異世界でうさぎになって、狼獣人に食べられました

榎本ペンネ

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番外編

ハロン番外編2

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「成人したから早く結婚しろとお父様がうるさくて……」
「まあ、あの親父さんはなぁ」

 娘に愛情はあるが、娘の結婚で利も得たいという、食えない商人だ。

「なんでそんなに結婚が嫌なんだ。相手が悪いのか? 貴族のじじぃの後妻とか」
「違いますわ! お父様もさすがにそんなところに私をやったりいたしません。……今回のお話は、小さな男爵家の跡取りの方です。少し貧乏で、うちが援助することに。年齢は確か22歳とか」
「悪くない条件じゃないか」

 真面目に話を聞いて、そう返すと、ニコリーはまた頬を膨らました。ただ、さっきより勢いがない。

「……そうですよ。悪くないです。お会いしましたけど、優しそうな人でした」
「じゃあなんでそんなに嫌がってるんだ」
「お慕いしている方がいるからです! その方は、私が浮名を流そうとしたのを止めてはくださっても、私のことは眼中にないようですし」
「ほー」

 それは知らなかった。ニコリーも年頃ということか。

「頑張って浮き名を流せば、嫁入り先が減って、その方が渋々でももらってくださるかと思ったのですけど、男性が怖くてその作戦も失敗しましたし」
「お、おぅ」

 なかなか強かな作戦を練っていたんだな。狙われてる男、頑張れ……。

「わたくし、それで決意いたしましたの」
「うんうん」
「心に決めた方に、無理矢理はじめてをもらってもらおうと!」
「待て待て待て」

 思わず額に手を当ててしまう。ニコリーは時々暴走することがある。これを止めるのも兄貴分の努めだろう。

「いいか、まず、おまえにそれができるかどうかは置いておいてだ。基本的に無理矢理は犯罪だ」

 ニコリーの肩に手を置き、目に力を込めて言う。ニコリーはあっさり頷いた。

「そうですわね」
「わかっているならやめような」
「やめません!」
「お、おぅ」

 涙目で必死の様子のニコリーに、ただならぬものを感じて少し腰が引けた。

「えーと、まず、相手はどんなやつなんだ?」
「……幼馴染、のようなものです」
「なるほどな。それなら普通に気持ちを伝えるところから始めたほうがいいんじゃねぇか?」

 ナイスアドバイス、俺。今は独り身だが、恋愛経験はそこそこあるし、大人として無難な落とし所を見つけてやらないと、ニコリーが大変なことになりそうだ。

「気持ちは昔から伝えています! ……伝わらないだけで」
「そいつ鈍いんだな」
「ええ、鈍いんです」

 ニコリーは溜息を吐いて、肩に掛けたままだった鞄を下ろす。鞄から水筒を出して二人分のカップに注いだ。

「どうぞ」
「ああ、ありがとな」

 ちょうど喉が渇いていたところだったので、すぐに飲み干す。蜂蜜の入った紅茶だった。
 ニコリーはよく、紅茶を淹れたり菓子を作ったりしては、俺のところに持ってきて一緒にお茶をするのが好きだった。可愛いところがあると思う。

(幼馴染とやらは、なんでニコリーの気持ちに気づかないかね)

 兄貴分の欲目かもしれないが、ニコリーはとても可愛い。顔立ちも可愛らしいし、小さい身体でちょこまか動いている様も、身体の割に大きくて毛艶のいい尻尾も、全体的に小動物そのものだ。
 お嬢様っぽい口調で高飛車に聞こえるかもしれないが、実際は裏表なくわかりやすく、性格もいいし、料理もうまい。
 親父さんはちょっと怖いが、嫁にするにはいい条件だと思うんだが。

「とりあえず、俺としては妹分に犯罪を犯させるわけにはいかねぇ。詳しいことを話せ」

 ニコリーは紅茶を少し飲んだ後、手の中でカップを弄んでいる。それに目を落として、ぽつりぽつりと話し出した。

「わたくし、子どもの頃からその方のことが好きで、ずっとそう言っておりますのに妹扱いで……。今までは未成年だったから仕方ないと自分に言い聞かせてまいりましたけど、成人したことにも気づいてもらえなくて……」
「それは悲しかっただろうな」
「……ええ、とても。私はその方のことを兄と思ったことなど一度もありませんのに」

 これは完全に片思いだな。となると、はっきりさせて玉砕しない限り、引きずりそうだ。

「何とか気持ちをわからせるのが先決だな」
「ええ、わたくしもそう思うんです」

 俯いていたニコリーが、顔を上げてにっこりと笑った。

「ですから、お紅茶に媚薬を入れさせていただきました」
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