公爵令嬢に転生した魔王様の平和を望むセカンドライフ

白波ハクア

文字の大きさ
18 / 78

第17話 やるべきこと

しおりを挟む
 あれから月日が経ち、三ヶ月が経過した。

 その間、昼はコンコッドから魔法学の基礎を学び、その空いた時間で買い漁った魔導書を読み進める。という生活を繰り返していた。

 それを毎日続けていたおかげもあってか、三ヶ月が経つ頃には現代に伝えられている魔法学の全てを納めることに成功していた。

「全く、普通ならば学生が三年掛けて学ぶことなのに……お嬢様には驚かされるばかりです」

 それが、全ての基礎を学び終わった時にコンコッドから言われたことだ。

「コンコッドの教えが良かったからよ」
「ですが、それでも早すぎると思うのですが……」

 コンコッドは呆れたように、深い溜め息を吐いた。
 ……だが、彼の気持ちもわかる。

 魔法学を細かく分けると、全部で八つ。

 学園ではその内のどれかを専門的に学ぶのだが、それでも三年は掛かる。それが普通だ。
 単純計算で言ってしまえば、普通の人間ならば27年の月日を必要とするのに、私は一つの分野だけでは飽き足らず、わずか三ヶ月で全てを理解してしまったのだ。

 驚くを通り越して、呆れるのが正しい反応だ。

「でも、教えてもらったのは基礎中の基礎だし、三ヶ月で十分学べる量だったわ。だから私が凄いだけじゃないと思うの」
「…………うーむ……」
「コンコッドも教科書選びを真摯に考えてくれたし、そのおかげよ」
「……まぁ、そういうことにしておきましょう」

 コンコッドはこれ以上何を言っても無駄だと悟ったようで、どうにか納得してくれた。

 ちなみに私がわずか三ヶ月で全てを学び終えてしまったのは、ただ単に魔王であった時の知識のおかげであった。
 真剣に全てを教えようとしてくれていたコンコッドには悪いが、私は元々魔法学の全てを極めていた。そんな私が真に学んでいたのは、昔と今の知識の違いだ。

 そして理解したことは、全てにおいて魔法学は衰退している。という悲しい現実だった。
 攻撃魔法や魔術がそうだったので、もしかしたらとは思っていたのだが……こう結果になって返ってくると、魔法を追求した者の一人として残念に思う。

 過去に、私以上に魔法が好きだった部下が居た。
 そいつがこの時代でも生きていたのなら、きっと奴は三日三晩嘆き続けていたことだろう。

「とにかく、これで私が教えられることは無くなりました」
「はい。コンコッド先生、今までありがとうございました。とても、楽しかったです」

 そう言って微笑むと、コンコッドはわかりやすく顔を赤く染めた。

「私は心配です。その内、男を籠絡しまくるのではないかと……」
「……? 私が? そんなことしないわよ。私にはそんな魅力はないし」
「何度も言っていますが、お嬢様以上に可愛らしい少女を見たことがありません。今はまだわからないのも仕方ありませんが、もしあなたが学園に通うようになれば理解することでしょう」

 ──また始まった。
 と私は内心で溜め息をつく。

 どうやら私は、そこらにいる娘以上に可愛いらしい。それも一線を凌駕するレベルで。
 流石に身内贔屓が少しは入っているだろうとは理解していたが、それでも私は彼の目に可愛く写っている。
 少し前に「不意に笑顔を見せられると照れるので、少しは控えてください」と言われた時は本気でどうしようかと困ったものだ。

「なのでお嬢様は、そろそろご自分の容姿を認めた方がいい」
「……わかったわ。今後は気を付けておく。……でも、私は誰かを取っ替え引っ替えするつもりはないわ。だって私は……、……私、は」
「私は……どうしたのです?」
「──っ、何でもない!」

 一瞬脳裏に浮かんだのは、真紅に輝く騎士。
 どうして今になって彼の姿が思い浮かぶのかがわからなくなった私は、ブンブンと首を振って思考を中断した。

「本当に、どうしたのかしら……」
「まだお嬢様は自覚が無いのですね」
「自覚……? 何のことを言っているの?」
「それは…………いえ、これはお嬢様の問題です。私が言っていいことではないでしょう」

 つまり、自分で考えろということだ。

 本当はコンコッドが何を考えているのかを知りたかったのだが、それを聞いてしまったらダメな気がしてしまった。
 今日のところは彼の助言をそのまま脳裏に書き込んで記憶しておくことで、その会話は終了となった。

「では、私は旦那様に授業終了の報告をしてきます」
「私も行きましょうか?」
「いえ、お嬢様はお部屋にお戻りください。少し……募る話もあると思いますので」
「そう? それじゃあ、私は先に戻らせてもらうわね。本当にありがとう。楽しい三ヶ月だったわ」


「あの、お嬢様!」


 教材を纏めて中庭を出ようとしたところで、コンコッドが私を呼んだ。

「ん、なぁに?」
「もし、まだお嬢様が勉学に励みたいと言うのであれば、新たな家庭教師を雇うよう旦那様に進言しましょうか?」
「…………ふむ……いいえ、そこまでしてくれなくても大丈夫」

 コンコッドの助力は嬉しいが、一先ずはこれで十分だと判断したため、私はそれを丁重に断った。

「そうですか……出すぎたことを申しました」
「いいの。コンコッドがそれだけ真剣に考えてくれているとわかっただけで嬉しいもの。でもね、そろそろ勉強している暇が無くなると思うのよ」
「勉強している暇が無くなる……? あ、まさか……」

 何かを思い至ったようなコンコッドに、私は頷く。

「もう少しで私の誕生日がくる。それからは忙しい日々になる。……これは単なる予想だけどね」

 後四ヶ月と少しで、私の誕生日だ。
 7歳になるということは、それほど大した出来事ではないのだが、私に限った場合で言えばかなり重要になってしまう。

 私は今まで『病弱体質なため屋敷にて療養中』ということになっていた。

 一般的な貴族の子供が5歳から始める『お茶会』というものを、まだ私は経験していないのだ。
 それは貴族としても、8歳から学園に入学する身としても、それは少々問題があった。

 公爵家の娘なのに友達が居ない。
 今はまだ屋敷で世話になっているだけなので、そこまで問題になることではないのかもしれない。
 しかし、8歳になって学園に入学することになれば、そのことは最も問題視される。

 公爵家の令嬢なのに友達が居なくて、学園で身を守ってくれる側近もまだ決まっていない。
 それらの問題を解決するため、7歳の誕生日を区切りに忙しくなるのではないか? と私は考えていた。

「ちなみに、誰かにそのことを聞かされたから考えた……という訳では?」
「私が自分で考えてのことよ。皆はまだ私には早いと教えてくれないんですもの」

 私の考えを聞いたコンコッドは「ははは……」と乾いた笑い声を漏らし、すぐに「はぁ……」と溜め息を吐いた。

 人間には『一度溜め息をついたら幸せが一つ逃げる』という迷信があるようだが、最近のコンコッドは溜め息ばかりだ。
 もしその迷信が本当なら、コンコッドの幸せが物凄い勢いで逃げていることになる。それについて少し心配になるが、それをさせている原因は私だと知っているので、無闇に首を突っ込まないように心がけていた。

「本当に、お嬢様は何者です?」

 そんな彼の言葉に、私は薄く笑い返す。

「ただの女の子よ。公爵家の、ね」
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【第2章完結】最強な精霊王に転生しました。のんびりライフを送りたかったのに、問題にばかり巻き込まれるのはなんで?

山咲莉亜
ファンタジー
 ある日、高校二年生だった桜井渚は魔法を扱うことができ、世界最強とされる精霊王に転生した。家族で海に遊びに行ったが遊んでいる最中に溺れた幼い弟を助け、代わりに自分が死んでしまったのだ。  だけど正直、俺は精霊王の立場に興味はない。精霊らしく、のんびり気楽に生きてみせるよ。  趣味の寝ることと読書だけをしてマイペースに生きるつもりだったナギサだが、優しく仲間思いな性格が災いして次々とトラブルに巻き込まれていく。果たしてナギサはそれらを乗り越えていくことができるのか。そして彼の行動原理とは……?  ロマンス、コメディ、シリアス───これは物語が進むにつれて露わになるナギサの闇やトラブルを共に乗り越えていく仲間達の物語。 ※HOT男性ランキング最高6位でした。ありがとうございました!

没落領地の転生令嬢ですが、領地を立て直していたら序列一位の騎士に婿入りされました

藤原遊
ファンタジー
魔力不足、財政難、人手不足。 逃げ場のない没落領地を託された転生令嬢は、 “立て直す”以外の選択肢を持たなかった。 領地経営、改革、そして予想外の縁。 没落から始まる再建の先で、彼女が選ぶ未来とは──。 ※完結まで予約投稿しました。安心してお読みください。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

処理中です...