双璧の転生者

ミケメコ

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西の転生者

43.サーティスの仕事

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「新しい壁の管理者候補の二人目のことだが、やっと見つかった」
 最近急増している魔物の出現の対処についての話し合いがやっと終わったところで、ゼネルがそう言って疲れた顔で溜息を吐いた。
「クラングラン王国の公爵家の息女、名はシスティーア」
「またクラングランか⋯⋯」
 ディゼアが机に両肘をつき、額を抑えて溜息を漏らした。サーティスも同じように息を吐くと、椅子の背もたれに背中を預ける。
 代替わりの激しい壁の管理者候補は、何代か前からクラングラン王国の出身者が続いている。
 サーティスは先先代からしか実際には知らないが、あの国の出身者は問題を抱えているか、問題を起こす印象しかない。それでなくても閉鎖的で、こちらの話を聞かない面倒な国というイメージが歴史的に強い。魔物が増えてきている今、あの国をまた相手にしないといけないのはかなりの手間だ。
「リーティアの方は転生者だったから、楽に進んでいるんだがな」
 もう一人の壁の管理者候補、リーティアの教育担当をしているゼネルが、頭をかきながら再び溜息をこぼした。
 高魔力保持者には過去世の記憶がある者⋯⋯転生者が時折生まれる。転生者は物覚えの良い者が多く、成長が早い。中でも稀有な、異界からの転生者はそれが顕著で、変わった思想や見方をする。リーティアはその稀有な転生者らしい。
「これからまた、同じことを一から教えなければならないと思うとな。しかも調査によれば、かなりの我が儘娘だとか。サーティス、担当変わらないか?」
「断る」
「まあ、そうだよなー」
 たはーっと困り顔でゼネルが笑う。
「おい、ゼネル。冗談でもサーティスにそう言う話はするな」
 ギロリとディゼアに睨まれたゼネルが、そう言うつもりではなかったのだけどな、と呟く。

 サーティスは、生まれつき魔力が滲み出る体質だ。魔力が多い者の中に稀に見られる体質で、訓練をする事である程度は抑えられるようになる。
 だがサーティスは闇の管理者に選ばれた。闇の力はその性質上、相手の魔力に干渉する。魔法に不慣れな子供の相手など到底、出来るわけがない。

 それを理解しているからこその二人の発言に、サーティスは無言で返した。
「恐らく、今代が最後だろうな。今代の壁の管理者を失えば、世界は崩壊する」
 ゼネルの言葉を聞いて、サーティスは管理室の状態を思い出して頷く。
 ひび割れた世界の壁につい先日、大きな穴が空いた。一気に水嵩が減った世界の状態は、目を逸らしたくなるくらいに悲惨だ。かつての美しい世界を、書物の絵でしか見たことのないサーティスでもこの状態だ。サーティスの教育担当をしてくれた光の管理者である祖母は、もっと不甲斐なく思っていることだろう。現に祖母は、老体に鞭打って世界中を歩き回っていると聞く。六角宮にいることの方が少ないのだ。
「取り敢えず、クラングラン王国に管理者候補の引き渡しを要求するが⋯⋯あそこは変なしきたりがあるからなぁ。本当に面倒だ」
「しきたり?」
「あれ? サーティス、知らないのか。あの国は十二歳以下の子供が国外に出るには、両親と王族の許可を得ないと駄目なんだそうだ。両親はわかるが王族の許可ってのがな⋯⋯。目の前にいるならぽんと連れ帰れるんだが、警備が厳重でな。最高神によって争い戦うことは禁じられているから、強くも出れないしな」
 肩をすくめたゼネルが大きく息を吐く。
「ある程度教育するようには言っておくが、先代の管理者候補もほぼ無教育だったしな。どうにかならないものか」

 二人目の壁の管理者候補の所在が判明してから四年以上立ったある日、サーティスはクラングラン王国の港街へ向かうことになった。魔物によって、複数の死者が出たからだ。
 魔物は闇の神官によって弔われなかった、人の成れの果てだ。人の身体に残る魔力を使い、負の感情を餌に動き回る。人を襲ったり、魔物同士が共食いをしたりを繰り返すことで、数や大きさが変わってくる。
 魔物が頻繁に現れる最近になってやっとわかったことだが、魔物はさらなる餌を手に入れるためなのか、餌の一部を残す。つまり生きてる方からすると、遺体の一部が残された状態だ。当然、弔ってもらう為に持ち帰るだろう。
 だから少し前に、これ以上の被害を増やさない為に、六角宮から国々に通達を出した。

 魔物に襲われた遺体は、持ち帰らないように。

 クラングラン王国は閉鎖的な国だ。情報が行き届いていない可能性が高い。
 おまけに場所が、港町だ。海の水は本来、海で亡くなった者達を時間をかけて浄化していく。だが海の水が減った今、浄化しきれなかった遺体が魔物となる。
 そう、海は魔物の温床となっているのだ。
 魔物になってしまえば、サーティスでは対処出来ない。だから浄化の出来る水の管理者であるディゼアと一緒に動くのが一番良いのだが、別の場所で二件ほど、神官が対処出来ない規模の魔物が現れた。
「サーティス、駄目だったらすぐに連絡を」
 ディゼアに頷いてから、供のイーギスに目で合図する。今回の供はイーギスとライガーだ。
 イーギスが親指大の正方形で青い結晶を取り出すと、水の転移魔法を発動させる。水の檻の中に閉じ込められたのは数秒で、水が足元へと音を立てて落ちると目の前には見慣れない街並みが広がっていた。
「遅かったかもしれませんね」
 そういったイーギスと同じ方向を見ると、門から人が列をなして出て行っている。
 サーティス達は取り敢えず情報を得るために、街に入ってすぐのところにあった宿屋へと向かった。

 入り際、サーティスは出ていく人と肩をぶつけた。
「ごめんなさ⋯⋯も、申し訳ありません!」
 くいっとフードを目深に被り直して相手を見る。するとそこには緑一色の魔力に包まれた子供が、女性と一緒に跪いていた。
 サーティスは驚いて一瞬動きを止めたが、慌てて平静を装った。
 間違いない。この子は壁の管理者候補だ。
 けれど今は遺体を弔うのが先だ。サーティスは視線だけを動かしてあたりを確認してから、口を開いた。
「構わない。それより、多数の死者が出たと聞いている。どこに安置されているか知っている者はいるか?」
「⋯⋯天使様だ!」
「天使様がいらっしゃった!」
 場内から驚きの声が上がり、サーティスは内心苦笑した。
 この国者達は、管理者のことを天使と呼ぶのだと教わってはいた。だが実際にそう呼ばれると、この国の人たちだけ見ているものが違うのではないのかと思ってしまう。
 内心を押し隠しながら宿屋の主人の話を聞いて、サーティスは一度、眼を閉じた。
 遺体は時計塔の下の集会場に安置されていたが、少し前に魔物化したらしい。
 時計塔は街のほぼ中心に見えていた。死体が魔物化したということは、魔物が既に中心部にいるということだ。
 街の大きさからして、被害人数は多い可能性が高い。となると、恐らく水の管理者でないと対処できないだろう。しかし、ディゼアはすぐには動けない。
 しばらく考えていたが、少女の緑一色の魔力の存在がちらついて仕方ない。いっその事、この子の力を借りてみるか。どれくらいのことが出来るのか様子を見ることも出来るし、ついでに連れ帰れば少しは問題も解決するのでないだろうか。
「⋯⋯仕方がない」
 少女の方をちらりと見ると、驚いた顔はしているが、顔色に問題はない。この場で一番年若いこの少女が大丈夫であるなら、問題はないだろう。
 サーティスが着ているフード付きローブは、先代壁の管理者によって壁魔法を施された特別なローブだ。そろそろ魔法が古いので少し心配していたが、サーティスは小さく安堵の息を漏らした。
「そこの少女をこちらへ」
 サーティスがそういうと、女性が制止の言葉を返してきた。こちらへ渡すまいと必死に少女を抱きしめているが、当の少女は何が何だかわからずに目を瞬かせている。
 少女は素直な感情が、表情と魔力に出ているのでとても読みやすい。しかしそれとは別に、子供らしくない何かが魔力から薄らと読み取れる。しかし、このローブを着たままだとこれ以上はわからない。
「君の胸にはリュウの紋⋯⋯変わった痣があるはずだ。そうだな?」
 サーティスがそう尋ねると、少女は素直にこくりと頷いた。
「なら、君の力があれば何とかできるかもしれない」
 サーティスは少女にそう言うと、隣に立つライガーに、馬の準備と六角宮への連絡を頼んだ。
 魔物のことだけでなく、少女のことも含めて。
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