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7. 初めて喫茶店に来た
しおりを挟む紫乃さんの車に乗って、朝比奈さんが予約したというお店に向かう。
どんな豪華なものが来ても平常心を保とうと内心覚悟を決めていたけれど、到着したのは思ったよりも普通の喫茶店だった。
落ち着いた雰囲気のあるお洒落なお店で、利用している客は女性客やカップルがほとんどで、楽しそうに談笑しながらお茶や軽食を楽しんでいる。
もしかしたら、私が慣れていないからと気を遣って、雰囲気の良い店を選んでくれたのかもしれない。
「ここの店はデザートが美味しくてね。特に焼きたてのワッフルがオススメなのよ」
「ワッフル……食べたことがないです。朝比奈さんが勧めるのだから、きっと美味しいんでしょうね」
他のテーブルに並んでいる物はどれも美味しそうだ。
今日はまだ何も食べていなかったことを思い出して、空腹感に思わず気を抜いてしまいそうになる。
「店員さん。注文をいいかしら?」
近くを通り過ぎた店員を呼び止め、朝比奈さんはメニュー表を開いた。
「日替わりのサンドイッチ。紅茶はアイスのアールグレイで、先に持ってきてちょうだい。食後のデザートにワッフルとチョコクレープを一つずつ」
梓ちゃんはどうする? とメニュー表を渡される。
色々な商品名があって混乱するし、こういうお店には入ったことがないので、何が美味しいのかわからない。
結局、軽食と飲み物は朝比奈さんと同じのを頼んで、デザートは苺パフェを頼んだ。
あれほどオススメされたワッフルを注文しなかったのは、朝比奈さんが半分分けてくれると言ってくれたからだ。朝比奈さん曰く、この店で提供されるワッフルの量は多いらしく、女性が一人で食べきるのは厳しいのだとか。
「苺パフェ、好きなの?」
「苺を食べたことがなかったので……美味しいと聞きますし、どんな味がするのかと気になって」
季節によるだろうけれど、苺は基本『高いもの』と認識している。
だから、食費を節約していた私にそれを買う余裕はなかったし、一度も食べようと思ったこともなかった。
こうしてお金の余裕も出来たことだし、ちょっとなら贅沢してもいいよね?
「好きな物を食べるといいわ。もう我慢することなんてないのだから」
「……はい。ありがとうございます」
「この程度で感謝されるのも複雑だけれどね」
苺程度のことで感謝する必要はないと、苦笑しながら朝比奈さんは言った。
これからはもっと沢山の場所に連れて行ってくれて、色々な美味しい物を食べさせてくれると約束してくれた。
それを想像すると、胸の辺りがポカポカと温かくなる。不思議な感覚。今までそんな気持ちになったことはなかったから、とても楽しみだ。
「と、先に紅茶が来たわね」
アイスのアールグレイ、だったっけ?
紅茶は飲んだことがないから味はわからないけれど、良い匂いがする。温かいものだともっと香りが強くなるらしい。
飲む時は砂糖と……ミルクみたいな白い液体を入れるのかな。何もわからない私は、とにかく朝比奈さんの見様見真似でやっていく。
「紅茶は、普通のお茶とは何が違うのですか?」
「製法の違いだと聞くわね。完全に発酵させたものが紅茶で、緑茶は最初に火をかけることで発酵を不完全なものにしているらしいわ」
「……?」
「つまり、どちらも同じようなものから出来ているけれど、作り方と淹れ方で差が出ている。ということよ」
「なるほど」
質問したのは、どうして同じお茶なのに名前が違うの? と疑問に思っただけだ。
正直なところ、紅茶も緑茶も飲んだことがないので、今飲んでも二つの違いなんてわからない。でも、新しいことを知れたのは良いことだ。
これを当然のように知っていて、わかりやすく説明してくれた朝比奈さんはやっぱり凄いな。……なんか、頼れる女性って感じがする。
「最近は面白い茶葉も出てきてね。バレンタインの日なんかは、チョコ風味の紅茶もあったわ。これが案外美味しいのよ」
「そんなものが……凄いですね」
お茶を飲んでいるのに、チョコの匂いがする。
想像してみたら、ちょっと気になってしまった。
……今は春が始まったばかり。二年生になってまだ一ヶ月。でも、もうバレンタインの季節は過ぎたから、流石に売り切れちゃったかな?
「アールグレイも充分に美味しいけどね。……とりあえず、飲んでみたら?」
頷き、恐る恐るストローに口を付ける。
紅茶を口に入れた途端、香ってきていた匂いが口の中に広がった。砂糖とミルクの甘さも感じられて、夢中になってチューチューと吸ってしまう。
「……ん、ん……美味しい、です」
今までは節約のために水しか飲んでこなかった。
こんなに美味しい飲み物があるなんて知らなかったから、驚きは大きい。
「紅茶一つでここまで機嫌が良くなるなんて……本当に、今まで辛い思いをしてきたのね」
そう言われて、どうなのかなと考える。
「私は、それが普通だと思って暮らしていたので、あまり辛いとは感じませんでした」
今思えば、私を嫌々引き取った親戚は最低な人で、その後の周囲もロクな人は居なかったのかもしれない。でも、私にとってはそれが『普通』だった。
その考えが変わったのは、朝比奈さんと出会ってからだ。
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