41 / 63
第二章 絵画と幼児誘拐
13
しおりを挟む
最初から三〇分後にテントで再集合と決まっていたことは、アンジェリカにとって何よりも幸運だった。
笑顔なのに恐ろしい話し合いは時間制限がなければきっと耐えられなかっただろう。
ともあれ、三〇分後の再集合で各自が入手した情報を共有した結果、テオフィロはルキノ、ニョルズと共に王都へ転移することが決まった。
また、騎士や魔導士たちは夜の町を飲み歩きしながらの情報収集という任務が課せられた。
経費で飲み食い出来ることに広場は少しばかりざわついたが、任務の内容が内容だ。すぐに落ち着きを取り戻し、粛々と団長から銀貨を三枚ずつ受け取っていたらしい。
一方で、村の子どもたちが誘拐されたかもしれないという話は、宿に泊まる者たちには伏せられることになった。ひとまず今夜は、という条件付きであるものの、王太子以下三名に極秘任務は荷が重いと判断され、商会の彼らに対しては何の確証も無いまま「子どもが消えた」なんて話を聞かせてはならないという配慮からだ。
そのためアンジェリカには普段通りに王太子たちと仲睦まじく過ごしてもらう。
王太子が暢気に過ごしているのを見れば商会の彼らが不安を感じることはないだろう。
「別の不安は感じてそうだけどな」
そう呟いたのはいざ王都へ転移しようというルキノである。
次代の王だと目されて王太子の肩書を持つ男がそれで良いのかとは、王城に勤務している大半の貴族が疑問に思っていることだ。
テオフィロは肩を竦める。
「半神半人の子はいずれも名君であったと記録されています。あの二人の子が成人するまでは国王陛下が頑張ってくださいますよ」
『うむ』
ニョルズも深々と頷く。
怪我や病が国王陛下の身を蝕むなら治癒や治療の魔術を使ってやろうと思わせるくらいには、神獣はいまの世を楽しんでいるのだ。
昔から一緒にいる神獣の同意に、テオフィロは笑う。
「行きますよ」
告げた直後、濃密な魔力が彼らを包んで今日一日の移動距離、およそ四〇キロメートルを一瞬で飛び越え――瞬き一つの間に彼らは王城門の前に立っていた。
「な……な……っ」
門番の騎士二人が兜の面を上げてテオフィロたちを凝視している。
「――驚かせてすまない、魔導部隊第二班班長テオフィロ・オルトラーニだ」
「⁈」
門番の騎士二人が瞬時に姿勢を正し敬礼した。
「失礼いたしました!」
「ただいま門をお開けします!」
「いや、もう時間外だろう。手紙を預けるから宰相閣下が登城されたときに渡してくれればいい」
「はっ!」
転移前に準備した手紙を門番に預ける。
宰相閣下は常に忙しい。
勤務時間外に仕事の話を持っていくべきではなく、こういった事情で領主が怪しいから領主邸を捜索する口実を考えて実行して欲しいという旨を記した手紙を残すことにしたのだ。
「必ず宰相閣下に渡すように」
「承知いたしました」
「お任せください!」
彼らに見送られて再び転移した先は、情報ギルドの本部に近いウェールズヒル分駐所だ。中庭を着地点にしたことで、夜間当番の同僚たちをかなり驚かせてしまったが、こちらは班長が転移魔術を行使できると知っているため王城門の彼らほどではない。
ケルネイディアに向かっていたのではと動揺している彼らに「急用だ」とだけ伝えて分駐所を後にした。
向かうは情報ギルド――王都で有数の新聞社が入っている建物だ。
この時間だし、仕事場に目的の人物がいなければ明日の午前中に出直そうと考えていたが、目的の部屋に明かりがついているのが外から確認できた。
「とりあえず行ってみるか」
「ええ」
肩にニョルズを乗せたルキノの先導で、階段を上り建物の四階へ。
木造の階段を上がっていく度に足元からギイギイと音がするので気になったものの、新聞社の札が掛かった扉をノックするとすぐに中から返事があり、意識はそちらに向かう。
「先日、バジリオ・カステーラ氏と王城でお会いしたルキノ・ヴェルディです。いまよろしければ少しお話をさせて頂きたいのですが」
名乗り終えるとほぼ同時に扉が開き、出迎えたのは先日も会ったバジリオ・カステーラ本人に間違いなかった。
「……お待たせして申し訳ございません。少々驚いてしまいまして」
それはそうだろう。
貴族が、それも立場ある者が先触れも出さずにこんな時間に訪れたのだ。普通に考えてワケ有りに決まっている。
「貴き主神の愛し子様もご一緒とは……」
何をどう言えば良いのか分からないといった様子のバジリオに苦笑する。
「中に入れてもらっても?」
「っ、はい、もちろんでございます。狭い上に掃除も行き届いてはおりませんが」
バジリオは二人と一羽を中へ案内し、躊躇いつつもソファを勧める。
「このような場所で本当に心苦しいのですが」
「突然来たこちらが悪い」
テオフィロは言い切る。
「それに私たちは行軍の経験もある。地べたで寝ることも出来るのだから気にする必要はない」
「は。そう言っていただけますと……、あの、お飲み物も安い紅茶くらいしかなく」
「充分だ」
「では少しお待ちください」
足早に給湯室へ向かうバジリオから視線を外し、ゆっくりと部屋の中を見渡す。
どうやら一人で仕事をしていたようで、他に気配はなく、明りが付いているのもテオフィロたちが通された部屋の手前と、奥のデスクのあたりだけだ。
それなりに広い部屋には、多種多様な書類が乱雑に積まれているデスクが多いが、明かりが付いている奥のデスク横には何も乗っていない大きなテーブルがあった。
毎日ここでどのような作業がされ、新聞が完成するのか。
きっとあの大きなテーブルをバジリオや何人もの記者が囲んで、紙面を文字で埋めていく……そんな光景を想像した。
「新聞を読むたびに思いますが、記事を書いている人は本当に美しい文字を書かれますね」
「だな。個人的にはなんで印刷技術があるのにタイプライターはないんだって思うんだが」
「タイプライターですか?」
「予言書があった世界ではさ――」
バジリオが戻って来るまでの間、ルキノは前世の世界にも新聞があったが、魔導具のようなもので誰でも美しい字を書くことが出来たため新聞は毎日朝夕の二回も新しいものが発行されていたのだと話して聞かせた。
この国も紙は豊富だし、印刷は専用の魔導具に紙とインクをセットさえしておけば子どもでも使えるから部数を揃えるのは簡単だが、文字はすべて手書きという点で、新聞は週に一度が限度だ。
「交通手段は馬車か船だし、街の風景はヨーロッパ風なのに日本食が普通に出て来るし、風呂もある。前世の記憶持ちとしては過ごしやすいけど、なんかちぐはぐなんだよな」
「……その感覚は、私には分かりませんが」
「あー……悪い。俺にとってはフィーと出逢えた大切な場所だから否定するつもりはないんだが、どうしても、違和感というか」
テオフィロには言えないが、予言書はゲーム、創作物だ。それが誰で、どういうつもりでこういう世界観にしたかは皆目見当もつかないけれど、きっとその誰かにとっては必要な設定だったのだろう。
不安そうに自分を見上げて来る最愛の人に、これをどう説明しようか迷っていたが、紅茶を淹れ終えたバジリオが戻ってきたことで話は中断してしまった。
ルキノの話を気にしながらも、公私の区別をつけるのは得意なテオフィロだ。
正面のソファに座ったバジリオ・カステーラに対する彼はいつもの魔導部隊第二班班長だった。
「先日は情報ギルドの長として呼ばれて驚きましたが、この新聞社の人間だということもご存知だったのですね」
「城に招かれるからにはいろいろと調べられるのは分かっていただろう。……調べ切れてはいなかったようだが」
「……と、仰いますと」
「時間が勿体ないので単刀直入に言おう。バジリオ・カステーラ、貴方はこれまでの十数年で国内で起きた幼児誘拐事件に関しての情報をどれくらい持っているんだ」
「――」
驚きに目を見開いたバジリオへ、テオフィロは落ち着いた声音で告げる。
「パウンド商会の会長ゴードン・パウンドから、息子の絵が見つかったと聞いただろう。……もしくは、貴方が彼に情報を流したのかな」
あの絵に描かれた女性は若かりし頃のパウンド商会会長の妻によく似ていた。
昔から付き合いのある仲間が多ければ多いほど、あの絵に関する情報は彼の元に集まっただろう。
「……お二人は、私に何をお求めで?」
バジリオの警戒した声が問う。
テオフィロは今日滞在する予定だった村で複数の子どもたちが行方不明になっていることを告げた。
「もしこの件に関しての情報があるなら開示してもらいたいし、パウンド商会長の息子の件に関しても私たちが把握していない何かを知っているなら教えてもらいたい」
真っ直ぐに目を見て来るテオフィロを、バジリオもまた真っ直ぐに見返した。
しばらくはそのまま無言の時が過ぎ、先に目を伏せたのはバジリオだった。
「……我々は決して国家間の紛争を望んでいるわけではありません」
「もちろんだ」
「ですが、一〇年前にヴェルディ伯爵令息がこれだと断言して踏み込んだ船は北上して海に出るように見せかけて、東の隣国から河を南下してケルネイディアに向かうものでした」
南の隣国ケルネイディア。
いまテオフィロたちが馬車で旅をしているように、ケルネイディアに行くには陸路が最も早くて簡単だ。にも関わらず一〇年前の奴隷商人が使おうとしていた移動手段は船。商人を逮捕したことで結局は行先が明らかになり、ケルネイディアの協力を得て、いまなお消息不明の四〇余名を除いて親元に帰すことが出来た。
情報ギルドの諜報員は大半がこの四〇余名の関係者だという。
「なぜ自分たちの子は見つからないのかと、彼らは商人や芸人一座に扮して定期的にあちらに滞在し、様々な情報を集めています。明日の朝までお時間を頂ければ、関係ありそうな情報を書面に纏めてお渡しします」
はっきりと断言したバジリオから、視線でどうするかを問われたが、テオフィロたちの答えは決まっている。
「明日の朝、何時に此処へ来たら良いだろうか」
***
読んでいただきありがとうございます。
明日の更新はほんの少しだけ背後注意です。ほんの少しですがっ。
笑顔なのに恐ろしい話し合いは時間制限がなければきっと耐えられなかっただろう。
ともあれ、三〇分後の再集合で各自が入手した情報を共有した結果、テオフィロはルキノ、ニョルズと共に王都へ転移することが決まった。
また、騎士や魔導士たちは夜の町を飲み歩きしながらの情報収集という任務が課せられた。
経費で飲み食い出来ることに広場は少しばかりざわついたが、任務の内容が内容だ。すぐに落ち着きを取り戻し、粛々と団長から銀貨を三枚ずつ受け取っていたらしい。
一方で、村の子どもたちが誘拐されたかもしれないという話は、宿に泊まる者たちには伏せられることになった。ひとまず今夜は、という条件付きであるものの、王太子以下三名に極秘任務は荷が重いと判断され、商会の彼らに対しては何の確証も無いまま「子どもが消えた」なんて話を聞かせてはならないという配慮からだ。
そのためアンジェリカには普段通りに王太子たちと仲睦まじく過ごしてもらう。
王太子が暢気に過ごしているのを見れば商会の彼らが不安を感じることはないだろう。
「別の不安は感じてそうだけどな」
そう呟いたのはいざ王都へ転移しようというルキノである。
次代の王だと目されて王太子の肩書を持つ男がそれで良いのかとは、王城に勤務している大半の貴族が疑問に思っていることだ。
テオフィロは肩を竦める。
「半神半人の子はいずれも名君であったと記録されています。あの二人の子が成人するまでは国王陛下が頑張ってくださいますよ」
『うむ』
ニョルズも深々と頷く。
怪我や病が国王陛下の身を蝕むなら治癒や治療の魔術を使ってやろうと思わせるくらいには、神獣はいまの世を楽しんでいるのだ。
昔から一緒にいる神獣の同意に、テオフィロは笑う。
「行きますよ」
告げた直後、濃密な魔力が彼らを包んで今日一日の移動距離、およそ四〇キロメートルを一瞬で飛び越え――瞬き一つの間に彼らは王城門の前に立っていた。
「な……な……っ」
門番の騎士二人が兜の面を上げてテオフィロたちを凝視している。
「――驚かせてすまない、魔導部隊第二班班長テオフィロ・オルトラーニだ」
「⁈」
門番の騎士二人が瞬時に姿勢を正し敬礼した。
「失礼いたしました!」
「ただいま門をお開けします!」
「いや、もう時間外だろう。手紙を預けるから宰相閣下が登城されたときに渡してくれればいい」
「はっ!」
転移前に準備した手紙を門番に預ける。
宰相閣下は常に忙しい。
勤務時間外に仕事の話を持っていくべきではなく、こういった事情で領主が怪しいから領主邸を捜索する口実を考えて実行して欲しいという旨を記した手紙を残すことにしたのだ。
「必ず宰相閣下に渡すように」
「承知いたしました」
「お任せください!」
彼らに見送られて再び転移した先は、情報ギルドの本部に近いウェールズヒル分駐所だ。中庭を着地点にしたことで、夜間当番の同僚たちをかなり驚かせてしまったが、こちらは班長が転移魔術を行使できると知っているため王城門の彼らほどではない。
ケルネイディアに向かっていたのではと動揺している彼らに「急用だ」とだけ伝えて分駐所を後にした。
向かうは情報ギルド――王都で有数の新聞社が入っている建物だ。
この時間だし、仕事場に目的の人物がいなければ明日の午前中に出直そうと考えていたが、目的の部屋に明かりがついているのが外から確認できた。
「とりあえず行ってみるか」
「ええ」
肩にニョルズを乗せたルキノの先導で、階段を上り建物の四階へ。
木造の階段を上がっていく度に足元からギイギイと音がするので気になったものの、新聞社の札が掛かった扉をノックするとすぐに中から返事があり、意識はそちらに向かう。
「先日、バジリオ・カステーラ氏と王城でお会いしたルキノ・ヴェルディです。いまよろしければ少しお話をさせて頂きたいのですが」
名乗り終えるとほぼ同時に扉が開き、出迎えたのは先日も会ったバジリオ・カステーラ本人に間違いなかった。
「……お待たせして申し訳ございません。少々驚いてしまいまして」
それはそうだろう。
貴族が、それも立場ある者が先触れも出さずにこんな時間に訪れたのだ。普通に考えてワケ有りに決まっている。
「貴き主神の愛し子様もご一緒とは……」
何をどう言えば良いのか分からないといった様子のバジリオに苦笑する。
「中に入れてもらっても?」
「っ、はい、もちろんでございます。狭い上に掃除も行き届いてはおりませんが」
バジリオは二人と一羽を中へ案内し、躊躇いつつもソファを勧める。
「このような場所で本当に心苦しいのですが」
「突然来たこちらが悪い」
テオフィロは言い切る。
「それに私たちは行軍の経験もある。地べたで寝ることも出来るのだから気にする必要はない」
「は。そう言っていただけますと……、あの、お飲み物も安い紅茶くらいしかなく」
「充分だ」
「では少しお待ちください」
足早に給湯室へ向かうバジリオから視線を外し、ゆっくりと部屋の中を見渡す。
どうやら一人で仕事をしていたようで、他に気配はなく、明りが付いているのもテオフィロたちが通された部屋の手前と、奥のデスクのあたりだけだ。
それなりに広い部屋には、多種多様な書類が乱雑に積まれているデスクが多いが、明かりが付いている奥のデスク横には何も乗っていない大きなテーブルがあった。
毎日ここでどのような作業がされ、新聞が完成するのか。
きっとあの大きなテーブルをバジリオや何人もの記者が囲んで、紙面を文字で埋めていく……そんな光景を想像した。
「新聞を読むたびに思いますが、記事を書いている人は本当に美しい文字を書かれますね」
「だな。個人的にはなんで印刷技術があるのにタイプライターはないんだって思うんだが」
「タイプライターですか?」
「予言書があった世界ではさ――」
バジリオが戻って来るまでの間、ルキノは前世の世界にも新聞があったが、魔導具のようなもので誰でも美しい字を書くことが出来たため新聞は毎日朝夕の二回も新しいものが発行されていたのだと話して聞かせた。
この国も紙は豊富だし、印刷は専用の魔導具に紙とインクをセットさえしておけば子どもでも使えるから部数を揃えるのは簡単だが、文字はすべて手書きという点で、新聞は週に一度が限度だ。
「交通手段は馬車か船だし、街の風景はヨーロッパ風なのに日本食が普通に出て来るし、風呂もある。前世の記憶持ちとしては過ごしやすいけど、なんかちぐはぐなんだよな」
「……その感覚は、私には分かりませんが」
「あー……悪い。俺にとってはフィーと出逢えた大切な場所だから否定するつもりはないんだが、どうしても、違和感というか」
テオフィロには言えないが、予言書はゲーム、創作物だ。それが誰で、どういうつもりでこういう世界観にしたかは皆目見当もつかないけれど、きっとその誰かにとっては必要な設定だったのだろう。
不安そうに自分を見上げて来る最愛の人に、これをどう説明しようか迷っていたが、紅茶を淹れ終えたバジリオが戻ってきたことで話は中断してしまった。
ルキノの話を気にしながらも、公私の区別をつけるのは得意なテオフィロだ。
正面のソファに座ったバジリオ・カステーラに対する彼はいつもの魔導部隊第二班班長だった。
「先日は情報ギルドの長として呼ばれて驚きましたが、この新聞社の人間だということもご存知だったのですね」
「城に招かれるからにはいろいろと調べられるのは分かっていただろう。……調べ切れてはいなかったようだが」
「……と、仰いますと」
「時間が勿体ないので単刀直入に言おう。バジリオ・カステーラ、貴方はこれまでの十数年で国内で起きた幼児誘拐事件に関しての情報をどれくらい持っているんだ」
「――」
驚きに目を見開いたバジリオへ、テオフィロは落ち着いた声音で告げる。
「パウンド商会の会長ゴードン・パウンドから、息子の絵が見つかったと聞いただろう。……もしくは、貴方が彼に情報を流したのかな」
あの絵に描かれた女性は若かりし頃のパウンド商会会長の妻によく似ていた。
昔から付き合いのある仲間が多ければ多いほど、あの絵に関する情報は彼の元に集まっただろう。
「……お二人は、私に何をお求めで?」
バジリオの警戒した声が問う。
テオフィロは今日滞在する予定だった村で複数の子どもたちが行方不明になっていることを告げた。
「もしこの件に関しての情報があるなら開示してもらいたいし、パウンド商会長の息子の件に関しても私たちが把握していない何かを知っているなら教えてもらいたい」
真っ直ぐに目を見て来るテオフィロを、バジリオもまた真っ直ぐに見返した。
しばらくはそのまま無言の時が過ぎ、先に目を伏せたのはバジリオだった。
「……我々は決して国家間の紛争を望んでいるわけではありません」
「もちろんだ」
「ですが、一〇年前にヴェルディ伯爵令息がこれだと断言して踏み込んだ船は北上して海に出るように見せかけて、東の隣国から河を南下してケルネイディアに向かうものでした」
南の隣国ケルネイディア。
いまテオフィロたちが馬車で旅をしているように、ケルネイディアに行くには陸路が最も早くて簡単だ。にも関わらず一〇年前の奴隷商人が使おうとしていた移動手段は船。商人を逮捕したことで結局は行先が明らかになり、ケルネイディアの協力を得て、いまなお消息不明の四〇余名を除いて親元に帰すことが出来た。
情報ギルドの諜報員は大半がこの四〇余名の関係者だという。
「なぜ自分たちの子は見つからないのかと、彼らは商人や芸人一座に扮して定期的にあちらに滞在し、様々な情報を集めています。明日の朝までお時間を頂ければ、関係ありそうな情報を書面に纏めてお渡しします」
はっきりと断言したバジリオから、視線でどうするかを問われたが、テオフィロたちの答えは決まっている。
「明日の朝、何時に此処へ来たら良いだろうか」
***
読んでいただきありがとうございます。
明日の更新はほんの少しだけ背後注意です。ほんの少しですがっ。
43
あなたにおすすめの小説
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します
冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」
結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。
私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。
そうして毎回同じように言われてきた。
逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。
だから今回は。
優秀な婚約者が去った後の世界
月樹《つき》
BL
公爵令嬢パトリシアは婚約者である王太子ラファエル様に会った瞬間、前世の記憶を思い出した。そして、ここが前世の自分が読んでいた小説『光溢れる国であなたと…』の世界で、自分は光の聖女と王太子ラファエルの恋を邪魔する悪役令嬢パトリシアだと…。
パトリシアは前世の知識もフル活用し、幼い頃からいつでも逃げ出せるよう腕を磨き、そして準備が整ったところでこちらから婚約破棄を告げ、母国を捨てた…。
このお話は捨てられた後の王太子ラファエルのお話です。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
巻き戻った悪役令息のかぶってた猫
いいはな
BL
婚約者のアーノルドからある日突然断罪され、処刑されたルイ。目覚めるとなぜか処刑される一年前に時間が巻き戻っていた。
なんとか処刑を回避しようと奔走するルイだが、すでにその頃にはアーノルドが思いを寄せていたミカエルへと嫌がらせをしており、もはやアーノルドとの関係修復は不可能。断頭台は目の前。処刑へと秒読み。
全てがどうでも良くなったルイはそれまで被っていた猫を脱ぎ捨てて、せめてありのままの自分で生きていこうとする。
果たして、悪役令息であったルイは処刑までにありのままの自分を受け入れてくれる友人を作ることができるのか――!?
冷たく見えるが素は天然ポワポワな受けとそんな受けに振り回されがちな溺愛攻めのお話。
※キスくらいしかしませんが、一応性描写がある話は※をつけます。※話の都合上、主人公が一度死にます。※前半はほとんど溺愛要素は無いと思います。※ちょっとした悪役が出てきますが、ざまぁの予定はありません。※この世界は男同士での婚約が当たり前な世界になっております。
初投稿です。至らない点も多々あるとは思いますが、空よりも広く、海よりも深い心で読んでいただけると幸いです。
また、この作品は亀更新になると思われます。あらかじめご了承ください。
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
悪役令息の花図鑑
蓮条緋月
BL
公爵令息シュヴァリエ・アクナイトはある日、毒にあたり生死を彷徨い、唐突に前世を思い出す。自分がゲームの悪役令息に生まれ変わったことに気づいたシュヴァリエは思った。
「公爵家の力を使えば世界中の花を集めて押し花が作れる!」
押し花作りが中毒レベルで趣味だったシュヴァリエはゲームのストーリーなどお構いなしに好き勝手動くことに決め行動が一変。その変化に周囲がドン引きする中、学園で奇妙な事件が発生!現場に一輪の花が置かれていたことを知ったシュヴァリエはこれがゲームのストーリーであることを思い出す。花が関わっているという理由で事件を追うことにしたシュヴァリエは、ゲームの登場人物であり主人公の右腕となる隣国の留学生アウル・オルニスと行動を共にするのだが……?
※☆はR描写になります
※他サイトにて重複掲載あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる