双璧の転生者

ミケメコ

文字の大きさ
34 / 57
西の転生者

34.原因

しおりを挟む
 システィーアはゼネルの後を、小走りになりながらついていく。山のように大きいので見失うことはないが、歩幅が違うのでついていくのがやっとだ。
 食堂を出たところで、足を止めたゼネルが振り向いた。
「先にこのフロアを回るぞ」
「あの、管理神官は一緒でなくてよかったのですか?」
「あぁ、歩きながら説明する」
 システィーアが追いついたのを確認したゼネルが、今度はスピードを落として歩き出した。
「初代管理者は、神に力を授けてもらって世界を管理していたが、元々ただの人間。お腹も空くし、眠くもなる。休息だって必要だ。それで腹心を管理神官に置いたのが始まりだそうだ。当時は五人ずついた管理神官も色々あって、今は半分程しかいない。壁の管理神官だって、三人だろう?」
 システィーアは歩きながら頷いた。
「人数が少ないから管理者の指示の元、手分けしている状態だ。最近まで主が不在だった為、壁の管理神官も動けなかったしな。つまり、人手が足りない。だから護衛として同行してもらうより、それぞれに仕事してもらった方が都合が良いんだ。ま、壁の魔法によって守られている六角宮内では、攻撃魔法も使える火の管理者に手を出すような愚か者もいないしな」
 食堂を出て長い廊下を歩いて行くと、ゼネルの足が止まった。同じようにシスティーアも後ろで止まる。
「だが、システィーアは護衛無しで歩き回るなよ。私と違って替えがきかない。⋯⋯この辺り一帯は各管理者の執務室だ」
 長い廊下にいくつもの扉があり、ゼネルが一番手前の扉を開いて中を見せる。
 六人分の白い机と椅子、書類棚があるだけのシンプルな部屋だ。
「一番奥が資料室だ。次は一度戻って謁見室に行くぞ」
 踵を返して歩き出したゼネルに、システィーアは慌ててついていく。
「替えがきかない、というのは?」
「⋯⋯壁の管理者は最近、短命続きでまともに管理者として機能していない。次の管理者が成長するまで、また何年も待つような時間はない。六角宮にも壁の魔法はかかっている。だが、昔程、強固ではないんだ。壁の管理者によって、補修されていないからな」
 二人は食堂内を横切り、システィーアが登ってきた長い階段を降りて行く。
 ゼネルがシスティーアの様子を伺いつつ話を続ける。
「壁の管理者も以前は一人だったんだ。何代か前から急に、リュウの紋を持つものが二人現れるようになって、おかしくなったのはそれからだ。何故か幼い子が必ず選ばれるようになり、大抵役目を果たす前に命を落とす。徐々に壁の力が薄くなっていき、今では世界崩壊の危機だ」
「世界、崩壊⋯⋯」
 システィーアが前世でプレイしていたゲームで、何度もついて回ったエンドだ。崩壊しないハッピーエンドを目指すなら、システィーアでは駄目だ。主人公を管理者につけなければいけない。
 システィーアは長いコートの中に隠れている手を、強く握りしめた。
「驚かないんだな」
「え?」
 見上げると、遠くを見るような顔をしたゼネルの横顔が視界に入った。
「管理者が世界崩壊なんて口にすれば、大抵の人間は驚く。なのにお前もリーティアと同じで驚かなかった。まるで知っていたみたいに。でもまあ、知っているなら無駄に説明しなくていいから、話は早い」
 緑の結晶がついた柱の立つ廊下をぬけて、一回り大きな扉の前にたどり着く。
 ゼネルが扉に手を当てて開いて中に入る。続いて中へ入ろうとしたシスティーアの目の前で扉が閉まったので、同じように手を当てて再び扉を開く。
「この先にある謁見室から、管理室にいける」
 階段に足をかけると、視界がふっと薄暗くなる。登り切った先には左右に三つずつ並ぶ椅子と、奥に布の被った椅子。天井の星のような結晶もこの間来た時と変わらない。
 並ぶ椅子の間を進み、布を被った椅子の後ろまで行くと、ゼネルが壁に垂らされている黒い布を捲った。すると、ここへ入ってくる時と同じ、リュウの紋がついた少し大きめの扉が顔を出す。
 その扉を先程と同じように開けて、順番に入っていく。
「ここが管理室だ」
 システィーアは入ると同時に、明るさの違いに顔を顰めた。
 慣れてきた頃にあたりを見回すと、白い壁に囲まれた広い部屋に大きな半球があった。その半球を覆うように薄く緑に色づいた透明の半球状のドームが、上から被さっている。
「もしかしてこれ、世界地図の本のと同じ⋯⋯?」
 しかし、本とは違い、半球状のドームはあちこちに亀裂が走っていて、酷いところは穴が空いている。中の水は、その割れた部分から零れ落ち、光になって消えていく。
 壊れかけのドームの中には、地図で見た二つの大国と同じ形に土が隆起していて、その周りの少し深くなった部分に水が溜まっている。そこから円の端に行くにつれて、土の乾燥が酷い。さらにその乾燥した土を囲っていくように、黒いカビみたいなものが生えてきている。
「これが今の世界の現状だ。この壊れかけの、世界を覆っているものが壁だ。早急に直す必要がある。だから、頑張って魔法の練習をしてくれ」
 システィーアは口を手で押さえて、目を見開いた。
「あの、まさか、その⋯⋯水不足というのは、この、壁の穴から漏れ出ているからですか?」
「そうだ」
 世界は球体ではなかった。それにも驚いたが、システィーアはずっと、水不足の原因は雨が不足しているからだと思っていた。
 ふと、海の見えない港街を思い出す。ぎゅっと手に力が入る。
「壁を直せれば、水不足は解消されて、海は元に戻りますか?」
「戻る。水があれば、世界は浄化の力を取り戻すことができる。魔物も減って、また安心して暮らすことができるようになる」
 海は、元に戻る。
 そう聞いて、システィーアは歓喜に震えた。

 壁を直せれば、海苔が食べれる世界になる⋯⋯!

 それはつまり、海苔をあたり前のように、おにぎりのお供にすることができるということだ。
 目を輝かせたシスティーアに、ゼネルは少し驚いた顔をして笑った。
「なんだか知らんが、やる気が出たなら何よりだ。次へ行くぞ」
 踵を返してゼネルと一緒に謁見室へと戻ったシスティーアは、海苔のことで頭を一杯にしていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

逢生ありす
ファンタジー
 女性向け異世界ファンタジー(逆ハーレム)です。ヤンデレ、ツンデレ、溺愛、嫉妬etc……。乙女ゲームのような恋物語をテーマに偉大な"五大国の王"や"人型聖獣"、"謎の美青年"たちと織り成す極甘長編ストーリー。ラストに待ち受ける物語の真実と彼女が選ぶ道は――? ――すべての女性に捧げる乙女ゲームのような恋物語―― 『狂気の王と永遠の愛(接吻)を』 五大国から成る異世界の王と たった一人の少女の織り成す恋愛ファンタジー ――この世界は強大な五大国と、各国に君臨する絶対的な『王』が存在している。彼らにはそれぞれを象徴する<力>と<神具>が授けられており、その生命も人間を遥かに凌駕するほど長いものだった。 この物語は悠久の王・キュリオの前に現れた幼い少女が主人公である。 ――世界が"何か"を望んだ時、必ずその力を持った人物が生み出され……すべてが大きく変わるだろう。そして…… その"世界"自体が一個人の"誰か"かもしれない―― 出会うはずのない者たちが出揃うとき……その先に待ち受けるものは? 最後に待つのは幸せか、残酷な運命か―― そして次第に明らかになる彼女の正体とは……?

ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~ 

ファンタジー
「詰んだ…」遠い眼をして呟いた4歳の夏、カイザーはここが乙女ゲーム『亡国のレガリアと王国の秘宝』の世界だと思い出す。ゲームの俺様攻略対象者と我儘悪役令嬢の兄として転生した『無能』なモブが、ブラコン&シスコンへと華麗なるジョブチェンジを遂げモブの壁を愛と努力でぶち破る!これは優雅な白鳥ならぬ黒鳥の皮を被った彼が、無自覚に周りを誑しこんだりしながら奮闘しつつ総愛され(慕われ)する物語。生まれ持った美貌と頭脳・身体能力に努力を重ね、財力・身分と全てを活かし悪役令嬢ルート阻止に励むカイザーだがある日謎の能力が覚醒して…?!更にはそのミステリアス超絶美形っぷりから隠しキャラ扱いされたり、様々な勘違いにも拍車がかかり…。鉄壁の微笑みの裏で心の中の独り言と突っ込みが炸裂する彼の日常。(一話は短め設定です)

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

イジメられっ子は悪役令嬢( ; ; )イジメっ子はヒロイン∑(゚Д゚)じゃあ仕方がないっ!性格が悪くても(⌒▽⌒)

音無砂月
ファンタジー
公爵令嬢として生まれたレイラ・カーティスには前世の記憶がある。 それは自分がとある人物を中心にイジメられていた暗黒時代。 加えて生まれ変わった世界は従妹が好きだった乙女ゲームと同じ世界。 しかも自分は悪役令嬢で前世で私をイジメていた女はヒロインとして生まれ変わっていた。 そりゃないよ、神様。・°°・(>_<)・°°・。 *内容の中に顔文字や絵文字が入っているので苦手な方はご遠慮ください。 尚、その件に関する苦情は一切受け付けませんので予めご了承ください。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

乙女ゲームの悪役令嬢、ですか

碧井 汐桜香
ファンタジー
王子様って、本当に平民のヒロインに惚れるのだろうか?

処理中です...