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西の転生者
31.ファウゼルの楽しみ
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フォンベルツ家の屋敷でのコメの収穫の後から、ファウゼル達は度々屋敷を訪問するようになった。
クレアリリーのせいで、ばつが悪そうにしていたロンバルトも再び顔を出すようになり、システィーアの顔にも笑顔が戻った。
やっと元通りだ。
ファウゼルはそう思っていた。
「そこのケーキ屋、今人気らしいんだ。今度、二人で一緒に行かない?」
応接室に案内され、入室と同時に聞こえてきたロンバルトの声にファウゼルは驚いた。
ファウゼルとロンバルトの目的地は同じフォンベルツ邸なのだから、時間を合わせて一緒に馬車で行けばいい。なのに少し前から、ロンバルトは何故かファウゼルより早い時間にフォンベルツ邸を訪問するようになった。それをここ最近、不思議に思っていたのだが、理由はこれのようだ。
「ファウ、おはよう。今日は早く起きれたのね」
くすくす笑うシスティーアと、さっと目を逸らすロンバルト。
「に、兄様、朝は中々起きないって聞いたので、その⋯⋯」
システィーアと朝の時間を一緒に過ごすようになるまでは確かにそうだった。でも、ロンバルトとこうやって顔を頻繁に合わせるようになったのは、朝、きちんと起きるようになってからだ。
どういうことだろうと思案していると、カインベルが部屋に入って来た。
「おはよう、カイン」
「おはようございます、殿下方、ティア」
カインベルの手には控えめな大きさの淡い青の花束が握られている。
「今朝、庭で満開になっていたのです。以前、青い花が好きだと言っていたでしょう? どうぞ」
そう言って、カインベルがシスティーアに花束を差し出す。
お礼を言いながら嬉しそうに受け取るシスティーアを見て、ファウゼルは衝撃を受けた。
以前、城のガゼボで見た、カインベルを前にして笑うシスティーアの姿を思い出す。頬を紅潮させて楽しげに笑う彼女の姿を。
ファウゼルの内に、モヤッとした気持ちが沸き起こる。
彼女のあの綺麗な瞳に映っているのが自分ではないのは、何故なのだろう。
彼女のあの微笑みが自分に向けられていないのは、何故なのだろう。
そんな気持ちが、ファウゼルの中に芽生える。
システィーアの婚約者候補だと聞いたあの時、自分は選ばれたのだと喜んだ。これで彼女とまた会えるのだ、と。ずーっと仲良く出来るのだと。
しかし、ファウゼルは候補の一人に過ぎなかったのだ。なのに何故、ずーっと仲良く一緒にいられると思っていたのだろうか。
それからファウゼルは、どうしたらシスティーアに笑顔を向けてもらえるか。彼女を前にすると、そればかりを考えるようになった。
慣例では、システィーアは十二歳になった時に中央へ移動となる。それまでに、どうにかこちらを向いて欲しい。あのウ国の王子のように、何をしなくとも彼女を笑顔に出来る者が、中央に居ないとも限らないのだ。
けれど彼女は、一筋縄ではいかない女の子だった。プレゼントは花やお菓子でも喜んでくれはするが、何よりもコメで歓喜する。コメに合う料理をシェフと開発するのを優先するので、誘いを断られることもしばしば。興味を持って話す内容が、コメをメインにした食のことか、この国の社会制度や魔法について。ファウゼルが少し勉強したくらいでは簡単に話には加われず、聞き役に徹するばかりだ。
もっとシスティーアがこちらに笑顔を向けてくれるには、どうしたらいいのか。
そう考えていた矢先、予定は大幅に変更された。システィーアが十二歳を待たずに中央へ連れて行かれたからだ。
ファウゼルの心中はまるで、種を撒いても花の咲かない庭のようだった。何をしていても物足りなく感じる。
そんな折、溜息の多いファウゼルを見かねたのか、次兄が中央について話してくれた。
中央は管理者が住まう六角宮を中心にしてその周囲に、中央貴族の邸宅街、研究施設、商業施設、学院が建てられている。それらをぐるりと丸い湖が囲み、その外側をさらに囲うように監獄と聖火殿、観光都市があるのだそうだ。
この中で誰でも入れるのは聖火殿と観光都市のみ。湖の中心にある聖域へ行くには、中央貴族と婚姻して自分も中央貴族になるか、学院の生徒になるしかない。
そして、全ての貴族の子供は、この学院で寮生活をしながら最低二年は学ぶことを最高神により決められている。一般的には侍女や侍従が居なくても生活を出来る年齢として、十二歳で中央へ行く。
今、ファウゼルは十歳。あと二年すれば、中央へ行けるのだ。
ファウゼルはそれを楽しみに、息を吹き返した。
今まで通り、息抜きに多少の悪戯をしつつ、勉学と剣の鍛錬に励んだ。
そんな毎日が続いたある日の午後、ファウゼルは家庭教師の先生を見送った後、カインベルに呼び止められた。
「ファウ、私も中央へ行きます」
ファウゼルは首を傾げた。カインベルとは同い年のはずだ。宣言などしなくとも、二年後には学院で学ぶ為に中央へ行くのは決まっている。
「私も行くぞ?」
ファウゼルの反応に、話が噛み合ってないことに気づいたカインベルが、眉間に皺をよせて僅かに首を傾げた。
「中央の学院への早期入学、ファウも申請していると父から聞いたのですが?」
「早期入学?」
「聞いていないのですか? 一般的には十二歳から入学ですが、申請が通ればその限りではないと。父がファウの申請と一緒に僕の申請もすると言っていました。」
「そんな話は⋯⋯」
次兄が中央の話をしてくれた時のことを思い出して、ファウゼルははっとした。中央に行けると聞いた後、あまりに嬉しくて浮かれ過ぎたのか、その後の記憶が少しあやふやなのだ。
しかし、それは全く問題ではない。むしろ予定していたよりも早く中央へ行けるのだ。
ファウゼルの頬が思わず緩む。
「そうか。⋯⋯それで、いつ行くんだ?」
ファウゼルはわくわくした様子で、椅子の背を前にして座った。
「申請が早く通れば、次年度からと聞いています。もう半年もないので、急いで準備しないといけません。それで声をかけたのです」
「そうか、わかった」
ファウゼルは弾む気持ちを抑えられずに、座ったばかりの椅子から立ち上がって拳を握りしめた。
次こそは、自分がシスティーアを満面の笑顔にするのだと、心に決めて。
クレアリリーのせいで、ばつが悪そうにしていたロンバルトも再び顔を出すようになり、システィーアの顔にも笑顔が戻った。
やっと元通りだ。
ファウゼルはそう思っていた。
「そこのケーキ屋、今人気らしいんだ。今度、二人で一緒に行かない?」
応接室に案内され、入室と同時に聞こえてきたロンバルトの声にファウゼルは驚いた。
ファウゼルとロンバルトの目的地は同じフォンベルツ邸なのだから、時間を合わせて一緒に馬車で行けばいい。なのに少し前から、ロンバルトは何故かファウゼルより早い時間にフォンベルツ邸を訪問するようになった。それをここ最近、不思議に思っていたのだが、理由はこれのようだ。
「ファウ、おはよう。今日は早く起きれたのね」
くすくす笑うシスティーアと、さっと目を逸らすロンバルト。
「に、兄様、朝は中々起きないって聞いたので、その⋯⋯」
システィーアと朝の時間を一緒に過ごすようになるまでは確かにそうだった。でも、ロンバルトとこうやって顔を頻繁に合わせるようになったのは、朝、きちんと起きるようになってからだ。
どういうことだろうと思案していると、カインベルが部屋に入って来た。
「おはよう、カイン」
「おはようございます、殿下方、ティア」
カインベルの手には控えめな大きさの淡い青の花束が握られている。
「今朝、庭で満開になっていたのです。以前、青い花が好きだと言っていたでしょう? どうぞ」
そう言って、カインベルがシスティーアに花束を差し出す。
お礼を言いながら嬉しそうに受け取るシスティーアを見て、ファウゼルは衝撃を受けた。
以前、城のガゼボで見た、カインベルを前にして笑うシスティーアの姿を思い出す。頬を紅潮させて楽しげに笑う彼女の姿を。
ファウゼルの内に、モヤッとした気持ちが沸き起こる。
彼女のあの綺麗な瞳に映っているのが自分ではないのは、何故なのだろう。
彼女のあの微笑みが自分に向けられていないのは、何故なのだろう。
そんな気持ちが、ファウゼルの中に芽生える。
システィーアの婚約者候補だと聞いたあの時、自分は選ばれたのだと喜んだ。これで彼女とまた会えるのだ、と。ずーっと仲良く出来るのだと。
しかし、ファウゼルは候補の一人に過ぎなかったのだ。なのに何故、ずーっと仲良く一緒にいられると思っていたのだろうか。
それからファウゼルは、どうしたらシスティーアに笑顔を向けてもらえるか。彼女を前にすると、そればかりを考えるようになった。
慣例では、システィーアは十二歳になった時に中央へ移動となる。それまでに、どうにかこちらを向いて欲しい。あのウ国の王子のように、何をしなくとも彼女を笑顔に出来る者が、中央に居ないとも限らないのだ。
けれど彼女は、一筋縄ではいかない女の子だった。プレゼントは花やお菓子でも喜んでくれはするが、何よりもコメで歓喜する。コメに合う料理をシェフと開発するのを優先するので、誘いを断られることもしばしば。興味を持って話す内容が、コメをメインにした食のことか、この国の社会制度や魔法について。ファウゼルが少し勉強したくらいでは簡単に話には加われず、聞き役に徹するばかりだ。
もっとシスティーアがこちらに笑顔を向けてくれるには、どうしたらいいのか。
そう考えていた矢先、予定は大幅に変更された。システィーアが十二歳を待たずに中央へ連れて行かれたからだ。
ファウゼルの心中はまるで、種を撒いても花の咲かない庭のようだった。何をしていても物足りなく感じる。
そんな折、溜息の多いファウゼルを見かねたのか、次兄が中央について話してくれた。
中央は管理者が住まう六角宮を中心にしてその周囲に、中央貴族の邸宅街、研究施設、商業施設、学院が建てられている。それらをぐるりと丸い湖が囲み、その外側をさらに囲うように監獄と聖火殿、観光都市があるのだそうだ。
この中で誰でも入れるのは聖火殿と観光都市のみ。湖の中心にある聖域へ行くには、中央貴族と婚姻して自分も中央貴族になるか、学院の生徒になるしかない。
そして、全ての貴族の子供は、この学院で寮生活をしながら最低二年は学ぶことを最高神により決められている。一般的には侍女や侍従が居なくても生活を出来る年齢として、十二歳で中央へ行く。
今、ファウゼルは十歳。あと二年すれば、中央へ行けるのだ。
ファウゼルはそれを楽しみに、息を吹き返した。
今まで通り、息抜きに多少の悪戯をしつつ、勉学と剣の鍛錬に励んだ。
そんな毎日が続いたある日の午後、ファウゼルは家庭教師の先生を見送った後、カインベルに呼び止められた。
「ファウ、私も中央へ行きます」
ファウゼルは首を傾げた。カインベルとは同い年のはずだ。宣言などしなくとも、二年後には学院で学ぶ為に中央へ行くのは決まっている。
「私も行くぞ?」
ファウゼルの反応に、話が噛み合ってないことに気づいたカインベルが、眉間に皺をよせて僅かに首を傾げた。
「中央の学院への早期入学、ファウも申請していると父から聞いたのですが?」
「早期入学?」
「聞いていないのですか? 一般的には十二歳から入学ですが、申請が通ればその限りではないと。父がファウの申請と一緒に僕の申請もすると言っていました。」
「そんな話は⋯⋯」
次兄が中央の話をしてくれた時のことを思い出して、ファウゼルははっとした。中央に行けると聞いた後、あまりに嬉しくて浮かれ過ぎたのか、その後の記憶が少しあやふやなのだ。
しかし、それは全く問題ではない。むしろ予定していたよりも早く中央へ行けるのだ。
ファウゼルの頬が思わず緩む。
「そうか。⋯⋯それで、いつ行くんだ?」
ファウゼルはわくわくした様子で、椅子の背を前にして座った。
「申請が早く通れば、次年度からと聞いています。もう半年もないので、急いで準備しないといけません。それで声をかけたのです」
「そうか、わかった」
ファウゼルは弾む気持ちを抑えられずに、座ったばかりの椅子から立ち上がって拳を握りしめた。
次こそは、自分がシスティーアを満面の笑顔にするのだと、心に決めて。
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