朱色のおくるみ

だんだん

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和希との電話

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 スマートフォンの暗い画面を見詰めていた遥の目に、和希の名前が入る。遥は奏絵を抱えたまま、自分の髪を手櫛で整えると通話ボタンを押す。


「和希…?」

『遥。ごめん、帰れなくて。』

 遥は和希の疲れた声に、間を置いて笑顔を作った。

「ううん、大丈夫だよ。奏絵は良い子だし。」

『そっか…それなら良かった。お金の件なんだけど…。』

「うん。」

『気が付かなくてごめん。生活費、ちょっと多めに振り込んでおくから…。』

「ごめんね。ありがとう。」


 遥のこわばっていた笑みが、柔らかくなる。奏絵はそんな遥の様子を気にせず、大きく目を開けて自分の手を見詰めている。


『奏絵はどうしてる?』

「良い子にしてるよ。自分の手をじっと見てる。」


 電話の向こうで和希がふっと笑った。


『会いたいな…。』


 和希のその言葉に、一瞬、間が空く。遥はゆっくり口を開く。


「早く、会いに来れると良いね。」

『パパだって分からないだろうなあ…。』

「そうだね。」


 クスクス…と遥から笑みが漏れるのを、奏絵は不思議そうに見詰めていた。


「あぅー、ブーッ!」


 奏絵の唾が遥の顔に掛かる。遥は無言でティッシュを取ると顔を拭った。


『今の奏絵?』

「うん…。何か唾飛ばししてきた。」

『何だそれ。』


 電話の向こうで和希が笑っている。遥もふっと微笑むと、そっと息を吐いた。


「早く会いたいな。」

『そうだね。そういえば、遥。』

「ん?」

『奏絵の写真って撮ってる?母さん達が奏絵の写真を見たいって言うんだけど…。』


 遥の表情が無くなる。スマートフォンを耳から離して、お義母さん…と呟いてからもう一度当てた。


「撮ってるよ?でも私、お義母さん達の連絡先知らないし。」

『いや、俺にも送ってきてくれれば母さんに…。』

「和希が会いに来て自分で撮って送れば良いでしょ?」


 冷たい声が遥から出た。和希は、はあ…と大きな溜め息を吐いた。


『そうしたいのは山々だけど、俺も奏絵の写真、見たことないし…。』

「…………。和希に送るとお義母さん達に見せるでしょ?」

『遥……折角孫が生まれたんだから見せてやりたいんだよ。』

「和希が自分で撮って送るのなら文句は無いよ。…でも私…。」


 はあ…和希の大きな溜め息を聞いて、遥は涙ぐんだ。


「私だって…。」


 呟いた言葉に、和希からの返答はない。
 少し間が空いて、遥の明るい声がリビングに響いた。


「そろそろ…ミルクの時間だから。」

『あ、うん…。また電話するよ。』

「うん。待ってる。週末帰って来られると良いね。」


 遥は通話終了のマークを押すと、奏絵を抱き締めた。抱き締められた本人は手足をバタバタさせ、ぶーぶーと唾を吐き出していて、遥の様子を気にしていない。


「大丈夫。大丈夫…。」


 奏絵は次第にふぇ…ふぇ…と泣き声を上げ始める。遥は、奏絵をそっと床に置くと、


「ちょっと、待っててね。」


 ミルクを作りにキッチンへと向かった。






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