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第16話 魔導書の購入
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本屋に着く頃には、私の胸の高鳴りは収まっていた。
「ったく、あれは何だったのだ……?」
人間に対してあそこまで緊張するのは、初めてのことだった。
私は300年前の者であるから、勿論シュバルツとの面識などは無い。
それを考え、私の謎の行動はシェラローズのせいだと判断した。
私と彼女は精神を共有している。
シュバルツは王国騎士第二師団の団長と言っていたし、それなりに有名な人物なのだろう。
そんな彼にシェラローズも憧れを抱いており、私達が出会ってしまったことで彼女の精神が大きく現れてしまった。
……そんなところであろう。
そうでなければおかしい。
今の私は公爵令嬢だとしても、元は男だ。男が男に惚れるわけがない。
「シエラお嬢様、大丈夫ですか?」
と、そんなことをブツブツと考えていたら、コンコッドに心配されてしまった。
「はい。何度も言っているけれど、怪我はないわ」
「……いえ、そういう意味で言ったのではないのですが?」
「? 怪我はないのか。という意味では?」
「自覚無し、ですか……」
質問に答えたら呆れられてしまった。
……今の会話で、私の何が悪かったのだ?
コンコッドだけではなく、エルシアまで呆れた表情をしているのはどうしてだ?
二人の真意がわからず、首を傾げる。
「まぁ、いいです。怪我も、ないのですね?」
「はい。……シュバルツ様に、助けていただいたので」
……また、だ。
彼の名を口にすると、胸が高鳴る。
ようやく落ち着いてきた熱も再発し、なぜか顔が熱くなる。
「どうしてそれで自覚無いんだよ……」
「まぁ、お嬢様は経験無いですから、仕方ありませんよ」
先程から自覚が無いだとか経験無いとか、二人は何を言っているのだろう?
……まぁ、わからないことを考えても話は進まない。
「さ、早く書店に行きましょう。沢山の魔導書が私を待っているのだから」
私は気持ちを切り替え、次は転ばぬように急ぎ足で店の中に入った。
そんな時、また転べばあの人が来てくれるのかな。と心の隅で思ってしまうのは、やはりシェラローズのせいなのだろうか……。
◆◇◆
その後、書店での用事を終えた私は帰路についていた。
「ふんふん、ふふーん♪」
灰のように真っ白な髪を左右に揺らしながら鼻歌交じりに歩く少女は私、シェラローズだ。
「お嬢様。また転んでしまいます。ゆっくり歩いてください!」
後ろの方からエルシアの注意が飛ぶが、私はそんなものを気にしない。
「大丈夫よ~。そんなヘマはしないわ~」
「そう言って即行やらかしたのは誰ですか!」
何だ。そんな馬鹿が居るのか。
呆れたやつだな全く……って、私のことか。
「問題ないわ。今は調子が良いんだもの」
「問題ないの定義がわかりません。公爵家の娘なのですから、もっと節度を持った行動をですね……」
あーあー、聞こえなーい。
……ったく、今日の二人はうるさい。
折角今の私は最高潮に機嫌が良いのだから、その邪魔をしないでもらいたい。
「本当にお嬢様は魔法学が好きなのですね」
「勿論よコンコッド。魔法は世界の真理。それがこんなに……ああ、早く帰って読み漁りたいわ」
私がこんなに上機嫌なのは、私の腕の中にある魔導書が理由だった。
書店に入って魔導書が並んでいるスペースに向かった私が第一に驚いたのは、その安さだった。
昔の魔導書の価値を知っている私は、今持っているお小遣いから考えて買えるのは、簡単な入門編の一冊か二冊程度が良い方だろうと思っていた。
だが、私の予想を遥かに越えて、魔導書の価値が暴落していたのだ。
一般人にとって高価な物なのには変わりないのだが、そこは公爵家の令嬢。6歳だとしてもお小遣いはそれなりに貰っているのだ。それこそ魔導書を何冊も買えるほどに……。
ということで私は意気揚々と魔導書を買い漁り、その中でも特に価値の高い物を両腕に抱えていた。
携帯は不可能なくらいに大きな書物だ。
だが、その代わりに沢山の魔法についての知識が記されている。
買うのならこれだけで十分だと思うだろうが、そんなことはない。
魔導書と言っても、それを書いている者はそれぞれ異なる。魔法についての考察がされている論文には、まさに十人十色な内容があるし、時代が異なれば魔法の根本的な問題まで変わってくる。
その変化を楽しみ、そして自分には何があっているのかを調べ、見極めるのも魔法学である。
そして今、私が持っているのは、書店に並んでいる魔導書の中でも最古の物だった。
どのくらいだと言われると、本当に昔……それこそ私が生きていた時代のとても希少な産物だ。
だが悲しいことに、これが一番安かった。
理由は単純。現代の人間では、過去の文字が読めないのだ。
読めないのであれば、どんなに素晴らしい魔導書だろうと理解出来ない。
だから最安値で売られていたのだ。
我が時代の産物が一番安いという事実に憤りを感じたが、むしろ高価すぎて手が付けられないよりはマシだと、私は前向きに考えることにした。
「はぁ……この古臭い匂い……魔導書って感じがするわぁ」
埃被った匂いというのは、とても良い。
それだけで遥か昔の産物という雰囲気がして、私は大好きだ。
二人の目が無ければ、今すぐに走り出してしまうくらいには興奮していた。
「コンコッドさん。お嬢様が変態になっている気がするのですが……」
「気のせいではないだろう。……ああ、頭痛くなってきた」
後ろの方で二人が何かブツブツと話していたが、大丈夫だろうか?
エルシアは遠くの方を見つめて虚無に笑っていたが、コンコッドに至ってはどこか気分が優れないようだった。無理をさせたのは申し訳ないと思うが、本人が何も言おうとしないので、私が心配したところでありがた迷惑だろう。
──と、そうしている間に屋敷の前まで来ていた。
流石に屋敷内ならば走っても叱られないだろうと思い、足に力を入れたところでとある人物の姿が視界に入ってきて、私は「げっ」と小さな呻き声を上げた。
ブロンドの髪を搔きあげ、両手を大きく広げてこちらに走って来るのは────
「シエラーーーーーーー!!!」
我が父親だった。
「心配したんだぞ、おかえ──ぶごっ!」
嫌な予感を事前に察知していた私は、サッと横に飛んで抱擁を回避。
父親は勢い虚しく後ろを歩いていたコンコッドに突っ込み、彼にも避けられ、その後ろに居たエルシアにも避けられ、挙句に地面とキスした。
「もう、お父様。私に大切な魔導書に傷が付いたらどうするのですか?」
「えっ……私、今、娘に避けられた……?」
「お父様? 聞いているのですか?」
「……あ、す、すまん……?」
「わかったのならいいです。私は今から部屋に籠るので、邪魔をしないでくださいね? では……」
一つの障害を乗り越え、私は屋敷の中に入る。
その直前に「嫌だぁああああ! シエラに拒絶された! 私は生きている価値がないんだぁああああああ!!!!」と何かの叫び声が聞こえた気がしたが、一刻でも早く魔導書を読みたい私は、それに構っている暇はなかった。
「ったく、あれは何だったのだ……?」
人間に対してあそこまで緊張するのは、初めてのことだった。
私は300年前の者であるから、勿論シュバルツとの面識などは無い。
それを考え、私の謎の行動はシェラローズのせいだと判断した。
私と彼女は精神を共有している。
シュバルツは王国騎士第二師団の団長と言っていたし、それなりに有名な人物なのだろう。
そんな彼にシェラローズも憧れを抱いており、私達が出会ってしまったことで彼女の精神が大きく現れてしまった。
……そんなところであろう。
そうでなければおかしい。
今の私は公爵令嬢だとしても、元は男だ。男が男に惚れるわけがない。
「シエラお嬢様、大丈夫ですか?」
と、そんなことをブツブツと考えていたら、コンコッドに心配されてしまった。
「はい。何度も言っているけれど、怪我はないわ」
「……いえ、そういう意味で言ったのではないのですが?」
「? 怪我はないのか。という意味では?」
「自覚無し、ですか……」
質問に答えたら呆れられてしまった。
……今の会話で、私の何が悪かったのだ?
コンコッドだけではなく、エルシアまで呆れた表情をしているのはどうしてだ?
二人の真意がわからず、首を傾げる。
「まぁ、いいです。怪我も、ないのですね?」
「はい。……シュバルツ様に、助けていただいたので」
……また、だ。
彼の名を口にすると、胸が高鳴る。
ようやく落ち着いてきた熱も再発し、なぜか顔が熱くなる。
「どうしてそれで自覚無いんだよ……」
「まぁ、お嬢様は経験無いですから、仕方ありませんよ」
先程から自覚が無いだとか経験無いとか、二人は何を言っているのだろう?
……まぁ、わからないことを考えても話は進まない。
「さ、早く書店に行きましょう。沢山の魔導書が私を待っているのだから」
私は気持ちを切り替え、次は転ばぬように急ぎ足で店の中に入った。
そんな時、また転べばあの人が来てくれるのかな。と心の隅で思ってしまうのは、やはりシェラローズのせいなのだろうか……。
◆◇◆
その後、書店での用事を終えた私は帰路についていた。
「ふんふん、ふふーん♪」
灰のように真っ白な髪を左右に揺らしながら鼻歌交じりに歩く少女は私、シェラローズだ。
「お嬢様。また転んでしまいます。ゆっくり歩いてください!」
後ろの方からエルシアの注意が飛ぶが、私はそんなものを気にしない。
「大丈夫よ~。そんなヘマはしないわ~」
「そう言って即行やらかしたのは誰ですか!」
何だ。そんな馬鹿が居るのか。
呆れたやつだな全く……って、私のことか。
「問題ないわ。今は調子が良いんだもの」
「問題ないの定義がわかりません。公爵家の娘なのですから、もっと節度を持った行動をですね……」
あーあー、聞こえなーい。
……ったく、今日の二人はうるさい。
折角今の私は最高潮に機嫌が良いのだから、その邪魔をしないでもらいたい。
「本当にお嬢様は魔法学が好きなのですね」
「勿論よコンコッド。魔法は世界の真理。それがこんなに……ああ、早く帰って読み漁りたいわ」
私がこんなに上機嫌なのは、私の腕の中にある魔導書が理由だった。
書店に入って魔導書が並んでいるスペースに向かった私が第一に驚いたのは、その安さだった。
昔の魔導書の価値を知っている私は、今持っているお小遣いから考えて買えるのは、簡単な入門編の一冊か二冊程度が良い方だろうと思っていた。
だが、私の予想を遥かに越えて、魔導書の価値が暴落していたのだ。
一般人にとって高価な物なのには変わりないのだが、そこは公爵家の令嬢。6歳だとしてもお小遣いはそれなりに貰っているのだ。それこそ魔導書を何冊も買えるほどに……。
ということで私は意気揚々と魔導書を買い漁り、その中でも特に価値の高い物を両腕に抱えていた。
携帯は不可能なくらいに大きな書物だ。
だが、その代わりに沢山の魔法についての知識が記されている。
買うのならこれだけで十分だと思うだろうが、そんなことはない。
魔導書と言っても、それを書いている者はそれぞれ異なる。魔法についての考察がされている論文には、まさに十人十色な内容があるし、時代が異なれば魔法の根本的な問題まで変わってくる。
その変化を楽しみ、そして自分には何があっているのかを調べ、見極めるのも魔法学である。
そして今、私が持っているのは、書店に並んでいる魔導書の中でも最古の物だった。
どのくらいだと言われると、本当に昔……それこそ私が生きていた時代のとても希少な産物だ。
だが悲しいことに、これが一番安かった。
理由は単純。現代の人間では、過去の文字が読めないのだ。
読めないのであれば、どんなに素晴らしい魔導書だろうと理解出来ない。
だから最安値で売られていたのだ。
我が時代の産物が一番安いという事実に憤りを感じたが、むしろ高価すぎて手が付けられないよりはマシだと、私は前向きに考えることにした。
「はぁ……この古臭い匂い……魔導書って感じがするわぁ」
埃被った匂いというのは、とても良い。
それだけで遥か昔の産物という雰囲気がして、私は大好きだ。
二人の目が無ければ、今すぐに走り出してしまうくらいには興奮していた。
「コンコッドさん。お嬢様が変態になっている気がするのですが……」
「気のせいではないだろう。……ああ、頭痛くなってきた」
後ろの方で二人が何かブツブツと話していたが、大丈夫だろうか?
エルシアは遠くの方を見つめて虚無に笑っていたが、コンコッドに至ってはどこか気分が優れないようだった。無理をさせたのは申し訳ないと思うが、本人が何も言おうとしないので、私が心配したところでありがた迷惑だろう。
──と、そうしている間に屋敷の前まで来ていた。
流石に屋敷内ならば走っても叱られないだろうと思い、足に力を入れたところでとある人物の姿が視界に入ってきて、私は「げっ」と小さな呻き声を上げた。
ブロンドの髪を搔きあげ、両手を大きく広げてこちらに走って来るのは────
「シエラーーーーーーー!!!」
我が父親だった。
「心配したんだぞ、おかえ──ぶごっ!」
嫌な予感を事前に察知していた私は、サッと横に飛んで抱擁を回避。
父親は勢い虚しく後ろを歩いていたコンコッドに突っ込み、彼にも避けられ、その後ろに居たエルシアにも避けられ、挙句に地面とキスした。
「もう、お父様。私に大切な魔導書に傷が付いたらどうするのですか?」
「えっ……私、今、娘に避けられた……?」
「お父様? 聞いているのですか?」
「……あ、す、すまん……?」
「わかったのならいいです。私は今から部屋に籠るので、邪魔をしないでくださいね? では……」
一つの障害を乗り越え、私は屋敷の中に入る。
その直前に「嫌だぁああああ! シエラに拒絶された! 私は生きている価値がないんだぁああああああ!!!!」と何かの叫び声が聞こえた気がしたが、一刻でも早く魔導書を読みたい私は、それに構っている暇はなかった。
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