12 / 15
12. 約束した
しおりを挟む一日の授業が全て終了し、私は逃げるように学校から帰宅した。
送迎はもちろん、奈々さんの運転する送迎車だ。
「あ、お帰りなさーい」
家に戻り、朝比奈さんが出迎えてくれる。
今日は早めに帰ってくると行っていた。まさか自分よりも早く帰ってくるとは思っていなかったので驚いた。…………でも、ちょうどいい。
「学校はどうだった?」
「どうもこうもありません……!」
叩きつけるように鞄を置き、珍しく声を荒げる。
「何なんですか、あれは。おかげで全生徒から変な目で見られましたよ」
「あら良かったじゃない。邪魔な羽虫が近寄らなくなって」
あっけらかんと言い切られたから、ジト目で睨みつける。
すると流石に居心地が悪くなったのか、朝比奈さんは「あはは」と笑いながら視線を逸らし、言い訳のようなものをポツポツと呟き始めた。
「いやぁ、通学で困っていたから、ちょうどいいかなって思って……朝倉家にもう一人寄越すようにお願いしたの。……それで、梓ちゃんは驚いてもらえるかなって思いまして……ずっと黙っていました。はい、ごめんなさい」
「……ったく、そのせいで全生徒から注目の的でしたよ。お金持ちが乗るような送迎車で登校する生徒なんて、学校で私だけですから」
はぁ、と溜め息を一つ。
「次からは電車で行きます。電車代も自分で出しますから」
「……うーん。それだけは頷けないわね。朝倉は武芸を嗜んでいるから、護衛としても優秀なのよ。私の目が届かない間、梓ちゃんを守るには彼女が適任だと思ったの。いくら梓ちゃんの言葉だろうと、それは譲れない」
「ここまで言っても、まだ引いてくれないのですか」
「ここで引いて、梓ちゃんに何かあったら私は一生、私を恨むもの」
──埒が明かない。
私はいらないと言っているのに、朝比奈さんは譲ってくれない。
「ねぇ、梓ちゃん。私は怖いのよ」
「怖い? ……いったい、何がです?」
──決まっているわ!
朝比奈さんはカッと目を見開き、詰め寄ってきた。
その迫力に私は気圧される。何がそんなに彼女を突き進めるの?
「梓ちゃんは可愛いのよ! とっっっても、可愛いのよ!?」
「あ、はい。それが何か?」
「馬鹿な輩が、梓ちゃんに変な気を起こしたらどうするの! そういう奴らに限って自暴自棄になっているから、貴女一人では危険なのよ。梓ちゃんは細身だから力がないだろうし、組み敷かれたら抵抗できないでしょう?」
そう言われて思い出したのは、過去に起きたストーカー事件。
あの時、私はどうすることもできなかった。逃げ続けても結局は無駄で、追いつかれて、手を掴まれて。もし近くで警察が見回りをしていなかったら、私はどうなっていたのか。
…………考えたくもない。
今となっては過ぎたことだけれど、また同じようなことが起こらないとは限らない。朝比奈さんはそれを危惧している。だからって送迎車と護衛はやり過ぎだけれど、私をあの手この手で守ろうとしてくれていることだけはわかった。
親切心を一方的に拒絶するのは、気が引けるな。
「……わかりましたよ。でも、そういう大切なことは事前に言ってください。急にやられると驚いてしまいます」
「ええ。今日のことは悪かったと思っている。次からはちゃんと言うようにするわ」
「本当ですね?」
「梓ちゃんへの純愛に誓って」
「何ですか、それ……」
そんな誓い方をされたのは初めてですよ。
やっぱり朝比奈さんは変な人だと、改めて認識した。
「──さぁ、送迎の話も纏まったことだし、準備をしちゃいましょう」
パンッと、朝比奈さんは両手を合わせる。
それだけで空気を切り替えてしまうところは、流石は女社長のカリスマだと褒めるべきなのか、それとも私が流されやすいだけなのか。多分、どちらも正しいのかな。
「準備って何ですか?」
「レストランを予約したのよ。そこは最低限のドレスコードが必要だから、悪いけど梓ちゃんも着替えてくれる?」
「…………はい?」
ドレスコードが必要なレストランと聞いて、嫌な予感しかしなかった。
絶対に高いやつだ。しかも金銭感覚が狂っていて、なぜか私を溺愛している朝比奈さんのことだ。最高級とか言い出すに決まっている。
最低限の、とか言っていたけれど、かなり本気で着飾らないと店に入ることすら許されないやつだ。
しかも、私にはそれ以前の問題がある。
「ドレス、持ってないです」
庶民の中で、ドレスを持っている人は少ない……と思う。
朝比奈さんは当たり前に持っているんだろうけど、簡単に浪費できない庶民からすれば、ほとんど使わないドレスは基本必要のない物だ。
もし使う機会があるとしたら、いつだろう?
たとえば知人の結婚式に参加する時……? むしろ、それ以外に思い浮かばないな。
「昔着ていた私のドレスを貸してあげるわ。折角だからお化粧もしましょう。美容室を予約しておくわね。とびきり可愛くしてもらいましょう」
と、スマホ画面を操作しながら、朝比奈さんは順調に準備──と言う名の『逃げ道』を埋めていく。
「あの、私……作法とか知らないです」
「そうだと思って個室を予約したわ」
「あまり高級なところは、お金が」
「私が出すわよ。当然でしょう」
「どうして急にレストランを?」
「梓ちゃんの歓迎会に決まっているじゃない」
「……昨日もやりましたよね?」
「歓迎会二日目よ」
だめだ、何を言っても躱される。
ちなみに昨日はとても豪華なお寿司を出前で頼んでいた。上トロが沢山並んでいる煌びやかな光景は、もう二度と目にすることはないと思いたい。
「朝比奈さん。さっき誓ったこと、覚えておいでですか?」
「うぐっ……あ、あれはぁ……ほらっ、レストランの予約は誓う前に決まっていたことだし、これはノーカンよ、ノーカン! …………はい。誠に、申し訳ありません」
ジト目で睨み続けていたら、今度こそ朝比奈さんは肩を落とした。
その姿は恐怖に怯えた小動物にそっくりで、普段の様子を見ている私は小さく吹き出した。
……あ~やめたやめた。ずっと怒っているのは私の性に合わない。
「もう怒りませんから、歓迎会は今日で終わりにしてください。あまり豪華すぎると萎縮してしまいます」
苦し紛れの言葉が、今の私にできる最大の抵抗だった。
でも、はっきりと言ったことで、こっちが本気で言っていると伝わったようだ。朝比奈さんは神妙な顔になって、渋々頷いた。
「もっと祝いたい気持ちはあるけれど、梓ちゃんに気を遣わせるのも避けたいわね。わかった。次からは普通にするわ」
「本当に、普通ですよね?」
「ええ……ちゃんと家でご飯にするように気を付けるわ。でも、たまに部下を家に招くことはあると思うから、その時は豪華になるけれど、許してくれる?」
「絶対に嫌だとは言っていません。豪華にする時は事前に言っていただければ、私も覚悟を決められるので」
「それじゃあ、毎日事前に言えば──」
「却下」
「…………はい」
0
あなたにおすすめの小説
学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった
白藍まこと
恋愛
主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。
クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。
明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。
しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。
そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。
三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。
※他サイトでも掲載中です。
久しぶりに帰省したら私のことが大好きな従妹と姫はじめしちゃった件
楠富 つかさ
恋愛
久しぶりに帰省したら私のことが大好きな従妹と姫はじめしちゃうし、なんなら恋人にもなるし、果てには彼女のために職場まで変える。まぁ、愛の力って偉大だよね。
※この物語はフィクションであり実在の地名は登場しますが、人物・団体とは関係ありません。
春に狂(くる)う
転生新語
恋愛
先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/
カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」
三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。
クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。
中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。
※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。
12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。
身体だけの関係です 原田巴について
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789
作者ツイッター: twitter/minori_sui
放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~
楠富 つかさ
恋愛
中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。
佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。
「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」
放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。
――けれど、佑奈は思う。
「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」
特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。
放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。
4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
さくらと遥香(ショートストーリー)
youmery
恋愛
「さくらと遥香」46時間TV編で両想いになり、周りには内緒で付き合い始めたさくちゃんとかっきー。
その後のメインストーリーとはあまり関係してこない、単発で読めるショートストーリー集です。
※さくちゃん目線です。
※さくちゃんとかっきーは周りに内緒で付き合っています。メンバーにも事務所にも秘密にしています。
※メインストーリーの長編「さくらと遥香」を未読でも楽しめますが、46時間TV編だけでも読んでからお読みいただくことをおすすめします。
※ショートストーリーはpixivでもほぼ同内容で公開中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる