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西の転生者
30.ファウゼルの苦難
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彼女との出会いは、ファウゼルが七歳の時に母である王妃が主催した、婚約者を決める為の茶会だった。
婚約者を決めると言っても、既に相手は決まっていて、後は彼女が王妃のお眼鏡に適えばいいだけだ。それがどうしても嫌だと言うのなら、このお茶会で相手を見つけるように。そう言われたが、お相手が誰なのか、ファウゼルは知らない。まあどっちにしても、婚約というものがどういうものか、いまいちぴんとこないから成り行きに任せることにした。
したが、これは想定外だ!
ファウゼルは弟と一緒に、歳の近い女の子達に囲まれて、もみくちゃにされていた。誰かの腕がファウゼルの腕に絡みついて来たのを機に、たくさんの手が無遠慮に身体を撫でていく。
この間覚えたばかりの「不敬罪」にしてやりたいくらいには、気持ち悪かった。だと言うのに、母である王妃はちらりとこちらを見るだけだ。
そんな集まりの中、一人の女の子だけが会場の隅、お菓子の並ぶテーブルにいた。
ふわふわと柔らかそうな癖の強い長い白髪に、星が入っているかのようにきらきらした青紫の瞳。派手な赤いドレスは彼女を気の強そうな子に見せていたが、一人楽しそうにお菓子を選んでいる可愛い姿には不似合いで。
ファウゼルは思わず「彼女だ!」と叫びたくなった。
決められた婚約者が誰であろうと、この場にいる者の中で選ぶなら彼女しかいないだろう。
彼女に声をかけようとするが、女の子達の腕がファウゼルの両腕に重石のようにのしかかり、思うように動けない。
こんな鬱陶しい女の子達のうちの誰かと、ずーっと仲良くしないといけないなんて、そんなのごめんだ。
ファウゼルは必死に、しかし王族として見苦しくないように、彼女の元へ向かった。
そこで彼女、システィーア・フォンベルツは、いとも容易くファウゼルに絡みついていた女の子達を取り払ってくれた。
ただの人の少女が女神に見えるくらいに、ファウゼルは心を奪われた。
その後、女の子達がちょっと泣きじゃくったり、ごめんなさい合戦になったりと少し騒ぎが起きた。その騒ぎがやっと終息したと思った時には、彼女の姿は会場内にはなかった。
彼女のおかげで女の子達との距離感は落ち着いたけど、彼女が居なくなったお茶会は退屈だ。
ファウゼルは早々に抜け出すことにした。王妃には後で叱られるかもしれない。だがこの場には、ファウゼルと同じく婚約者を決めるために、弟のロンバルトがいるのだから問題ないだろう。
そうして向かったカインベルとの待ち合わせ場所で、ファウゼルは思いも寄らない光景を目にした。
「何でわざわざ植物図鑑で隠すなんて可愛いことをしてるんですか? 普通に読めばいいのに」
何故かそこには、声をあげて笑うシスティーアがいた。頬を上気させて笑う彼女の側には、いつもと様子が少し違うカインベルがいて。
モヤッとした胸の内を不思議に思いながら、ファウゼルはいつものようにカインベルをからかった。
今思えば、嫉妬していたのだろう。だから、その日の夜に王妃からシスティーアの婚約者候補の話を聞いた時は、とても嬉しかった。彼女となら、ずーっと仲良くというのも出来るかもしれないと、そう思った。
王宮でシスティーアと会えるようになって、ファウゼルの生活は前よりも楽しいものになった。
午前中は数日おきにシスティーア達と王妃の庭園で交流する。昼からはカインベルと一緒に家庭教師から勉強を教わる。夕方には将軍に剣の稽古をつけてもらう。実に充実した毎日を送れていた。
交流は日によってすることが色々で、時にはシスティーアが影遊びや色遊びなど、変わった遊びを提案してくれた。
システィーアはファウゼルが思っていたよりも、かなり不思議な令嬢だった。時々大人のように難しいことを言うくせに、当たり前なことを知らなかったりする。城や屋敷の外装の装飾に使われている結晶が、自分達の先祖のものだというのも知らなかった。
いつも遊び相手であるカインベルとは兄弟のように気安く接していたが、異母弟のロンバルトとは普段全く接点がなかったので、弟と言うより友人のように思えた。
だけど、そんな楽しい毎日は数える程しか続かなくて。
クレアリリー・フォンベルツ。
システィーアの腹違いの妹。
彼女が詐欺まがいの手口で王妃の庭に入って来たあの日、ファウゼルは王妃の元へ相談に行った。王族を謀った罪で入城を禁止してもらおうと思ったのだ。
クレアリリーとロンベルトの話をすると、王妃は扇子で口元を隠して言った。
「クレアリリーは、仲間に入れて欲しかっただけでしょう? それに、子供は悪戯をしたり、間違えたりを繰り返して成長するのよ。貴方だって、何度注意しても悪戯をしているのですから。同じようなことがないように注意すれば十分よ。私から彼女の両親に言っておきましょう」
仲間に入れて欲しかっただけだろうと言われたら、入城禁止をお願いしたファウゼルの方が悪いみたいに思える。
ファウゼルは結局、反論出来ずに仕方なく現状を受け入れた。
しかし、限界はすぐに来た。
絡まる腕、罵る口にヒステリックな声。
何度拒絶しても、クレアリリーには伝わらない。
ファウゼルが「大嫌いだ」と言っても、クレアリリーは自分に都合が良いように勝手に、照れ隠しだと変換してしまうのだ。
ファウゼルはイライラを積もらせた。心に余裕がなくなる感じが、まるで自分に彼女の赤い毒がじわじわと染み込んでくるようだと思った。
それにクレアリリーがいるといつもシスティーアは、ファウゼルが見たかったシスティーアの顔とは正反対の顔をする。感情を殺した、冷めた顔だ。
このままではよくない。
ファウゼルはもう一度、王妃の元へ相談に行った。けれど、結果は同じ。色良い返事はもらえなかった。
だから、庭に行くのを止めた。
ファウゼルが行かなくなれば、クレアリリーも行かなくなるかもしれない。
しかし、クレアリリーはやって来た。そして毎朝、ファウゼルを探して回る。
立ち入り禁止区域のおかげでクレアリリーにかち合うことのないファウゼルは、このまま彼女が飽きるのを待つつもりでいた。
そうすれば、また元通りになると信じて。
婚約者を決めると言っても、既に相手は決まっていて、後は彼女が王妃のお眼鏡に適えばいいだけだ。それがどうしても嫌だと言うのなら、このお茶会で相手を見つけるように。そう言われたが、お相手が誰なのか、ファウゼルは知らない。まあどっちにしても、婚約というものがどういうものか、いまいちぴんとこないから成り行きに任せることにした。
したが、これは想定外だ!
ファウゼルは弟と一緒に、歳の近い女の子達に囲まれて、もみくちゃにされていた。誰かの腕がファウゼルの腕に絡みついて来たのを機に、たくさんの手が無遠慮に身体を撫でていく。
この間覚えたばかりの「不敬罪」にしてやりたいくらいには、気持ち悪かった。だと言うのに、母である王妃はちらりとこちらを見るだけだ。
そんな集まりの中、一人の女の子だけが会場の隅、お菓子の並ぶテーブルにいた。
ふわふわと柔らかそうな癖の強い長い白髪に、星が入っているかのようにきらきらした青紫の瞳。派手な赤いドレスは彼女を気の強そうな子に見せていたが、一人楽しそうにお菓子を選んでいる可愛い姿には不似合いで。
ファウゼルは思わず「彼女だ!」と叫びたくなった。
決められた婚約者が誰であろうと、この場にいる者の中で選ぶなら彼女しかいないだろう。
彼女に声をかけようとするが、女の子達の腕がファウゼルの両腕に重石のようにのしかかり、思うように動けない。
こんな鬱陶しい女の子達のうちの誰かと、ずーっと仲良くしないといけないなんて、そんなのごめんだ。
ファウゼルは必死に、しかし王族として見苦しくないように、彼女の元へ向かった。
そこで彼女、システィーア・フォンベルツは、いとも容易くファウゼルに絡みついていた女の子達を取り払ってくれた。
ただの人の少女が女神に見えるくらいに、ファウゼルは心を奪われた。
その後、女の子達がちょっと泣きじゃくったり、ごめんなさい合戦になったりと少し騒ぎが起きた。その騒ぎがやっと終息したと思った時には、彼女の姿は会場内にはなかった。
彼女のおかげで女の子達との距離感は落ち着いたけど、彼女が居なくなったお茶会は退屈だ。
ファウゼルは早々に抜け出すことにした。王妃には後で叱られるかもしれない。だがこの場には、ファウゼルと同じく婚約者を決めるために、弟のロンバルトがいるのだから問題ないだろう。
そうして向かったカインベルとの待ち合わせ場所で、ファウゼルは思いも寄らない光景を目にした。
「何でわざわざ植物図鑑で隠すなんて可愛いことをしてるんですか? 普通に読めばいいのに」
何故かそこには、声をあげて笑うシスティーアがいた。頬を上気させて笑う彼女の側には、いつもと様子が少し違うカインベルがいて。
モヤッとした胸の内を不思議に思いながら、ファウゼルはいつものようにカインベルをからかった。
今思えば、嫉妬していたのだろう。だから、その日の夜に王妃からシスティーアの婚約者候補の話を聞いた時は、とても嬉しかった。彼女となら、ずーっと仲良くというのも出来るかもしれないと、そう思った。
王宮でシスティーアと会えるようになって、ファウゼルの生活は前よりも楽しいものになった。
午前中は数日おきにシスティーア達と王妃の庭園で交流する。昼からはカインベルと一緒に家庭教師から勉強を教わる。夕方には将軍に剣の稽古をつけてもらう。実に充実した毎日を送れていた。
交流は日によってすることが色々で、時にはシスティーアが影遊びや色遊びなど、変わった遊びを提案してくれた。
システィーアはファウゼルが思っていたよりも、かなり不思議な令嬢だった。時々大人のように難しいことを言うくせに、当たり前なことを知らなかったりする。城や屋敷の外装の装飾に使われている結晶が、自分達の先祖のものだというのも知らなかった。
いつも遊び相手であるカインベルとは兄弟のように気安く接していたが、異母弟のロンバルトとは普段全く接点がなかったので、弟と言うより友人のように思えた。
だけど、そんな楽しい毎日は数える程しか続かなくて。
クレアリリー・フォンベルツ。
システィーアの腹違いの妹。
彼女が詐欺まがいの手口で王妃の庭に入って来たあの日、ファウゼルは王妃の元へ相談に行った。王族を謀った罪で入城を禁止してもらおうと思ったのだ。
クレアリリーとロンベルトの話をすると、王妃は扇子で口元を隠して言った。
「クレアリリーは、仲間に入れて欲しかっただけでしょう? それに、子供は悪戯をしたり、間違えたりを繰り返して成長するのよ。貴方だって、何度注意しても悪戯をしているのですから。同じようなことがないように注意すれば十分よ。私から彼女の両親に言っておきましょう」
仲間に入れて欲しかっただけだろうと言われたら、入城禁止をお願いしたファウゼルの方が悪いみたいに思える。
ファウゼルは結局、反論出来ずに仕方なく現状を受け入れた。
しかし、限界はすぐに来た。
絡まる腕、罵る口にヒステリックな声。
何度拒絶しても、クレアリリーには伝わらない。
ファウゼルが「大嫌いだ」と言っても、クレアリリーは自分に都合が良いように勝手に、照れ隠しだと変換してしまうのだ。
ファウゼルはイライラを積もらせた。心に余裕がなくなる感じが、まるで自分に彼女の赤い毒がじわじわと染み込んでくるようだと思った。
それにクレアリリーがいるといつもシスティーアは、ファウゼルが見たかったシスティーアの顔とは正反対の顔をする。感情を殺した、冷めた顔だ。
このままではよくない。
ファウゼルはもう一度、王妃の元へ相談に行った。けれど、結果は同じ。色良い返事はもらえなかった。
だから、庭に行くのを止めた。
ファウゼルが行かなくなれば、クレアリリーも行かなくなるかもしれない。
しかし、クレアリリーはやって来た。そして毎朝、ファウゼルを探して回る。
立ち入り禁止区域のおかげでクレアリリーにかち合うことのないファウゼルは、このまま彼女が飽きるのを待つつもりでいた。
そうすれば、また元通りになると信じて。
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