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5 魔術初体験(前)
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魔術は日々の生活に使われている。例えば、井戸水を汲み上げる、たくさん洗濯物が入った桶の水を掻き回す、といった基本的なことから、大掛かりなものだと土木工事や建築などにも応用されている。
他にも、とても細かい金属の細工物を作るとか、舞台の大掛かりな演出とか、文化的な方面も魔術のおかげで進んでいる。
いろいろな事例を見たり聞いたりしたけど、魔術、マジすごい。
でもまずは理論だ。
無事、特例措置をもぎ取った私は、座学で理論を学んだ。なんでもありな魔法というよりは科学技術に近いため、ますます私は魔術にのめり込んだ。
おもしろいのは、多くの魔術師には、「魔力由来の現象」と「魔力がなかった場合の物理現象」の区別がはっきりとはついていないようだということだ。それに対し、私は「魔力がない世界」を知っているから、それらを区別するのは容易い。
とはいえ、区別できているつもりになっているだけだといけないから、いろいろと「魔力抜き」の状態での実験をしてみた。魔術のおかげで金属やガラス加工の技術は進んでいたから、実験器具はお金の力で手に入ったのです。貴重だけど、それなりの精度の時計なんかも家にあったし。お父様ありがとう。
結果、基本的に物理法則は地球とほとんど同じだった。具体的な数値は若干異なるけど。
先に式を知ってるから確認するだけだもんね。ずるいよね。ガリレオ、ニュートン、ボイルにラヴォアジェ、エトセトラエトセトラ、ありがとう。
ただ、魔力が絡むと質量もエネルギーも保存されない。興奮する。
ここをきっちり区別した研究は新しく、レポートをまとめて魔術塔に提出した私は一躍学会の寵児になった。
知識チートだ! とか言っておきながら、どうもパクるつもりのなかったパクツイがバズっちゃったみたいな複雑な気持ちになる。でも、魔術の研究全体が底上げされないと、自分ひとりじゃ世界についての探究が進まないから仕方がない。一生もののテーマとはいえ、できるだけ先まで見たいじゃないか。
ただねー、なぜかこの世界では、術式を作る工学的な研究に比べて、世界の仕組みを知るための理学的な研究の地位が低い。「真理の探究w」、「世捨て人w」みたいな扱いなのだ。
だから、寵児と言っても人口の少ないマイナー分野でちょっともてはやされただけだ。まだ魔術の実技をしちゃいけない年齢で、術式の一つも作ったことがないから、魔術塔にも入れない。
わかるよー、「社会の役に立つ」って大事。でも、土台になる部分がしっかりしてないと先細りになる。というか、すでに先細りがはじまってる。ごく一部の熱心な探究者たちも、予算がないから、一般向け術式の開発で稼いで、残りの時間を細々と理論研究に当ててる状態で、限界があるのよね。
でも、この国では、術式開発してお金稼ぐなりパトロン得るなりしないと一人前じゃない、ということを若造が簡単に変えられもしない。
そんなわけで、私もがっつり術式で稼ぎつつ、発言力を高め、徐々に理論研究の大切さを説いていきたいと思う。
そんな中、私がはじめて「体感」した高度な魔術は、乙女ゲームの設定にも関わってくるものだった。
この世界で、奔放な「仮のお付き合い」が可能になっている理由。それが、処女を守るための術式だ。
簡単に言えば、処女膜のさらに手前の部分に外からの侵入をさせない膜を貼るというもの。内側から外側に向けて通過するのは阻まないけれど、外から内には入らない。衛生上の問題から、通気性はある。そして横方向への伸縮自在。すごい。
この魔術は、母や伯母といった女性の親族によって、初潮を迎えると施されるものだ。近い女性の親族がいなかったり、いても魔力が少なすぎてこの術式を扱えなかったりする場合は、魔術塔の支部である各地の魔術協会に行けばしてもらえる。
これをするのは貴族か、それに匹敵する裕福な家くらいだから、お値段は相当お高いそうだ。
基本的にはかけた本人以外解けないけど、当初、術者が早くに死んでしまってお嫁に行けなくなってしまったり、親が反対する相手との結婚ができないように解いてもらえなかったりといった問題が起こったため、現在では年齢と本人の意志を確認した上で、簡単な調査を経れば、魔術協会で解いてもらえるようになっている。
物理的に処女を守れて、避妊にもなる。そうなれば若者が多少性に奔放でも、問題は起こらない。
さすがR18世界。まったくもって便利だ。
さらに、婚約後はほとんどのカップルがその魔術を解いて、今度は子宮口の手前に膜を張るという避妊の魔術を施すという。婚約から結婚までの間は、妊娠さえしなければ何をしてもいいお楽しみ期間だからだ。
ほんと、奔放すぎでは。
他にも、とても細かい金属の細工物を作るとか、舞台の大掛かりな演出とか、文化的な方面も魔術のおかげで進んでいる。
いろいろな事例を見たり聞いたりしたけど、魔術、マジすごい。
でもまずは理論だ。
無事、特例措置をもぎ取った私は、座学で理論を学んだ。なんでもありな魔法というよりは科学技術に近いため、ますます私は魔術にのめり込んだ。
おもしろいのは、多くの魔術師には、「魔力由来の現象」と「魔力がなかった場合の物理現象」の区別がはっきりとはついていないようだということだ。それに対し、私は「魔力がない世界」を知っているから、それらを区別するのは容易い。
とはいえ、区別できているつもりになっているだけだといけないから、いろいろと「魔力抜き」の状態での実験をしてみた。魔術のおかげで金属やガラス加工の技術は進んでいたから、実験器具はお金の力で手に入ったのです。貴重だけど、それなりの精度の時計なんかも家にあったし。お父様ありがとう。
結果、基本的に物理法則は地球とほとんど同じだった。具体的な数値は若干異なるけど。
先に式を知ってるから確認するだけだもんね。ずるいよね。ガリレオ、ニュートン、ボイルにラヴォアジェ、エトセトラエトセトラ、ありがとう。
ただ、魔力が絡むと質量もエネルギーも保存されない。興奮する。
ここをきっちり区別した研究は新しく、レポートをまとめて魔術塔に提出した私は一躍学会の寵児になった。
知識チートだ! とか言っておきながら、どうもパクるつもりのなかったパクツイがバズっちゃったみたいな複雑な気持ちになる。でも、魔術の研究全体が底上げされないと、自分ひとりじゃ世界についての探究が進まないから仕方がない。一生もののテーマとはいえ、できるだけ先まで見たいじゃないか。
ただねー、なぜかこの世界では、術式を作る工学的な研究に比べて、世界の仕組みを知るための理学的な研究の地位が低い。「真理の探究w」、「世捨て人w」みたいな扱いなのだ。
だから、寵児と言っても人口の少ないマイナー分野でちょっともてはやされただけだ。まだ魔術の実技をしちゃいけない年齢で、術式の一つも作ったことがないから、魔術塔にも入れない。
わかるよー、「社会の役に立つ」って大事。でも、土台になる部分がしっかりしてないと先細りになる。というか、すでに先細りがはじまってる。ごく一部の熱心な探究者たちも、予算がないから、一般向け術式の開発で稼いで、残りの時間を細々と理論研究に当ててる状態で、限界があるのよね。
でも、この国では、術式開発してお金稼ぐなりパトロン得るなりしないと一人前じゃない、ということを若造が簡単に変えられもしない。
そんなわけで、私もがっつり術式で稼ぎつつ、発言力を高め、徐々に理論研究の大切さを説いていきたいと思う。
そんな中、私がはじめて「体感」した高度な魔術は、乙女ゲームの設定にも関わってくるものだった。
この世界で、奔放な「仮のお付き合い」が可能になっている理由。それが、処女を守るための術式だ。
簡単に言えば、処女膜のさらに手前の部分に外からの侵入をさせない膜を貼るというもの。内側から外側に向けて通過するのは阻まないけれど、外から内には入らない。衛生上の問題から、通気性はある。そして横方向への伸縮自在。すごい。
この魔術は、母や伯母といった女性の親族によって、初潮を迎えると施されるものだ。近い女性の親族がいなかったり、いても魔力が少なすぎてこの術式を扱えなかったりする場合は、魔術塔の支部である各地の魔術協会に行けばしてもらえる。
これをするのは貴族か、それに匹敵する裕福な家くらいだから、お値段は相当お高いそうだ。
基本的にはかけた本人以外解けないけど、当初、術者が早くに死んでしまってお嫁に行けなくなってしまったり、親が反対する相手との結婚ができないように解いてもらえなかったりといった問題が起こったため、現在では年齢と本人の意志を確認した上で、簡単な調査を経れば、魔術協会で解いてもらえるようになっている。
物理的に処女を守れて、避妊にもなる。そうなれば若者が多少性に奔放でも、問題は起こらない。
さすがR18世界。まったくもって便利だ。
さらに、婚約後はほとんどのカップルがその魔術を解いて、今度は子宮口の手前に膜を張るという避妊の魔術を施すという。婚約から結婚までの間は、妊娠さえしなければ何をしてもいいお楽しみ期間だからだ。
ほんと、奔放すぎでは。
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