19 / 40
番外編
ハロン番外編2
しおりを挟む
「成人したから早く結婚しろとお父様がうるさくて……」
「まあ、あの親父さんはなぁ」
娘に愛情はあるが、娘の結婚で利も得たいという、食えない商人だ。
「なんでそんなに結婚が嫌なんだ。相手が悪いのか? 貴族のじじぃの後妻とか」
「違いますわ! お父様もさすがにそんなところに私をやったりいたしません。……今回のお話は、小さな男爵家の跡取りの方です。少し貧乏で、うちが援助することに。年齢は確か22歳とか」
「悪くない条件じゃないか」
真面目に話を聞いて、そう返すと、ニコリーはまた頬を膨らました。ただ、さっきより勢いがない。
「……そうですよ。悪くないです。お会いしましたけど、優しそうな人でした」
「じゃあなんでそんなに嫌がってるんだ」
「お慕いしている方がいるからです! その方は、私が浮名を流そうとしたのを止めてはくださっても、私のことは眼中にないようですし」
「ほー」
それは知らなかった。ニコリーも年頃ということか。
「頑張って浮き名を流せば、嫁入り先が減って、その方が渋々でももらってくださるかと思ったのですけど、男性が怖くてその作戦も失敗しましたし」
「お、おぅ」
なかなか強かな作戦を練っていたんだな。狙われてる男、頑張れ……。
「わたくし、それで決意いたしましたの」
「うんうん」
「心に決めた方に、無理矢理はじめてをもらってもらおうと!」
「待て待て待て」
思わず額に手を当ててしまう。ニコリーは時々暴走することがある。これを止めるのも兄貴分の努めだろう。
「いいか、まず、おまえにそれができるかどうかは置いておいてだ。基本的に無理矢理は犯罪だ」
ニコリーの肩に手を置き、目に力を込めて言う。ニコリーはあっさり頷いた。
「そうですわね」
「わかっているならやめような」
「やめません!」
「お、おぅ」
涙目で必死の様子のニコリーに、ただならぬものを感じて少し腰が引けた。
「えーと、まず、相手はどんなやつなんだ?」
「……幼馴染、のようなものです」
「なるほどな。それなら普通に気持ちを伝えるところから始めたほうがいいんじゃねぇか?」
ナイスアドバイス、俺。今は独り身だが、恋愛経験はそこそこあるし、大人として無難な落とし所を見つけてやらないと、ニコリーが大変なことになりそうだ。
「気持ちは昔から伝えています! ……伝わらないだけで」
「そいつ鈍いんだな」
「ええ、鈍いんです」
ニコリーは溜息を吐いて、肩に掛けたままだった鞄を下ろす。鞄から水筒を出して二人分のカップに注いだ。
「どうぞ」
「ああ、ありがとな」
ちょうど喉が渇いていたところだったので、すぐに飲み干す。蜂蜜の入った紅茶だった。
ニコリーはよく、紅茶を淹れたり菓子を作ったりしては、俺のところに持ってきて一緒にお茶をするのが好きだった。可愛いところがあると思う。
(幼馴染とやらは、なんでニコリーの気持ちに気づかないかね)
兄貴分の欲目かもしれないが、ニコリーはとても可愛い。顔立ちも可愛らしいし、小さい身体でちょこまか動いている様も、身体の割に大きくて毛艶のいい尻尾も、全体的に小動物そのものだ。
お嬢様っぽい口調で高飛車に聞こえるかもしれないが、実際は裏表なくわかりやすく、性格もいいし、料理もうまい。
親父さんはちょっと怖いが、嫁にするにはいい条件だと思うんだが。
「とりあえず、俺としては妹分に犯罪を犯させるわけにはいかねぇ。詳しいことを話せ」
ニコリーは紅茶を少し飲んだ後、手の中でカップを弄んでいる。それに目を落として、ぽつりぽつりと話し出した。
「わたくし、子どもの頃からその方のことが好きで、ずっとそう言っておりますのに妹扱いで……。今までは未成年だったから仕方ないと自分に言い聞かせてまいりましたけど、成人したことにも気づいてもらえなくて……」
「それは悲しかっただろうな」
「……ええ、とても。私はその方のことを兄と思ったことなど一度もありませんのに」
これは完全に片思いだな。となると、はっきりさせて玉砕しない限り、引きずりそうだ。
「何とか気持ちをわからせるのが先決だな」
「ええ、わたくしもそう思うんです」
俯いていたニコリーが、顔を上げてにっこりと笑った。
「ですから、お紅茶に媚薬を入れさせていただきました」
「まあ、あの親父さんはなぁ」
娘に愛情はあるが、娘の結婚で利も得たいという、食えない商人だ。
「なんでそんなに結婚が嫌なんだ。相手が悪いのか? 貴族のじじぃの後妻とか」
「違いますわ! お父様もさすがにそんなところに私をやったりいたしません。……今回のお話は、小さな男爵家の跡取りの方です。少し貧乏で、うちが援助することに。年齢は確か22歳とか」
「悪くない条件じゃないか」
真面目に話を聞いて、そう返すと、ニコリーはまた頬を膨らました。ただ、さっきより勢いがない。
「……そうですよ。悪くないです。お会いしましたけど、優しそうな人でした」
「じゃあなんでそんなに嫌がってるんだ」
「お慕いしている方がいるからです! その方は、私が浮名を流そうとしたのを止めてはくださっても、私のことは眼中にないようですし」
「ほー」
それは知らなかった。ニコリーも年頃ということか。
「頑張って浮き名を流せば、嫁入り先が減って、その方が渋々でももらってくださるかと思ったのですけど、男性が怖くてその作戦も失敗しましたし」
「お、おぅ」
なかなか強かな作戦を練っていたんだな。狙われてる男、頑張れ……。
「わたくし、それで決意いたしましたの」
「うんうん」
「心に決めた方に、無理矢理はじめてをもらってもらおうと!」
「待て待て待て」
思わず額に手を当ててしまう。ニコリーは時々暴走することがある。これを止めるのも兄貴分の努めだろう。
「いいか、まず、おまえにそれができるかどうかは置いておいてだ。基本的に無理矢理は犯罪だ」
ニコリーの肩に手を置き、目に力を込めて言う。ニコリーはあっさり頷いた。
「そうですわね」
「わかっているならやめような」
「やめません!」
「お、おぅ」
涙目で必死の様子のニコリーに、ただならぬものを感じて少し腰が引けた。
「えーと、まず、相手はどんなやつなんだ?」
「……幼馴染、のようなものです」
「なるほどな。それなら普通に気持ちを伝えるところから始めたほうがいいんじゃねぇか?」
ナイスアドバイス、俺。今は独り身だが、恋愛経験はそこそこあるし、大人として無難な落とし所を見つけてやらないと、ニコリーが大変なことになりそうだ。
「気持ちは昔から伝えています! ……伝わらないだけで」
「そいつ鈍いんだな」
「ええ、鈍いんです」
ニコリーは溜息を吐いて、肩に掛けたままだった鞄を下ろす。鞄から水筒を出して二人分のカップに注いだ。
「どうぞ」
「ああ、ありがとな」
ちょうど喉が渇いていたところだったので、すぐに飲み干す。蜂蜜の入った紅茶だった。
ニコリーはよく、紅茶を淹れたり菓子を作ったりしては、俺のところに持ってきて一緒にお茶をするのが好きだった。可愛いところがあると思う。
(幼馴染とやらは、なんでニコリーの気持ちに気づかないかね)
兄貴分の欲目かもしれないが、ニコリーはとても可愛い。顔立ちも可愛らしいし、小さい身体でちょこまか動いている様も、身体の割に大きくて毛艶のいい尻尾も、全体的に小動物そのものだ。
お嬢様っぽい口調で高飛車に聞こえるかもしれないが、実際は裏表なくわかりやすく、性格もいいし、料理もうまい。
親父さんはちょっと怖いが、嫁にするにはいい条件だと思うんだが。
「とりあえず、俺としては妹分に犯罪を犯させるわけにはいかねぇ。詳しいことを話せ」
ニコリーは紅茶を少し飲んだ後、手の中でカップを弄んでいる。それに目を落として、ぽつりぽつりと話し出した。
「わたくし、子どもの頃からその方のことが好きで、ずっとそう言っておりますのに妹扱いで……。今までは未成年だったから仕方ないと自分に言い聞かせてまいりましたけど、成人したことにも気づいてもらえなくて……」
「それは悲しかっただろうな」
「……ええ、とても。私はその方のことを兄と思ったことなど一度もありませんのに」
これは完全に片思いだな。となると、はっきりさせて玉砕しない限り、引きずりそうだ。
「何とか気持ちをわからせるのが先決だな」
「ええ、わたくしもそう思うんです」
俯いていたニコリーが、顔を上げてにっこりと笑った。
「ですから、お紅茶に媚薬を入れさせていただきました」
0
あなたにおすすめの小説
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜
紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。
連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。