JKは女社長に拾われました

白波ハクア

文字の大きさ
6 / 15

6. とても面倒臭かった

しおりを挟む



 マンションを出た時、タイミング良く真っ黒な車が目の前に停まった。

 大統領が乗っていそうな、幅が広くて高そうな車だ。
 もしかしたら、このマンションに国のお偉いさんが住んでいるのかも。東京で一番の高層マンションだと言っていたし、あり得ない話ではない。

 通行の邪魔になるのは迷惑だし、道の端に寄ったほうがいいかな。

 そう思っていたら、運転席からスーツ姿の女性が降りてきて、こちらに歩いてきた。
 可愛いというよりはカッコいいと言ったほうが正しい。そんな女性だ。

「朝比奈様、お迎えにあがりました。お待たせしてしまい、申し訳ありません」
「いいわ。私達も今来たところだから」

 どうやら、運転手は朝比奈さんと知り合いらしい──って、朝比奈さんと知り合い?

「……朝比奈様。そちらのお嬢様は?」

 女性の視線がこちらに向いて、思わずその視線から逃れようと朝比奈さんの影に隠れてしまった。

「紹介するわ。六条梓ちゃんよ。私の恋人」
「朝比奈さん!」
「六条……なるほど。ようやく朝比奈様にも春が訪れたのですね」
「ようやくは余計よ。でも、最高に可愛い恋人が出来て、私は幸せだわ」

 本人の目の前でベタ褒めされて恥ずかしくなり、俯き、顔を両手で覆う。
 世の中には『穴があれば入りたい』という言葉があるけれど、今の私に最も適している言葉は間違いなくそれだ。


「──梓様」

 近くから声が聞こえた。
 目を開いて前を向くと、運転手の顔が近くにあった。

「初めまして、私は朝倉紫乃と申します。朝比奈様の専属ボディーガードをしております。これから何度かお会いすることになるでしょう。よろしくお願いいたします」
「……よろしく、お願いします。えっと……六条梓です」

 敬語なんて使われたことがないから、むず痒くて仕方ない。
 しかも、近くから見ると本当に美人だ。真っ直ぐに見つめられると、なぜかこちらが恥ずかしくなる。

「梓様とお呼びしてもよろしいですか?」
「あの、『様』はいらないです。私は、ごく普通の庶民なので……」
「私は朝比奈様にお仕えしています。梓様はパートナーなのですから、呼び捨てするわけにはいきません」

 そのようなことを言われても、今まで周囲の人間から名前すら呼んでもらったことがない私だ。急に『様』と呼ばれたら、むず痒くて仕方ない。

 ……これも朝比奈さんの恋人になる影響、なのかな。

「わかりました。まだ慣れることはないと思いますが、それでもいいのであれば……よろしくお願いします、朝倉さん」
「……ええ。それと、私のことは紫乃とお呼びください。今後は朝倉家の人間と会うことも多いでしょう。家名では他の者が混乱してしまいますからね」
「……はい。紫乃さん」

 紫乃さんが右手を差し出す。
 すぐに握手を求めているんだろうなと察して、私はそれを握った。

「…………むぅ……」

 と、真横から不満気な声が聞こえてきた。

 声の主はもちろん朝比奈さんで、子供のように頬を膨らませている。ちょっとだけ可愛いと思った私に対して、紫乃さんは面倒臭そうに顔を顰めた。

「私はまだ名前で呼んでもらったことがないのに……ずるいわ」

 訂正。これは面倒臭い。

 まさか嫉妬されるとは思っていなかった。
 でも確かに、恋人同士なのに苗字で呼ぶのは変なのかも。

「あの、朝比奈さんも名前で呼んだほうがいいですか?」
「……別に今のままで構わないわ。人の呼び方は人それぞれだもの。強要するようなことではないけれど…………いつかは名前で呼んでほしいかしら」

 つまり、名前で呼んでほしいとは思っていると。

「面倒臭い女になっていますよ、朝比奈様。束縛の強い女性は、恋人から距離を置かれやすいと聞いたことがあります」
「梓ちゃんの好きに呼んでくれて構わないわ!」

 切り替わり早いなぁ……。
 そんなに私に嫌われたくないんだ。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

久しぶりに帰省したら私のことが大好きな従妹と姫はじめしちゃった件

楠富 つかさ
恋愛
久しぶりに帰省したら私のことが大好きな従妹と姫はじめしちゃうし、なんなら恋人にもなるし、果てには彼女のために職場まで変える。まぁ、愛の力って偉大だよね。 ※この物語はフィクションであり実在の地名は登場しますが、人物・団体とは関係ありません。

春に狂(くる)う

転生新語
恋愛
 先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。  小説家になろう、カクヨムに投稿しています。  小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/  カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761

身体だけの関係です‐三崎早月について‐

みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」 三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。 クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。 中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。 ※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。 12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。 身体だけの関係です 原田巴について https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789 作者ツイッター: twitter/minori_sui

放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~

楠富 つかさ
恋愛
 中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。  佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。  「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」  放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。  ――けれど、佑奈は思う。 「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」  特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。  放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。 4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

さくらと遥香(ショートストーリー)

youmery
恋愛
「さくらと遥香」46時間TV編で両想いになり、周りには内緒で付き合い始めたさくちゃんとかっきー。 その後のメインストーリーとはあまり関係してこない、単発で読めるショートストーリー集です。 ※さくちゃん目線です。 ※さくちゃんとかっきーは周りに内緒で付き合っています。メンバーにも事務所にも秘密にしています。 ※メインストーリーの長編「さくらと遥香」を未読でも楽しめますが、46時間TV編だけでも読んでからお読みいただくことをおすすめします。 ※ショートストーリーはpixivでもほぼ同内容で公開中です。

処理中です...