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第一章 王太子暗殺
閑話 侍女の呟き(1)
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読んでくださってありがとうございます。
ストックがなくて時間に追われて書いていたらお見せできるものにならなかったので、本日の更新は閑話です。ごめんなさい。本編は明日の朝更新予定です。
***
わたくしはテオフィロ様の専属侍女で、名をケイトと申します。
曽祖父の代から家族でオルトラーニ侯爵家に仕えており、わたくしの他には父が執事長、母が厨房で調理補佐、弟が三男様の侍従を務めています。
初めてテオフィロ様をお見掛けしたのは、あの方がまだ生まれて間もない頃でした。
テオフィロ様のベッドに真っ青なひよこ様が現れたことで主神様の加護を賜ったのだと判明し、侯爵家は上を下への大騒ぎ。国王陛下がテオフィロ様にお会いにいらっしゃることになり、まだ見習いでもなかったわたくしも手伝いに駆り出されて邸中を掃除することになったのです。
国王陛下が足を運ばれることになるテオフィロ様の子ども部屋は特に念入りに掃除するよう言われ、たくさんのメイドたちが出入りするのですが、テオフィロ様はいつもお一人でした。
傍らにはずっと青色のひよこ様がいましたから、厳密にいうと孤独ではなかったのかもしれませんし、まだ赤ん坊なのですから会話が出来るはずもありません。忙しいのは事実でしたから誰も声を掛けないのは仕方がないと言えるでしょう。
ですが、弟が赤ん坊のころはよく泣いていましたし、母は寝不足になるくらい弟に付きっきりで世話をしていました。
対して奥様はどうでしょう。
出産を終えたばかりの奥さまには無理をさせないようにという陛下からのお言葉があったにも拘わらず、ドレスや宝石を新調するのだといって馴染みの商人を家に呼び、連日のお買い物。
三人のお兄様たちもそれぞれご予定があるそうで一度も新しい弟様の顔を見にいらっしゃっていませんし、旦那様に至ってはそもそもお邸に帰って来られません。
外で、息子が主神様の愛し子だと自慢するのにお忙しいのだそうです。
家族が誰も会いに来ないのに、泣くこともなく、青いひよこ様とじっとしているテオフィロ様が、当時六歳だったわたくしにはとても寂しく見えました。
いま考えればなんて失礼なことをと背筋が凍る思いがいたしますが、私はまったく赤ん坊らしくないテオフィロ様と遊んであげようと思ってしまったのです。
生まれたばかりの赤ちゃんは、最初はほとんど何の反応もありませんでした。
国王陛下がいらした時もです。
ですが一か月が過ぎた頃にはわたくしが部屋に顔を出すと手足が動くようになりました。
「あー」
「うー」
可愛らしい声で、わたくしを呼ぶような仕草を見せてくれたのは二カ月が過ぎた頃だったでしょうか。
歌を歌ったり、絵本の物語を読んで聞かせたり、母が弟にしていたことを真似て、一年くらいが経った頃でしょうか。わたくしは勝手にテオフィロ様のお部屋に入っていたことを叱られて折檻を受けました。
二度と近付かないよう約束をさせられ、……八歳になって侍女見習いになった日。
再びお会いした三歳のテオフィロ様はすぐに癇癪を起こしては手元にあるものを投げて壊す、泣いて暴れる、お食事もほとんど召し上がらないお子様になられていたのです。
青いひよこ様は、お傍にはいらっしゃらないようでした。
運命の日は、それから間もなくでした。
お食事をほとんど召し上がらないまま料理を手づかみで床に落とす、食器をメイドに投げつけるなど、たった一人の広い食堂で暴れていたテオフィロ様は急に席を立って廊下に飛び出してしまったのです。
子どもの足ですからすぐに追いつけると、大人たちは油断していたのでしょう。
テオフィロ様は階段から落ちそうになり、わたくしは急いで小さくて細い腕をつかみました。ぐいっと引っ張って階段の上から遠ざけたのですが、代わりに私が落ちそうになったのです。
頭が下になって、景色が反転して、終わったかもと思ったその時です。
「あっぶね!」
耳元で乱暴な男の子の声がしました。これがルキノ・ヴェルディ伯爵令息でした。
この頃には既に身体強化魔術が大人顔負けの完成度だったそうです。
「テオフィロ! いくら小っちゃくたって、おまえが危険なことすると周りがみんな危なくなるんだぞ!」
怖い顔で、真剣に怒鳴られたことなどこの日まで一度もなかったテオフィロ様は、きっと、驚いたのだと思います。
だんだんと顔を歪ませて、ついには声を上げて大泣きされました。
そんなテオフィロ様を、ルキノ様は抱き上げたのです。
いやいやされても決して離さず、泣き疲れて眠ってしまうその時まで、ルキノ様はずっと背中をとんとんと叩きながら話し掛け続けておられました。
その日から二日と開けずに来られるようになったルキノ様。
テオフィロ様が常にルキノ様と居たがるようになると、主神様の加護を持つ愛し子の要望を叶えない者などこの世界には居りません。
ルキノ様は侯爵邸に滞在されるようになりました。
専用の部屋が用意され、それはテオフィロ様の私室の真下で、二つの部屋を室内階段でつないでしまったのは間もなくのことです。
テオフィロ様は、ルキノ様と一緒にまずは食事のマナーを身に付けられました。珍しい味付けなら食べる気になるかもしれないからとルキノ様が考案した調味料は大人にも好評でした。
それから魔力制御の練習を始められました。
身体づくりだと言って不思議なダンスを踊るようにもなりました。
いつの間にか青いひよこ様が戻ってきて、……もうテオフィロ様が寂しそうに見えることはなくなったのです。
ストックがなくて時間に追われて書いていたらお見せできるものにならなかったので、本日の更新は閑話です。ごめんなさい。本編は明日の朝更新予定です。
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わたくしはテオフィロ様の専属侍女で、名をケイトと申します。
曽祖父の代から家族でオルトラーニ侯爵家に仕えており、わたくしの他には父が執事長、母が厨房で調理補佐、弟が三男様の侍従を務めています。
初めてテオフィロ様をお見掛けしたのは、あの方がまだ生まれて間もない頃でした。
テオフィロ様のベッドに真っ青なひよこ様が現れたことで主神様の加護を賜ったのだと判明し、侯爵家は上を下への大騒ぎ。国王陛下がテオフィロ様にお会いにいらっしゃることになり、まだ見習いでもなかったわたくしも手伝いに駆り出されて邸中を掃除することになったのです。
国王陛下が足を運ばれることになるテオフィロ様の子ども部屋は特に念入りに掃除するよう言われ、たくさんのメイドたちが出入りするのですが、テオフィロ様はいつもお一人でした。
傍らにはずっと青色のひよこ様がいましたから、厳密にいうと孤独ではなかったのかもしれませんし、まだ赤ん坊なのですから会話が出来るはずもありません。忙しいのは事実でしたから誰も声を掛けないのは仕方がないと言えるでしょう。
ですが、弟が赤ん坊のころはよく泣いていましたし、母は寝不足になるくらい弟に付きっきりで世話をしていました。
対して奥様はどうでしょう。
出産を終えたばかりの奥さまには無理をさせないようにという陛下からのお言葉があったにも拘わらず、ドレスや宝石を新調するのだといって馴染みの商人を家に呼び、連日のお買い物。
三人のお兄様たちもそれぞれご予定があるそうで一度も新しい弟様の顔を見にいらっしゃっていませんし、旦那様に至ってはそもそもお邸に帰って来られません。
外で、息子が主神様の愛し子だと自慢するのにお忙しいのだそうです。
家族が誰も会いに来ないのに、泣くこともなく、青いひよこ様とじっとしているテオフィロ様が、当時六歳だったわたくしにはとても寂しく見えました。
いま考えればなんて失礼なことをと背筋が凍る思いがいたしますが、私はまったく赤ん坊らしくないテオフィロ様と遊んであげようと思ってしまったのです。
生まれたばかりの赤ちゃんは、最初はほとんど何の反応もありませんでした。
国王陛下がいらした時もです。
ですが一か月が過ぎた頃にはわたくしが部屋に顔を出すと手足が動くようになりました。
「あー」
「うー」
可愛らしい声で、わたくしを呼ぶような仕草を見せてくれたのは二カ月が過ぎた頃だったでしょうか。
歌を歌ったり、絵本の物語を読んで聞かせたり、母が弟にしていたことを真似て、一年くらいが経った頃でしょうか。わたくしは勝手にテオフィロ様のお部屋に入っていたことを叱られて折檻を受けました。
二度と近付かないよう約束をさせられ、……八歳になって侍女見習いになった日。
再びお会いした三歳のテオフィロ様はすぐに癇癪を起こしては手元にあるものを投げて壊す、泣いて暴れる、お食事もほとんど召し上がらないお子様になられていたのです。
青いひよこ様は、お傍にはいらっしゃらないようでした。
運命の日は、それから間もなくでした。
お食事をほとんど召し上がらないまま料理を手づかみで床に落とす、食器をメイドに投げつけるなど、たった一人の広い食堂で暴れていたテオフィロ様は急に席を立って廊下に飛び出してしまったのです。
子どもの足ですからすぐに追いつけると、大人たちは油断していたのでしょう。
テオフィロ様は階段から落ちそうになり、わたくしは急いで小さくて細い腕をつかみました。ぐいっと引っ張って階段の上から遠ざけたのですが、代わりに私が落ちそうになったのです。
頭が下になって、景色が反転して、終わったかもと思ったその時です。
「あっぶね!」
耳元で乱暴な男の子の声がしました。これがルキノ・ヴェルディ伯爵令息でした。
この頃には既に身体強化魔術が大人顔負けの完成度だったそうです。
「テオフィロ! いくら小っちゃくたって、おまえが危険なことすると周りがみんな危なくなるんだぞ!」
怖い顔で、真剣に怒鳴られたことなどこの日まで一度もなかったテオフィロ様は、きっと、驚いたのだと思います。
だんだんと顔を歪ませて、ついには声を上げて大泣きされました。
そんなテオフィロ様を、ルキノ様は抱き上げたのです。
いやいやされても決して離さず、泣き疲れて眠ってしまうその時まで、ルキノ様はずっと背中をとんとんと叩きながら話し掛け続けておられました。
その日から二日と開けずに来られるようになったルキノ様。
テオフィロ様が常にルキノ様と居たがるようになると、主神様の加護を持つ愛し子の要望を叶えない者などこの世界には居りません。
ルキノ様は侯爵邸に滞在されるようになりました。
専用の部屋が用意され、それはテオフィロ様の私室の真下で、二つの部屋を室内階段でつないでしまったのは間もなくのことです。
テオフィロ様は、ルキノ様と一緒にまずは食事のマナーを身に付けられました。珍しい味付けなら食べる気になるかもしれないからとルキノ様が考案した調味料は大人にも好評でした。
それから魔力制御の練習を始められました。
身体づくりだと言って不思議なダンスを踊るようにもなりました。
いつの間にか青いひよこ様が戻ってきて、……もうテオフィロ様が寂しそうに見えることはなくなったのです。
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