双璧の転生者

ミケメコ

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西の転生者

26.対面

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 リーズが帰ってくることはなく、システィーアは時間までリプルと過ごした。
 リプルはリーズと違い、表情がコロコロ変わって話しやすい。強かな大人ではないというのも大きいのかもしれない。
「ねぇ、さっきリプルが、米がウ国の献上品だと教えてくれたでしょう? あの時、私、何か気に障るようなことを言ったかしら?」
「いえ、えーと⋯⋯。システィーア様が何かなさったって訳ではないんです」
「どういうこと?」
 出際に気になっていたことを尋ねると、リプルは目を泳がせた。
「その、顔合わせが終わるまでは、相手の候補者のことは話さないようにと、リーズに言われてて。先代の候補者達の時に、何かあったらしくって。あまりよく知らないので、わからないのですが」
 リプルが質問に答えながら、子供サイズの黒いロングコートを持ってくる。デザインは水の管理者やサーティスが着ていたものと同じだ。
「そうだったのね。これを着ていくの?」
「はい。管理者用のコートです。このコート、結晶用の内ポケットがついてるんですよ!」
 凄く便利ですよね、と同意を求めてくるリプルに曖昧に微笑んで、システィーアはコートに袖を通した。
「後、これなんですが⋯⋯」
 リプルが緊張した面持ちで、綺麗に畳まれたロングコートを差し出して来た。
「サーティス様のコートです。綺麗にしておきましたので、システィーア様から返して頂けませんか?」
 システィーアは目を瞬かせながら、コートを両手で受け取った。
「私が借りたのですもの。勿論、そうさせて。でも、どうしたの? 何だか、様子がおかしいみたいだけど」
「やはり、コートをお借りしていたシスティーア様は平気なのですね。私達には畏れ多すぎて」
「畏れ多い?」
「闇の管理者として選ばれるだけでなく、最高神にも愛されていらっしゃるでしょう? 普通、最高神に愛されたあの黒いお姿を目にするだけで、畏れ多すぎて身体が震えてくるのですよ」
 システィーアは、理解が出来ずに首を傾げた。
「もしかして、黒い髪や目のこと?」
「はい。それと、纏う雰囲気? もしかしたら魔力なのかもしれません。それにあてられてしまうのです」
 言われてみれば、サーティスくらいの年齢なら、もっと白に近い髪色の筈だ。瞳だって、紺色や深緑などの黒に近いものはあるが、あれほど純粋な黒は、この世界の人間で見たことがない。
 でもだからって、何故それが畏れ多いに変換されるのか。魔力に当てられるという経験もないので、システィーアにはよくわからなかった。

 システィーアはリプルと一緒に部屋を出て、彼女の案内で長い廊下を歩いて行く。
 やや歩くと、廊下の柱の結晶の緑色が終わった。すぐ隣の柱の結晶は黒くなっていて、緑と黒の間に他より一回り大きな白い扉が聳え立っていた。
 リプルがそこで足を止めたので、システィーアも立ち止まる。
 扉は石で出来ていて、見るからに重そうだ。細かい模様がびっしりと彫られていて、その中央からリュウの紋がこちらを見ている。付いている取手は扉のサイズに不釣り合いな小ささで、飾りとしか思えない。
「システィーア様、見習いの私はここまでしかお供できません」
 システィーアは、石扉とリプルを交互に見た。
 するとリプルが扉を指す。
「扉に手を触れて下さい」
 持っているコートを落とさないように気をつけながら、システィーアは扉に触れた。
 途端に扉の模様が淡い光を放ち始める。
「!」
 システィーアが驚いて手を引っ込めた時には、扉は音もなく、すっと内側に開いた。
 その先には緩く曲線を描くように白い石階段が続いている。
 再びリプルを見ると、彼女はシスティーアを安心させるように微笑んだ。
「いってらっしゃいませ、システィーア様」
「行ってきます、リプル」
 システィーアはリプルに微笑み返すと、扉の中へと足を踏み入れた。
 階段を一段登ると、ふっと視界が薄暗くなる。
 振り返ると扉が閉まっていて、システィーアは無意識に持っていたコートを抱きしめた。一度大きく深呼吸をし、それからゆっくりと階段を登る。

 数段登った所で大きく開けた場所が視界に広がり、システィーアはあんぐりと口を開けた。
 暗く高い天井には星のように数多の小さな光が、何色も交えて輝いている。おそらく結晶だろう。
 広さのわからない暗闇を徐々に見下ろしていくと、白い壁が少しずつ視界に入ってきた。壁に沿って足元から仄かな白い光が室内を照らして調和を取っている。
 室内は奥に長くなっていて、手前には左右に三脚ずつ、等間隔で椅子が並んでいた。そこに黒い服を着た何人かが腰を下ろしている。奥には数段の段差があり、中央には黒い薄布が被せられた椅子が置いてあった。
「来たか」
 聞いたことのない低い声が室内に響く。
 思わず足を止めたシスティーアの方へ、椅子から立ち上がった誰かがやってくる。
「管理者としての教育を受けてないと聞いていたが、魔力は綺麗に流れているな」
 のしのしとやってきた山のような大きさの男が、じっとこちらをを見つめてくる。
 システィーアは気圧されて数歩下がった。
「ちょっと、怯えているじゃないの」
 女性の声の後、もう一人誰かが立ち上がった。
「魔力の流れは、私が手引きした」
「え、ウソ。サーティスが?」
 驚いて女性が呼んだ名前に反応して、システィーアはそちらを見た。
「状況的に仕方なかった」
 黒いコートを着たサーティスは大きな男の隣に立つと、システィーアに手を差し出した。
 システィーアは勢いよくその手を掴むと、ほっと息を吐く。
「あら、まぁ⋯⋯」
「ほう。珍しい子だな」
 周囲の声は聞こえるが、当のサーティスは無言のまま動かない。見上げてみると表情は薄暗くてよく見えないが、じっとこちらを見ているようだ。システィーアが首を傾げると、サーティスのもう片方の手が差し出された。
「コート」
 言われて、システィーアは慌てて持っていたコートを手渡そうとして、ハッとした。持っていたコートはいつの間にか握りしめられていて、くしゃっと無惨な状態になっている。
 どうしようかと考えている間に、サーティスの手がコートを攫った。
「集中」
「え?」
 声と同時に、繋いだ手に黒い異物感を感じて、システィーアは慌ててリュウの紋に集中する。

 途端、部屋の中が一気に変わって視界に映った。
 システィーアは先程以上に驚いてあたりを見回す。
 しっかりと見える白い室内。三脚ずつ並ぶ椅子には、黄色い蔓を体に絡ませた美女、青い蔓を絡ませた水の管理者が座っていた。目の前には黒い蔓を絡ませたサーティス。その隣には大きな体躯に赤い蔓を絡ませた男が立っている。皆それぞれの色の花を咲き誇らせていてとても美しく、この部屋のせいなのかとても神秘的に見えた。
「サーティス、貴方、随分と手懐けたのね。これなら彼女は貴方が見た方がいいと思うわ。ね、ゼネル」
「それはいいな! 頼んだ、サーティス。リーティアと進み具合も違うから助かるよ」
 美女の言葉に乗っかりながら、ゼネルと呼ばれた赤い大男がサーティスの背中をバシンと叩く。
 すると、黒い蔓がサーティスの背を厚く覆うように動いた。
 目を丸くしてその様子を見ていると、ゼネルがニヤリと笑った。
「まだ揃ってないが、先に始めてしまおう。私はゼネル・ファフス。見ての通り、火の管理者をしている」
 原色のように赤く力強い瞳に男らしい大きな体躯、水の管理者とは正反対のタイプのようだ。
「私はアイリーン・イナフ。風の管理者よ」
 椅子に座っていた美女は濃い青の切長の目に、シャープなラインの輪郭、赤いルージュに、真っ直ぐに伸びた長い髪を下ろしたままにしている。黒いコートは前を止めておらず、白いシャツによって大きな胸が強調されている。
「水の管理者、ディゼア・オスティン」
「あら? ディゼアはフリューシェルに迎えに行ったのでしょう? 自己紹介してないの?」
「迎えに行ったのではなく、魔物の浄化に行った」
「名前くらい、浄化しながらでも名乗れるでしょうに」
 ディゼアが黙ったところで、皆の視線がこちらに向いていることに気づいて、システィーアは大きく息を吸い込んだ。
「システィーア・フォンベルツです」
 ゼネルが一つ頷いて、一脚の椅子の前で手招きをする。
 すぐにサーティスに手を引かれて、システィーアは椅子の前まで連れて行かれた。
 木製の椅子の背もたれには、リュウの紋が緑の線で書かれている。
「座りなさい」
 サーティスにそう言われて、皆に注目される中、システィーアはぎこちなく椅子に座った。
「⋯⋯この子も変わらないか」
 しばらく経ってから、ゼネルが口を開いた。
「まあ、今代はまだ若すぎるし、な」
 ディゼアがそう言った時、誰かの話し声が入ってきた。
「もう、わかった。わかったから! ほら、遅れちゃう!」
「リーティア様!」
 そこで声が途切れると、誰かが階段を上がってきた。

 白く長い髪はサイドを三つ編みにしてさらりと下ろしている。ぱっちりとした濃い蜂蜜色の瞳、ぷっくりとした唇に⋯⋯陶器のような白い肌と、緑の⋯⋯。
 システィーアは目眩を感じたが、少女から目を逸らせない。
 緑の蔓が絡まった少女と、目が合う。
 思考が、一時停止する。
 視界が、反転して。

 システィーアは遠のく意識の中で、誰かの声が聞こえた気がした。
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