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西の転生者
42.粗相
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システィーアはぐったりとベッドに横になった状態のまま、大きく息を吐いた。
心を休めるつもりで外出をしたのに、いつもよりずっと心身ともに疲弊している。
休息を挟むことによって効率がどうこうと言うのを利用して、次回の休みを獲得するつもりだったのに、完全にそれどころではなくなった。
自分だけではなく、周りにいるフォトム達まで危険にさらすと、監獄でサーティスに言われたことを思い出し、システィーアは顔を両手で覆った。
周りの誰かが傷つくなんて、嫌だ。
お父様や自分によくしてくれた人達の為、自分の為、海苔の為に、世界の壁の修復だけを主人公と一緒に頑張って、後は主人公に丸投げするのが世界を継続させるにはベストだと思っていた。
けれどサーティスの話を聞いた今では、修復すべきものが他にもゴロゴロ出てくるのではないかと思える。聞いてしまえば仕事が増えそうなので、あえて聞くということはしなかったが。
世界の壁だけでなくて、あちこちの壁を修復するというなら、魔力は多い方がいいだろう。敗れた壁の候補者を補佐につけるというのは、実に理にかなった方法ということになる。敗者の気持ちを無視すれば。勝てなかった相手を支えなければならないし、主人公至上主義の管理神官が同僚になるのだから、精神的にきつそうだ。
そもそもシスティーアが前世でゲームをプレイしていた時に、監獄なんてものは出てこなかった。主人公とシスティーアのどちらが壁の管理者になっても世界が崩壊していたのは、修復が一人では追いつかなかったからかもしれない。だって、システィーアは補佐になったとしても暗殺されるのだから⋯⋯。
「システィーア様」
申し訳無さそうな顔をしたフォトムがベッド脇に立った。
「リプルがまだ目を覚さないのです。湯殿の準備は出来たのですが、お側でお世話をする者がおりません。システィーア様さえよろしければ、リーティア様にお願いしてもう一人の見習いに頼もうと思うのですが、いかがでしょう」
そう言えば見習いがもう一人いるという話だったなと、システィーアは思い出しながら首を横に振った。
「必要ないわ。それくらい一人で出来るから」
今世では入浴の際に誰かしら必ず付いていたが、前世の記憶があることだし問題はないだろう。
正直、管理神官以外からも命を狙われていると知った今、知らない人を風呂場に入れたくない。リラックスどころか、余計に疲れるだけだ。
「そう言えば⋯⋯ええと、ほら、もう一人の管理神官は?」
システィーアはゆっくりと身体を起こして辺りを見回したが、部屋にはシスティーアとフォトムの二人だけだ。
「⋯⋯ケーヴィンのことでしょうか?」
「そうそう、ケーヴィン」
やっと名前が判明し、システィーアは満足げに息を吐いた。
「いつも朝食時と夕食時だけはいるでしょう? もうじき食堂の夕食の時間が始まるというのに、今日は姿を見ないから。リーティア付きに戻ったの?」
フォトムが苦い顔でシスティーアから視線を逸らした。
「その、今日はリプルの仕事も代わっていますので⋯⋯」
歯切れの悪い物言いをするフォトムに、システィーアは微笑んだ。
サーティスのおかげで蔑ろにはされなくなったが、人の好き嫌いはそう簡単に変えられるものではない。それに、暗殺の可能性がある。柔軟なフォトムと表情がコロコロ変わるリプルが、身の回りのことも含めて色々してくれているので、主人公の方がいいならその方がありがたい。
「リーティアの方へ戻りたいと言っていたのなら、戻って良いと伝えてくれるかしら?」
申し訳無さそうにするフォトムを見てから、システィーアは湯殿へと足を向けた。
「⋯⋯フォトムとリプルがいればいいわ」
背を向けたままで、労うようにそっと呟いた。
翌朝、システィーアは柔らかな布団の上で目を覚ました。
慌てて辺りを見回す。
それからすぐに、自室のベッドの上で自分の五体を目視で確認して安堵の息を吐いた。
昨日、お風呂から上がった後、疲れ過ぎてご飯も食べずにベッドで寝てしまったようだ。
夜の誰も居ない時を狙われないようにと、部屋の隅の魔法の壁に囲まれた部分で丸くなって寝ていたので、久しぶりのベッドの柔らかさが寝起きのシスティーアには実に心地よい。再びうとうととしてきた。
カーテンの隙間から陽光が入ってきてるので、直に起きなければいけないだろう。だが、今はまだ、もう少しだけ⋯⋯。
「システィーア様!」
ドンドンという何かを叩く音が声と共に聞こえてきて、システィーアはゆっくりと目を開けた。
「⋯⋯フォトム?」
ベッドの脇で、まるでパントマイムでもしているかのような動きをしているフォトムが、眉間に皺を寄せてこちらを見ている。
「おはよう、フォトム。何? どうし⋯⋯」
システィーアは目を瞬かせた。
辺りをよくよく見てから首を傾げる。
「壁?」
天蓋付きのベッドが薄い緑色の魔法の壁に、綺麗に包まれていた。
「システィーア様、取り敢えずそこから出てきて下さい」
どれくらい声をかけてくれていたのかわからないが、安堵したフォトムが肩の力を抜いて息を吐いた。
「うっすらとした記憶だけど、寝る前に魔法使ったような⋯⋯そんな気がするわ。ごめんなさい」
大きく両腕を伸ばしてから、のっそりとベッドから足を下ろそうとした所で、システィーアは一拍程静止した。
ゆっくりとフォトムの顔に視線を向けて、へらりと口元を緩める。
「⋯⋯出られない」
「はあ⁈」
心を休めるつもりで外出をしたのに、いつもよりずっと心身ともに疲弊している。
休息を挟むことによって効率がどうこうと言うのを利用して、次回の休みを獲得するつもりだったのに、完全にそれどころではなくなった。
自分だけではなく、周りにいるフォトム達まで危険にさらすと、監獄でサーティスに言われたことを思い出し、システィーアは顔を両手で覆った。
周りの誰かが傷つくなんて、嫌だ。
お父様や自分によくしてくれた人達の為、自分の為、海苔の為に、世界の壁の修復だけを主人公と一緒に頑張って、後は主人公に丸投げするのが世界を継続させるにはベストだと思っていた。
けれどサーティスの話を聞いた今では、修復すべきものが他にもゴロゴロ出てくるのではないかと思える。聞いてしまえば仕事が増えそうなので、あえて聞くということはしなかったが。
世界の壁だけでなくて、あちこちの壁を修復するというなら、魔力は多い方がいいだろう。敗れた壁の候補者を補佐につけるというのは、実に理にかなった方法ということになる。敗者の気持ちを無視すれば。勝てなかった相手を支えなければならないし、主人公至上主義の管理神官が同僚になるのだから、精神的にきつそうだ。
そもそもシスティーアが前世でゲームをプレイしていた時に、監獄なんてものは出てこなかった。主人公とシスティーアのどちらが壁の管理者になっても世界が崩壊していたのは、修復が一人では追いつかなかったからかもしれない。だって、システィーアは補佐になったとしても暗殺されるのだから⋯⋯。
「システィーア様」
申し訳無さそうな顔をしたフォトムがベッド脇に立った。
「リプルがまだ目を覚さないのです。湯殿の準備は出来たのですが、お側でお世話をする者がおりません。システィーア様さえよろしければ、リーティア様にお願いしてもう一人の見習いに頼もうと思うのですが、いかがでしょう」
そう言えば見習いがもう一人いるという話だったなと、システィーアは思い出しながら首を横に振った。
「必要ないわ。それくらい一人で出来るから」
今世では入浴の際に誰かしら必ず付いていたが、前世の記憶があることだし問題はないだろう。
正直、管理神官以外からも命を狙われていると知った今、知らない人を風呂場に入れたくない。リラックスどころか、余計に疲れるだけだ。
「そう言えば⋯⋯ええと、ほら、もう一人の管理神官は?」
システィーアはゆっくりと身体を起こして辺りを見回したが、部屋にはシスティーアとフォトムの二人だけだ。
「⋯⋯ケーヴィンのことでしょうか?」
「そうそう、ケーヴィン」
やっと名前が判明し、システィーアは満足げに息を吐いた。
「いつも朝食時と夕食時だけはいるでしょう? もうじき食堂の夕食の時間が始まるというのに、今日は姿を見ないから。リーティア付きに戻ったの?」
フォトムが苦い顔でシスティーアから視線を逸らした。
「その、今日はリプルの仕事も代わっていますので⋯⋯」
歯切れの悪い物言いをするフォトムに、システィーアは微笑んだ。
サーティスのおかげで蔑ろにはされなくなったが、人の好き嫌いはそう簡単に変えられるものではない。それに、暗殺の可能性がある。柔軟なフォトムと表情がコロコロ変わるリプルが、身の回りのことも含めて色々してくれているので、主人公の方がいいならその方がありがたい。
「リーティアの方へ戻りたいと言っていたのなら、戻って良いと伝えてくれるかしら?」
申し訳無さそうにするフォトムを見てから、システィーアは湯殿へと足を向けた。
「⋯⋯フォトムとリプルがいればいいわ」
背を向けたままで、労うようにそっと呟いた。
翌朝、システィーアは柔らかな布団の上で目を覚ました。
慌てて辺りを見回す。
それからすぐに、自室のベッドの上で自分の五体を目視で確認して安堵の息を吐いた。
昨日、お風呂から上がった後、疲れ過ぎてご飯も食べずにベッドで寝てしまったようだ。
夜の誰も居ない時を狙われないようにと、部屋の隅の魔法の壁に囲まれた部分で丸くなって寝ていたので、久しぶりのベッドの柔らかさが寝起きのシスティーアには実に心地よい。再びうとうととしてきた。
カーテンの隙間から陽光が入ってきてるので、直に起きなければいけないだろう。だが、今はまだ、もう少しだけ⋯⋯。
「システィーア様!」
ドンドンという何かを叩く音が声と共に聞こえてきて、システィーアはゆっくりと目を開けた。
「⋯⋯フォトム?」
ベッドの脇で、まるでパントマイムでもしているかのような動きをしているフォトムが、眉間に皺を寄せてこちらを見ている。
「おはよう、フォトム。何? どうし⋯⋯」
システィーアは目を瞬かせた。
辺りをよくよく見てから首を傾げる。
「壁?」
天蓋付きのベッドが薄い緑色の魔法の壁に、綺麗に包まれていた。
「システィーア様、取り敢えずそこから出てきて下さい」
どれくらい声をかけてくれていたのかわからないが、安堵したフォトムが肩の力を抜いて息を吐いた。
「うっすらとした記憶だけど、寝る前に魔法使ったような⋯⋯そんな気がするわ。ごめんなさい」
大きく両腕を伸ばしてから、のっそりとベッドから足を下ろそうとした所で、システィーアは一拍程静止した。
ゆっくりとフォトムの顔に視線を向けて、へらりと口元を緩める。
「⋯⋯出られない」
「はあ⁈」
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