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第三話:氷血公爵
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私は、裸同然の薄いドレス一枚で、王都から追放された。
一歩、また一歩と、当てもなく雪の森を歩く。
寒い。
手足の感覚は、とうにない。
意識が、霞んでいく。
(ああ、ここで死ぬんだな)
偽りの聖女。
誰からも愛されなかった、出来損ないの私。
こんな私のことなんて、誰も気にしない。
それで、いい。
もう、疲れた。
雪の上に倒れ込み、ゆっくりと目を閉じた、その時だった。
ザクッ、ザクッ、と雪を踏みしめる音。
馬のいななき。
「――見つけた」
低く、地を這うような声。
恐る恐る目を開けると、そこに、一人の男が立っていた。
漆黒の軍服。
腰に下げた長剣。
夜よりも暗い黒髪と、全てを見透かすような、鋭い銀色の瞳。
その圧倒的な存在感に、息を呑む。
「お前が、アリア・バークレイか」
「……どちら、さま……ですか」
か細い声で尋ねると、男は馬から降り、私の目の前に立った。
見上げるほどの長身。その影が、私を完全に覆い隠す。
男は、ふ、と嘲るように口の端を上げた。
「俺の名はアレクシス。敵国ガルヴァニアの公爵だ」
アレクシス……。
まさか、あの“氷血公爵”!?
戦場では鬼神、血も涙もないと恐れられる、あの……。
殺される。
敵国の聖女(だった者)だ。ここで命を奪われても、文句は言えない。
私は、ぎゅっと目を瞑った。
だが、予想していた衝撃は、いつまでたっても来なかった。
代わりに、ふわりと、身体が温かいものに包まれる。
目を開けると、男物の、上質なマントが私の身体にかけられていた。
そして、目の前には、一通の封蝋された手紙が差し出されている。
「……これは?」
「お前の父親から、お前を俺にくれてやるという、ご丁寧な手紙だ」
「え……?」
「つまり、政略結婚だ。お前は今日から、俺の妻になる」
妻……?
この、氷血公爵の?
厄介払いの、生贄ということ……?
どうせ、このまま死ぬだけの命だった。
どこへ行こうと、私の運命は変わらない。
絶望に、心が慣れていく。
私が諦めたように頷くと、アレクシス公爵は満足げに頷いた。
そして、凍える私の身体を、まるで壊れ物でも扱うかのように、軽々と抱き上げる。
「行くぞ。俺の城へ」
彼の腕の中は、不思議と暖かかった。
遠のく意識の中で、私は最後に、彼の銀色の瞳が、獲物を見つけた獣のように、ギラリと光ったのを見た気がした。
一歩、また一歩と、当てもなく雪の森を歩く。
寒い。
手足の感覚は、とうにない。
意識が、霞んでいく。
(ああ、ここで死ぬんだな)
偽りの聖女。
誰からも愛されなかった、出来損ないの私。
こんな私のことなんて、誰も気にしない。
それで、いい。
もう、疲れた。
雪の上に倒れ込み、ゆっくりと目を閉じた、その時だった。
ザクッ、ザクッ、と雪を踏みしめる音。
馬のいななき。
「――見つけた」
低く、地を這うような声。
恐る恐る目を開けると、そこに、一人の男が立っていた。
漆黒の軍服。
腰に下げた長剣。
夜よりも暗い黒髪と、全てを見透かすような、鋭い銀色の瞳。
その圧倒的な存在感に、息を呑む。
「お前が、アリア・バークレイか」
「……どちら、さま……ですか」
か細い声で尋ねると、男は馬から降り、私の目の前に立った。
見上げるほどの長身。その影が、私を完全に覆い隠す。
男は、ふ、と嘲るように口の端を上げた。
「俺の名はアレクシス。敵国ガルヴァニアの公爵だ」
アレクシス……。
まさか、あの“氷血公爵”!?
戦場では鬼神、血も涙もないと恐れられる、あの……。
殺される。
敵国の聖女(だった者)だ。ここで命を奪われても、文句は言えない。
私は、ぎゅっと目を瞑った。
だが、予想していた衝撃は、いつまでたっても来なかった。
代わりに、ふわりと、身体が温かいものに包まれる。
目を開けると、男物の、上質なマントが私の身体にかけられていた。
そして、目の前には、一通の封蝋された手紙が差し出されている。
「……これは?」
「お前の父親から、お前を俺にくれてやるという、ご丁寧な手紙だ」
「え……?」
「つまり、政略結婚だ。お前は今日から、俺の妻になる」
妻……?
この、氷血公爵の?
厄介払いの、生贄ということ……?
どうせ、このまま死ぬだけの命だった。
どこへ行こうと、私の運命は変わらない。
絶望に、心が慣れていく。
私が諦めたように頷くと、アレクシス公爵は満足げに頷いた。
そして、凍える私の身体を、まるで壊れ物でも扱うかのように、軽々と抱き上げる。
「行くぞ。俺の城へ」
彼の腕の中は、不思議と暖かかった。
遠のく意識の中で、私は最後に、彼の銀色の瞳が、獲物を見つけた獣のように、ギラリと光ったのを見た気がした。
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