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11. 凄いことになった
しおりを挟む日常が始まり、平穏が終わる。
社会人からも学生からも、等しく嫌われるその日の名前は、月曜日。
かく言う私も、学校は別に嫌いではないけれど、どちらかと言えば休日の方が好きだ。面倒臭いなぁという気持ちを持ちつつ、たった二日で堕落しかけた体に鞭打って朝の支度を始める。
「それじゃ、私は仕事に行ってくるわね。梓ちゃんも学校気をつけて行ってらっしゃい。出る時はキーカードを持っていくのを忘れないように。戸締りはセキュリティーが勝手にやってくれるから、気にしなくていいわよ」
早朝、私より早く起きて朝ごはんの支度をしていた朝比奈さんは、それを終わらせると同時に、忙しそうに出て行った。去り際にキスをされたけれど、私に拒絶する権利はないので、それを大人しく受け入れた。もちろん唇同士だ。
その時、ふわりと香水のいい匂いが漂ってきて、これが朝比奈さんの匂いなんだなと、少し変な気持ちになったのは内緒だ。
「行ってらっしゃい」
朝比奈さんを見送った後、私も学校に行く準備が終わった。
朝比奈さんは最初、私が学校に通うことに反対していた。でも、学校に行きたいと強く主張すれば、最後は「外は危険だから、本当はずっと家に居てほしいけれど……束縛だけはしたくない」と、私のやりたいことを尊重してくれた。
このマンションと、私の通っている学校は少し遠い。
前までは徒歩で通学出来る距離にアパートがあったけれど、何かしらの交通手段を用いらなければ毎日の通学は大変になってしまう。
と、朝比奈さんに言ったら、すぐにどこかへ電話を入れていた。
マンションを出る時間を聞かれたから答えたけれど、もう通学の心配はいらない……ってどういうことだろう?
ちょっとだけ不安に思いつつ、部屋のキーカードを忘れずに持って出る。
そうしてマンションの入り口まで出てきた私が見たのは、大統領が乗っているような黒い高級車だった。
「うっわぁ、なんかデジャブ」
通学の心配はいらないって、そういうことだったのか。
紫乃さんに頼むなら、最初からそう言ってくれたら良かったのに。サプライズのつもりで黙っていたのかな?
そう考えていると、運転席から人が降りてきた。
その人は黒いスーツ姿の──可愛らしい見た目をした若い女性だった。
「え?」
脳内に思い描いていた人物と異なる人が出てきたことで、困惑の声を漏らす。
紫乃さんじゃない。あの人はどちらかと言えば『かっこいいクール系の女性』という感じで、今出てきた女性とは全然違う。
でも、どこか彼女に似ているような気がするような……?
「初めまして! 六条梓様でよろしいですか?」
女性……少女? は親しげな笑みを浮かべ、ハキハキとした明るい口調で私の名前を呼んだ。
「はい、そうですけど……あなたは?」
「おっと、自己紹介が遅れました。これから梓さまの送迎を任せていただく、朝倉奈々と申します。姉、朝倉紫乃の妹です。どうぞ、よろしくお願いします!」
「あ、はい……よろしくお願いします。奈々さん」
紫乃さんの妹と言われて、納得した。
……あの人、こんなに可愛らしい妹さんが居たんだ。
クール系の紫乃さんと、可愛い系の奈々さん。面白いくらいに正反対な二人だ。
「学校は桜ヶ咲高校でよろしかったでしょうか?」
「はい。そうです。……お願いします」
「かしこまりました! では、お送りしますね!」
座席に座ると、車はゆっくりと発進した。
流れていく見慣れない景色を眺めていると、ようやく少しは見知った景色が見えるようになる。
「到着しましたよ~」
校門の前に停められて、私は焦った。
今は学生が一番多く登校する時間帯。そこに高級車が停まったら、人の目を集めるのは当然のことで……。
「お帰りの際は、お手数ですが電話での連絡をお願いしますね。遅れる時も事前に連絡を。朝比奈様に報告をしないといけないので」
奈々さんは私の焦りに気づくことなく、運転席から降りて私の所のドアを開いた。
そのせいで更に注目されてしまう。
「行ってらっしゃいませ、梓様!」
「あ、はい。行ってきます」
奇異の視線に晒されながら、車を降りる。
──次からはもっと早めに家を出よう。
そう、心に誓った。
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