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第51話 魔王の器
しおりを挟む「我が名はグラムヴァーダ。
原初の王にして、頂点に君臨する絶対の支配者。魔王グラムヴァーダである!」
反応は返ってこない。
言葉を失っている。もしくは理解が追い付いていない。
……まぁ、どちらでもいい。
「何を黙っている。我が名乗ったのだ。貴様も名乗るがいい」
「は? どうして僕が──」
「【名乗れ】と言っている」
「ガッ──! っ、ぐっ……僕は、ラヴェット、だ」
「うむ。もう楽にしていいぞ」
「っ、はぁ……! はぁ、はぁ……!」
ラヴェットと名乗った男は荒々しく呼吸しながら、私を痛いほどに強く睨んだ。魔王に対する態度とは思えないが、私は寛容だ。それくらいのことは許してやろう。
「何なんだお前は!?」
「何なんだと言われてもな。我は魔王グラムヴァーダだと名乗った直後なのだが……まさか聞こえていなかったか?」
「そんなわけがない! お前が魔王だなんて僕は認めない。魔王に相応しいのは、この僕だ!」
──ハッ! と私は嘲笑う。
「お前如き雑兵が、魔王を望むのか?」
「雑兵だと!? 僕は強いんだ! 僕は不死だ。誰よりも優れている、僕こそが魔王になるのに相応しい。君みたいな小娘が魔王な訳がない!」
「……どうしてお前がそれを決めるのだ?」
「どうしてって、その宝玉は僕が手にしたからだ!」
「ふむ、それはおかしいな。貴様は手にしたのではなく、ただ盗んだだけだ。そして元の宿主の元に戻った。それだけのことなのに、自分が魔王だと勘違いするとは……何とも残念なことだな。いや、脳内が少しお花畑になっているのか?」
「僕を馬鹿にするのか!」
「馬鹿にしているのではない。当然のことを言っているだけだ」
問答を繰り返す暇はないのだが、これも余興と考えば仕方ない。
少し、奴の話に乗ってやるとしよう。
「そもそも、貴様が核に選ばれたというのであれば、なぜ手にした時に融合を開始しない? 先程の光景を見ただろう。我が手にした瞬間、宝玉の方から形を変え、我が体内に入り込んだのを」
──それは貴様が選ばれていなかったからだ。
私は容赦のない現実を突きつけ、言葉を続ける。
「特別に教えてやろう。魔王の核となる宝玉は手にするものではない。魔王に相応しい者が力を得た時、その者の中に『核』が現れるのだ。我の核を手にしたところで、貴様が魔王になることはあり得なかった」
「そ、そんな……そんなの嘘に決まっている!」
「嘘ではない。核にだって所有者を選ぶ権利はある。貴様はそれに値しなかっただけの小物だ。ただ自分の愉悦に浸り、悪逆非道な行いを繰り返す貴様では、一生到達することのない領域なのだ。魔王というのはな」
文武両道を弁え、極める。多くの魔族からの信頼。頂点に君臨するに相応しい力。その全てを手にした者が初めて、魔王として選ばれる。
「嘘だ、そんなの、うそだ……」
「ふむ。ここまで言っても認めない、か……それも良し。貴様はこの程度のことも理解出来ない小物だったというわけだ」
「僕が、小物……僕が、この僕が小物だと……!」
ラヴェットは顔を上げた。
「僕は小物じゃない!」
一瞬で魔力を高め、その余波でラヴェットを囲っていた骨が吹き飛ぶ。油断していたせいで拘束が緩んでしまい、その隙を突かれたのだが、私は特にそのことに対して驚きはなかった。
「死ねっ!」
ラヴェットは着地すると同時に地を蹴り、私に肉薄する。
奴の袖から凶器が飛び出し、私の心臓に深く突き刺さった。
「──シェラローズ!」
その様子を防寒していたサイレスは、悲痛に私の名を叫ぶ。流石に見逃せないと思ったのか足にぐっと力を込めるが、彼が飛び出す前に私が制止の声を上げた。
「問題ない」
「だが、傷が──」
「問題ないと言っている」
私は胸に刺さる短剣を抜き、その直後に全てを癒した。
「……ワンピースに穴が空いてしまった。動きやすくて気に入っていたのに、どうしてくれるのだ?」
外出時はいつもこのワンピースを着ていた。目立たないためというのもあったが、何より動きやすい。
言葉の通り『お気に入り』だったのだが、ナイフに引き裂かれたせいで胸元が大胆に肌蹴てしまっている。このまま外に出れば、ちょっと話題になるだろう。……無論、悪い意味でだ。
「このっ!」
「ふむ。この圧倒的実力差を見ても、まだ歯向かうか」
絶対に勝てない戦いに挑むのは、ただの『蛮勇』だ。
いや、絶対的王者を前にして、何も策がないのだ。それは蛮勇ではなく『自殺者』と称しても間違いではないだろう。
……ああ、こいつは不死だったな。
では自殺者ではなく、なんだ?
絶対に勝てぬ戦いに挑み、成す術も無くやられる。奴は自分の信じたことを疑わない系の男だ。私が何度倒そうと、諦めずに何度も立ちはだかるだろう。
腕をもごうが、足を切り落とそうが、不死だからすぐに癒える。
痛みは感じないのだから恐怖はないのだろう。しかし側から見ればそれは──
「ドMなのか?」
「──ぶっ殺す!!!」
ラヴェットは再び地を蹴り、私にナイフを投擲する。
「二度はきかん」
ナイフを二本の指で挟み、適当な場所に放り捨てる。
視線を正面に戻すと、そこに居た人物の影は無かった。そのことに気付いた時、背後に僅かな殺気を感じた私は、振り返ることなく適当に腕を振った。
ラヴェットによる死角からの攻撃は王座の骨に阻まれ、飛び散った骨の破片が奴の体に付着して巨大化し、動きを封じる。もう一度腕を振るえば巨大な蔦となって四肢に絡みつき、無防備な体勢となって私の前に差し出された。
「くっ、僕を殺すつもりか! 無駄だよ。僕は不死だ。痛みだって効かないし、絶対に死なない! たとえ魔王でも、僕を殺すことは出来ない!」
必死の抵抗で叫ぶラヴェットを視界に入れず、私は王座の骨を一本折って適当に削る。そろそろいい感じの鋭さになったと思ったところで、それを奴の脳天に投擲した。
手足を縛られているのだから、避けられるわけがない。
予想通りに真っ直ぐ飛んだ骨片は抵抗無く突き刺さり、勢いを殺さぬまま頭を通過した。
「──、──ぅ、あ、あははっ。残念。殺せないよ」
ぐちゃぐちゃになった奴の頭は、見る見るうちに再生していき、やがて完全に穴は塞がれた。
一度死んだというのに、余裕の笑みは消えない。
死に慣れた者の成れの果て……ということか。
「ふむ。死による記憶障害は見られない。混乱も、していないな。痛みも、本当に感じていないように見える。蘇生による魔力消費も無し。本当に元通りになったのか」
私は一瞬の出来事を逃さず、冷静に『不死者』について観察していた。
これがもし自然現象で誕生したというのは──まず有り得ない。
だとしたら考えられるのは、人口的な不死化だ。何かトリガーになっている部分があるはずだと思い、私は王座から腰を上げてラヴェットに歩み寄る。
「ふむ……魔力の循環は正常……驚くほど乱れていないな」
だが、むしろそのことに違和感を覚える。
異常に綺麗な循環なのだ。魔力の循環は、いわば血液の循環と同じ。感情の変化によって魔力は乱れるものなのだが、ラヴェットにはそれが全く無い。それは絶対に有り得ないことだ。
「まるで、強制的に一定の循環をさせられているようだな」
「──っ、──!」
「ふむ。図星か」
問題は、その強制的にラヴェットを動かしている部分だが…………。
「見つけたぞ」
ラヴェットの心臓……その下部にある『みぞおち』に触れる。
「ちと痛いが……なぁに、今までの清算だと思えば軽いものだろう?」
「え、ちょっと何を、い、いやだ、やめ──」
「男がみっともなく喚くものではないぞ?」
私は制止の声を無視して、魔力を込め──
「ぐ──ッ、ァアアアァアアアッッッ!?!!!?」
深夜のスラム街に、男の絶叫が響き渡るのだった。
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