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第3章 宿敵の家と宿敵でなくなってから
第234話 ようこそ、この幸せな世界へ
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三人で屋敷へと戻った。シアの出産の件でほとんどのメイドさんはそちらにかかりきりになっていた筈だけど、数人のメイドさんが待っていてくれて、俺達が戻ってくるとすぐに着替えや湯浴びの用意をしてくれた。
俺もユティさんもオーロラちゃんも北の塔の近くで激戦を繰り広げていたこともあり、体中が汚れていた。ユティさんはティアラから熾烈な攻撃を受けたらしく、俺達の中でも一番酷い状態だった。
俺達は身を清め、再びシアの元へ。廊下に設置された長椅子に三人して腰かけて、扉をじっと見つめていた。扉の中の部屋では、今もまだシアが出産と戦っている筈だ。
「……大丈夫かな」
「お兄様?」
不安に感じて、けれども周りに聞こえないように呟いた言葉。それを隣に座るオーロラちゃんには聞き取られてしまったようだった。
「……うん、シアは大丈夫かなって。俺が魔力を使っちゃったし」
今、俺は金色の光に包まれては居ない。けれどついさっきまでエリザベートと強大な力のぶつけ合いをしていた。それこそエリザベートが魔力を使い切って消滅する程の量や濃さをものともしない程のだ。
今確かにシアの魔力の暴走はほとんど見られない。けれどそれが逆に、俺が魔力を使ってしまったからではないか、とさえ思ってしまった。
「大丈夫です。あの子は大丈夫。ノヴァさんの子だって、きっと無事です」
「そうよ。確かにあの時のノヴァお兄様の魔力は凄かったわ。でもあれを目の当たりにしても、流石はお姉様っていう気持ちしか浮かんでこなかった。お姉様からしてみれば、あのくらいの魔力全然大したことないわ。しかもそれを使ったのがノヴァお兄様なんだもの、絶対に大丈夫よ」
ユティさんとオーロラちゃんに励まされて、俺はゆっくりと頷く。彼女達の言葉で、不安が少しだけど和らいだ気がした。
「……そうだよね。俺が不安に思ってちゃダメだ。ただ今は、シアを信じないと」
「そうよ。お兄様にはこの後すっごい幸せな時間が待ってるんだから、今はお姉様を信じて。お姉様なら、絶対にそれに応えてくれるわ」
「あの子のことですから、全然大丈夫です、と笑顔で言うと思います。そしてそれはきっと、本当に大丈夫という事ですから」
「うん、ありがとう」
二人にお礼を言って俺は再び祈りの体勢に入る。シアの魔力を暴走させないために。
そして、俺達の子が何の問題もなく生まれ、シアも無事であるように、強く祈った。いや、応援した。
シア、頑張れ。頑張ってくれ。
×××
その泣き声が聞こえたのは、それからしばらくした後だった。それまでとても長い時間長椅子に座って待っていた気がする。応援していた気がする。
けれど確かに、赤ん坊の泣き声を聞いた。
生まれたと、そう頭が理解する。けれどまだ扉は開かなくて、俺はそわそわすることしかできない。隣をチラリと確認してみると、彼女達も部屋の中が気になっているようで、オーロラちゃんは扉を見ながらやや前のめりになっていて、ユティさんも指を忙しなく動かしていた。
そこから、さらに時間が流れる。時間にしては数十分の事だろうけど、人生で一番長い時間に感じてしまった。そのくらい時の流れがゆっくりだった。聞こえた泣き声も、今はもう聞こえなくなっている。それがさらに不安を加速させた。
子供は、シアは、無事だろうか。いやきっと無事だ。無事に決まっている。
何回目か分からないけれどそう自分を言い聞かせたとき。
音を立てて、扉が開いた。その中から出てきたのは、白衣を着たお医者さんだった。
「先生っ……子供とシアはっ」
居てもたってもいられなくなって、俺は長椅子から立ち上がって彼女の元へ。先生は俺を見上げ、そして。
「落ち着いてください旦那様。どちらもご無事です。奥様は疲れてはいらっしゃいますが命に別状はありません。それに、おめでとうございます。元気なご子息ですよ。
……外では色々と問題があったようですが、こちらは何の問題もなくご出産されましたよ」
「……そう……ですか」
先生の言葉で安堵の息をようやく吐けた。肩からすっと力が抜けるような感覚。もしも力を入れなければ、安心で脱力して廊下の床に座り込むかもしれない程だった。
「お兄様、おめでとう」
「良かったです、本当に」
オーロラちゃんに服の袖を引かれ、振り返ると彼女とユティさんが微笑んでいた。彼女達に微笑んで頷き返す。本当に、良かった。
「旦那様、もう部屋に入って構わないので、ご子息と奥様にお会いになってください」
「はい、ありがとうございます」
先生に再び深く頭を下げて感謝の意を伝えて、俺達は部屋の中に入る。部屋の中に入って真っ先に目に入ったのは、ベッドの上で疲れたように横になるシアの姿だった。流石の彼女でも出産は辛く苦しい、言ってしまえば戦いのようなものだった筈だ。その髪は濡れ、額にうっすらと汗をかいていた。
けれどその表情はとても穏やかで、じっとメイドさんの腕に抱かれた白い布に目を向けているようだった。
ベッドに近づくと、シアは俺に気づき穏やかに微笑んでくれる。その姿を確認して、もう出尽くした筈なのに安堵の息がまだ小さく漏れた。
「ノヴァさん……」
「シア……ありがとう……ありがとう……」
ベッドの左手側に回り、シアの左手を両手で包む。それをしっかりと確認しながら、感謝を告げた。
「本当に良かった……心配で心配で……俺が魔力を使っちゃったから、それで余計に……」
「はい、知っています。ですがあのくらいならへっちゃらです。……それに、ありがとうございます。お願いを聞いてくれて」
シアは俺から視線を外し、部屋の扉の方に目を向ける。そこにユティさんとオーロラちゃんがいることは知っているからこそ、彼女が何に感謝しているのかはすぐに分かった。
「ああ、守ったよ。シアと俺の大切な人を」
「ふふっ……流石はノヴァさん……あなたなら、絶対に守ってくれると思ってました。だから私も頑張れました。見てください、元気な男の子だそうですよ」
「……うん」
緊張しつつも、視線を向かいに座るメイドさんに向ける。メイドさんはとても穏やかな表情でゆっくりと体を動かし、腕に抱える白い布を俺に見せるようにしてくれた。
そこにはとても小さくて、可愛くて、安らかに眠る俺達の子供が居た。
「ああ……」
思わず声が漏れる。
「抱いてあげてください。きっとその子も、喜ぶ筈ですから」
シアの言葉にメイドさんは立ち上がり、ベッドを回り俺の方へと移動する。そして彼女からゆっくりと、赤ん坊を受け取る。
「旦那様、ここは……はい、そうです。その調子です。ゆっくり……ゆっくり……」
メイドさんに簡単な指導をされながら、受け渡される。壊れ物を扱うように慎重にゆっくりと、けれどしっかりと受け取る。
そして腕の中の存在を見て、確認して、涙が出た。
眠っているけれど、確かにここに居る。ここに、居るんだ。
「ありがとう……生まれて来てくれて、本当に……ありがとう……」
ゆっくりと椅子に座り、シアにも目を向ける。彼女もまた、少しだけ潤んだ表情で俺と赤ん坊を見つめていた。
「お兄様、見せて」
「まあ、とても可愛らしい……」
オーロラちゃんとユティさんも俺の側に寄り、赤ん坊を覗き込む。
ユティさんは膝に手を置いて穏やかな表情で、オーロラちゃんは膝をついて赤ん坊がくるまれた布に手を触れていた。
「本当に……小っちゃい。でも、温かい……」
オーロラちゃんがぽつりと呟く。
「男の子ですから、きっと将来はノヴァさんに似てカッコよくなるでしょうね」
ふふっ、とシアと似た笑い方をして、ユティさんもそう言った。
オーロラちゃんは手を動かして赤ん坊の顔近くの布に触れ、とても綺麗な笑顔を見せた。
「……ようこそ、この幸せな世界へ。これからよろしくね」
俺にシアにユティさんにオーロラちゃん。そして数多くのメイドさん達に祝福されて、俺達の第一子は誕生した。この日の事を、俺は一生忘れない。
激動で、けれど幸せに満ちた、そんな日だった。
俺もユティさんもオーロラちゃんも北の塔の近くで激戦を繰り広げていたこともあり、体中が汚れていた。ユティさんはティアラから熾烈な攻撃を受けたらしく、俺達の中でも一番酷い状態だった。
俺達は身を清め、再びシアの元へ。廊下に設置された長椅子に三人して腰かけて、扉をじっと見つめていた。扉の中の部屋では、今もまだシアが出産と戦っている筈だ。
「……大丈夫かな」
「お兄様?」
不安に感じて、けれども周りに聞こえないように呟いた言葉。それを隣に座るオーロラちゃんには聞き取られてしまったようだった。
「……うん、シアは大丈夫かなって。俺が魔力を使っちゃったし」
今、俺は金色の光に包まれては居ない。けれどついさっきまでエリザベートと強大な力のぶつけ合いをしていた。それこそエリザベートが魔力を使い切って消滅する程の量や濃さをものともしない程のだ。
今確かにシアの魔力の暴走はほとんど見られない。けれどそれが逆に、俺が魔力を使ってしまったからではないか、とさえ思ってしまった。
「大丈夫です。あの子は大丈夫。ノヴァさんの子だって、きっと無事です」
「そうよ。確かにあの時のノヴァお兄様の魔力は凄かったわ。でもあれを目の当たりにしても、流石はお姉様っていう気持ちしか浮かんでこなかった。お姉様からしてみれば、あのくらいの魔力全然大したことないわ。しかもそれを使ったのがノヴァお兄様なんだもの、絶対に大丈夫よ」
ユティさんとオーロラちゃんに励まされて、俺はゆっくりと頷く。彼女達の言葉で、不安が少しだけど和らいだ気がした。
「……そうだよね。俺が不安に思ってちゃダメだ。ただ今は、シアを信じないと」
「そうよ。お兄様にはこの後すっごい幸せな時間が待ってるんだから、今はお姉様を信じて。お姉様なら、絶対にそれに応えてくれるわ」
「あの子のことですから、全然大丈夫です、と笑顔で言うと思います。そしてそれはきっと、本当に大丈夫という事ですから」
「うん、ありがとう」
二人にお礼を言って俺は再び祈りの体勢に入る。シアの魔力を暴走させないために。
そして、俺達の子が何の問題もなく生まれ、シアも無事であるように、強く祈った。いや、応援した。
シア、頑張れ。頑張ってくれ。
×××
その泣き声が聞こえたのは、それからしばらくした後だった。それまでとても長い時間長椅子に座って待っていた気がする。応援していた気がする。
けれど確かに、赤ん坊の泣き声を聞いた。
生まれたと、そう頭が理解する。けれどまだ扉は開かなくて、俺はそわそわすることしかできない。隣をチラリと確認してみると、彼女達も部屋の中が気になっているようで、オーロラちゃんは扉を見ながらやや前のめりになっていて、ユティさんも指を忙しなく動かしていた。
そこから、さらに時間が流れる。時間にしては数十分の事だろうけど、人生で一番長い時間に感じてしまった。そのくらい時の流れがゆっくりだった。聞こえた泣き声も、今はもう聞こえなくなっている。それがさらに不安を加速させた。
子供は、シアは、無事だろうか。いやきっと無事だ。無事に決まっている。
何回目か分からないけれどそう自分を言い聞かせたとき。
音を立てて、扉が開いた。その中から出てきたのは、白衣を着たお医者さんだった。
「先生っ……子供とシアはっ」
居てもたってもいられなくなって、俺は長椅子から立ち上がって彼女の元へ。先生は俺を見上げ、そして。
「落ち着いてください旦那様。どちらもご無事です。奥様は疲れてはいらっしゃいますが命に別状はありません。それに、おめでとうございます。元気なご子息ですよ。
……外では色々と問題があったようですが、こちらは何の問題もなくご出産されましたよ」
「……そう……ですか」
先生の言葉で安堵の息をようやく吐けた。肩からすっと力が抜けるような感覚。もしも力を入れなければ、安心で脱力して廊下の床に座り込むかもしれない程だった。
「お兄様、おめでとう」
「良かったです、本当に」
オーロラちゃんに服の袖を引かれ、振り返ると彼女とユティさんが微笑んでいた。彼女達に微笑んで頷き返す。本当に、良かった。
「旦那様、もう部屋に入って構わないので、ご子息と奥様にお会いになってください」
「はい、ありがとうございます」
先生に再び深く頭を下げて感謝の意を伝えて、俺達は部屋の中に入る。部屋の中に入って真っ先に目に入ったのは、ベッドの上で疲れたように横になるシアの姿だった。流石の彼女でも出産は辛く苦しい、言ってしまえば戦いのようなものだった筈だ。その髪は濡れ、額にうっすらと汗をかいていた。
けれどその表情はとても穏やかで、じっとメイドさんの腕に抱かれた白い布に目を向けているようだった。
ベッドに近づくと、シアは俺に気づき穏やかに微笑んでくれる。その姿を確認して、もう出尽くした筈なのに安堵の息がまだ小さく漏れた。
「ノヴァさん……」
「シア……ありがとう……ありがとう……」
ベッドの左手側に回り、シアの左手を両手で包む。それをしっかりと確認しながら、感謝を告げた。
「本当に良かった……心配で心配で……俺が魔力を使っちゃったから、それで余計に……」
「はい、知っています。ですがあのくらいならへっちゃらです。……それに、ありがとうございます。お願いを聞いてくれて」
シアは俺から視線を外し、部屋の扉の方に目を向ける。そこにユティさんとオーロラちゃんがいることは知っているからこそ、彼女が何に感謝しているのかはすぐに分かった。
「ああ、守ったよ。シアと俺の大切な人を」
「ふふっ……流石はノヴァさん……あなたなら、絶対に守ってくれると思ってました。だから私も頑張れました。見てください、元気な男の子だそうですよ」
「……うん」
緊張しつつも、視線を向かいに座るメイドさんに向ける。メイドさんはとても穏やかな表情でゆっくりと体を動かし、腕に抱える白い布を俺に見せるようにしてくれた。
そこにはとても小さくて、可愛くて、安らかに眠る俺達の子供が居た。
「ああ……」
思わず声が漏れる。
「抱いてあげてください。きっとその子も、喜ぶ筈ですから」
シアの言葉にメイドさんは立ち上がり、ベッドを回り俺の方へと移動する。そして彼女からゆっくりと、赤ん坊を受け取る。
「旦那様、ここは……はい、そうです。その調子です。ゆっくり……ゆっくり……」
メイドさんに簡単な指導をされながら、受け渡される。壊れ物を扱うように慎重にゆっくりと、けれどしっかりと受け取る。
そして腕の中の存在を見て、確認して、涙が出た。
眠っているけれど、確かにここに居る。ここに、居るんだ。
「ありがとう……生まれて来てくれて、本当に……ありがとう……」
ゆっくりと椅子に座り、シアにも目を向ける。彼女もまた、少しだけ潤んだ表情で俺と赤ん坊を見つめていた。
「お兄様、見せて」
「まあ、とても可愛らしい……」
オーロラちゃんとユティさんも俺の側に寄り、赤ん坊を覗き込む。
ユティさんは膝に手を置いて穏やかな表情で、オーロラちゃんは膝をついて赤ん坊がくるまれた布に手を触れていた。
「本当に……小っちゃい。でも、温かい……」
オーロラちゃんがぽつりと呟く。
「男の子ですから、きっと将来はノヴァさんに似てカッコよくなるでしょうね」
ふふっ、とシアと似た笑い方をして、ユティさんもそう言った。
オーロラちゃんは手を動かして赤ん坊の顔近くの布に触れ、とても綺麗な笑顔を見せた。
「……ようこそ、この幸せな世界へ。これからよろしくね」
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