双璧の転生者

ミケメコ

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西の転生者

28.散歩と称して

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 システィーアは着替えの後に食事を取り、現在は少し不満げに食後のお茶を飲んでいた。
 ここには屋敷にいた頃のように頻繁に出せるほど、お米がないのだろう。何度目かわからないが、再び溜息を零す。
 パンに野菜のスープ、肉の香草焼き。味は美味しいし、量もある。でも、今まで屋敷で米三昧ぜいたくをしていたことを思えば、急に食事のランクが落ちたと感じてしまっても仕方がない。
 いつまでもここにいたら溜息が止まらないと思い、システィーアはお茶もそこそこに、脚の長い椅子から飛び降りた。
「ちょっとだけ、食後の散歩に行ってきます」
「すぐに暗くなりますので、お早めにお戻りくださいね」
 リーズの言葉に適当に頷き、リプルの見送りの言葉に返事をして、システィーアはさっさと部屋を出た。
 向かうは闇の管理者の宮だ。
 リーズについて来られるのは嫌なので、邪魔されないうちに、サーティスに聞きたいことを聞きに行こうと思う。
 サーティスには迷惑かもしれない。でも、記憶が正しければ、あの広間でサーティスは、システィーアのことを頼まれていたはずだ。

 システィーアはあのリュウの紋がついた椅子が並ぶ広間で倒れてから、丸一日寝ていたらしい。
 リプルの話では、システィーアと全く同じタイミングでリーティアも倒れたのだそうだ。ゲームではなかった展開⋯⋯というか、そもそも中央でリーティアと会うのは、もっと大きくなってからのはずだ。
 昼間は陽光が差し込んで明るい廊下だが、薄暗い夕方は柱に付いている結晶が明かりの役目をするようだ。静かな廊下を歩きながら、柔らかく光る緑の結晶に照らされる。

 システィーアが持っているゲームの情報だと、闇と光の管理者は存在はするものの、ゲームには登場しない。そういえばゲームの冒頭から、魔物が頻繁に現れるらしく、稀に水の管理者のディゼア⋯⋯ディーちゃんが、目の下にクマを作って登場していた。あの港街の魔物の浄化の時の魔法を思えば、かなりキツいのは間違いないだろう。ということは、同じかそれ以上に、闇と光の管理者も何かしら忙しかったのかもしれない。

 管理者の中では、火の管理者ゼネルと水の管理者ディゼアが攻略対象者だった。がっしりとした騎士のような体躯のゼネルと、華奢で冷たい印象のディゼア。
 二人の顔を思い出した後にサーティスの顔を思い出して、システィーアは首を傾げる。
 二人に引けを取らない整った顔立ちをしているのに、サーティスが攻略対象者でないのがとても不思議だった。むしろ二人よりもサーティスの方が落ち着いた印象があって、システィーアからするとイケメン要素が強く思えた。
 まあ好みのイケメンと言えば、断然、妖艶なウ国の王子レイダンなのだが⋯⋯何故か彼はゲームでは、便利アイテムを売ってくれる商人の立ち位置だった。プレイ中から思っていたことだが、このゲームは配役がおかしすぎる。

 緑の灯りが続く廊下の先に、あの広間へ続く白い扉がある。その扉より向こうへと続く廊下の柱から、黒い結晶の光が辺りを照らしていた。
 こちら側より薄暗い廊下を見て、システィーアは背筋を伸ばした。
 ここへ来てから魔力にしても、部屋の小物にしても、いつも色分けされていた。今システィーアが羽織っている黒のロングコートだって、他の管理者と同じデザインではあるが、縁には緑のラインが入っている。
 だから、おそらくこの黒い結晶のついたこの柱から向こう側が、闇の管理者の宮に違いない。
 大きく息を吐いてから一つ頷き、システィーアはそっと黒い光の並ぶ廊下へと足を進めた。
 自分の足音だけが響く薄暗い廊下は、思ったよりも心細い。気のせいだろうか、風が少し肌寒く感じた気がして、システィーアは腕をさするように組んだ。
 廊下は光の色が違うだけで、全く同じ間隔で扉が並んでいる。
 黒い光源の下をまだ少ししか歩いていないはずなのに、もうずっと前から歩いていたような、そんな気がしてきた頃、目の前の扉が音を立てて開いた。
「あれ? システィーア様?」
 こちらに気づいた背の高い青年が、目の前までやってくると膝をついた。
 鳶色の吊り目、それより少し薄い色の短髪。ゼネル程ではないがしっかりとした体躯。それから、リーズやリプルと似たような、襟の立った生成色の服を着ている。システィーアの記憶にはないが、名前を呼ばれたのだから知り合いなのだろう。となれば、サーティスの宮なのだから、港街で一緒だった長身の二人のどちらかということになる。
 こちらがぼんやりと見上げたままだったからだろう、青年はポンと手を打つと人の良さそうな顔で笑った。
「ああ、そうか。外だとフード被ってたしな。名乗りもせずにお声かけをして申し訳ありません、システィーア様。私は先日、港街フリューシェルでご一緒したライガーと申します」
 システィーアの頭に、腰紐を魔法で棒状にして戦うライガーの姿が思い出される。
「ああ。あの格好良かった、棒術の」
 少し照れたような笑みを浮かべて、ライガーは頭をかいた。
「恐縮です」
 それから思い出したように、ライガーがすっと顔を引き締める。
「で、共も連れずにどちらへ? ここは闇の管理者の宮ですよ」
 システィーアは口元に笑みを乗せた。
「急に来て悪いとは思ったのだけど、サーティスに尋ねたいことがあって来たのです」
 ライガーが一度目を見開いてから嬉しそうに口を緩め、けれどすぐに困ったように笑った。
「失礼ですが、管理神官に行き先を告げて来られましたか?」
 嘘をつくべきか、真実を言うべきか⋯⋯システィーアは知らず知らずのうちに表情を曇らせた。
「一度お送りしますから、共をお連れになっていらっしゃってください。主にもそう伝えておきますから」
 そう言って立ち上がるライガーの服の裾を、システィーアは慌てて掴んだ。
「待って!」
 我が儘なのは、わかっている。でも、リプルならともかく、システィーアに良い感情を持って無さそうなリーズを連れて話なんて出来ない。
「本当に少し! 少し話をするだけでいいです。⋯⋯すぐに帰ります。だからこのまま、サーティスに会わせて下さい」
 必死になって訴えかけていると、ライガーの背中の向こうにある別の扉が開く音がした。
「⋯⋯システィーア?」
 システィーアがひょこりとライガーの横から顔を出すように、声のした辺りを見る。
 満面の笑みを浮かべるシスティーア。
 反対にライガーは、片手で顔半分を覆う。そして、脱力しながら主の名を呼んだ。
「サーティス様⋯⋯」
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