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その後、です
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「ぐぁあーーーーーぢぐじょう! 負けたぁ!」
ミアはギルドの酒場で、悔しそうに叫んだ。
「何なのよ! あんな強さは反則だわ! どうして私の大技を無傷(・・)で受けるのよぉ!」
「そう言われましても、避けるのが面倒だったので」
「正直に言うなし! 傷付いたわ!」
「はぁ……申し訳ありません」
ミアはジョッキをダンッ! とテーブルに叩きつけ、鬼気迫った表情でリリスを指差す。
目元には若干の水分が見えた。あれだけ本気でやったのに、ただ遊ばれているだけだったのが、相当悔しかったんだろう。
決闘は、リリスの圧勝だった。
ミアは彼女に何一つも攻撃を与えられず、全力を叩き込んだ最後の必殺技さえも、リリスが瞬時に展開した『魔力障壁』で防がれてしまった。
結果、ミアは魔力欠乏でダウン。リリスの勝利となった。
そうして今、酒場でヤケ酒をしている。という訳だ。
リリスはそれに加わる理由はなかったけれど、拒否することはせず律儀に付き合っていた。理不尽なミアの文句を「そうですかぁ……大変ですねぇ……」と受け流し、葡萄酒を飲みながらニコニコと楽しそうに微笑んでいる。
私はそんな二人の様子を、二階のテラスから覗き込んでいた。
どうしてそんなところにいるのかと言うと、一階は冒険者達で賑わっているせいで、私が落ち着いて座れる場所がないからだ。姿を消していても、そこに私はいる。触れることも出来るので、うっかり触らないように気を付けなければいけない。
冒険者は二人の試合を見てから妙に興奮気味で、先程からずっと決闘の感想を言いながら昼間から酒を飲んでいる。しかも闘技場では、何人かの冒険者達が片っ端から声を掛け合い、試合に興じていた。
それだけ二人の戦いが凄かったという証明なんだろうけど、当の本人達は気にした様子もなく、二人だけの空間を維持していた。
「……それで、私はどうなのよ」
「どうなの、とは?」
「私はあんたの仲間に相応しいのかって話よ。あれで一応、私の出せる本気を出し尽くしたつもりよ」
「勿論、合格です。これから、よろしくお願いいたしますわ」
「…………そう。それじゃあ私も頑張らなきゃね。こちらこそ、よろしく頼むわ」
今日はめでたい日だ。
新しいリリスの仲間が出来たんだから、今日は赤飯だな。……夕食を作るのは私じゃないけど。
「……ふふっ、ティア様への土産話が出来ました♪」
リリスは嬉しそうに微笑んだ。
それと同時に、私の目的を思い出した。
どうしてリリスが私のことをこんなにも慕ってくれているのか。その理由を探るために来ていたんだ。
「ねぇ、リリスの言うティアって人は、どんな人なの?」
そんな時、ミアがそんな質問をした。
「ティア様ですか?」
「ええ、リリスはその人のことを随分と慕っているように見えるわ。さっき言っていたことだけだと、あまり凄い人には思えないの。だから、本当はどんな人なのか気になって」
「……まず、間違いから訂正しますわ。私は、ティア様を慕うことは出来ません」
──ドキッと心臓が跳ねた。
私を慕うことが出来ない。
それはつまり、あの日常のスキンシップは嘘だったってこと……? リリスが私に気に入られるよう、我慢してやっていたことなの?
「それは、ティアって子が嫌いってことなの?」
「違いますわ。私はティア様のことが大好きですし、ずっとあの方のお側に居たいと願っております」
「だったら、どうしてそんなことを言うのよ」
「私に、その資格が無いからです」
リリスは表情を暗くさせ、寂しそうに呟いた。
「ティア様は、全ての意味で雲の上の存在です。そんなお方に好意を寄せるなんて、おこがましいことですわ。…………と言っても、本人を前にしてしまったら、気持ちを抑えきれずに暴走してしまうのですが……最近はティア様が下さったこの指輪を触ることで、少しばかり感情を抑えられるようになりました」
そう言ったリリスは、まるで私に触れるかのように、左薬指の指輪を愛おしそうに撫でた。
私は本物の神様で、リリスは悪魔。
存在だけで考えれば、天と地以上の差がある。
だから遠慮してしまっているのかな。
……そんなの。
「そんなの、気にしたことはないのにな……」
「でもティア様は、おそらくそんなこと気にはしないのでしょう。私が何者であろうと、あのお方は何も変わらずに接してくれます。……私は、この有り余る力のせいで、周りから距離を置かれていました。それは元居た場所でも、現在でも同じです。でもあの方だけは違った。私のことを、ただ一人の従者として見てくれました。私には、それだけで十分です」
そんな些細なことで、リリスは私を慕ってくれていた。
私はそんなに凄い器を持っている方ではない。なのに、リリスはそんな私のことを大好きと言ってくれたんだ。
彼女を召喚したのも、ただ身の回りのお世話をさせるためだった。悪魔を召喚したのは想定外だったけど、仕事をしてくれるのなら誰でも良いと思っていた。リリスはよく働いてくれている。だから側に置くことを許した。ただそれだけの理由だった。
そんなリリスに、私が出来ることってなんだろう?
きっと彼女は、何もいらないと言うんだろう。
「…………よしっ」
私は立ち上がり、ギルドを出た。
◆◇◆
「──ん?」
「何よ。急に入口を見てどうしたの?」
「…………今一瞬……ティア様が居た気がするのですが……」
「その子は今寝ているんでしょ? ここに居るはずがないわ」
「……ええ、そうですね」
でも一瞬だけ、ティア様の反応を感じたような気がしました。
……いえ、ミアの言う通り、あの方がここに居るはずがありませんわ。
今日は納品日ではありませんし、ここに来る理由がありません。もし起きていたとしても、いつものように地下室へ籠って新しい道具を開発しているはずです。
きっと、ティア様について語っていたせいで、過剰に反応してしまったのでしょう。
「すいません。どうやら、勘違いだったようですわ」
私は残りの葡萄酒を飲み、立ち上がります。
「では、休憩もしたことですし、そろそろ依頼に参りましょう」
「……そうねっ、私も頑張って稼ぐわよ!」
「はい。期待していますよ」
ミアはギルドの酒場で、悔しそうに叫んだ。
「何なのよ! あんな強さは反則だわ! どうして私の大技を無傷(・・)で受けるのよぉ!」
「そう言われましても、避けるのが面倒だったので」
「正直に言うなし! 傷付いたわ!」
「はぁ……申し訳ありません」
ミアはジョッキをダンッ! とテーブルに叩きつけ、鬼気迫った表情でリリスを指差す。
目元には若干の水分が見えた。あれだけ本気でやったのに、ただ遊ばれているだけだったのが、相当悔しかったんだろう。
決闘は、リリスの圧勝だった。
ミアは彼女に何一つも攻撃を与えられず、全力を叩き込んだ最後の必殺技さえも、リリスが瞬時に展開した『魔力障壁』で防がれてしまった。
結果、ミアは魔力欠乏でダウン。リリスの勝利となった。
そうして今、酒場でヤケ酒をしている。という訳だ。
リリスはそれに加わる理由はなかったけれど、拒否することはせず律儀に付き合っていた。理不尽なミアの文句を「そうですかぁ……大変ですねぇ……」と受け流し、葡萄酒を飲みながらニコニコと楽しそうに微笑んでいる。
私はそんな二人の様子を、二階のテラスから覗き込んでいた。
どうしてそんなところにいるのかと言うと、一階は冒険者達で賑わっているせいで、私が落ち着いて座れる場所がないからだ。姿を消していても、そこに私はいる。触れることも出来るので、うっかり触らないように気を付けなければいけない。
冒険者は二人の試合を見てから妙に興奮気味で、先程からずっと決闘の感想を言いながら昼間から酒を飲んでいる。しかも闘技場では、何人かの冒険者達が片っ端から声を掛け合い、試合に興じていた。
それだけ二人の戦いが凄かったという証明なんだろうけど、当の本人達は気にした様子もなく、二人だけの空間を維持していた。
「……それで、私はどうなのよ」
「どうなの、とは?」
「私はあんたの仲間に相応しいのかって話よ。あれで一応、私の出せる本気を出し尽くしたつもりよ」
「勿論、合格です。これから、よろしくお願いいたしますわ」
「…………そう。それじゃあ私も頑張らなきゃね。こちらこそ、よろしく頼むわ」
今日はめでたい日だ。
新しいリリスの仲間が出来たんだから、今日は赤飯だな。……夕食を作るのは私じゃないけど。
「……ふふっ、ティア様への土産話が出来ました♪」
リリスは嬉しそうに微笑んだ。
それと同時に、私の目的を思い出した。
どうしてリリスが私のことをこんなにも慕ってくれているのか。その理由を探るために来ていたんだ。
「ねぇ、リリスの言うティアって人は、どんな人なの?」
そんな時、ミアがそんな質問をした。
「ティア様ですか?」
「ええ、リリスはその人のことを随分と慕っているように見えるわ。さっき言っていたことだけだと、あまり凄い人には思えないの。だから、本当はどんな人なのか気になって」
「……まず、間違いから訂正しますわ。私は、ティア様を慕うことは出来ません」
──ドキッと心臓が跳ねた。
私を慕うことが出来ない。
それはつまり、あの日常のスキンシップは嘘だったってこと……? リリスが私に気に入られるよう、我慢してやっていたことなの?
「それは、ティアって子が嫌いってことなの?」
「違いますわ。私はティア様のことが大好きですし、ずっとあの方のお側に居たいと願っております」
「だったら、どうしてそんなことを言うのよ」
「私に、その資格が無いからです」
リリスは表情を暗くさせ、寂しそうに呟いた。
「ティア様は、全ての意味で雲の上の存在です。そんなお方に好意を寄せるなんて、おこがましいことですわ。…………と言っても、本人を前にしてしまったら、気持ちを抑えきれずに暴走してしまうのですが……最近はティア様が下さったこの指輪を触ることで、少しばかり感情を抑えられるようになりました」
そう言ったリリスは、まるで私に触れるかのように、左薬指の指輪を愛おしそうに撫でた。
私は本物の神様で、リリスは悪魔。
存在だけで考えれば、天と地以上の差がある。
だから遠慮してしまっているのかな。
……そんなの。
「そんなの、気にしたことはないのにな……」
「でもティア様は、おそらくそんなこと気にはしないのでしょう。私が何者であろうと、あのお方は何も変わらずに接してくれます。……私は、この有り余る力のせいで、周りから距離を置かれていました。それは元居た場所でも、現在でも同じです。でもあの方だけは違った。私のことを、ただ一人の従者として見てくれました。私には、それだけで十分です」
そんな些細なことで、リリスは私を慕ってくれていた。
私はそんなに凄い器を持っている方ではない。なのに、リリスはそんな私のことを大好きと言ってくれたんだ。
彼女を召喚したのも、ただ身の回りのお世話をさせるためだった。悪魔を召喚したのは想定外だったけど、仕事をしてくれるのなら誰でも良いと思っていた。リリスはよく働いてくれている。だから側に置くことを許した。ただそれだけの理由だった。
そんなリリスに、私が出来ることってなんだろう?
きっと彼女は、何もいらないと言うんだろう。
「…………よしっ」
私は立ち上がり、ギルドを出た。
◆◇◆
「──ん?」
「何よ。急に入口を見てどうしたの?」
「…………今一瞬……ティア様が居た気がするのですが……」
「その子は今寝ているんでしょ? ここに居るはずがないわ」
「……ええ、そうですね」
でも一瞬だけ、ティア様の反応を感じたような気がしました。
……いえ、ミアの言う通り、あの方がここに居るはずがありませんわ。
今日は納品日ではありませんし、ここに来る理由がありません。もし起きていたとしても、いつものように地下室へ籠って新しい道具を開発しているはずです。
きっと、ティア様について語っていたせいで、過剰に反応してしまったのでしょう。
「すいません。どうやら、勘違いだったようですわ」
私は残りの葡萄酒を飲み、立ち上がります。
「では、休憩もしたことですし、そろそろ依頼に参りましょう」
「……そうねっ、私も頑張って稼ぐわよ!」
「はい。期待していますよ」
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