双璧の転生者

ミケメコ

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西の転生者

27.記憶

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 携帯の着信が鳴っている。
 舞は慌てて携帯を手に取った。
「あ、もしもしー? うん。うん。忙しい時間にかけ直してもらってごめんね。大した用事じゃないの。返してもらった本なんだけど、間に知らないゲームが挟まっててさ、それの⋯⋯うん? え? でもこれ、パソコンのみたいで⋯⋯あ、うん。そっか、わかった。いやいや、ごめんね、また後で」
 舞は力なくソファーに腰を下ろした。
「変な顔してどうしたよ?」
 ソファーの端でテレビを見ていた弟に聞かれて、舞は手に持っていたゲームをテーブルに置いた。
 ケースの表には「竜の箱庭」と書かれていて、六人分のシルエットが一緒に描かれている。
「このゲームなんだけど⋯⋯」
 ゲームを手に取った弟は、ケースを何度かひっくり返して表裏確認すると、中を開けた。
「PCゲーム?」
 舞は頷いてから、溜息を零した。
「ゲームしないし、パソコンも持ってないから私のじゃないって言われたの。なら、このゲーム、誰のだろ?」
 弟は説明書を取り出してパラパラっと中身を確認するとすぐに元に戻して、ゲームをこちらに差し出した。
「家族の誰かか、別の友達から借りた何かに紛れ込んだんじゃないのか? てか、市販されてるゲームじゃないぞ、これ⋯⋯」
「え?」
 弟の手から返ってきたゲームのケースをまじまじと見る。
「レーティングマークとか、色々書いてあるだろ普通。制作会社の名前すらないし。ウィルスだったりしてな」
「え、ウソ⁈」
 ぎょっとした舞を見た弟の顔色が変わる。
「おい、まさか、プレイ済みとか言わないだろうな⁈」
「⋯⋯ごめん、そのまさかデス」
 舞が顔の前で手を合わせると、弟は肩を落として溜息を吐いた。
「お前なぁ⋯⋯。機械弱くていつも俺のところ持って来るくせに、なんでこう言う時には持って来ないんだよ⋯⋯」
「でも、普通に動いたよ?」
「はいはい。話はもういいから、早くPC持ってこいよ」
「わかったー」
 パタパタと階段を登って自室に入る。
 机の上には開いたままのノートパソコンが置かれたままで。

「主人公の名前を入力してください」

 画面には、白く長い髪のサイドを三つ編みにして、さらりと下ろした年若い女性の絵。ぱっちりとした目は濃い蜂蜜色で、ハイライトの乗った綺麗な唇と肌。
 背景には緑色の蔓と、あれは⋯⋯。

「リュウの紋」

 声に出した途端に、視界がぐるりと回る。
 気がつくとシスティーアは天蓋付きのベッドに横たわっていた。
「ここ、は⋯⋯」
 痛む頭を押さえながら上半身を起こすと、誰かがこちらへ来る気配がした。
「システィーア様!」
 ほっとしたような顔をしたリプルが、システィーアの視界に入る。
「リプル⋯⋯?」
 状況がわからずにぼんやりとしているシスティーアに、リプルは水差しから水を入れて手渡した。
「リーズを呼んできますね」
 嬉しそうに踵を返したリプルを無言で見送りながら、先程の記憶を手繰り寄せる。
 画面に出ていた主人公の絵、あれは間違いなくリーティアだった。
 東の大国レプリシアの王女リーティア・レプリシア。
 四人の兄王子に可愛がられて育った末の姫。生まれる前の、別の世界を生きてきた記憶を持ち、壁の管理者になるべく幼い頃から教育を受けてきた、皆に愛される主人公。
 主人公は数いる男性の中から一人を愛して管理者を目指す。

 そして、ライバル役。
 あのゲームにも、壁の管理者候補は二人いた。
 癖が強く、白い長髪。吊り目がちな青紫色の瞳。常に宝石をつけた明るい服を着ている、気の強い年頃の少女。
 システィーア・フォンベルツ。クラングラン王国の公爵家の長女だ。
 ゲームのシスティーアは、おにぎりに出会う前のシスティーアと同じ、我儘で、心に余裕のない性格をしていた。管理者としての教育なんて勿論受けてなかった。
 そのせいなのかはわからないが、三人の壁の管理神官は最初から主人公寄りだった。ゲームのシスティーアは、いつも主人公贔屓な管理神官達に苛立ち、彼らに罵詈雑言を浴びせていた。

 システィーアはあのゲームを何度かエンドまでクリアしていたが、ことごとくバッドエンドだった。どの攻略キャラを選んで管理者になっても世界は崩壊してしまうし、管理者に慣れなかった場合でも誰かしらに殺されてしまう。
 だから、持ち主の友人に電話で聞いてみようと思ったのだ。
 どうやったらハッピーエンドに辿り着けるのか、と。

「どうしよう、どうしよう⋯⋯」
 ここまで類似しているのだ。きっと、自分はライバル役のシスティーアなのだろう。
 システィーアはぶるりと身体を振るわせると、自らの身体を抱き寄せて小さくなった。
 ライバル役はあのゲームの中でどうなっていたか。
 思い出そうとしたところで扉が開く音がした。システィーアは顔を上げてそちらを見た。
 入ってきたのはリプルとリーズだ。リプルが食事の準備に動いて、リーズはこちらへとやって来た。
「システィーア様、ご無事で何よりでございます」
 にこりと微笑むリーズがこちらを見ている。
 システィーアは彼女の顔をじっと見つめてから、視線を落として息を吐いた。
 おそらく管理神官三人はゲームと同じように、リーティア寄りなのだろう。そう考えると、ゲームの中のシスティーアが苛立っていた気持ちも理解できる。四六時中嫌々一緒にいるなんて、こっちから願い下げしたい。
「リーズ」
「はい、なんでしょう?」
「出かける時、一部を除いて管理神官を同行させるように言ってましたけど、見習いでは駄目なのですか?」
「見習いでは不足の事態の時に対処できませんし、決まっていることですので」
「なら、管理神官を増やしてもらえませんか。管理者候補二人に、管理神官が三人だけだと少なくないですか?」
「増やしたいのは山々ですが、管理神官を増やすことは出来ません。証がないのです」
「証?」
 システィーアは顔を上げてリーズを見た。変わらぬ笑顔の仮面が視界に入り、すぐに視線を落とす。
「管理神官は証として、結晶のはまった特別な指輪をつけます。次代へ交代時にそれを継承していくのです。本来は各管理者に五人の管理神官がいたそうです。けれど今残存している壁の管理神官の指輪は三つのみです」
 そんな設定もあったっけかなと思いながら、システィーアは肩を落とした。
 こういう時、誰か相談できる人がいたらいいのだけど。
 システィーアが着替えさせられながら思案していると、黒いコートが目の前に出された。
 黒といえば、思い出すのは闇の管理者、サーティスだ。
 彼には色々よくして貰って、と思い出を回想していてシスティーアは、はたと気づいた。
 フリューシェルでは確かに管理神官を連れていたが、こちらでコートを貸して貰った時、彼の周りに管理神官は居なかった。一人だったはずだ。
 サーティスに聞いてみよう。
 システィーアは一人頷いて、顔を上げた。
 
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