8 / 15
8. 想像してしまった
しおりを挟む朝比奈さんと出会ったことで、私は不幸だったんだと確信した。
幼い頃に両親を亡くして、それからは幸せを一度も与えてもらえなくて、変な人に付きまとわれて、そのせいで周囲の人間からも遠巻きに見られるようになって……。
もう、そう思わなくていいのかな?
朝比奈さんはこの短期間に色々なものを教えてくれて、色々なものを与えてくれた。
これで捨てられたとしても「良い思い出だった」、「幸せな夢物語だった」って笑うことが出来ると、私は胸を張ってそう言える。
「朝比奈さん。ありがとうございました。私は幸せでした」
「待って待って。ちょっと話が飛躍しすぎて理解が追いつかないわ。幸せでしたって……これからもっと幸せにするのだから、紅茶一つで満足しないで? お願いだから」
と、つい心の声が漏れてしまった。
「……あ、すいません。捨てられた時のことを想像してしまいました」
「捨てないわよ。死ぬまで一生、離してあげないから。……まだ信用されていないのは、少しだけ悲しいけれど」
「……ごめんなさい」
「謝らなくていいわよ。梓ちゃんの境遇は理解しているもの。すぐに人を信じられないのも仕方ない。…………ほんと、社会から抹殺してやろうかしら、あの屑ども」
後半は小さくてよく聞こえなかったけれど、私に向けての言葉ではないことだけはわかった。
理由は怖い顔で遠くを見つめていたから。
……もしかして怒ってる?
「朝比奈さん?」
「っ、ごめんなさい。今は梓ちゃんが優先よね。……さぁ、サンドイッチも来たことだし、軽く腹ごしらえをしてしまいましょう。この後は色々と連れ回す予定だから、体力は付けておかないとね」
朝比奈さんは運ばれてきたサンドイッチを両手で掴んで、美味しそうに頬張った。
それに釣られて私も手を伸ばし、口に入れる。ふわふわなパンの間に挟まれている卵とハムが美味しくて、シャキシャキとした新鮮な野菜の食感もいい。
「どう? 美味しい?」
食べながら、頷く。
言葉を発することを忘れるほどに、私は夢中になって食べる。
「その反応だけで、ここに連れてきて良かったと思えるわ。……でも、落ち着いて食べなさい。誰も取らないし、サンドイッチは逃げないわよ」
朝比奈さんはおしぼりを手にして、私の口元を拭った。
食べるのに夢中になりすぎて、ソースが付いていたみたいだ。これでは子供と変わらない。「ごめんなさい」と謝罪し、幻滅させちゃったかなと心配になった。
「梓ちゃんの可愛い一面を見られたから、それでチャラよ」
「……可愛い、ですか……」
「ええ、とっても。紅茶の香りに目を輝かせる姿も、サンドイッチに夢中になる姿も。恋人の楽しそうな姿を見られるというのは、とっても嬉しいことだわ」
ニコリと微笑まれ、顔が赤くなる。
途端に視線を合わせるのが恥ずかしくなった私は視線を下に、次は落ち着いてサンドイッチを口に運んだ。
この状況になってもまだ食べようと思う自分自身に驚いたけれど、美味しいものに罪はない。目の前にあったら食べたくなるのは人として当然のこと……って、何を言っているんだろう、私……。何かに言い訳するなんて、初めて今までしたことなかったのに。
「……このサンドイッチが悪いんです」
「ん? 何か言った?」
何でもないと首を振り、食べ進める。
その後、食後のデザートとして運ばれたワッフルとチョコクレープ、苺パフェも満足するまで堪能した。
楽しみにしていた苺はとても甘くて、ひと噛みするだけで汁がドバッと溢れ出して、思わず声を出して驚いてしまった。
そんな私の反応を、やっぱり朝比奈さんは面白そうに見つめていた。
お勧めされていたワッフルも半分こして食べた。こっちも凄く美味しかったけれど、私も朝比奈さんも少食寄りなので、一人で食べるには厳しい量がある。
でも、二人で食べると少し物足りない。
また食べたいと呟いた私に、朝比奈さんは次も一緒に来ようと約束してくれた。それを聞いて、また胸の辺りがポカポカして、自然と顔が緩む。
──また朝比奈さんと食べられる。
誰とも関わりたくないと思っていた私が、誰かと一緒にご飯の約束をする。
そのことが信じられなくて……でも、不思議とそれが嫌とは思えなくて。
私は、私の中に宿りつつある感情に戸惑っていた。
0
あなたにおすすめの小説
学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった
白藍まこと
恋愛
主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。
クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。
明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。
しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。
そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。
三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。
※他サイトでも掲載中です。
AV研は今日もハレンチ
楠富 つかさ
キャラ文芸
あなたが好きなAVはAudioVisual? それともAdultVideo?
AV研はオーディオヴィジュアル研究会の略称で、音楽や動画などメディア媒体の歴史を研究する集まり……というのは建前で、実はとんでもないものを研究していて――
薄暗い過去をちょっとショッキングなピンクで塗りつぶしていくネジの足りない群像劇、ここに開演!!
春に狂(くる)う
転生新語
恋愛
先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/
カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
幼馴染みのメッセージに打ち間違い返信したらとんでもないことに
家紋武範
恋愛
となりに住む、幼馴染みの夕夏のことが好きだが、その思いを伝えられずにいた。
ある日、夕夏のメッセージに返信しようとしたら、間違ってとんでもない言葉を送ってしまったのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる