JKは女社長に拾われました

白波ハクア

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8. 想像してしまった

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 朝比奈さんと出会ったことで、私は不幸だったんだと確信した。
 幼い頃に両親を亡くして、それからは幸せを一度も与えてもらえなくて、変な人に付きまとわれて、そのせいで周囲の人間からも遠巻きに見られるようになって……。

 もう、そう思わなくていいのかな?

 朝比奈さんはこの短期間に色々なものを教えてくれて、色々なものを与えてくれた。
 これで捨てられたとしても「良い思い出だった」、「幸せな夢物語だった」って笑うことが出来ると、私は胸を張ってそう言える。

「朝比奈さん。ありがとうございました。私は幸せでした」
「待って待って。ちょっと話が飛躍しすぎて理解が追いつかないわ。幸せでしたって……これからもっと幸せにするのだから、紅茶一つで満足しないで? お願いだから」

 と、つい心の声が漏れてしまった。

「……あ、すいません。捨てられた時のことを想像してしまいました」
「捨てないわよ。死ぬまで一生、離してあげないから。……まだ信用されていないのは、少しだけ悲しいけれど」
「……ごめんなさい」
「謝らなくていいわよ。梓ちゃんの境遇は理解しているもの。すぐに人を信じられないのも仕方ない。…………ほんと、社会から抹殺してやろうかしら、あの屑ども」

 後半は小さくてよく聞こえなかったけれど、私に向けての言葉ではないことだけはわかった。
 理由は怖い顔で遠くを見つめていたから。

 ……もしかして怒ってる?

「朝比奈さん?」
「っ、ごめんなさい。今は梓ちゃんが優先よね。……さぁ、サンドイッチも来たことだし、軽く腹ごしらえをしてしまいましょう。この後は色々と連れ回す予定だから、体力は付けておかないとね」

 朝比奈さんは運ばれてきたサンドイッチを両手で掴んで、美味しそうに頬張った。
 それに釣られて私も手を伸ばし、口に入れる。ふわふわなパンの間に挟まれている卵とハムが美味しくて、シャキシャキとした新鮮な野菜の食感もいい。

「どう? 美味しい?」

 食べながら、頷く。
 言葉を発することを忘れるほどに、私は夢中になって食べる。

「その反応だけで、ここに連れてきて良かったと思えるわ。……でも、落ち着いて食べなさい。誰も取らないし、サンドイッチは逃げないわよ」

 朝比奈さんはおしぼりを手にして、私の口元を拭った。
 食べるのに夢中になりすぎて、ソースが付いていたみたいだ。これでは子供と変わらない。「ごめんなさい」と謝罪し、幻滅させちゃったかなと心配になった。

「梓ちゃんの可愛い一面を見られたから、それでチャラよ」
「……可愛い、ですか……」
「ええ、とっても。紅茶の香りに目を輝かせる姿も、サンドイッチに夢中になる姿も。恋人の楽しそうな姿を見られるというのは、とっても嬉しいことだわ」

 ニコリと微笑まれ、顔が赤くなる。

 途端に視線を合わせるのが恥ずかしくなった私は視線を下に、次は落ち着いてサンドイッチを口に運んだ。

 この状況になってもまだ食べようと思う自分自身に驚いたけれど、美味しいものに罪はない。目の前にあったら食べたくなるのは人として当然のこと……って、何を言っているんだろう、私……。何かに言い訳するなんて、初めて今までしたことなかったのに。

「……このサンドイッチが悪いんです」
「ん? 何か言った?」

 何でもないと首を振り、食べ進める。

 その後、食後のデザートとして運ばれたワッフルとチョコクレープ、苺パフェも満足するまで堪能した。
 楽しみにしていた苺はとても甘くて、ひと噛みするだけで汁がドバッと溢れ出して、思わず声を出して驚いてしまった。

 そんな私の反応を、やっぱり朝比奈さんは面白そうに見つめていた。

 お勧めされていたワッフルも半分こして食べた。こっちも凄く美味しかったけれど、私も朝比奈さんも少食寄りなので、一人で食べるには厳しい量がある。

 でも、二人で食べると少し物足りない。
 また食べたいと呟いた私に、朝比奈さんは次も一緒に来ようと約束してくれた。それを聞いて、また胸の辺りがポカポカして、自然と顔が緩む。

 ──また朝比奈さんと食べられる。

 誰とも関わりたくないと思っていた私が、誰かと一緒にご飯の約束をする。
 そのことが信じられなくて……でも、不思議とそれが嫌とは思えなくて。

 私は、私の中に宿りつつある感情に戸惑っていた。


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