目的でもなく、全力で振るった。狙いは両手で振り下ろされたエリザベートの剣。
それを、一閃。
これまでずっと感じている、いや力をくれている全ての力で。
ユティさんの真似をした身体強化魔法で金色を纏った身体、シア達3人の力で鍛えられて、今は金色の光を放つ剣、そしてそれらの全てに力を貸してくれているシアの力で、エリザベートの闇を斬り払う。
そして輝きを帯びた剣は一層甲高い金属音を立てて、エリザベートの剣を真ん中で斬り砕き、飛ばした。
「なっ……」
そしてそのまま、がら空きの胴体を深く、深く斬り裂いた。
人を斬る嫌な感覚を両腕が覚えると同時に確信する。エリザベートは、これでもう終わりだと。
彼女の体がゆっくりと傾く。もう終わったのだと、そう思って。
「ま……だっ……」
その脚が僅かに動き、エリザベート自身の体を支える。彼女の体から闇が噴き出し、折れた剣を修復するように黒が刃を形成する。
「かえ……せ……」
ゆっくりと彼女の体が動く。その目にはもはや光が無く、死の瀬戸際でもがいているようにしか見えなかった。
けれどそれにはまだ攻撃の意志がある。剣を持ち上げ、それを俺に叩きつけようとしている。それの体内から噴き出る闇が、腕を支えているようにすら思えた。
「か……え……せ」
うわごとのように呟きながらそれは剣を振るう。その剣を受ける必要などないし、受けるつもりもない。だから、金色の盾を展開して防ごうとした。もう力のないそれでは、黒い魔力に支えられていても金色の盾を崩せはしないという確信もあったから。
けれどそれの剣は、俺の盾に届くことはなかった。
届くよりも前に止まってしまったからだ。目の前のエリザベートは見開いた目に何も移さず、ただ時が止まったかのように動きを止めている。その身を包んでいた闇のごとき黒い魔力はゆっくりと薄く淡くなっていき、段々と消えていく。
そしてエリザベートの体も、まるで砂のようにゆっくりと崩れていく。
「…………」
それに対して何の感情も抱くことなく俺はエリザベートの……いや彼女だったモノの側をゆっくりと離れる。遠くで座り込むオーロラちゃんがまずは無事なことを確認してほっと一安心。彼女に笑いかけて、歩み寄ろうとした。
「…………」
なんとなく振り返り、エリザベートだったモノを確認する。それは変わらずそこにあって、けれどその体はまるで灰のように少しずつ風に流されて小さくなっていた。
もう完全に、エリザベートは終わった。
それに対して特に何の感情も抱くことなく、俺はそれから目線を外し、オーロラちゃんへと歩み寄る。
エリザベートに対して思うことはもうない。戦うときにあれだけ抱いていた怒りも、シアの金色の魔力が覚醒したときに無くなってしまった。彼女の魔力が温かかったからというのもあるけれど。
一方で戦いを終えて、純粋にシア達の母親としてではなく一人の戦士として彼女を考えるとして。
素晴らしい戦いだったとは思う。けれど彼女を称賛する気にはなれない。
素晴らしい剣士だったとも思う。それでもやはり、彼女を称賛する気にはなれない。
結局、ただ俺がやるべきことをやっただけ、そんな気持ちしか湧いてこなかった。
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