双璧の転生者

ミケメコ

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西の転生者

32.一人の夜

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 緑の結晶が、白い柱から見下ろすように照らしている。そこをシスティーアはライガーに先導されて歩いていた。
 ちらりちらりとこちらを確認して速度を調節してくれるのは嬉しいが、このままだと足が止まってしまいそうだ。
 システィーアは、小さくため息を零した。
 あの部屋に帰れば、壁の管理神官のリーズがいる。リプルは話しやすくて良い子のように見えたが、見習いだからリーズの下という立場だ。仲良くなりたいと思っていたのに、暗殺のことを思い出した今、怖い気持ちの方が強い。
「システィーア様」
 足が止まっていたのだろう。ライガーに謝って、彼について行く。

 扉の前にはリーズとリプルが立って話をしていた。
「システィーア様、探したのですよ」
 こちらに気付いたリーズがすぐに声をかけてきた。
 斜め前にいたライガーが会釈する。
「道に迷われていたので保護しました」
「それはありがとうございます」
 お礼を言うリーズの横を抜けて、リプルが駆けてくる。
「システィーア様、心配しました!」
 システィーアは思わず後退りしそうになるのを、なんとか踏み止まった。
「ごめんなさい」
「さあ、システィーア様、お部屋に戻りましょう」
 リプルに促されて、システィーアは彼女の後に続いた。
 部屋に入った途端、システィーアは大きな溜息を耳にした。
 そろりと首を回すと、扉を閉めるリーズと目があった。
「さあ、お休みの準備をしましょう。リプル」
「はい、湯殿の準備は出来ています。システィーア様、こちらへどうぞ」
 システィーアは黙ったまま、俯き加減でついて行った。

 寝る準備が全て済むと、リーズとリプルは部屋を出て行く。
 システィーアはそれを見送ると、ホッと身体の力を抜いた。
 一呼吸置いてから、外へと通じる扉を見る。それからカーテンの閉じた窓へと視線を移す。
 まずは扉からだ。
 システィーアは扉にそっと手を伸ばす。そして静かに押すと、扉は簡単に開いた。
「え⋯⋯」
 一度閉じて鍵の有無を確認するが、それらしきものは見当たらない。
「嘘でしょ?」
 つぶやいた声が、誰もいない部屋に溶ける。
 システィーアは辺りを見渡した。まだ見慣れぬ暗い部屋に一人でいることが、とても怖く思える。急いでベッドまで戻ってかけ布を引ったくると、本棚の影になっている部屋の隅で、頭から被って小さく蹲るように包まった。
 布の隙間から部屋の様子を伺いながら、システィーアは息を潜めた。
 六宮内は安全だと言っていたのが、誰だったかは忘れたが、部屋を施錠も出来ないのに何故、安全だと言い切れるのか。前世の防犯セキュリティを知ってるシスティーアにしてみれば、ザルもいいとこだ。
 しかしどうすればいいのだろうか。
 これから毎日こうやって、神経をすり減らしながら寝るなんて無理だ。何か対策を立てないといけない。
 そう考えながらも頭に浮かぶのは、システィーアを優しく抱きしめてくれた父のことだ。
 以前は困るといつも父に頼っていた。嬉しい時だって、悲しい時だって、いつでも父は忙しい時間を割いて、システィーアの話をきいてくれた。
 思い出すと涙が滲んでくる。
 父と最後に会ってから、まだ数日しか立っていないというのに、こんなにも寂しい。これからもっと長い時間をここで生きて行くことを考えて、システィーアは身を震わせた。
 別れ際の父を思い出していたシスティーアは、ゆっくりと顔を上げた。
 絶対に会えないわけではない、魔力不足が解消されるまで、そう父は言っていた。
 魔力⋯⋯。
 システィーアは掌を見つめながら、サーティスに教えてもらった通りに集中した。
 自分を包む緑色がはっきりと視界に現れる。以前に見た時と比べて、サーティス達のように蔓状になっている。
 システィーアは部屋の隅の壁にくっつけるように、そしてなるべく自分だけが入れるサイズをイメージして板を出した。
 満足のいくサイズのものが出来たので、それと同じものをもう一辺作って自分を部屋の隅に囲う。
 最後に頭上に寝かせるようにもう一枚作る。
 上手く出来ているか、効果があるのかはわからない。でも魔物を追い払った時と同じように、淡い緑色の壁はきちんと見えている。
  白い壁と緑の魔法の壁で囲まれた領域の中で、システィーアは涙を拭うと、少し休息を取ろうと思い、重たくなってきた瞼を閉じた。

  扉の開く音が耳に入る。
 システィーアは目を開けると、警戒するように部屋の中を見た。
 薄明るく照らされた室内へ、カーテンの隙間から陽光が差し込んでいる。部屋の暗がりも小さくなっていて、システィーアは朝になったことを知った。
「おはようございます、システィー⋯⋯ア、様?」
 部屋に入ってきたリプルを見て、システィーアは微笑んでみせた。
「おはようございます、リプル」
「何かあったのですか⁈」
 慌てて辺りを見回すリプルに、システィーアは首を横に振った。
「何もなかったわ。部屋に鍵がついていないのに慣れていなかったものだから」
 リプルはきょとんとしてから、不思議そうな顔をして首を傾げた。
「この管理者たちが住まう六宮を含む建物⋯⋯六角宮っていうのですけど、六角宮には代々の壁の管理者たちによってかけられた、壁の魔法があるのです。ですから、外からの侵入はできないのですよ。安心してください、システィーア様」
 敵は内側にいるのよ⋯⋯。
 そう言いたい気持ちをぐっと堪えて、システィーアは苦笑いをした。
「そうは言われても、慣れていないからどうしても落ち着かなくて」
「はぁ、そういうものなんですかね? まあ今は私もいるので大丈夫ですよ! そこから出てきて下さいませ。支度を済ませて、ご飯にしましょう」
 部屋の中でテキパキと動くリプルを見ながら、システィーアは恐る恐る魔法の壁に手を触れた。手は緑色を易々と通過して、外へと出る。
 システィーアはそれを確認すると一度手を引っ込めて、それからそろそろと魔法の外へ出た。
 魔法の壁は、中に誰もいなくなっても、変わらずそのままそこにあり続けた。
「システィーア様、今日からお勉強が始まります。急がないと遅刻しちゃいますよ」
 システィーアは驚いて振り返り、リプルを見た。
「聞いてないわ」
「ごめんなさい、システィーア様。リーズが伝え忘れるなんて⋯⋯。昨日、システィーア様、お散歩から戻られるのがおそくなられたでしょう? リーズはリーティア様のお支度もしないといけなかったみたいだから、それでもしかしたら忘れていたのかもしれないです」
「そう⋯⋯」
 システィーアは表情を顔に出さないようにしながら、リプルが置いてくれた水の張られた桶の元へ行った。
 リーティアの元にいたいなら、ずっとそっちにいればいいのに。
 そう思いながら、システィーアは顔を洗った。
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