双璧の転生者

ミケメコ

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西の転生者

33.食堂

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 システィーアの思い虚しく、すぐにリーズはやってきた。手には朝食を持っている。
「おはようございます」
 視線をやや落として挨拶を返すと、目の前に食事が置かれた。パンと緑色のスープ、彩りの良いサラダだ。
「今日の予定ですが」
 パンを見て渋い顔をしていたシスティーアは、少しだけリーズを見てからフォークを手に取った。
 ここに来てからもう既に何度か食事を取っているし、毒は流石にないと思いたい。
 恐る恐るサラダを突いてから、少しだけ口へ入れる。新鮮な葉っぱの味だけで、苦味や変な味はしない。
「この後、リプルに食堂へ案内させます。今後はそちらでお食事をしていただくことになります。その後はお勉強の時間です。学習室へ移動します。昼からの予定は、お勉強の進捗具合によりますので、指導役の管理者にお尋ねください」
 それだけ言うと、リーズは慌ただしく部屋を出ていった。
 考えなくてもわかる、リーティアのところだろう。
 小さく息を吐いてから、システィーアはちまちまと少しずつ、料理を口に運んだ。

 結局、食事は殆ど残した。
 システィーアは上に黒のロングコートを羽織り、外出の準備を整えると部屋を出た。リプルの後ろについて、黒の管理者の宮への方向とは反対側に廊下を歩いて行く。
 しばらく行くと、青い結晶が柱にはまっているのが見えた。その青い結晶の手前、階段のあるところでリプルが足を止める。
「この青い結晶の柱から先が、水の管理者の宮です。食堂はこの階段の上にあります」
「ここは管理神官と一緒でなくてもいいのね」
 ホッとした気持ちでそう言うと、リプルが申し訳なさそうに眉尻を下げた。
「いえ。その、多くの人の出入りがあるので、本来なら⋯⋯ですが、今日は案内をするだけだからとリーズが⋯⋯」
「⋯⋯そう」
 思うところはあるが、リプルに言っても仕方がない。
 システィーアは視線を落とすリプルの横を通り過ぎて、先に階段を登り始めた。後ろにリプルが続く。
 緩い螺旋状の階段は思いの外、長かった。しばらく登ると、複数人の話し声が聞こえてきた。登るにつれて、ざわざわとした人の声が徐々に大きくなってくる。システィーアは少し緊張しながら、足を動かした。
 階段を登り切った向こうには、ショッピングセンターのフードコートのような空間が広がっていた。中央だけは少し違い、大きな丸テーブルの周りだけ極端に距離が取られており、部分部分が植物で間仕切りされている。段差も数段あり、VIP用といった印象を受けた。今は誰も使っておらず、生成りの服を着た人が周囲の席に少し居るだけだ。
「中央の大きなテーブルのお席が、管理者のテーブルになります」
「え?」
 システィーアは目を見開いて、リプルを見た。
「席、決まっているの?」
「私がここに来た時に、管理者の席はあのテーブルだと聞いただけなので、決まっているかときかれると⋯⋯ちょっと聞いてきますね!」
 呼び止める間も無くリプルが駆けていく。
 仕方なく、システィーアは近くの壁際まで下がって待つことにした。背中を壁に預けて、ぼんやりと室内を見る。
 何だかちらちらと、あちらこちらから見られている気がするが、気のせいだと自分に言い聞かせていると、綺麗なお姉さんがこちらに歩いてくるのが見えた。
 少し淡い金色の髪を靡かせた、秘書風の雰囲気の女性。眼鏡の赤いフレーム越しに見える金色の目、しっかり化粧された頬に赤い唇。何か書類を小脇に抱えている。
 階段前に棒立ちしていないで良かったと内心ホッとしていると、彼女はシスティーアの前で歩みを止めた。すっと肘を折って顔の横に左の手の甲を上げ、システィーアに見えるように向ける。中指にある、赤い結晶のついた黒いリングが目に入った。
「システィーア様、突然のお声かけ失礼します。私は火の管理神官のジャネットと申します。火の管理者ゼネル様からシスティーア様に伝言がございます」
「伝言?」
 内心狼狽えつつも疑問を口にすると、彼女が後ろを見た。その視線を追いかけて見ると、間仕切りされた植物の向こう側から真っ赤な頭が覗いている。
「ゼネ⋯⋯ル⋯⋯?」
 敬称付けをしかけて、慌てて口を閉じる。
「管理神官はどうした? 取り敢えずこちらへ来て、話を聞かせて欲しい」
 いきなり足を肩幅に開いて腕を前で組んでから、ジャネットは低い声でそう言った。そしてすぐに姿勢を正すと、こちらへ軽く一礼して、自分の主人の方へ進むように手で促す。
 システィーアがその様をポカンとして見ていると、リプルが走って戻ってきた。
「あの、システィーア様にご用でしょうか?」
 息を切らせながら問うリプルにジャネットが、先程と同じようにゼネルのモノマネをして、主の元へ行くように促した。
 リプルはさっと青い顔になって、ジャネットとシスティーアを交互に見た。
「あの、私、リーズを呼んで⋯⋯」
「ここへ来てまもない管理者を、これ以上一人にするのですか?」
 リプルはハッとした顔でシスティーアを見た。
「システィーア様、ごめんなさい。私⋯⋯」
「取り敢えず、ゼネルのところへ行ってみましょう」
 システィーアはリプルを落ち着かせるように、口元に笑みを乗せた。

「やっと来たか、システィーア!」
 ハムをフォークに刺したゼネルがついているテーブルは中央の大テーブルではなくてその向こう、システィーアがいた所から見ると丁度間仕切りされた植物の裏手側の位置にあった。人よりも体格が良くて大きなゼネルだけ、顔の上半分が植物からはみ出している。ゼネルがついているテーブルは六人用で、他に知らない人が二人と、サーティスがいた。
「おはよう、システィーア」
「おはようございます」
 サーティスに挨拶を返してすぐ、リプルを一瞥したゼネルが口を開く。
「システィーア、これから朝食か?」
「いいえ、今朝は部屋で済ませました。昼からはこちらで頂くように言われたので、そちらにいる見習いのリプルに案内をしてもらっていたのです」
「そうか。見習いはそっちでジャネットの話を聞くといい。壁だろうと火だろうと管理神官としての心得は同じだからな」
 ゼネルがささっと手で合図すると、ジャネットが青ざめているリプルを隣のテーブルへと誘導する。
「さて、システィーア。管理神官はどうした?」
 テーブルについている皆の嗜めるような視線に、システィーアは内心びくつきながら口を開いた。
「存じません。でも、慌てて出ていったので多分、リーティアの所かと」
 ゼネルとサーティスが一度視線を合わせて頷く。
「その様子では、まだこの六角宮のことも教えられていまい。今日からサーティスに指導してもらって魔法を鍛えるつもりだったが、仕方がない。今日は私と六角宮を周りながら、周辺施設を探索するぞ!」
 言い終わってからハムを食べるゼネルを見ていると、サーティスとその隣に座っていた清楚な雰囲気の女性が立ち上がった。
「頼んだ、サーティス」
「こちらこそ」
 ゼネルに返事を返したサーティスが、女性を連れて去っていくのを見ていると、皿を空にしたゼネルも立ち上がった。
「よし、行くか!」
 満足そうにお腹を叩いたゼネルが、にっと笑った。
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