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22.豹変
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ロイスが髪を掻き上げる。
いつもは顔の半分を隠している、少し癖のある黒髪を掻き上げただけで雰囲気が変わる。
顔立ちは悪くないとは思っていたが、この仕草だけで色白だが整った彼の容貌が際立つ。
彼は美男だ。それ故に、この青い瞳が感情を殺すと、一層怜悧に感じるのかもしれない。
(何でだろう? ……この人は、何だか怖い……)
メンフィスは、アイリスを真っ直ぐに見ていた。
「待って……ロイス……じゃなくて、ロイスが……メンフィス? ど、どういうこと!? きちんと説明して頂戴」
アイリスは目の前の、良く知っていたはずの男の変貌に、戸惑っていた。
頭が混乱する。ロイスと彼は同じ人なのに、印象が違い過ぎる。
「そのままの意味です。俺はロイスって名前じゃ無い。メンフィスと言う名を持つティバリーの魔術師です」
寡黙な面を脱ぎ捨て、メンフィスはにんまりと笑った。
その様子に、アイリスはぽかんと口を開けたまま、目を見開いている。
「俺があんたを守っていたのは、ただ、あんたのそばにいる為。手段は何だって良かったのさ。あんたのそばに居られるなら、ね」
「私……貴方のこと、信頼……してたのに……」
くくっ、と喉を鳴らして彼は笑う。
「嬉しいな。ロイスを信用してくれてさ。お嬢様のそう言うところが、俺は大好きなんだ」
ロイス――いや、ロイスだった男は、三年前にエーディス公爵家にやって来た。
身寄りは無いが、剣の腕が立つ。そう、父に紹介されて、私の護衛となった。
父上は剣を握らせれば向かう所敵なしで、王族でありながらずっと第一線で騎士団を率いて来たのだ。その父が、彼の腕を認めて雇い入れたと言うことは、それなりに腕が立つと言うことだ。
私の護衛を任すのだから、父上もまた彼を信用していたのだろう。
「……俺はあんたのそばに居られるなら、それでよかったんだ。なのに、クラウスなんかがあんたに執着し始めるから。あんたをあいつの婚約者にするくらいなら、俺があんたを……」
「ちょ、ちょっと待って……クラウス、様?」
(クラウス様の……知り合い?)
どうして、クラウスが出て来るのか分からず、アイリスが戸惑った表情を浮かべると、ロイス……メンフィスは、アイリスに話しかけられて嬉しいのか、楽しそうに笑った。
「くくっ……コールの町では傑作だったね。あいつ、俺に気付かなかった。それなりに長い時間、連んでたんだけどなぁ……よくもまぁ、あんたを嫁に出来るなんて俺の前で言えたもんだ。だから、掻っ攫ってやったんだけどさ」
(やっぱり……この言い方だと、クラウス様の知り合いみたいに聞こえる)
あまり仲が良いようには聞こえないが、つまりはそういうことなんだろう。
「お嬢様、俺に気付いてくれて嬉しいよ……」
そっとメンフィスの手が伸ばされ、指先が頬に触れた。
その指の冷たさにピクリ、と身体が跳ねる。
「なぁ、お嬢様。あんた、クラウスやら他の貴族やらと結婚するくらいならさ、俺のものになりなよ。骨までしゃぶって、大切にするからさ」
寡黙な青年だったロイスからは考えられないくらい、色気のある艶やかな声がアイリスに囁く。しかし、その言葉の端々には、狂気が滲む。
「なっ……何を言って――」
「“死ねない魔術師コーウェン”てさ、あんたのこと、振ったんだろ?」
唐突にメンフィスの口から出て来たその名に、びくりと肩が跳ねさせ、アイリスは開こうとした唇を引き結んだ。
「可哀想なアイリスお嬢様。あの男にあんたが抱かれずに居てくれて良かった。俺があんたの初めてで最後の男になれるんだからさ」
「……あ……何言って――」
「なぁ、知っていたかな? 死ねない魔術師の花嫁は、死ねないんだ」
(“死ねない魔術師”の花嫁は……死ねない?)
アイリスがその言葉の意味に気を取られて動けなくなってしまった。そうしているうちに、そっとアイリスの白金の髪を撫でていたメンフィスは、彼女の腰を引き寄せた。
「……何故、貴方がそんなこと……知っているの?」
呆然とした様子でアイリスが尋ねると、何故かメンフィスが嬉しそうに目を細めた。
「俺も、一応……“死ねない魔術師”だから、さ」
アイリスの瞳が大きく見開かれる。
いつのまにか間近にある男の体温に、気付いた時にはもう、メンフィスの腕の中に居た。
「ああ……アイリス。俺は、あんたみたいな女を待ってたんだ」
やっと……この手に出来た。
「……何故、私なの?」
「さあ? あんたが俺の前に現れてしまったから……と、しか言いようが無いな」
メンフィスは笑う。
「“死ねない魔術師”は、孤独だからさ。皆、花嫁を欲しがるんだ。千年の孤独にも退屈しない、極上の女を……ね」
(皆? ……皆、花嫁を……欲しがる? でも、それじゃあ――)
「コーウェンは……変わり者だよな。あの男程強い力を持つ魔術師も居ないのに。痩せ我慢してさ」
「…………」
(痩せ我慢? コーウェンは、痩せ我慢なんて……)
メンフィスのアイリスを抱き締める腕に力がこもる。彼の鼻先が首筋に埋まり、アイリスはそこで初めて我に返った。
「あの男が自ら手を離すのなら、それに越したことはない」
「いやっ!」
自分の体に巻き付く腕を振り解こうとしてもがいても、メンフィスはびくともしない。
「お嬢様……いや、アイリス。逃げようったって無駄だよ? 漸く……捕まえたんだから、さ?」
アイリスの身体に絡まる腕が、そっと動いた。
右手が彼女のドレスの大きく開いた胸元から忍び込み、左手はドレスの上から内腿付近を撫で回される。首筋にメンフィスの舌が這わされ、アイリスは仰け反りながらも必死に抵抗する。
「こ、この……っ……こんなことされたって……あんたの、花嫁になんか……ッ、ならないん、だからっ」
胸元に忍び込んだ手が、やわやわとアイリスの胸を揉み、先端を摘み上げる。
「ンッ……っ?」
「かっ、わいいなぁ……あんたをじっくり味見したいところだけど……残念ながら時間切れか。ま、時間はあるしな」
いつもは顔の半分を隠している、少し癖のある黒髪を掻き上げただけで雰囲気が変わる。
顔立ちは悪くないとは思っていたが、この仕草だけで色白だが整った彼の容貌が際立つ。
彼は美男だ。それ故に、この青い瞳が感情を殺すと、一層怜悧に感じるのかもしれない。
(何でだろう? ……この人は、何だか怖い……)
メンフィスは、アイリスを真っ直ぐに見ていた。
「待って……ロイス……じゃなくて、ロイスが……メンフィス? ど、どういうこと!? きちんと説明して頂戴」
アイリスは目の前の、良く知っていたはずの男の変貌に、戸惑っていた。
頭が混乱する。ロイスと彼は同じ人なのに、印象が違い過ぎる。
「そのままの意味です。俺はロイスって名前じゃ無い。メンフィスと言う名を持つティバリーの魔術師です」
寡黙な面を脱ぎ捨て、メンフィスはにんまりと笑った。
その様子に、アイリスはぽかんと口を開けたまま、目を見開いている。
「俺があんたを守っていたのは、ただ、あんたのそばにいる為。手段は何だって良かったのさ。あんたのそばに居られるなら、ね」
「私……貴方のこと、信頼……してたのに……」
くくっ、と喉を鳴らして彼は笑う。
「嬉しいな。ロイスを信用してくれてさ。お嬢様のそう言うところが、俺は大好きなんだ」
ロイス――いや、ロイスだった男は、三年前にエーディス公爵家にやって来た。
身寄りは無いが、剣の腕が立つ。そう、父に紹介されて、私の護衛となった。
父上は剣を握らせれば向かう所敵なしで、王族でありながらずっと第一線で騎士団を率いて来たのだ。その父が、彼の腕を認めて雇い入れたと言うことは、それなりに腕が立つと言うことだ。
私の護衛を任すのだから、父上もまた彼を信用していたのだろう。
「……俺はあんたのそばに居られるなら、それでよかったんだ。なのに、クラウスなんかがあんたに執着し始めるから。あんたをあいつの婚約者にするくらいなら、俺があんたを……」
「ちょ、ちょっと待って……クラウス、様?」
(クラウス様の……知り合い?)
どうして、クラウスが出て来るのか分からず、アイリスが戸惑った表情を浮かべると、ロイス……メンフィスは、アイリスに話しかけられて嬉しいのか、楽しそうに笑った。
「くくっ……コールの町では傑作だったね。あいつ、俺に気付かなかった。それなりに長い時間、連んでたんだけどなぁ……よくもまぁ、あんたを嫁に出来るなんて俺の前で言えたもんだ。だから、掻っ攫ってやったんだけどさ」
(やっぱり……この言い方だと、クラウス様の知り合いみたいに聞こえる)
あまり仲が良いようには聞こえないが、つまりはそういうことなんだろう。
「お嬢様、俺に気付いてくれて嬉しいよ……」
そっとメンフィスの手が伸ばされ、指先が頬に触れた。
その指の冷たさにピクリ、と身体が跳ねる。
「なぁ、お嬢様。あんた、クラウスやら他の貴族やらと結婚するくらいならさ、俺のものになりなよ。骨までしゃぶって、大切にするからさ」
寡黙な青年だったロイスからは考えられないくらい、色気のある艶やかな声がアイリスに囁く。しかし、その言葉の端々には、狂気が滲む。
「なっ……何を言って――」
「“死ねない魔術師コーウェン”てさ、あんたのこと、振ったんだろ?」
唐突にメンフィスの口から出て来たその名に、びくりと肩が跳ねさせ、アイリスは開こうとした唇を引き結んだ。
「可哀想なアイリスお嬢様。あの男にあんたが抱かれずに居てくれて良かった。俺があんたの初めてで最後の男になれるんだからさ」
「……あ……何言って――」
「なぁ、知っていたかな? 死ねない魔術師の花嫁は、死ねないんだ」
(“死ねない魔術師”の花嫁は……死ねない?)
アイリスがその言葉の意味に気を取られて動けなくなってしまった。そうしているうちに、そっとアイリスの白金の髪を撫でていたメンフィスは、彼女の腰を引き寄せた。
「……何故、貴方がそんなこと……知っているの?」
呆然とした様子でアイリスが尋ねると、何故かメンフィスが嬉しそうに目を細めた。
「俺も、一応……“死ねない魔術師”だから、さ」
アイリスの瞳が大きく見開かれる。
いつのまにか間近にある男の体温に、気付いた時にはもう、メンフィスの腕の中に居た。
「ああ……アイリス。俺は、あんたみたいな女を待ってたんだ」
やっと……この手に出来た。
「……何故、私なの?」
「さあ? あんたが俺の前に現れてしまったから……と、しか言いようが無いな」
メンフィスは笑う。
「“死ねない魔術師”は、孤独だからさ。皆、花嫁を欲しがるんだ。千年の孤独にも退屈しない、極上の女を……ね」
(皆? ……皆、花嫁を……欲しがる? でも、それじゃあ――)
「コーウェンは……変わり者だよな。あの男程強い力を持つ魔術師も居ないのに。痩せ我慢してさ」
「…………」
(痩せ我慢? コーウェンは、痩せ我慢なんて……)
メンフィスのアイリスを抱き締める腕に力がこもる。彼の鼻先が首筋に埋まり、アイリスはそこで初めて我に返った。
「あの男が自ら手を離すのなら、それに越したことはない」
「いやっ!」
自分の体に巻き付く腕を振り解こうとしてもがいても、メンフィスはびくともしない。
「お嬢様……いや、アイリス。逃げようったって無駄だよ? 漸く……捕まえたんだから、さ?」
アイリスの身体に絡まる腕が、そっと動いた。
右手が彼女のドレスの大きく開いた胸元から忍び込み、左手はドレスの上から内腿付近を撫で回される。首筋にメンフィスの舌が這わされ、アイリスは仰け反りながらも必死に抵抗する。
「こ、この……っ……こんなことされたって……あんたの、花嫁になんか……ッ、ならないん、だからっ」
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