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本編
皇 万里の過去
しおりを挟む皇 万里、それが俺の今世での名前だ。
俺には生まれた時から前世の記憶がある。
この地球上のどこにもない、とある世界の大国の王子、ヴァーデン・バジルとしての。
国王の第一子として生まれた私は、物心ついた時から今で言う英才教育というものを受けさせられていた。
それに対して不満も特になかったし、勉強も剣術も嫌いではなかった。ただ人より出来が良かったのか、何をやっても興味は示せなかった。
そんなつまらない日々を送っていた私に転機が訪れる。将来の妻、つまり妃となるリリアンヌとの出会いだ。
リリアンヌの瞳は美しかった。
スミレのように可憐でありながら、藤の花のように何もかも受け入れてくれそうな優しさを秘めていた。
俗に言う“一目惚れ”というやつなんだろう。
初めて興味を示せたのが物でも家族でもなく、相手に認識もされていない女性とは、自分でもなかなかに滑稽だなと思った。
そんなリリアンヌを何とかして手に入れたいと思ったが、私には既に婚約者がいた。
しかもリリアンヌの双子、クロエが。
この国では双子は禁忌の子とされていたからリリアンヌは親戚の子として育っていた。
今思えば何を言っているんだと思うが、当時は真実と信じ込まれていた。
おかげでこちらから正当な婚約者として求める事はできない。
例え婚約破棄をしてリリアンヌに求婚しても禁忌の子を妃になんて、誰も認めなかっただろう。
この時初めて王子という立場が疎ましいと思った。
私がただの男だったら、婚約者ができる前に出会っていれば、リリアンヌが双子じゃなかったらーーー。
考えても仕方がない事だが、考えずにはいられなかった。それほど、私はリリアンヌに溺れていっていた。
そして私は自分の権力を最大に使う事にした。王子という立場が邪魔ならそれを使わない手はない。バレたらバレたでいらない立場だ。未練もない。
それから様々な手を使い、クロエとしてリリアンヌを手に入れた。
リリアンヌは一生クロエとして生きていかなければならなくなり、それに関しては申し訳ないし私自身も不満に思う。が、それしか方法がなかった。
私にはリリアンヌさえいれば良かったんだ。
だけど彼女は違った。
大切な家族がいて、義理の兄を慕っていた。
私との子を何人生んでもその気持ちは無くならなかった。
いつかは私を見てくれる、そう信じて日々リリアンヌには危害がないよう目を光らせていたが・・・遂に毒殺未遂が起きてしまった。
私のリリィに危害を加えようとするなんて許せないーーー!
お茶に毒薬を仕込もうとしていた侍女を現行犯で捕まえられたため、教唆した側室の一人、ロバーツ伯爵令嬢は斬首刑となった。
しかしあの女は死ぬ間際まで毒を仕込んだ事を否定していた事に引っ掛かりを覚えた。
もしも、あの女を使い私のリリィを殺そうとしていたのならあの女以上の苦しみを与えなければ気がすまない。
私は手の者を使い、リリィには悟られないよう秘密裏に調べさせた。
暫くしてやっとわかったのは、マピトン侯爵家から側室として上がった令嬢が一枚かんでいるという事だった。
すぐにその令嬢を地下牢へと入れ、全て吐くように言った。こちらの言う通りにしないのならどんな拷問をしてでも喋らせるつもりだったが、意外にも令嬢は素直に吐いた。
侍女を使い、既に斬首刑となったあの女に薬を渡したがそれは痺れ薬であり毒など入れていないと。
あの女が言っていた事と一致した。
鍵はその侍女だ。
すぐにその侍女を拘束し、マピトン侯爵令嬢と同じように問い詰めた。
侍女の自供の元、調べ始めると驚くほどの人数の経由があった。
物理的な証拠はなくとも証言が取れれば疑わず全て調べさせた。
そして浮かび上がったのは隣国で有名な裏組織、“ターンゼット”だった。
「クソッ!よりによってターンゼットとは!」
ダンッ!と机を叩きやり場のない怒りをぶつける。
ターンゼットはただでさえ大きな組織であるのに、更には隣国ときた。
隣国とは国交を結んでいない。完全な証拠がない限り隣国を動かす事はできないだろう。
なぜターンゼットがリリアンヌを、我が国の王太子妃の命を狙うのかがわからない。
おそらく依頼されているのではないかと側近の一人が言った。
そこまでしてリリアンヌに恨みをもつ者ーー
既にリリアンヌの本当の親、ガードン公爵は亡くなっている。そして育ての親は私の息がかかった使用人たちから常に監視を受けている。何よりリリアンヌを狙う理由がない。
リリアンヌの想い人である義兄も婚姻し、幸せに暮らしていると報告があった。
ならばあとは一人ーーー。
「クロエか・・・」
クロエは心労がたたり、今ではほぼ正常な判断ができないと報告を受けている。
しかし正常な判断ができないからこそ、何を仕出かすのかわからない。
すぐにクロエを監視している使用人を呼び出し、話を聞く事にした。
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