14 / 15
14. 本音で言った
しおりを挟む朝比奈さんの意外な顔が見られたとはいえ、今のは自分でも変だと思うほどの急な話題転換だった。不振に思われちゃったかもしれないから、すいませんと謝っておく。
「思ったことが口に出てしまいました」
「……驚いたわよ。でも、そう思ってくれたのは嬉しいわ。嬉しすぎて大声で叫びたいくらい」
「やめてくださいね。恥ずかしいので」
大声で店内を駆け回る姿を想像して、渋い顔になる。
この人なら本当にやってしまうかもしれないと、そう思ってしまったのは普段の彼女の行い(私に限った出来事)が悪いせいだ。
「わかっているわよ。ほんの例え話。……それにしても、急にどうしたの?」
「いえ、特に理由はないのですが……朝比奈さんの体型は綺麗に引き締まっていて、同じ女として羨ましいなぁ、と。本当に何もしていないのですか?」
「あまり意識はしていないわね。生活習慣をきちんとして、食事も栄養のあるものを食べる。睡眠も大切よね。その三つを規則正しくやっていれば、誰でもこうなるわよ」
そうならないから困っているんだよなぁ。
これが持つ者と持たざる者の認識の違いか。
「梓ちゃんも私と生活をしていれば、自然といい体になるわよ。……今も充分に魅力的だと思うけれど、ね」
最後に小さく呟かれた言葉は、あえて聞かなかったことにする。
私の記憶にないところで裸体を見られただけでも恥ずかしいのに、挙句にはそれを弄ばれたのだから、その夜のことはなるべく意識したくない。
「これも前に言ったと思うけれど、エステに通っていれば、ちゃんと引き締まった体になるわよ。血行を良くするだけでも充分な効果があるから」
「あそこは私も気に入りましたから、しばらくは通うつもりです」
「そう、なら良かった。……でも、本当に自分のお金で払うの? あのくらいは私が出してあげるわよ? 遠慮しなくても」
「いいえ。ちゃんと払います。あれは私のわがままでもありますから」
「それを私にも共有してほしいけれど、梓ちゃんは遠慮しちゃうのよね。良い子なのは美徳だけど、良い子過ぎるのも考えものよ。……もっと甘えてほしいのに」
ここまで言っても、まだ彼女は奢ろうとしてくれる。
それはありがたいと思うけれど、貰ってばかりでは居心地が悪いと思ってしまうのも、また事実。
それに──
「価値観の違いで疎遠になるカップルもいるそうですよ?」
「っ!」
朝比奈さんの目元が僅かに動いたのを、私は見逃さない。
「…………わかった。もう無理は言わないわ。私の気持ちよりも、梓ちゃんの気持ちの方が大切だもの。ごめんね」
案外素直に謝られたことで、私も虚を突かれたように固まってしまった。
それと同時に、言い方がきつくなってしまったと反省する。
朝比奈さんは拒絶されたと思ったのか、見るからに落ち込んでいた。
「いえ、私も言い方が悪かったと反省しています。ごめんなさい。……でも、何でもかんでも奢って貰って、子供扱いされるのは、嫌なんです」
どうせなら、二人で楽しい時間を過ごしたい。
まだまだ朝比奈さんの気持ちに応えることは出来ないけれど、彼女が私のことを大切にしてくれているのは充分に理解しているから。
「ありがとう、梓ちゃん」
「……え?」
「私、とっても可愛い好きな人が出来たと舞い上がっていた。だから恋人のために何でもしてあげようって、勝手に張り切っていたの。……まさか、それが逆に貴女を苦しめる形になっていたなんて。ごめんなさい」
深く頭を下げられて、私は軽くパニックを起こす。
慌ててすぐに頭を上げるようにお願いするけれど、その間も心臓はバクバクとうるさく鼓動を続けていた。
「正直に話してくれてありがとう。梓ちゃんの気持ちを聞けて、私は嬉しいわ」
ようやく頭を上げてくれた朝比奈さんは、とても晴れた笑みをその顔に浮かべていた。
そんな目の前の女性が本当に綺麗で、惚けていた私はふとあることに気が付き、再び慌てることになった。
「あ、朝比奈さんっ、なみだ、涙!」
「……あら?」
「あら? じゃありませんよ。ああ、もうっ、化粧が落ちちゃう……!」
ハンカチを取り出し、化粧が崩れないように最新の注意を払いつつ、頬を伝う一筋の雫を拭いた。
それの何が面白いのか、朝比奈さんはまだ笑っている。
こっちは大変な思いをしているというのに、お気楽な人だ。
「梓ちゃん、お母さんみたいね。世話焼きとも言うのかしら?」
「馬鹿なことを言っていると怒りますよ。ったく、焦らせないでください。貴女の方が大人なんですから、そういうところをきちんとですね……って、ちゃんと聞いていますか? 返事くらいはしてくださいよ、朝比奈さん。……朝比奈さん?」
言葉が返ってこないことを不思議に思って視線を向けると、彼女は信じられないと目をまん丸にさせていた。
見ている分には面白いけれど、その反応はなぜか腑に落ちない。
「私のために焦ってくれたの?」
「はぁ? 当たり前でしょう。貴女のこと以外に、何で焦ればいいんですか」
目の前で泣き出されたら、そりゃ誰だって焦る。
しかも相手が一応、その……恋人なのだから、余計だ。
「やっぱり好きだわ」
「はいはい。おだてても簡単に奢られてあげませんよ」
「違うわよ。今のは思ったことが口に出ちゃっただけ。私の本心よ」
見つめられて、咄嗟に視線を逸らす。
心臓はまだバクバクと鳴り止まない。動揺している。……私が?
「……面と向かって、そういう恥ずかしいことは言わないでください。いくら個室だからって、誰かに聞かれないとは限らないのですから」
「ということは、他に誰もいない場所ならいいの? ベッドの上とか、ベッドの上とか、ベッドの上とか!」
「全部同じ場所だし、いつも言っているじゃないですか」
「本当はいつだって言いたいわよ! これでも我慢しているの!」
「他人のいる場所で言ったら、口を聞きませんから」
「そんなに!?」
ガーンッ、とショックを受けている朝比奈さんを無視して、席に座りなおす。
するとタイミング良く店員が入ってきて、コース料理が食卓に並べられた。
随分話し込んでしまったと私達は気持ちを切り替え、大人しく料理の説明を聞く。
ほとんど聞いたことのない物ばかりで、結局どのような食材が使われているのか何一つもわからなかったけれど、盛り付けの色どりとかソースの掛け方とか、見ただけでわかる。高いやつだ。
「へぇ~、一気に全部来るのではないのですね」
「コース料理というのは、そういうものよ。前菜を食べ終わったら、次が、そしてまた次が。少しずつフルコースを楽しむのよ」
一気に頼んで、出来たものから並べられるファミレスの料理とは、全然違う。
でも、そっちの方がどれから手を付けようか選べるし、楽しいと思うのは、私が庶民だからなのかな。
「色々と言い足りないことはあるけれど、まずは食べましょうか」
「……はい。いただきます」
フォークやナイフの使い方や、こういうお店でのマナーは知らない。朝比奈さんの動きを見て真似るけれど、彼女のように上手く扱えず、挙句にはカチャカチャと食器を鳴らしてしまう。
結局、私は最後の時まで食器とマナーとの戦いになり、その様子を見守られながら、私はどうにか『VSフルコース料理』を乗り切った。
肝心な料理の味は、正直……あまり覚えていない。
やっぱり私には、気軽に入れる庶民的なファミレスがお似合いなんだと、諦めにも似た悟りを開いたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった
白藍まこと
恋愛
主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。
クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。
明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。
しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。
そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。
三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。
※他サイトでも掲載中です。
春に狂(くる)う
転生新語
恋愛
先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/
カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」
三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。
クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。
中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。
※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。
12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。
身体だけの関係です 原田巴について
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789
作者ツイッター: twitter/minori_sui
放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~
楠富 つかさ
恋愛
中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。
佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。
「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」
放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。
――けれど、佑奈は思う。
「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」
特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。
放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。
4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
隣の席のクールな銀髪美少女、俺にだけデレるどころか未来の嫁だと宣言してきた
夏見ナイ
恋愛
平凡な高校生、相沢優斗。彼の隣の席は『氷の女王』と噂のクールな銀髪美少女、雪城冬花。住む世界が違うと思っていたが、ある日彼女から「私はあなたの未来の妻です」と衝撃の告白を受ける。
その日から、学校では鉄壁の彼女が、二人きりになると「未来では当然です」と腕を組み、手作り弁当で「あーん」を迫る超絶甘々なデレモードに!
戸惑いながらも、彼女の献身的なアプローチに心惹かれていく優斗。これは未来で結ばれる運命の二人が、最高の未来を掴むため、最高の恋をする糖度MAXの青春ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる