朱色のおくるみ

だんだん

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思い出の中で

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 カーテンの隙間から差し込んできた朝日が、遥の顔を照らした。
 遥は起きたくないと首を振るも、春の光は容赦ない。春眠暁を覚えずなんて嘘だ、と眠い目を擦りながら思う。
 それでも春の陽気のおかげか、今日は何だか気分が良く、いつも重たい身体が驚くほど軽かった。
 そういえば、奏絵が夜中にミルクを求めて起きなかった。こんな事は初めてだ。ベビーベッドで眠る奏絵を見て、遥は微笑んだ。

 奏絵は夜泣きが激しく、ここ最近、遥は碌に眠れていなかった。久しぶりのまとまった睡眠はありがたいものだったのだろう。スキップを踏みつつ、チラリと奏絵を確認してリビングに向かう。

「フンフン♪フフン♪」

 上機嫌に鼻歌交じりで家事をこなす。身体が軽く、奏絵の泣き声がしないだけで家事も捗った。
 ふと視線の端に置かれたオルゴールが目に入り、曲のわずかな歪みを耳で感じ取った気がして、手が止まる。——気のせいか。遥の立てる物音以外は何も聞こえない。そういえば、と遥はまた奏絵を見に行く。奏絵は口をもぞもぞと動かしながら眠っていた。そっと音を立てないように離れて、またリビングに向かい掃除の続きをする。
 一通り掃除が終わったところで時計を見た。そろそろ奏絵は起きるだろうか。ミルクの準備をするか迷いつつ、耳を澄ましても奏絵が起きる様子は無さそうで、遥はソファに座ってスマートフォンをいじる。
ニューストピックスには政治家の汚職問題や、芸能人の不倫騒動が上がっていた。流し読みをする中、ふと、メッセージアプリの通知が溜まっていることに気づいた。
 気を取り直してアプリを開いて確認をしてみるも急いで返信すべきものは特になく、夫の和希の名前を見てそっと履歴を開く。

「パパ、週末帰ってくるんだって。楽しみだね。」

 昨日約束したもん。きっと大丈夫。

 遥はそのまま写真のフォルダーを開き、和希と結婚した当初の写真を眺める。そこには長い髪を綺麗にまとめ上げ浴衣を着た女と、痩せ型で色白な男の写真が映っていた。

「これは去年行った神宮外苑の花火大会…。」

 写真をスワイプしていくと、今度はスキーウェアを着た男女の姿が映っていた。二人は幸せそうな顔で身を寄せ合っている。

「これは一昨年行った新潟のスキー旅行。……こっちは乳頭温泉に行った時の…。あ、こっちは名古屋の水族館にコウテイペンギンを見に行った時の写真だ…。」

 奏絵を身ごもるまで、和希と遥は休みを取っては全国各地に旅行へ行っていた。どの写真の自分もキラキラとしていて幸せそうだ。
 写真を見る為にスワイプしていた手を止めると、奏絵が産まれた時に和希が贈ってくれたオルゴールを手に取り螺子を回す。
 有名なクラシック曲が流れ始める。どこかで聴いたことのある曲だが、奏絵はクラシックに造詣がなく曲名は分からなかった。


「フン…フフフン、フン…♪」


 何となく口ずさんでいると、奏絵の泣き声が聞こえたような気がして、遥は急いで立ち上がってベビーベッドに駆け寄った。
 顔を赤らめて泣く奏絵をそっと抱き上げると、むわっとしたおしっこの匂いがした。

「よしよし…。ミルク飲んでオムツも取り替えようね。」

 泣き続ける奏絵を横抱きにして、横揺れをしながらトントンとお尻を叩く。それでも泣き続ける奏絵に、遥は微笑む。

「泣いてても可愛いね…。」

 やっと授かった我が子。大事な大事な我が子。遥は奏絵を優しく抱き締めながら、幸せを噛み締める。


 奏絵にミルクを飲ませ終わり、抱き上げて背中を擦るとしばらくしてゲップが出た。

「上手に出来たね。」

 遥は奏絵の柔らかい頭をそっと撫で、吸い付くような白く柔らかい頬に口付けを落とした。


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